ホンのつまみぐい

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葵マコ「ブス」2024年4月頭の渋谷道頓堀劇場

 葵マコさんの「ブス」という演目は、「ブス」な女の子が周りから馬鹿にされる様を歌う曲で始まる。

 最初の衣装はクマの着ぐるみ。巨大なクマの頭を被ったマコさんの顔は、こちらからは見えない。

 曲の中の「ブス」な女の子は、周囲から馬鹿にされ、つきあった男からもDVを受ける。愛されて終わりでも、自信をつけて終わりでもない、ただただ淡々と「ブス」の状況を語る歌。

 歌詞だけ聞くと悲惨なのだが、サビで連呼される「ブス」という単語と、軽やかなドラムとギターのギャップで、不思議な力強さを感じる。

 インパクト大の曲をバックに着ぐるみのまま踊りまくるマコさんに圧倒されていると、曲が終わり、マコさんが着ぐるみを脱いでいく。着ぐるみの頭を盆に乗せたマコさんは、そっと着ぐるみの涙をぬぐうしぐさをする。

 以前観た時は、ごついクマの体を脱ぎ捨てて理想の自分になるというテーマだと思っていたけど、このしぐさに気が付いた瞬間、傷ついた自分の心をなぐさめるというのがこの作品の大事な部分なのだと気が付いた。そうやって改めて見直すと、ベッドでの所作には自分の体を愛することの気持ちよさを感じさせる動作がある。

 たとえ孤独でも自分自身を愛そう、自分に優しくしてあげようというのはそういえばマコさんの演目によく出てくるテーマで、「ブス」もそのうちのひとつなのだった。

 気がふさいでいて何を見てもあまり入ってこなくて、ただぼんやり見ていたころに、マコさんの演目はしっかり入ってきたのは、そういう作風だからなのかもしれない。

 よるべない心境にいる人間が、何かを取り戻す瞬間を追体験するような感覚がある。

 この日は「you can cry」も観れたし、るあんさんの「旅人」はリングを使った静謐な内容で沁みた。リングの回転が収まり、揺らぎに身体を委ねているるあんさんの、細く小さい身体の優美さが見事だった。音ね風花さんの某ゲームの演目はいい意味でスポーティーな感じで満足感があった。美樹うららさんお休みが残念だったけど。

 マコさんは渋谷は多国籍でいいですねえとポラ中に話していた。

 余談だけど、「ブス」の2曲目は私が初めてCDを買ったアイドルの曲で、そのグループの歴史も含めてこの演目にぴったりで、なんとなく照れくさいような気分にもなった。

 一緒に観ていたMさんが、マコさんをZipperモデルっぽいと言っていてなるほど。