ホンのつまみぐい

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三橋順子による特別講座「歴史から買売春を考える」を横浜パラダイス会館で聞いた

 ゴールデン街が青線だったことを先週初めて知った。

 知ってしまえば、あのマッチ箱を縦にしたような、異様に狭いのに高さのある建物は風俗業以外には使いづらい。災害にも弱いだろう。

 飲食という名目で1階で客を取り、自由恋愛のていで2階で性行為をするという、法律逃れのための奇妙な風習。

 黄金町の街並みを知っていたにも関わらず、思い至らなかった鈍感さを恥ずかしく思った。

 ゴールデン街の話を聞いたのは横浜パラダイス会館で行われた特別講座「歴史から買売春を考える」だ。

 三橋順子さんによる全3回の講座は、日本における買売春の歴史について語るもの。買春業の成立から現在までを、簡潔に語ってくれた。

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 個人的に印象に残ったのは、もともとは一体だった芸妓と娼妓が分離していくまでの過程と、売春防止法成立の話。

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 売春防止法成立時に特殊飲食店業者の組合が反対運動をしていたというのが特に衝撃的だった。なぜ衝撃を受けたかというと、現代の日本で性風俗事業者たちが共同で反対運動する姿をイメージできないからである。

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 たとえば「セックスワークにも給付金を訴訟」は、基本原告が一人で戦っている。性風俗事業者間でも裁判に対しての考えが分かれているようで、「目立ったら叩かれる」という感覚の人もいるらしい。それでも裁判なら一人でも戦えるが、社会運動や政治による現状の改革のためには、目標を同じくする者同士がある程度の数を持って働きかけなくてはいけない現実がある。

 性風俗事業者には共同体として運動を行う下地がないように見え、それが現状の困難の原因の一つであるというのは、常に感じていることだった。

 この講義では、売春防止法により買売春が違法になることで、アンダーグラウンド化していく過程が説明されていた。暴力団が管理する売春のことを、黒線と呼ぶことも初めて知った。

 性風俗業にまつわる事柄に首を突っ込んでいると、実際に違法な運営について耳にすることがある。しかし、そこには「違法なものと名指されることで、違法なことを厭わない人間の利権として利用された結果、時に搾取や人権侵害の温床となってしまう」という悪循環があるように感じた。

 また、「違法なもの」という根拠を法が提供することで、「差別」の根拠となっている現状もある。

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 当事者が運動体を形成して現状の改革を訴えるというのが正攻法なのだが、違法であると名指されることにより、そうした共同体を作るのも難しくなっているという幾重にもからまった悪循環について、より明確に認識することができた。

 三橋さんはご自身で撮影した遊郭の痕跡の写真をたくさん見せてくれた。写真に写った場所の多くは、取り壊されてもう残っていないらしい。

 その中に横浜の永楽町にある「赤線」建築の痕跡についての話があった。

 横に長い建物の正面に、3つ入り口があり、側面にも1つ出入り口があるという建物で、私なぞが見てもピンとこない。

 しかし、客を迎え入れるために3つの入り口を用意し、帰りに客同士が鉢合わせないように側面に出口を一つ用意していると想像できれば、そこに「赤線」の痕跡を見ることができるのである。f:id:hontuma4262:20240127193222j:imagef:id:hontuma4262:20240127193227j:image

 講義の後は、ARTLABOOVAの蔭山ヅルさんによる若葉町ツアーがあり、ジャック&ベティに行くために数限りなく通った町の、全く知らない側面についてたくさん話を聞いた。昔、若葉町では売春をしていたトランスジェンダー女性が殺されるというひどい事件があったらしい。そのマンションを、寒空の下参加者で見つめた。

 関内はもともと埋め立て地だから地盤が弱く、震災で道にたくさんひびが入ったことも初めて知った。たしかに、ふと下を見るとコンクリ部分はともかく歩道のタイルはボロボロになっている。

 足元のことでも、見て、知っていないとわからないのだ。