ホンのつまみぐい

誤字脱字・事実誤認など遠慮なくご指摘ください。

女性の扱いが引っかかる「さようならCP」原一男

 『水俣曼荼羅』を観た衝撃で、AmazonPrimeVideoの日本映画専門チャンネルで『さようならCP』を観た。

 

 

 

さようならCP [DVD]

さようならCP [DVD]

  • ディメンション
Amazon

 

 ちなみに「青い芝の会」のことは昔、cakesに連載されていた九龍ジョーと荒井裕樹の対談で知っていて、映画の方は「社会から隠されがちな障害者が自らをさらし、社会に自分たちの存在を訴えていく映画」と把握していた。

 

cakes.mu

cakes.mu

 (この対談は↓の本に収録)

 前情報があったので抵抗感なく見たつもりだったが、初見では何が起こっている映画なのか理解できなかった。脳性麻痺の人々の会話が聞き取れないからだ。字幕もない(字幕配信もしているけど、Amazonでは切り替え出来ないみたいだった)。

 かろうじて読み取ることができた要素は、以下のようなものだった。

 膝立ちで歩いていて出ていく横田弘。

 駅前で演説を行い、カンパを募る姿。そして、カンパをした人へのインタビュー。

 演説の際に、自分の感情に反する「よろしくお願いします」という言葉がつい出てしまうという話。

 男性陣によるセックス体験の話。

 結婚生活の中で何らかのトラブルが生じたために、誰かが責められている様子。

 カメラを持ち、健常者を撮ることで生じる感情についての語り。

 街中で歩き、「見世物になっちゃうよ」と警官に制される場面。

 そして、最後に全裸で歩く姿。

 どうも映画を理解できたとは言い難いと思い、まず概要を読んでみたところ、驚愕の事実が明らかになった。

 「CP(脳性麻痺患者)だけで生きる」そんな理想を掲げ浄土真宗の住職・大仏空(おさらぎあきら)は1964年、<マハラバ村>というコミューンを設立する。「CP者はいかに生きるべきか」自給自足の生活を志しながら同時に村内では、リーダー的存在だった横田弘、横塚晃一たちを中心に激しい議論が交わされていた。横田は妻・淑子との間に子どもが誕生する。健全者として生まれた子どもを閉じた共同体内で育てる。そんな困難にぶつかり、横田一家は村を去ってゆく。横田のいなくなったマハラバ村は、急速に解体・崩壊へと向かっていった。1967年にマハラバ村を訪問していた原は、「青い芝の会神奈川県連合会」で活動していた横田・横塚と再会。「われわれは、本来生まれるべきではない、あってはならない存在なのか?」CP者の横田・横塚らは健全者中心の社会に対し、強く発言・行動する。

 そんな場面、映画に映っていたか?

 そういえば会合の間に女性が激高する場面があったけど、あれはそういう話なのか?

 というか、そんな状況にカメラ向けていいのか……?

 混乱しつつ少し検索してみると、以下のサイトに原監督自身による連載で撮影に至るまでの経緯と、その様子が語られていた。

mediagong.jp あえて引用しないが、原監督の横田の伴侶・淑子への態度が記述のままなら、かなり無礼で、ちょっと許しがたいものがある。

 映画もなんとなく男性中心に撮られている印象があって、本当はいたという女性たちの姿が、それこそ淑子しか映されていない。友人が以前話していた「オールド左翼の言葉を読んでると『でもお前ら、嫁におにぎり握らせてたんだろ』と思っちゃう」話が頭をよぎった。

 また、中盤に出てくる童貞を捨てる日のことを話し合う場面、しっかり聞き取れなかったが、「あれはレイプだった。そういうのはよくないよね」という話がさらっと語られていて、当時の女性蔑視はこうした団体の中にも根付いていたということがよくわかり、苦い気持ちになった。(70年代は今よりはるかにレイプが軽く扱われていたのは知っているけど……)

 プロテストとして強烈で、意義のある映画だと思うけれど、当時の価値観で見過ごされてしまった部分については、改めてもっと批判された方がいいのではと正直思った。以下のような批判もあったと知ってほっとした。

www.arsvi.com

「「青い芝」で女性差別を感じたのは、『さようならCP』という映画を見たときでした。私が(この映画を)見たのはかなり後だったんですよ。一〇年ぐらい経ってからかな。権力の縮図っていうか、自らを強調するあまりに、一人の女性の人権をあんなに無視しちゃって。私、震えちゃった。隠された存在の障害者に、たまたま細い光が差した。男たちは必死だったんだと思う。『さようならCP』というドキュメンタリー映画は、結果として「青い芝」の運動を全国組織に広げ、社会にもその存在を位置づけたんだと思います。でも、あの映画は女性差別以外の何ものでもないと思っています。」(内田みどり[2001]287p)

 これを持ってして映画を封印しろとかそういうことではないのだが、批判の声も見えてこないとアンバランスすぎる。しかし、そもそも観る人が限られるし、なかなか難しそうだ。

 ところで、カンパした人たちへのインタビューで「もし子どもがこうだったらと思うと……」という言葉がたびたび出てきて、それは彼らのことを無力な子どもと同一視しているからこそだと思った。予告編には字幕がついていて、登場する人々の語りが難なく理解できるのでぜひ観てほしい。

www.youtube.com

 

 

 

 

母よ!殺すな

 

追記: ……と思ったら荒井×九龍対談でもすでに取り上げられているんですね。荒井裕樹の本、読んでみたい。

cakes.mu