ホンのつまみぐい

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『にホ。〜2年経ったしポジティブでしょうよ?〜』@KT Zepp Yokohamaを見てあれこれ考えた

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 ストリップ経由で知り合ったフォロワーCさんがきのホ。に夢中になっているのをTwitterで観て、少し気になっていたところに、ワンマンライブ無料招待の告知。ファンクラブ会員が事前に参加希望者を登録することで、希望者が無料招待を受けられるという内容だったため、Cさんにお願いしてZEPPYOKOHAMAでのライブに参加しました。

 アイドルのワンマンライブはlyricalschoolの新メンバーお披露目ライブ以来。

 上り調子のグループのワンマンライブは久々でした。のぼりや写真撮影用のスタンドなど、細やかな準備のされた会場に入ると、ステージを熱い目で見守る人々の熱気が塊になっている。始まる前のざわつきの中に心地よい緊張感が広がっていて、初見ながらドキドキしてきました。記憶に残るワンマンは解散や卒業が絡んでいたことが多かったので、演者と客がお互いに積み重ねてきたものを確かめ合うような空気がまぶしかったです。

 ステージが始まり、最初に目に入ったのはメンバーの人数分の直径170cmほどの巨大な白い風船でした。その風船をスライド代わりに使い、オーディション映像を映して観客のボルテージをあげると、今度は風船が割れてメンバーが登場。それからは息つく間もなく曲が披露されていきます。

 奥行きのあるフォーメーションのダンスに、安定感のある楽曲。「弱い部分もあるけれどがんばって道を切り開いていくぞ!」という世界観を、きっちり表現するメンバーたち。アニメのテーマソングになってもおかしくないみずみずしさに感心しながらステージを観ていました。

 特に印象的だったのは演出とMC。冒頭の風船の他、照明のレーザー演出にバンドセット。ライブ後半では銀テープ、メンバーの言葉が書かれた桜の花びらの形の白いカードを飛ばし、現場を盛り上げるだけでなく、手元に残るものまで用意してくれる。

 MCは地下アイドルのライブでオタクが言ってほしいようなこと(「ついてきてね」とか)をきっちり言ってくれて、オタクがやってほしいこと全部やるとでも言いたげなライブ。何の演出もなしにただただ歌い踊る様を観るだけだった、かつてのさまざまなライブを思いだし、感心してしまいました。メンバーはもちろん、これだけ質の高い安定感のあるステージを2年で作るあげた運営陣のすばらしさには拍手を送らざるを得なかったです。

 同時に、最近観たアイドル現場に対する答え合わせのような気持ちが浮かんできました。

 最初に感じたのは地下アイドルというジャンルがある種様式化しているという実感でした。きのホ。のワンマンはMCも洗練されていて、これまでアイドル現場で観てきた冗長さがなかったのですが、一方で「上り調子のアイドルが言いそうなことを巧く話している」という意外性のなさもありました。メンバーとファンがお互いの望みにうまく答えているわけだから、決して悪いことではないのだけど、正直物足りなさも感じました。

 アイドルに限らず、頭一つ抜けて行くには質の高さだけではない何かが必要になります。おそらくそれは、最初は意外性や違和感と表現されるもので、きのホ。にはそういう違和感があまりなかった。

 そういう意味で、BiSにおけるヒラノノゾミや、BiSHにおけるアイナ・ジ・エンドの存在は本当に大きかったし、朝倉みずほの天才性は企まずして意外性や違和感を作り出せることにあるのだなと実感しました。

 また、日頃からストリップやダンスパフォーマンスを観ていたため、ダンスに関してはもっと伸びしろがある……というか、身体表現としてのダンスの可能性をもっと業界全体で突き詰めた方がいいのではと感じました。これはSAKA-SAMAを観ていたときに強く感じてしまったことなのですが、ダンスってただ真面目にこなすだけだと体操になっちゃうんですよね。もちろん、体操っぽいパワフルでスポーティーな身体パフォーマンスの楽しさもこの世にはあるので、そういう踊り自体が悪いわけではありません。今13人編成のGANGPARADEは、むしろ器械体操的な迫力をうまく楽しさにつなげていると思います。でも、漠然と真面目に踊っているだけでは、ただ順番に振り付けをこなしているだけに見えてしまう。

 身体を動かすことで何かを表現するということの可能性を、地下アイドルはもう少し追及できるのではないかと思いました。その表現したいものは「私は世界一かわいい!私を観て!!」でもいいので。

 しかし、ストリップでも身体表現が芸として完成されていると感じる人は、最初から作りたいものが明確な人か、6年くらいのキャリアがある人が多いから、活動期間が短く、プロデュースされることが前提のアイドルという立場でその域に行くのは簡単ではなさそう。

 そして、ライブ後に改めて考えされられたのがアイドル運営の現在について。

 終演後にCさんが「きのホ。は運営が推せる。メンバーが全員社員として雇用されていて、生活には困らないようにしている」と熱弁してくれたので、運営の新井ポテトさんが登場する配信番組「豪の部屋」を観てみました。

 京都で飲食チェーンをやっている新井さんは、アイドルについては門外漢。音楽レーベルを作ってはいたものの、シーンのことなどはよく知らないままプロデュースをスタートしたのだとか。

 そんな新井さんが現状のアイドル運営について、「女の子の人生を扱っている自覚がない」と話していて、その真面目さにしみじみ感動してしまいました。ほんとそれ! まあ、でも振り返ると他人の人生を預かる覚悟って日本の大概の会社が持ってないかも……。

 印象的だったのは、「目標にするグループがない」と話していたこと。ワンマンで初めて観た私にも、きのホ。が地下アイドルとしてある段階まで到達していることは見て取れたのですが、「次はどうしよう」と思った時に、見本にする対象がいないそう。動画中で吉田豪が「3000人の壁」と言った時に、新井さんが「いや、1000人」と訂正していますが、この水準のグループがそこで悩んでいるというのはちょっと驚き。

 昔から「ZEPPまではいけるけどそれ以降が伸び悩み、いつの間にか解散してしまう」という傾向はありましたが、今はそれがリキッドルームなのか? 現状のアイドル界隈の厳しさを実感させられる会話でした。この世界的かつ構造的な不況ではしかたがないだろうけど。

 同時に、AqbiRec、TRUSH-UP、SecoundFactory、Tapestok.incなど、長く活動している運営が、最近ずっと同じグループ同士で対バンをしていることも思い出しました。昔はもっと意欲的な、異文化交流的イベントをやっている運営たくさんあったのに……。でも、「そういうの赤字なんですよ」「喜ばれるけど動員は増えないんですよ」と言われてしまうんでしょうか。とはいえ、同じグループとずっと対バンされると常連ですら足が遠のいてしまうし、内輪以外に情報が届かなくなってしまうので、無理してでも外に出て行った方がいいとは思ってしまうのだけど。

 かつてはコーチュラとかフジロックとかいうホラをふいてた人たちが、そういうことをしなくなってくるのも寂しいものがあります。

 今は特に本現場もなく、たまにふらっと気になったところに行くだけの自分があれこれ言うのは傲慢かもしれないけれど、きのホ。を観たことで地下アイドルの今がクリアになったように思えて、ライブの善し悪しとはまた別の意味でも刺激的でした。

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