ホンのつまみぐい

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寛解の連続@横浜シネマリン

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 なんとも説明し難いけれど、観てよかった映画。

 ラッパー・小林勝行の生活を記録したドキュメンタリー。

 変わった作り方をしている映画で、小林がどういう人間なのかを解説する補助線が少なく、何を撮ろうとした映画なのかということが説明しづらい。

 現在の小林の介助の仕事の瞬間、10年前くらいの神戸薔薇尻リリース時のライブ映像、いつ撮られたのかよくわからない精神科の待合室での会話、リリックを書きながら新興宗教の信徒としての葛藤を語る場面。

 心に引っかかるけれど、それ単体では何が起こっているのかが明確に理解しがたい場面が次々と現れる。

 時系列がバラバラにされているので、場面ごとの因果関係もよくわからない。監督が小さなカメラひとつで密着しながら撮っているようで、音も悪い。何を言っているのか聴き取れない場面もあった。

 しかし、不思議なことに小林の話したことは奇妙に心に残るし、それぞれがどんな場面で語られたかも思い出せる。

 創価学会の会館での取材を申し込み、断られる場面がある。小林は自分の心を支えてくれる信仰の場を信頼している監督にも見せたいと思っているが、学会には拒否される。納得できないような複雑な表情の小林。

 小林の介護の仕事の場面も長めに撮影されていて、雑然とした家の中で介助をしていると、お酒の缶を持ったおじさんが出てきたりする。少し笑えるけれど、緊張感も感じられる日々の営み。

 たまに小林が紙とペンを前に、険しい顔でリリックをつづろうとしたり、音楽が生まれる瞬間について語ったりするけれど、それら重要そうな場面も、すべて日常の営みと並列に扱われて、エピソードの因果関係が際立たないようにしている。

 最初はダンスミュージックだから信仰にまつわることを入れるつもりはないと話していた小林が、最後のライブの場面では宗教観を反映させた曲を歌っていることが、唯一時間の経過を感じさせた。

 ただ、面白くないかというとまったくそんなことはなくて、小林勝行という人のことを奇妙によく知りたくなるのだった。

 生きていると、心が無防備になっていることがたびたびある。この映画では、小林のそういう瞬間ばかりが収められているように感じられた。感情をうまく取りつくろえない不器用さが、小林の魅力のひとつなのだろう。なんとなく、見ているこちらの心も無防備になり、小林に親しみを感じてしまうし、望むような音楽ができればいいと願ってしまう。

 その後、最新の音源を聴いたが、曲からは強固なマチズモに支配されている姿がうかがえて、少し哀しくなった。強くあらねばいけないという強迫観念がなければ、彼はもう少しのびのびと生きれるのではないだろうか。

 映画には、局部をさらけ出して介助を受ける障害者の様子にショックを受け、同時に介助相手に尊敬の気持ちを抱く小林の姿も収められていて、そうしたさまざまな敬意がいつか彼を開放してくれないものだろうかと思った。

 


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 上映会にトークに監督とサイプレス上野が来ていた。いや、正確には来ている日を選んで行ったんだけど。

 神戸のライブハウスで出会った頃の話をしていて、「地元では荒くれものだったけど、そういうところを自分には見せなかった」という話や、「心の底から優しいやつだと思った」話などをしていた。

 ロベルト吉野も介助の仕事をしているので、めちゃくちゃ似ていて「吉野じゃねえか」と思ったとも。

 最後は客席からのフリースタイルの要求に答えていて、いい夜だなあと思いながらそれを聞いていた。

かっつん

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神戸薔薇尻

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