ホンのつまみぐい

誤字脱字・事実誤認など遠慮なくご指摘ください。

たしかに面白かった映画『THE FIRST SLAM DUNK』

f:id:hontuma4262:20221217121143j:image

 観た!

 井上雄彦には「はやく連載終わらせてくれよ」とか「スマートすぎてわかりづらいけどけっこうマッチョだよな」とか、いろいろ言いたいことがある派なのだが、これはたしかにすごかった。

 ちなみに私は中学生のころバスケットボール部だった。背が高いというだけの理由で元バスケットボール部の父に無理やり入部を決められて、そのまま3年間全くなじめないまま過ごし、最後の年に靭帯を損傷して入院するという最悪の思い出がある。

 それはそれとして、バスケットボールというスポーツ自体を恨むようなことはなく、さりとて深入りすることもなく。たまにフットサルでバスケで培った感覚を楽しむことはあったものの、もう一度バスケをやりたいと思ったことは一度もなかった。

 しかし、映画を見てもう一度バスケットボールがやりたくなった。

 映画の舞台は山王戦。原作では最後の試合にあたる。最初は強豪校に押されていた主人公たちが、徐々に自分たちのやり方を思い出し、少しずつ点を積み重ねていくという流れになっている。

 序盤、ねちっこく正確なディフェンスに手も足も出ず、基本的なプレーが全くできないままズルズルと時間が経っていくストレス。この不快感および焦燥感を積み重ねてから、登場人物たちが自分のプレーを取り戻していくさまが本当に気持ちいい。スルッとパスを通し、ゴール下からシュートが入る瞬間の快感や、執拗なディフェンスからリバウンドを取り返した時の満足感。バスケの上達の過程を追経験しているような錯覚に陥ってしまい、あの快感に手を伸ばしたいと思ってしまう。

 また、今回気づいたのは山王と湘北の間で交わされる執拗な目線のやり取りの面白さだ。点を入れた時、リバウンドで競り勝った時、ディフェンスで相手を阻んでいる時……。見つめ合うとも、にらみ合うとも違う、時間にすれば一瞬の凝視。これがあるから、ぐっと選手たちに感情移入してしまうし、結果に一喜一憂してしまう。これはテレビで試合を見ていても決して味わえない、フィクションならではの没入の仕組みだと思う。

 私はワタワタしているだけの選手だったから、ああいうことはなかったけど、強豪同士の試合では、あんな風に選手同士がお互いの目を見るのだろうか?

 原作の特定のコマをそのまま再現したカットが独特のリズム感を生み出しているのも面白かった。

 時折原作由来の強い絵が挟まることで、アニメとしてのテンポがグッとよくなり、試合の臨場感が増す。

 ファンへの忖度のために「原作っぽさ」を入れこむことで、アニメとしての面白さを削いでしまう「原作に忠実」な作劇とは違い、必然性のある演出だったし、原作そのもののカメラワークの見事さを確かめられるやり方でもあった。

 母と子の物語だったのも新鮮だった。私が『バカバンド』『リアル』を最初しか読んでいないからかもしれないけど、井上雄彦の母の物語は珍しくないだろうか。

 あと、花道がかわいくて出てくるたびにニコニコしてしまった。元lyrical Schoolのrisanoちゃんを観ている時と同じ楽しさがある。

 総じて見応えのある出来。90年代少年ジャンプを思い出し、絶対面白くないだろうと思って無視していた冨樫義博展も行きたくなった。

 しかし、ラストの花道の選択は2020年代ではナシだろう。当時も「井上雄彦は連載を続けたくなかったのだろうか」と思ったものだけど。

 下の写真は映画館のあるビルの、サンライズの特集ブースで見つけた『ゼーガペイン』のポスター。

f:id:hontuma4262:20221218135721j:image