ホンのつまみぐい

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オピニオン・ファクト・表現

開沼博のインタビュー集「社会が漂白され尽くす前に」を読んでいたら、ドキュメンタリー映画「ヤクザと憲法」の、プロデューサー・阿武野勝彦と監督・土方宏史が登場していた。

 

監督とプロデューサーのどっちの弁か忘れたけど、「オピニオンを伝えることを優先しすぎると、意見を同じくする人にしか観てもらえなくなる」と話していたのが印象的だった。

 

ある種の結論に誘導させるためにわかりやすい物語を喚起させる映像を作ると、その結論に同意する人しか見てくれないということらしい。

 

表現は少し違ったと思うが、「ドキュメンタリー映画はオピニオンに寄りがちだけど、ファクトを伝えることを意識したい」というようなことも語られていた。

 

社会が漂白され尽くす前に: 開沼博対談集

社会が漂白され尽くす前に: 開沼博対談集

 

 

最近、この「オピニオン」の扱いについてよく考えている。

 

この間、20代の女の子とあっこゴリラの話になった。その子は1年以上前から曲を聴いていて、ライブも見ている。「あっこさんは断トツ」だけど、「最近の曲はキツい」と言う。

 

あっこゴリラが最近公開した「エビバディBO」は「VIOライン ボーボーボー はみ出したとこがきみの才能 bornレインボー」という歌だ。

 

常に身だしなみを求められる女性の現状に対するカウンターとして「わき毛なんて剃ったって剃らなくったっていいじゃない!自分で望む姿を選びましょう!」ということを歌いあげている。 

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その子は、「男だとか女だとかこだわらなくてすむ状態が最終目標だし、むしろエルテレサみたいに『かわいいを利用して何が悪い』のほうがいい」という話をしていた。

 

わき毛を剃る習慣は果てしなくめんどくさいし、無駄な行為だと思っているので、私はオピニオンで言えば「エビバディBO」には100%同意だ。

 

一方で、「曲を聴くごとにオピニオンへの同意を求められているような気分になって近寄りがたい」という気持ちもわからなくない。この歌は「新しい女性像」の提示だけど、あるべき自分像というのはそれぞれの中にあるものだから、人によって「これは私の望む姿と違う」という思いも強くなるのかもしれない。あるいは、オピニオンを表明することによる断絶がネットで可視化されすぎていて、「表明の先があれならそのやり方は採用したくない」ということなのかもしれない。

 

とはいえ、今のあっこゴリラのストレートな表現に励まされる人は多いだろうし、この直截さだからこそ届いたという人もいるだろう。この辺りのバランスは本当に難しい。

 

あっこゴリラにもっと無難な歌詞を書けと言いたいわけではもちろんなく、これは自分が文章を書く際に、結論を伝えることを先行させたせいで間口を狭めていないかという自問である。

 

特に、私の場合は人様が作ったものをレビューしたり、取材で聞いた話を文字にしたりするのだから、なるべく受け取ったものを広く、しかし芯を外さずに還元できるように心を砕く義務があると思う。

 

追記:先ほどの子とは違う、ある女の子があっこゴリラについて、「私はそんなに世の中に怒りとかないから、今のあっこちゃんはあんまりわからない」という主旨のことを書いていた。

何となくだけど「怒ってるように見える」ことを敬遠する人が多いのかもしれない。「権力や慣習に対して怒るのは、自身が被差別者であることを認めること」ということが往々にしてあるので、「自分は虐げられてると思うのが怖い」という人もいるのかも。

ただ、「『新潮45』問題を古いゲイ3人が考えた」で例が示されたように、「当事者ではないけれど、私たちの社会はこのようなことを許さない」とアクションするのはとても大切なことなので、そのあたりはもっと受け手の方が変わるべきだと思う。

「ロミオと肉のジュリエット」というマンガは、こういったことを「正義に関わる問題」という言葉でうまく表現している。

note.mu

 『新潮45』問題を古いゲイ3人が考えた(2) LGBTブームの「功罪」と、「過激な活動家批判」のゆくえ

 

最近、こういうオピニオンの表明で印象的だったのは思い出野郎Aチームだ。

 

スポットライトに照らされて 僕らの肌はまだら模様」(フラットなフロア)とか「野放しになってるヘイトよりも禁止されたダンスビート」(無許可のパーティー)とか「シティポップで行進するファシスト ぶっとばすビート 役に立たないミュージック それでも君と」(Magic Number)とか、歌詞がとても巧み。

 

聴き心地のよい音とガラガラ声の素朴な明るさとのギャップで、歌詞がするっと入ってくる。韻の踏み方も計算されてる。政治不信で死にそうだったけど、それを家族以外の身近な人に話せないで落ち込んでいた頃、「それ、おかしいよね?」と歌ってくれたことにとてもなぐさめられた。

 

無許可のパーティー

無許可のパーティー

  • provided courtesy of iTunes

 

Magic Number

Magic Number

  • provided courtesy of iTunes

 

むかしむかしあるところに男と女とそれ以外がいました

むかしむかしあるところに白黒黄色それ以外がいました

むかしむかしあるところにYESとNOとそれ以外があるのに

いつもいつもことあるごと それ以外はなかったことにされました

 

で始まる大森靖子の「ドグマ・マグマ feat.fox capture plan」もうまい。軽やかな音に引きずられ、昔話調の入りで語られるのに、しっかりと彼女のイライラが伝わる。

 

大森靖子の感情やメッセージは、いつも「愛媛出身で、東京に住んでいて、子育てしながら音楽をやっている女性」という自分自身の感情を形にすることから生まれる。たとえば、「おまえみたいなやつが子供を育てちゃいけないとか言われて いつか歴史が僕を正しいと証明したって意味がない」(死神)はとてもパーソナルな、大森靖子個人の体験についての描写だ。でも、そこにある違和感や怒りが普遍的なものだということをちゃんと捉えているから、様々な立場の人を向いた歌詞が書けるのだと思う。

 

とはいえ、私が大森靖子を語る際には、彼女が毎日ツイッターで「おはよーーーーー今週もクソでもなんとかなろうとするクソで🌹」などとフォロワーに向けて声をかけていることや、病躯を押してライブに駆けつけてくれた熱心なファンのお葬式に、自主的に参列したことなどを外すことはできない。誰だって、曲だけでメッセージやオピニオンを判断できるほど冷静ではない。

 

 


大森靖子「ドグマ・マグマ」Music Video/YOUTUBE Ver.

 

誰がどのように歌うかで言えば、ドキュメンタリー番組「えんとこの歌」で観た谷ぐち順の姿も忘れられない。

 

脳性まひで寝たきりになった歌人・遠藤滋を追ったこの映像には、彼と彼を介助する人々が映される。less than TVの代表で、FUCKERとして活動する谷ぐち順もその一人だ。

 

遠藤のベッドの横で、谷ぐちはこう歌う。

 

「あのー優生思想ってご存知ですか、超~~ファックオフなやつなんですけど」

 

そして遠藤に話しかける。

 

「遠藤さんどうすればいいですかね。おれ一個いいの思いついたんですよ。家作ろうと思ってて。もっと重度な知的の方でも関係なく地域で生活できるような。そんな家を作りたいと思って」

 

ギターをおろし、谷ぐちはベッドの上の遠藤に近づく。そして、耳を遠藤の口に近づけて、彼の発言を聞き取ろうとする。谷ぐちは何度かうなづいて、「それはけっこうなこと」「それはけっこうなこと、遠藤さん!」と叫ぶ。

 

再びギターを抱え「ああ、このからっぽのからっぽの頭で理想の社会ってやつをイメージ イメージし続けて一歩でも近づけるのさ。共生社会を実現させる歌」と歌う谷ぐち。

 

あまりにもストレートだけど、そこに押し付けがましさはない。あくまで「おれはこうしようと思うんだよ」という歌だからだろうか。でも、だからこその力強さと覚悟が胸にしみる。

 

「えんとこの歌」には介助者としてロベルト吉野も登場して、「なぜ関わろうかと思ったのか」という問いに「うーん。……なんか言うの恥ずかしいんで」と答えていて、それがとても彼らしくて気持ちが柔らかくなった。

 

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そして、オピニオンと表現と言えばECDの存在を欠かすことは出来ない。しかし、彼についてはその人間性と行動と作品があまりに重層的過ぎて、言葉にすることをためらってしまう。

 

でも、私はECDの行動や生き方を、この先、生きていくための大きな礎にしているところがある。それは共感や同調とは少し違う。未来を見据えて、やりすごさなかった人への憧れであり敬意であり、うまく言葉に出来ない何かだと思う。そして、この気持ちは、いつか人に伝えたいことのひとつだ。

 

ところで、先日NHKのドキュメンタリー「こころの時代」でECDが特集された。番組内で取り上げられた1枚の写真の中には、ECDの隣でギターを担いだ谷ぐち順が立っていた。また、ECDの大量の日記が紹介される場面では、「谷口君に介護のバイトを紹介してもらった」という記述が映った。この谷口君は、あの谷ぐちなのだろうか。だとすれば、大量のページの中であの記述を映したのは意図的なものだったのだろうか。

 

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