ホンのつまみぐい

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映画『水俣曼荼羅』の原一男監督にインタビューしました

 ドキュメンタリー映画水俣曼荼羅』について、監督の原一男さんにインタビューしました。

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 作品の概要についてはすでに多くの人が言葉にしているため、今回は過去作との比較や、私なりに読み取った作品の主題に対しての問いを中心にインタビューしています。

 自分の至らなさを確認した取材でもありましたが、ここでしか語られていないお話もしていただきましたので、ご興味ある方ぜひ。

 振り返ると、私が監督の作品において最初に大きな衝撃を受けたのは、『ニッポン国VS泉南石綿村』における、「被害者が権力者にお礼を言う場面」でした。

 さまざまな葛藤を抱えながら戦い続け、最終的に認定から外されるという極めてつらい立場にいた佐藤さんが、塩崎大臣に頭を下げながら「ありがとうございます」という。これが大変ショッキングでした。

 一方で、「誰かを許さないと憎しみから開放されないのなら、人が生きるためには許さざるをえないことがあるのだろうか」と思い、苦しい気持ちになりました。

 この件には以下のような裏側があると後に知り、少し印象が変わりましたが、「許したくなる日が来るのだろうか」という苦味は今でも抱えています。

 

──塩崎大臣が謝罪のために泉南を訪問しますが、原告団は納得できないという状態でした。ところが、大臣と手紙のやりとりをしていたらしい佐藤さんだけは、あの場で塩崎さんにお礼を言ったんですよね。

原 あそこはね、佐藤さんにとってはいろいろとあったんですよ。もともと高裁までを撮ったところで短めのバージョンの映画(『命て なんぼなん? 泉南アスベスト禍を闘う』)を作ったんですよ。そのDVDを原告団の人たちに渡したら、佐藤さんは塩崎さんに見てもらいたいってDVDを送って。塩崎さんはそれを見たんだって。

石丸&NEKO へ~っ!

原 原告団に同情して見たかどうかは分からないよ。自分自身がヤバく映ってないか確かめるために見たんだろうって私は思うけど、佐藤さんは塩崎さんがDVDを見てくれたことに「ありがとう」って言ったの。

制作スタッフ ただ、試写で見て「なぜ簡単に大臣に頭を下げたんだ」って佐藤さんに言う人も結構いて。

原 あそこの編集を変えようかと思って、プロデューサーと編集マンとも話したけど、編集マンは「どういう事情があれ、権力に対して“ありがとう”と言ったことは変わらない」と言うわけよ。それも一理あるなと思った。

 

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 『水俣曼荼羅』でも、石牟礼道子さんが「許し」について語る場面があるため、踏みにじられた人たちの「許し」についてはぜひ聞きたいと思っていました。インタビューの中でお話いただいたので、興味のある方はご覧になってください。

 本当は「坂本しのぶさんに恋の話を聞くことの暴力性」についても聞くべきだったと思うのですが、これは私の力足らずでできませんでした。

 私は「昔好きだった人にこんな形で会うのは苦しいんじゃないだろうか」と思い、果たしてこの撮影が正しかったのか、観客として答えが出せずにいました。

 確実に間違っているのは「障害者であるしのぶさんにこんなことをさせるのは酷じゃないか」という問い方。ネットの感想でも、「こういう人とお付き合いしたい人はいないのわかってるだろうに、話をさせるなんて残酷」という記述があり、それは違うだろと思いました。『さようなら、CP』見ればわかりますけど、重度障害者でも恋愛も結婚もできるんですよ。もちろん、困難は比べ物にならないだろうけど。監督もそれはわかった上で撮ってる。

 私も『えんとこの歌』で、脳性マヒで寝たきりの遠藤滋さんが介助者の手を借りて一人暮らしをしているのを見ているので、「自立したい」というしのぶさんと、その要望を承諾できない母である坂本フジエさんのズレを見て、もどかしく思いました。

 そういう「障碍者だからかわいそう」じゃなくて、感覚的に「これはやっぱり暴力的なんじゃないか」と感じたその理由を、自分の中でうまく言語化できないままインタビューに入ってしまい、結果何も聞けませんでした。ここはいつかちゃんと言葉にできるようにしたい。

 それはさておき、映画を観ること、民主主義のために行動を起こすことが監督が何より望んでいることなので、このエントリを偶然見た人は、ぜひ映画館に行ってほしいと思います。6時間12分、休憩2回は長いですが、途中から劇場で一緒に観ている人達との一体感も生じてくるので、不思議な楽しさもあります。

 残酷な現実を捉えた映画なのに、観終えた後にめちゃくちゃパワーが湧いてくる作品でもあるので、迷っている方はぜひ。

 

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 ところで、お話を伺って感じたのは、「原監督は本当に奥崎謙三さんを尊敬しているんだ」ということです。

 何も考えずに『ゆきゆきて、神軍』を観ると、奥崎さんのことを自己顕示欲の強い過激なおもしろおじさんとして処理してしまいがちです。でも、原監督は超法規的行動を伴ってでも、権力に抗おうとする奥崎さんのことを誰よりも尊敬していて、そこはたぶんかなりの数の観客とギャップがあるところじゃないかなと思いました。