ホンのつまみぐい

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正・続 まんが パレスチナ問題

ロシアがウクライナを侵略した時ほど、イスラエルパレスチナの戦争(今ではイスラエルによる虐殺がより正確な表現だろう)にショックを受けることができなかった。


それは自分の無知に由来するものだろうと思い、とにかくわかりやすいものをと買ってみた一冊。

 

 


2005年の『まんが パレスチナ問題』。2015年の続を合わせた合本で、合本は電子のみで販売されている。


まんがパレスチナ問題ではユダヤ人のニッシムとパレスチナ人のアリという二人の少年と、彼らの講師役の猫の対話により、神の誕生から9.11までの歴史が語られる。


10年後の続編では、パレスチナのみならず中東でのさまざまな紛争について国ごとの解説が入り、漠然と「いつも紛争に巻き込まれているあのへんの国々」の輪郭がはっきりしてくる。


インティファーダアラブの春イスラム国といった完全に何となくだった単語が初めて歴史、地理、そして自分たちの生活の一部の出来事として形を結び、自分のあまりの中東への無関心に汗をかいた。


高校生の時に観た「アラビアのロレンス」の時代背景を一ミリも理解していなかったし、公開時に「戦場でワルツを」の実験性に深く感動していたくせに、そもそもイスラエル軍によるパレスチナ人虐殺が主題であることを完全に忘れていた。ところで、「戦場でワルツを」は分類上はドキュメンタリーなのか。それすら理解していなくて、実験的アニメーション映画として、まさしく悲劇を「消費」していたと思う。

 

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そんなびっくりするくらいの無知な人間でも、なんとか読み通せる内容で、とてもよくできていると思う。


パレスチナの悲劇を語るアリに対し、イスラエルの正当性を主張するニッシムという会話の流れが多く、本当はもっと強いすれ違いや決裂があるのだろうと思わせる。合いの手として猫が入れてくれる解説も、歴史の見方を補強してくれる。

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とはいえ、次から次へと新しい政治家や軍隊が出てくるので、記憶を定着させるのは大変なのだけど。


そして、これは数えきれないほど言われてきたことではあるけど、パレスチナ問題と呼ぶには、あまりに欧米列強由来の問題ではないか。


大国の利益に振り回されて終わりの見えない殺戮に巻き込まれた人々の悲しみを思うと気持ちが縮んでいく。


本文中に「イスラム教徒は暴力的だ」というレッテルを貼られていることをアリが悲しむくだりがあるが、むしろこれだけの残酷な災厄に巻き込まれて暴力的でいるなというほうが難しいのでは……。

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個人的には「まんが」とあるけどコマを割っていないのも印象的。日本人が思い浮かべるいわゆる「まんが」以外の、日本では存在感の薄い風刺画におけるまんがの形式が採用されている。海外における風刺画の立ち位置、社会的価値を見直させてくれる本でもある。

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ところでひとつだけ笑ったところがあって、それはキリストの伝道の参考映画として「ライフ・オブ・ブライアン」が紹介されていたところ。昔は吹き替えをビデオレンタルで借りるしかなかったけど、最近配信でも観られるようになったし見直してみようかと思った。

 

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