ホンのつまみぐい

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映画

代弁という行為の図々しさ『REVOLUTION+1』と『エルピス』

縁があって『REVOLUTION+1』を観に行ったが、オールド極左の悪いところ詰め合わせのような映画だった。 www.youtube.com 山上徹也ならぬ川上達也を主人公に、統一教会に家族、そして人生を奪われた男が安倍晋三殺害に至るまでの道筋を描く。 川上が殺人に至…

たしかに面白かった映画『THE FIRST SLAM DUNK』

観た! 井上雄彦には「はやく連載終わらせてくれよ」とか「スマートすぎてわかりづらいけどけっこうマッチョだよな」とか、いろいろ言いたいことがある派なのだが、これはたしかにすごかった。 ちなみに私は中学生のころバスケットボール部だった。背が高い…

ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌

音楽の権利料の問題でソフト化が難しく、なかなか観る機会がないという話を聞いて足を運んだ。 シネマリンがほぼ満席。20代のカップルや、現役ファンらしき児童も。いつもは中年を飛び越して老年ばかりの客層なので新鮮だった。 絵描きのおねえさんとまる子…

犬王

※ネタバレあり。というか、観てないと何が書いてあるかわからないかも。 父親に見捨てられた異形の能楽師と、父親に死なれた琵琶法師が、組んで新しい音楽表現を作り上げるが、権力者に目をつけられ……という話。 オーラルヒストリーを収集していた芸術家が、…

教育と愛国@横浜シネマリン

多少は教育行政に関心を持っていたつもりだけど、それでも知らないことだらけで、冷たい汗が出ました。 学校での採択率トップだった日本書籍が、日本の戦争加害に関する記述を増やしたことで採択率が大幅ダウンし、倒産に追い込まれたという話が最初のショッ…

映画『水俣曼荼羅』の原一男監督にインタビューしました

ドキュメンタリー映画『水俣曼荼羅』について、監督の原一男さんにインタビューしました。 www.cyzo.com 作品の概要についてはすでに多くの人が言葉にしているため、今回は過去作との比較や、私なりに読み取った作品の主題に対しての問いを中心にインタビュ…

女性の扱いが引っかかる「さようならCP」原一男

『水俣曼荼羅』を観た衝撃で、AmazonPrimeVideoの日本映画専門チャンネルで『さようならCP』を観た。 さようならCP Amazon さようならCP 横田弘 Amazon さようならCP [DVD] ディメンション Amazon ちなみに「青い芝の会」のことは昔、cakesに連載されていた…

ナショナル・シアター・ライヴ「戦火の馬」@シネ・リーブル池袋

第一次世界大戦の勃発により、主人公テッドが幼い頃から育てた馬のジョーイは軍馬として徴用されてしまう。テッドはジョーイを追って年齢を偽り入隊し、戦場におもむくが……。 ストレートな動物と人の友情物語で、なおかつ動物という立場の弱い存在を通して戦…

作劇レベルの違和感がそこかしこにあって鼻白む映画「MINAMATA-ミナマタ-」@ムービル

事前に以下の長大なスレッドに簡単に目を通していたこともあり、色眼鏡つきで観たことは否定できないが、それにしても変な映画だった。 https://twitter.com/HWAshitani/status/1442597548464566272?s=20https://twitter.com/HWAshitani/status/144259754846…

寛解の連続@横浜シネマリン

なんとも説明し難いけれど、観てよかった映画。 ラッパー・小林勝行の生活を記録したドキュメンタリー。 変わった作り方をしている映画で、小林がどういう人間なのかを解説する補助線が少なく、何を撮ろうとした映画なのかということが説明しづらい。 現在の…

シネマ歌舞伎「三谷かぶき 月光露針路日本 風雲児たち」

原作の「風雲児たち」が好きで一時期よく読んでいたので、三谷幸喜による歌舞伎化が映画館で観られると聞いて足を運びました。 生身の人間が演じることで、北の大地の過酷さや異国の地でのやるせなさが引き立つようになっていたと思います。 特に、年長者の…

「恵まれていないとリベラルでいるのは難しいのだろうか」とも思った『ブックスマート』

www.youtube.com 「おもしろい!キラキラしてる!いい映画!!」と思ったし、↓の記事にもかなり全面的に納得しているのだが、ちょっと複雑な気分になった部分もあったので書き残し。 www.cinra.net ※ネタばれあります※ 観ている間中、「アメリカの高校生金持…

日曜の夜に観るのにぴったりだった「ドロステのはてで僕ら」

日曜日の午後に副業の仕事のめどをつけて、ジムで少しだけ筋トレをして、もうちょっと日曜日の気分でいたくて観に行った映画。 重たい気分になるものが観たくなくて、「ヨーロッパ企画が製作」「撮り方が少し特殊」という情報だけで選んだのですが、大正解で…

地下アイドルと高橋留美子とシェイクスピア/ナショナル・シアター・ライブ「夏の夜の夢」

ツイッターでビヨンセ神輿という言葉を見かけて足を運んだ「ナショナル・シアター・ライブ夏の夜の夢」。イギリスのナショナル・シアターでの上演作品を高品質な映像でとらえ、映画館で上映するという企画だ。 自分が好きだったさまざまなものを思い起こさせ…

自由な中年女をめざした少女はどのように生きるのか―映画「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」

ローリーを愛しているけど、「これは延長線上に結婚がある感情じゃない」と理解し、プロポーズを拒否してしまうジョーが、ベスの死に直面して「女には知性も情熱もある、結婚だけが女の幸せじゃない。でも、たまらなく寂しいの」と言いながら泣くのがわかり…

古い人たちの話

映画の配給・制作に加え、映画館の運営を行うアップリンクの代表・浅井隆がパワハラで告発された。 www.oricon.co.jp 彼がかつて寺山修司主催の劇団「天井桟敷」の舞台監督だったと聞いて、連鎖的に井上洋介の個展で聞いた話を思い出した。 ギャラリーには井…

劇場アニメ「若おかみは小学生」ダメでした

若おかみは小学生! 発売日: 2019/03/15 メディア: Prime Video 劇場版 若おかみは小学生!DVDスタンダード・エディション 発売日: 2019/03/29 メディア: DVD 若おかみは小学生!(1) 花の湯温泉ストーリー (講談社青い鳥文庫) 作者:令丈ヒロ子 発売日: 20…

パラサイト観た

「パラサイト」観た。面白い。悲惨な話なのに、観たあとに力がみなぎってくるようなところがあり、よくできたものはそれだけで人を励ますのだと思った。ただ、「JOKER」には死ぬほどムカついたので、そのあたりの違いは考えておきたい。 登場人物が名前や身…

「人を殺したい」と思ったことがない人ならおもろいんですかね、「JOKER」

www.youtube.com 元旦早々しょうもない映画を観てしまった。 「JOKER」は端的に言って虐げられ傷ついた人間が加害欲に負けて社会に復讐する話なのだが、あまりに復讐心を軽く扱っていてうんざりした。 JOKERことアーサーはまず、徹底的に傷つき、虐げられる…

カメラを止めるな!

タイトルから「こういう仕掛けかな」というのは予想していたのですが、ラストに観客があったかい気持ちを持ち寄って帰れるヒネリが2枚あるのが手練れ感。 「長編は初だけど短編の名手として知られていた」と聞いて納得しました。 あと、どう考えても撮影めち…

オピニオン・ファクト・表現

開沼博のインタビュー集「社会が漂白され尽くす前に」を読んでいたら、ドキュメンタリー映画「ヤクザと憲法」の、プロデューサー・阿武野勝彦と監督・土方宏史が登場していた。 監督とプロデューサーのどっちの弁か忘れたけど、「オピニオンを伝えることを優…

ラップ・ミュージアム RAP MUSEUMにて特別映画上映「サウダーヂ」を観た@市原湖畔美術館

市原湖畔美術館、あまりにも遠い。 東京駅からの高速バスを降りて、バスターミナルから事前に呼んでいたタクシーに乗り込む。山道を行く車の車窓から外を眺めると、「ぞうのくに」という看板が見えたので、思わず運転手に声をかける。 「『ぞうのくに』って…

9月3日~7日の現場(日ノ出町で大谷能生×トオイダイスケ、自宅でECD、タワレコ横浜店でサ上とロ吉、寿町で水族館劇場「FURUSATO2009」)

9月3日 涼しくなったせいか、犬の急逝のせいか。やんわりと人恋しくなってきたので日ノ出町試聴室へ。黄金町からの移転後はじめての訪問。 以前なら喫茶へそまがりが人恋しいときのひまつぶしの場所だったのに、なくなってしまってやっぱり寂しい。前日にカ…

最近観た映画(牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件、オクジャ、ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣)

そんな最近でもないか……。備忘録。 牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 なぜか知らないけれど、見終わった後に手がブルブル震えていた。 この映画はある種の極限状態に陥った人間を美しく撮っており、そこかしこに暴力が発生する。そういった表現は多くの場合…

こうの史代「この世界の片隅に」原画展』@タワーレコード渋谷店

タワーレコードでtofubeatsのリリースイベントを見たついでに立ち寄っただけで、正直全く「見ることによる感動」は期待していなかったのだけど、思いの外心を打たれてしまった。 そして、こうの史代はマンガがうまいことに今さらしみじみ気がついた。「夕凪…

こうの史代×おざわゆき「はだしのゲン」をたのしむ@明治大学 2016/4/16 「この世界の片隅に」「あとかたの街」「凍りの掌 シベリア抑留記」にもふれて

このトークイベントは米沢記念図書館で行われたマンガと戦争展+α内の企画として開催されたものです。「はだしのゲン」というテーマを掲げていますが、まさに「マンガ表現と戦争」と作家がいかに向き合うかが語られる内容になっていました。逆に、「はだしの…

映画「赤ひげ」悲惨は普遍だけど、ヒーローも普遍だ!@鎌倉市川喜多映画記念館

何このハートネットTV8回分。いや、クローズアップ現代5回分でもいいか。赤ひげすごかった……。普遍と驚愕を秘めた映画で、まさに芸術だった。 江戸時代の養生所を舞台にした映画「赤ひげ」。 赤ひげと呼ばれる変わり者の偉人から頭でっかちの若者・保本が「…

映画「この世界の片隅に」追記:狂気の沙汰を覗き見たい人へ

映画『この世界の片隅に』予告編 映画「この世界の片隅に」を観て、最初に頭に浮かんだのは原民喜の「夏の花」でした。 「夏の花」は原の被爆体験をもとに書かれた短編小説で、原爆投下直後の広島を歩き回る主人公の目を通し、当時の惨事が生々しく描かれて…

あなたは美しいタテマエを楽しめる?「ズートピア」

草食獣と肉食獣が共存するために高度に設計された世界で、それでも起こるすれ違いを乗り越えようとする動物たちを描いたズートピアは、あらかじめ人々の心の灯台になることを目指したような映画だった。 アメリカの正義が、子供向け映画の中に詰め込まれた政…

サバイバーに対する敬意がにじみ出る映画「ルーム ROOM」

www.youtube.com おとぎ話のエッセンスを加えれば、耳を塞ぎたくなるような酷い話も芯を守りながら多くの人に届けられる。とても巧みな作品でした。 この映画は、長髪の小さな男の子が、青く塗られた部屋の中で小さな天窓を見ているところから始まります。 …