理不尽な指令や無意味な報告をさせられ、澱んだ日々を送るロシアの文化施設で働く女性たちの日々を、抽象的に綴った説明の難しい1冊。
不思議な物語で、この本には主人公がいない。一人称で目の前の出来事を解説してくれる語り手はいるのだが、それが特定の誰かではないように書かれている。
非人間的な体制に縛られ、精神に澱が溜まっていくような日々を送る女性たち。彼女たちは労働の場(公的機関)で個人であることを剥奪されている。
中に生理の周期まで被ってくるという描写があり、大きなビルで働くと同じ時間にトイレが混むことを思い出し、苦い気持ちになった。
また、半ば強制的に「似たような人々」にさせられている女の子たちの間にも自殺を考える人がいたり、いじめにあったりする人がいるというのが生々しい。
印象的なのは共闘が打開のきっかけにならないところ。
先にこの場を出ていく人に影響を受けて変わっていく「誰か」がいるが、その描写があまりロマンティックでない。
政府が人々の共闘を制圧しようとしている現状から、あえて抽出的な表現にしているのかもしれないけれど、その湿度の低さにむしろ勇気づけられる部分がある。
つながりのない孤独の渦中にいても、他者のありように希望を見出すことができると感じさせるからかも。
黒目の入らない人物たちの姿を描いたイラストも本の世界観をよく表していて見飽きない。