ホンのつまみぐい

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ストリップ劇場に女性客が増えている理由を探る~憧れと尊敬、客席の信頼関係(2018.12.14 messyに寄稿)

かつて福島に芦ノ牧温泉劇場というストリップ劇場があり、そこでは「潮吹きショー」を披露する中川マリというストリッパーがいた。体調不良で彼女が現役を退くと共に、芦ノ牧温泉劇場もそのまま閉鎖された。2018年6月のことだ。

 2019年2月に、マンガ雑誌『イブニング』(講談社)でストリップレポマンガを連載することが決まっている菜央こりんの制作した同人誌『ストリップ劇場遠征女 サラバ! 福島編』には、閉館直前の芦ノ牧温泉劇場の様子が載っている。

 年配の女性が客席に話しかけながら脱いでいき、最後は潮を吹く。雑談を交えながらおっぱいをさわらせてくれる、タッチショーの時間もある。芦ノ牧温泉劇場でのストリップには、「世間がイメージするストリップ」の形がそのまま残されていた。

 30分ほどのステージの間に客をなごませ、楽しませてくれた温泉街のストリッパーのステージを、菜央こりんは最後に、「どんな場所でも、自分の身体を使って誰かを楽しませている人を見るとなんだか元気になる!」という言葉で表現している。

 そこにはストリッパーをエンターテイナーとして捉え、尊敬する素直な気持ちがにじみ出ている。

 

ストリップの客数は年々増加中


 ところで、私はこれまでの記事で「ストリップに女性客が増えている」と書いてきた。しかし、それは事実なのか。事実だとしたら、いったいどのような過程を経たものなのだろうか。

 15年以上ストリップを観ているという50代男性のHさんは、「そもそも、ここ数年はストリップ全体の客数が増えてきている」という印象を強めているという。Hさんは、指標の一つとして浅草ロック座の大入り報告の増加をあげている。

 浅草ロック座は大入りの日にはTwitterでその旨を報告する。2012~2015年には年に数日だったこの大入りの回数が、2016年は46日、2017年は50日、2018年は11月23日時点で66日と、着実に増加している。

 2016年の大入りについては、恵比寿マスカッツの川上奈々美、上原亜衣が舞台に立ったことが大きな理由の一つとされており、特に上原亜衣の引退公演では20日間全てが大入りになったという。

 また、この公演には上原の女性ファン有志が花輪を出しており、彼女たちも劇場に足を運んでいた。中にはそのままストリップそのもののファンになった人もいるという。

 浅草ロック座の客数のみをストリップ界全体の客数増の証拠には出来ないが、指標の一つにはなるだろう。実際、浅草での鑑賞をきっかけに、お気に入りのストリッパーを追いかけてさまざまな劇場に出向く人は少なくない。

 そして、Hさんによるとトータルの客数だけでなく、その中での女性客の割合もここ数年で明らかに増えているという。ほかにも10年以上ストリップを観ているファンや劇場関係者に話を聞いたが、一様に「ここ数年で増えている」と話してくれた。

 「女性客増加」について引き合いに出される理由は様々だ。「an・an」、「GINZA」(いずれもマガジンハウス)などの女性向けメディアがストリップについて取り上げたことでの露出の増加。第2回で取り上げたBLストリップのブレイク。若林美保に代表されるような、映画、演劇など多様なフィールドで活動する演者が活躍するようになったこと。AV女優がSNSで美容情報などを発信するようになり、モデルやアイドルと同じような「女の子の憧れ」になっていること。

 また、因果関係を証明するのは困難だが、2000年代に劇場の摘発が相次ぎ、いわゆるピンクサービスの提供が縮小したことも要因としては大きいと思われる。ちなみに最後の摘発があったのは2013年1月のTSミュージックだ。

 かつては演目中の自慰行為は当たり前だったというが、今では劇場によっては「自慰行為厳禁」という貼り紙が用意されている。

 こうしたことすべてが複合的に絡み合い、「女性が足を運ぶきっかけ」になっていることは間違いないだろう。しかし、現在ストリップ劇場で起こっている変化に関して語る際に注目したいのは、ストリップにおける「語り」の変化だ。

 

ストリップを巡る言葉の変化


 下の写真はすべてここ数年のうちに頒布された「ストリップ同人誌」だ。

 そして、現役ストリッパー高崎美佳の「女の子向けのスト本作りたい」というツイートに同調したマンガ家・たなかときみ編集の「はじめて・ひとり・女性のためのストリップ観劇ガイドFirst Strip Guide」を除き、制作者は全て女性である。

 そもそも、これまでは女性がストリップを語る場が、公には設けられていなかった。酒井順子『ほのエロ記』(角川文庫/2008)、田房永子『男しか行けない場所に女が行ってきました』(イースト・プレス/2015)のように、男性の場に女性がお邪魔するという形での記述はあり得たが、あくまで見学者として語る向きが強かったと思う。

 正確には、上記の同人誌の中では『脱衣舞』が2010年8月から発行されており、芸能としてのストリップの魅力を語っているし、ブログなどを探すと2000年代にも女性目線のストリップ観劇記は見つかるが、まだまだムーブメントを感じさせるボリュームはなかった。

 しかし、2012頃からいわゆる秘境・珍スポットの一つとして、個人ブログなどを通してストリップが語られる機会が増えてくる。ちなみに、この切り口では金原みわが『さいはて紀行』(シカク出版/2016年)、『日本昭和珍スポット大全』(辰巳出版/2017年)という本の中でストリップの魅力を語っている。

 ここ数年の同人誌ではそうした「秘所に出向く」という要素はさらに薄められていて、それぞれの制作者が「私にとってのストリップの魅力をなんとか形にしてみんなに伝えたい」と力を尽くす傾向にある。そこではストリッパーひとりひとりに対する憧れはもちろん、劇場で一緒になった男性たち、あるいは運営側の人々への共感や敬意、劇場空間の非日常性の魅力などがストレートに綴られている。

 また、もう少し手軽に、SNSで「ストリップ体験」を語る人も増え続けている。Twitterで「ストリップ、レポ」で検索してみよう。メンズストリップと呼ばれる演者が男性のストリップも含め、さまざまなストリップに対するポジティブな反応を目にすることが出来る。インスタグラムのタグでもロック座、ストリップといったタグとともに「行ってみた」レポを挙げる人はもはや少なくない。

 こうした「新しいストリップ語り」が目立つようになったことは、女性客の増加の大きな要因になっているのではないだろうか。

 「語り」の方法が変わったのは客席だけではない。ストリッパー自身も、自分の演目に対するこだわりや、楽屋での過ごし方、仲間との旅行の様子、ストリップへの思いなどをネットを通じて発信するようになった。

 これまでどこか薄暗いイメージをまとっていたストリップだが、そこで踊る女性たちはそれぞれがプライドや愛情を持ってストリップの世界にいる。時には演者の葛藤や業界の理不尽さをこちらが目の当たりにすることもあるが、それも含め、ステージ上の人間が一個人としての輪郭をはっきりさせたことは大きいだろう。

 こうした変化を男性客は、そして劇場側はどう受け止めているのだろうか。

 

開かれる劇場、年齢性別関係なく楽しむスト客


 横浜ロック座は2016年4月、劇場に女性優先席を設置。2017年9月には女性無料興行という10日間の興行を実施。さらに、女性限定で川崎ロック座、横浜ロック座共通スタンプカードを配布している。

 横浜ロック座のこうした施策については、かつてAV監督として一世を風靡した前任社長・松本和彦の発案が大きいという。AV業界には「女性が観ればシェアは倍になる」という意見が以前からあったが、AVではなかなか成果が出なかった。

 男女ともに売れるAVが制作できなかった理由に関し、明確な答えは出ていないが、「男性は脱いでればいいようなところがあるけれど、女性は個人のこだわりが細かく、内容に厳しいからではないか」という指摘があったという。

 一方、ストリップは鑑賞者自身がストリッパーや演目から物語を見いだしていくため、AVほど性差を気にせず楽しめる。このことを踏まえ、「女性客を増やしていくことで業界全体を活気づけられるのではないか」となり、こうした企画が生まれていったそうだ。

 横浜ロック座のスタッフによると、ここ数年で増えたとはいうものの、2年ほど前はまだまだ女性は男性に連れてこられるイレギュラーな存在で、劇場側の受け入れ体制も整っていなかったという。そこで、横浜では女性用のトイレをウォシュレットにしたり、女性優先席を設置したりと、まずは女性を招き入れるための準備を整えた。

 女性無料興行は2017年9月21~30日の10日間行われた。開催時のアンケートには「踊り子さんたちがとてもきれいだった」「女性が観ても楽しめる」など、おおむね好意的な反応が寄せられている。

 また、劇場側は女性が不快な思いをしないかを心配していたというが、劇場の雰囲気や男性客に対しても「マナーが良い」「客との信頼関係があって安心感があった」などと評価されている。

 最終的にはアンケート記載者だけで合計286名の女性が来館。この中から何名リピーターと呼ばれる女性が生まれたかは不明だが、この試みが及ぼした影響は単なる「何名の顧客を獲得できた」といったものにとどまらないと思う。

 なぜならこれは「ストリップ劇場は女性を歓迎している」という宣言ととらえることが出来るからだ。劇場側には「果たしてこの試みが男性に受け入れてもらえるだろうか」という懸念もあったそうだが、実施してみると賛同者も多かったという。

 実際、取材中に話を聞くと「せっかくなんだから端っこで観てないで、前の方で一緒に楽しめばいいのになんて思うこともある」「男女問わず同じストリップを応援する仲間だと思っている」「男がストリップの話をするエロ話と思われがちなので、むしろ女性が広めてくれることによって芸能としての魅力が伝わりやすい」と、好意的な声を聞くことが多い。

 また、川崎ロック座社長は前述の同人誌『First Strip Guide』内のインタビューで「昔はもっと過激な男性に男性にと向けたサービスもあったけど、僕はそれが衰退に繋がったように思う。『男だけの世界』という考えは足かせでしかなく、男性で女性に来てほしくない方がいたら、それはストリップに入ることに後ろめたさがあるんではないですかね。後ろめたいから良いという方もいるでしょうが、女性が増えて気兼ねなく入ることで、後ろめたい場所という感覚がなくなるんじゃないかなと思います」と話している。

 こうした意見は、ストリップが今もってなお「斜陽産業」であり、「なんとかこの文化を残していきたい」と願う人々が多いことも大きく影響しているだろう。風営法により、ストリップ劇場の新設には高いハードルが課せられ、実質的に不可能な状態となっている。

 「現行の劇場をなんとか残していきたい」あるいは「一人でも多くの人にストリップを観てほしい」という気持ちは、多くのストリップに関わる人々に共通しているだろう。前述した同人誌も、ストリップという文化を何らかの形で記録しておきたいという意思が含まれているはずだ。

すでに劇場では、40~60代と思われる男性客と、まだ20代であろう女性客がいちストリップ客同士として談笑する姿はすでに珍しくない。

 たとえば、第1回に登場したSさんには「リボンさん」の師匠がいる。「リボンさん」というのは手の中につかんだ8~9個のリボンを、ダンスやポージングのタイミングで投げて舞台に花を添えるファンのこと。

 リボンさんは時にきまぐれなストリッパーの動きを読みながらリボンを投げる。また、プロレスの紙テープと違い、投げたリボンを床に落としたり、ほかの客に当てたりしないよう、つかんだリボンを素早く引き上げなくてはいけない。劇場の大きさによってリボンの長さを変えたり、どの場所から投げれば機材にかからないかを計算したりと、把握しなくてはいけないことが多いのだ。

 Sさんは「リボンさんをやろうと思っている」と周囲に話したところ、人づてに師匠を紹介されたという。

 「開場前に練習して投げ方や持ち方を教えてもらっているんですけど、まだまだですね。今はバラバラになってしまうので、師匠みたいにふんわりふわっとしたリボンを目指しています」というSさん。

 Sさんと師匠は、開演前に一緒に練習をすることもあるという。20代の女性と50代の男性が、共にリボン投げを練習する姿を想像すると、なかなかほほえましい。

 ストリップは性風俗の場であり、女性の裸を観る芸能だ。しかし、それは男性だけのものではない。それが、ある時は女性ファン自らの言葉により、ある時は劇場での男女の垣根を越えた交流により証明されつつあることが、ストリップの女性客を増やしているのかもしれない。