ホンのつまみぐい

誤字脱字・事実誤認など遠慮なくご指摘ください。

シブカル祭。2017で春ねむりとあっこゴリラを観た@渋谷クラブクワトロ

シブカル祭はブッキングがおもしろくて個人的に「ちょっと行ってみたい現場」のひとつだったけど、いつもいつの間にか終わってた。しかし、今回は春ねむりが参加するということで、事前にTwitterで告知がガンガン流れてきて、無事当日現場に足を運ぶことが出来た。

 

場所はクワトロ。あの観にくいフロアか……と思いながら会場へ。

会場に入ると「美大生です!」「デザイン学校生です!」という女の子がぱらぱら歩いてる。渋谷のサブカルだもんな、そうだよな。

そんな若者を横目にフロアに入ると、MANONという女の子が歌っている。

茶髪ロングにふわっとしたパーマに、縦縞のワンピース。人からもらったものだとすぐわかる、へにょへにょした歌。うーん、アイドルじゃないけど、これはアイドルみたいなものだなあ。

ググって見たところ本業はモデルらしい。ブランディングの一つとしての音楽活動か。MCで「CDが出せてうれしい」「ポーチを作ってもらえてうれしい」と話しているのを見ながら、ちょっと憂鬱な気分に。何の芯もないまま、音楽を着飾っている姿の女の子を広告関係っぽい大人が「かわいいね」と言いながら鑑賞している。正直、気持ちよくない。女の子の方じゃなくて、周りの大人の「中身なんてどうでもいい。かわいくさせときゃいいんだろ」みたいな感じがね。しかも、この後は春ねむりとあっこゴリラなのに。

 

MANONが出て行くと、フロアにいたこじゃれた人々はすっといなくなって、ステージを見守るのは春ねむりファンの20~40代の男性がメインに。フロアにいっぱいいた、自分が何がしたいか、まだわかっていなさそうな若者に見てほしかったな。

春ねむりはトップスは白。袖とスカートは黒のワンピースで登場。

セカンドが出てからはリリイベでしか見ていなかったので、ちゃんとした箱で見るのは初めてだと気づく。

明らかにダンスミュージックではない、感情の底を叩くような低音。そして、高くて細いけれどしっかりした声で紡がれるラップ。春ねむりはいつも真摯だ。

「唯一のロキノン系ではないでしょうか」というMC。そう、この人の信仰の対象はロックンロールなんだよね。ラップだからってヒップホップじゃなくていい。

ライブの後半、「ロックンロールは死なない」で、こぶしを振り上げてフロアに降りてきた。基本的にどんな動作もそれなりにノってやれるんだけど、こぶしを振る動作だけはちょっと恥ずかしい。やるけどね。

全体が遠目に見回せるところで見ていたから、彼女の存在を誇るように見つめる人々の笑顔と、その笑顔に囲まれてぴょんぴょん飛び跳ねる春ねむりがまぶしかった。

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はろー@にゅーわーるど / とりこぼされた街から愛をこめて

はろー@にゅーわーるど / とりこぼされた街から愛をこめて

 

 

 

ロックンロールは死なない

ロックンロールは死なない

  • 春ねむり
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

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あっこゴリラはDJにダンサー二人を引き連れての登場。「こんなアッパーなやつ出てきてみんな大丈夫?」というMCからスタート。インストラクターみたいなヘソ出しルックと高くて通る声が気持ちいい。

千円札を模した物販のタオルを取り出し、「この千円札が~おっきくなっちゃった!」と笑いながら言う。つられてオタクの何人かが千円札を振っていたのもよかった。

黒人男性ダンサー二人を連れながらのライブはとにかくステージ上のボリュームが半端なく、見ているだけで明るい気持ちになる。ゴリラをコンセプトした彼女の初期の曲はあまり好きになれなかったのだけど、12月のEP用の新曲は音も歌詞も華やかで、耳を奪われる瞬間が多々ある。MVの華やかさに「女の子はラップすんなとかいう男どもはFxxk Youだ。」という歌詞の痛快さが気持ちいい「ウルトラジェンダー」はもちろん、新曲「ゲリラ」の「どしゃ降りもリズムに聞こえたの ゲリラ豪雨」という一節は彼女そのものという感じだった。

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二人を見終えて、「やっぱり、ライブってこれだよな」と思う。

フロアから引き払おうとすると、あっこゴリラを見ていた女の子たちの中に、ちょっぴり自己解放の苦手そうな、でも何か表現したそうな雰囲気の女の子たちがいたことに気づく。そういえば、ベッド・インのリリースイベントもこういう子がいた。きっと、ああいう子たちの憧れなんだろうな。

GREEN QUEEN

GREEN QUEEN

  • アーティスト: あっこゴリラ,STUTS,向井太一,ITSUKA (Charisma.com),OMSB,食品まつり a.k.a foodman,永原真夏,PARKGOLF,ヒラサワンダ
  • 出版社/メーカー: 2.5D PRODUCTION
  • 発売日: 2017/11/08
  • メディア: CD
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ウルトラジェンダー × 永原真夏

ウルトラジェンダー × 永原真夏

  • あっこゴリラ
  • ヒップホップ/ラップ

 

鼎さんがウルトラジェンダーに関するすごくすてきな紹介エントリを書いてます。

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ヒップホップは絶対的にかっこいいものなので-MAZAI RECORDSいちのロマンチシスト・ジャバラのヒップホップとクルーへの愛

「河原でのサイファーがこんなイベントになるなんて? いや、俺は信じていたぜ」

 

MAZAI RECORDS主催のクラブイベントTinpot Maniax vol.2」のオープンマイクでそう叫んでいたのはMCであり、トラックメーカーであり、DJであるジャバラだった。

 

MAZAI RECORDSが、たった3人でサイファーをやっていた頃、社会人としてその小さな輪に加わっていたジャバラは、自分たちのクルーへの愛情を事あるごとに口にし、時にはシーンに向けて辛めの言葉も投げつける。

 

ヒップホップへの強い憧れと愛情を照れずに口にし、それを証明するかのように音源を作り続ける。その一方で、サイファーだけでなくイベント「Tinpot Maniax」 (3月・9月開催のクラブイベント)などを開催。皆が集まる場を提供し続けている。

 

MAZAI RECORDSメンバーの中で最もロマンチシストなジャバラに、最初の挫折から現在の活動までの道のりを聞いた。

 

ただ楽しいから続いた3人だけのサイファ

―ラップをはじめるきっかけは?

 

Twitterでラップを聴いているアカウントをかたっぱしからフォローしていた時期があって、その頃に今一緒にMAZAI RECORDSで活動しているメンバー、ドクマンジュやヤボシキイたちとつながったんです。

 

ぼくはもともと中学の頃から上の兄貴を通じてヒップホップを聴いていて、さらに高校・大学でストリートダンスをやっていて、もともと親しみがあって。社会人になってからダンスをやめてしまったけど、大学が秋葉原に近いこともあってアニメもよく観ていたので、ラップとアニメ両方好きな人いるかなと思って。それが3年くらい前かな。

 

そのうちに、ドクマンジュとヤボシキイが自宅の近くでサイファーをやっているという話を聞いて。ちょうどその頃、土曜にぽ太郎さん(声優オタクラップの第一人者)と「ラブライブ!」のDVDをプライベートシアターで鑑賞して、日曜はラップをしながらBBQするという土日連続のオフ会があったんです。「じゃあ、ちょっとやってみよう」と思って、その前日の金曜日にサイファーに参加したのがきっかけですね。

 

ぽ太郎「声優興味なし(ごめんね)」 by studio tinpot | Free Listening on SoundCloud

MAZAI RECORDS主催の週一サイファー・カレー会はドクマンジュ・ヤボシキイ・ヘルガの3人でやっていた時期が長かったけれど、1人だけ社会人で、続けていくの大変じゃなかった?

 

仕事が忙しい時期なんかは12ヶ月行けない時もありましたけど、なんとか都合をつけるようにしてましたね。向こうも気を遣ってくれて、もともと木曜だったのを金曜にしてくれたり。

 

―その少人数でよく続いたなって思います。

 

なんでしょうね。全員根がオタクなんではまるとどっぷりなんですよ。最初はyoutubeでインスト音源を流していたんですけど、そのうちに自分たちで作ったトラックを流したり、ジャズやノイズをかけたり。ヒップホップって底がないんですよ。やってもやっても新しいことがあるから、自然と続けられたって感じですね。

 

社会人になると週一で顔をあわせる友達とか普通はいなくなるじゃないですか。だから、毎週顔をあわせて共通の趣味に打ち込める仲間って、ぼく自身も大事にしたい気持ちが強かったんですよね。そもそも楽しいものだし、必死で続けてきたというわけじゃないんですけど、改めて考えると3年経ったんだなって。

 

今までのやり方と違うところに正解があった

―曲を作り始めたきっかけは?

 

フリースタイルばっかやっててもあれなんで、曲作りたいねって話はしていて。最初は24bars to killっていう曲のインストの上に乗せてレックしようと思ってたんですけど、録ったところでクラッシュしてデータ全部飛んじゃって。

 

ドクマンジュは前からMPCを持ってたんですけど、説明書も難しいし、使い方もわからないからってしばらく放置していたのを、データがクラッシュしたあたりから本格的にビートを作り出して。

 

あいつにぼくが好きなソウルの曲をもとにトラックを作ってもらって、ソロ曲を作ってサウンドクラウドにあげたのが201512月くらい。そのレックの後に、ドクマンジュに「自分の好きな曲をサンプリングして曲作るの面白いですよ」ってそそのかされて、次の週にMPCを買って、翌々週にあいつの家で教えてもらいながら作りました。クリスマスもあいつの家で曲作ってましたね。

 

―自分の好きな音楽で曲を作れるのが楽しいって感覚なんだ。

 

そうですね。ゲーム音楽とかアニメの曲とか、ダンスミュージックとか、いろんなものをアレンジできる面白さがあって。あいつに「機材の初期投資くらいしかお金かからないですよ」って言われて、軽い気持ちで始めました。すげえ沼だったんですけど。

 

―作ってみてどうですか?

 

実は、ぼく凝り性なのもあって、最初の頃は1本作るのに1ヶ月くらいかけてたんですよ。でも、時間かけて作ったからといって必ずしもいいものができるわけじゃなくて。2小節分、すごくこだわって凝ったものを作ったとしても、それが3小節目とうまくつながらなければ音楽としては全然よくない。なんというか、点だけこだわって凝ったものにするけど、線としてつなげた時に曲としてはイマイチということもあって。

 

でも、ドクマンジュと話した時に、「人それぞれ適正時間はあるので。時間をかけて作る人もいれば、サクッと作れる人もいる。ちなみにぼくは日はまたぎたくないです」と言ってたので、ためしに日をまたがずに作ってみたら1ヶ月かけて作ったときよりのびのびとしたものが出来てきて。瞬間的なひらめきとかを大事にした方がいいのかなって気づきがありました。時間をかければかけるほど良いものができるっていう固定観念があったんですけど、それが通用しなかった。

 

リリックなんかもそうなんですけれど、長い韻を踏むのは時間をかければ誰でも出来るんですよ。でも、それが音楽的にいいかはまた別で、しゃべり言葉で作った方がスムーズに聴けたりする。

 

今は最初からなまじ知識があるから「フロウはこう」「ライムはこう」とかスキルのフォーマットみたいなものに気を取られて、変に身構えちゃったりする人もいる。でも、そういうフォーマットに合わせて作っても音楽的にカッコ悪いと意味がないんですよね。

 

あまり形式にとらわれないで、今までの考えと違うところに正解があったりするので、最終的にはそれを自分で発見していく……。そういうところにヒップホップの面白さがある気がします。

 

―この人が目標というのはありますか?

 

今はないですね。一時期KID FRESINOに影響受けすぎてたんですけど、そのケツ追ってコピーしてもかっこよくないなと思って。それより、自分が今まで生きてきて得たものとかをちゃんと出せるようにしたい。だから、好きなラッパーはめちゃくちゃいますけど、あえて「こうなりたい」というのは作らないようにしています。

 

自分のビートに仲間たちの歴史が乗っていく

―じゃあ、具体的な作品の話をしましょうか。さっき話していた最初の作品はサウンドクラウドにあるRoutine Boogieですね?

 

あ~~っれ、ほんっとうに聴き直したくないくらい恥ずかしいんですよ。ラップも下手だし、声も出てないし。すっげえ恥ずかしかったんですよ。聴いてほしくないくらい恥ずかしかったんです。でも、あれをコスモパワーさんっていう、同じ業種……IT企業に勤めてる仲間が聴いて「あの曲は社会人にとって普遍的なテーマを書いていて、すごく響く」って言ってくれて。

 

ぼくにとってはめちゃくちゃ恥ずかしい曲なんですけど、それを聴いて感銘を受けてくれた人がいたのがすごくうれしかった。あの曲はちょうど社会人3年目で、忙しい案件の中だけど、仕事を少し面白く思えるようになってきた頃の歌なんです。当時の生活リズムみたいなものをそのまま素直に出した曲ですね。

 

ヘルガ - 「ルーティーン・ブギ」 by studio tinpot | Free Listening on SoundCloud

MAZAI RECORDS名義の最初のアルバムは、20169月に出した「ILL THUG TRIPLE」ですが、これはどういう経緯で出来たんですか?

 

曲を作りたいという話はずっとしていたんですけど、ちょうどチンポジム(ラップ練習会)やG.I.R.L(女性向けラップ練習会)の企画が始まって、一緒に遊んでくれる仲間が増えたので、「自分たちが形にしているものがないと」というのもあってついに作った感じですね。

ただ、これ作り終わったのが8月くらいで、リリースは9月末。その一ヶ月の間にTinpot Maniax (3月・9月開催のクラブイベント)をやったりしているうちに、自分たちの中で鮮度が落ちちゃって……。でも、せっかく作ったしということで、意を決してリリースしました。

 

MAZAI RECORDSの曲ってオタクdisが多いじゃないですか。あれはどういう流れで?

 

自分たちがオタクなのにオタク馬鹿にするのはある意味同族嫌悪的なところもあるんですけど。でも、オタクだからという後ろ盾でダサいことやってる連中に対して「そういうんじゃねーだろ」っていうのがあって、それがリリックに出てる感じですね。

 

ただ、ぼくは去年くらいに「どういうやり方をすれば自分のラップがかっこよくなるか」というのを考えていた時があって。ぼくにとって、ヒップホップって絶対的にかっこいいものとしてある。で、ラップがめちゃくちゃうまければリリックがどんなにひどくてもいいけれど、今の自分が下品なことを言っても音楽的に聴かせる技術がないなと思って。それからあまり直接的にオタクをdisったりしないようにしています。

 

―歌詞によく英語を入れるのもそういうのを意識してるんですか?

 

日本語ってカタいじゃないですか。英語を要所要所に入れると流れがスムーズかなと思って。あとは、ちょっとカッコつけたいっていうのもあります。

 

―「ILL THUG TRIPLE」のオタクdisは本当に口汚くて……。

 

いやー、ほんとそう思います。最悪の塊みたいな。

 

―これはみんなでこういうガラの悪い曲にしようって話をしていたの?

 

そういう感じでもないですね。思い思いに適当に書いてつなげていったら最悪の塊になったみたいな。

 

3人のマイクリレーが面白いよね。それぞれ声質も、ラップのクセも、悪口の発想もちがうから、「次はこいつか!」みたいなのがある。「OTK HUSTLER」は傑作ですね。

 

OTK HUSTLER」は3月にTinpot Maniaxをやるときに、ライブでやれる曲を作ろうという話になって、「オタクが悪いことをして金を稼ぐ」という設定を作って皆でバッーと書いた曲ですね。ひょうひょうとした曲ですよね。

 

―思わず口にしたくなるフレーズが多いですね。フックの「お前ら犯罪者」とか、「マスターベーションマスター」とか。

 

「お前ら犯罪者」っていうのはぼくが思いついたんですけど、自分たちが悪いことをしているのに、他人事にしているのは面白いという話になって、そのフレーズを起点にケツで韻を合わせる形で2人がリリックを書いていったんです。でも、意味は何もない。誰一人として深いことは考えてないですね。

 

YABO$HIKI-1「OTK HUSTLER feat. Jabvara,DocManju」 by studio tinpot | Free Listening on SoundCloud

20163月に出したビートテープ「Earthbound」はちょっとハウスっぽくて、聴いてて気持ちがいいですね。

 

あれは、明るいものを作ろうっていうのがありました。ぼくのビートはどちらかというとメロウ寄りで、2016年末に出したコンピもそういう哀愁漂う感じだったんですけれど、同じ流れで作っても面白くないと思って。ダンスをやっていてクラブミュージックになじみがあるから、そういう昔聴いていたものに影響された部分はあるかもしれないです。

 

―ダンスをやったことは制作に影響していますか?

 

リズム感は培われたと思います。カウントに対して走り気味にラップしちゃうと、「こいつ音聴けてないな」って思われがちなんですよ。ぼくはダンスをやっていてリズム感が多少培われていたので、オンビートでラップするというのは念頭に置いていますね。

 

あとは、ダンスは聴覚的なインプットを、身体を使って視覚的にアウトプットするんですが、ラップは聴覚的なインプットを聴覚的なアウトプットにしなくちゃいけない。そこで、どういうことをすると「おっ」と思ってもらえるのかは意識しますね。声を伸ばしたりとか、詰めたりとかそういうアプローチはダンスによって培われた部分かもしれない。

 

―樫ちゃん(現在は宇鈴汲名義)の「16-07」と、ドクマンジュくんの「Mi AKAI」は、どちらも「ラップと自分」を振り返る、けっこうシリアスな内容ですね。「何歩遅れのスタートだ 関係ねえ 好きなもんが出来た(16-07)」とか「ラップさせたいわけじゃなく、誰より彼よりヒップホップに救われてほしいって(Mi AKAI)」とか。あれはオーダーの結果?

 

いや、好きに書いてくれって伝えたらなぜか同じようなテーマの曲があがってきました。樫のリリックは、あいつがラップやり始めた頃に、ぼくが何の気なしに言ったことがすごく励みになったって言われて、「ぼくと一緒にやるときはそのことを書くつもりだった」と言われていて。

 

ドクマンジュの方はビートを渡して依頼したんですけど、ビートからイメージしていたテーマにぴったりの内容で、リリックが届いた時に思わずガッツポーズしました。あれはぼくの意図をドクマンジュが組んでくれた感じですね。

 

でも、シリアスで共通点のあるテーマになったのは本当に偶然なんです。結果的にあのテープに自然な流れで入る内容になってますね。

 

―樫ちゃんに話したのはどのフレーズ?

 

それが覚えてないんですよね。ぼくはサイファーの時は酒呑んで酔っ払ってるから。でも、その時にぽろっと言ったことが「すごくうれしかった」って半年以上経ってから言われたんですけど、「あー、そうだったんだ」みたいな感じです。

 

―制作物にそれぞれの歴史が入り込んでるね。

 

ぼくは一回ダンスを辞めているので、もう一度ヒップホップをやることになって、その企画で仲間がいっぱいできて……っていう今の流れがすごくうれしいんです。自分が作ったトラックに樫とかドクマンジュとか、みんながその人の思いを乗せてくれて、それが誰かの耳に届いて感想をくれるって普通に社会人やっているとなかなか味わえないことだと思うので。みんなでものを作れる場所が出来たのはすごくうれしい。

 

―らいんひきさんとの共作「JabLin」はどういう流れで作ることになったの?

 

らいんひきさんとはカレー会の後に一緒に帰ることも多かったので、「一緒にやりたいね」って話をずっとしてたんです。彼の初レックは2016年末のコンピで、最初は小節の概念もわからなくて大変だったんですけど、腰を据えてやってみたいなと。

 

直前に作った「Earthbound」は、自分がトラックメイクを始めて1年の集大成として作ったものだったんですが、それと同じ事をしても伸びしろがないと思っていて、今まで自分が作ってきたクセを抜きにして一回やってみようと。ぼくはソウルやジャズが好きなのでよくサンプリングしてたんですけど、別のジャンルのエッセンスを取り入れてみようかなと思って。だから、ぼくが実験的なことをやるのにらいんひきさんをつきあわせたって感じですね。でも、気負いすること無くやってくれました。

 

―そういえば、ヘルガさんは聴き心地のいいビートを作ることが多いけれど、「JabLin」は重たいビートが多いね。

 

ソウルとかはもともと聴き心地がいいから、それをサンプリングするとそういう曲になるんですよね。だから、ノイズっぽいものを取り入れたりして自分の中で作れる幅を広げる挑戦としています。

 

―「Maze」は、「音を愛し音に悩み 音の中でもがきながら 呪いのような救いを  手に受ける」とか、具体的な制作の話を盛り込んでますね。

 

Maze」はダンスが嫌になって辞めてしまった時期から、今の仲間と出会ってラップを始めるようになってからのことを書いています。ダンス、高校ですごいはまったんですけど、大学のサークルがあんまりあわなくて……。モチベーションすごい下がっちゃって。でも、ぼく代表だったんですけど。社会人になって時間と場所も取れなくなってと言うのが重なって、やめちゃったんですよね。

 

Maze」はリリックを書くのも、ラップするのもしんどくて。ドラムはあるんだかないんだかわからないし、小節数も長い。でも、歌い出しは暗いけれど、最後はドラムで転換があるのが、徐々に暗いところから明るいところに出てくるようで。

 

北海道のフォロワーで、ビートメーカーのナスティーさんのトラックなんですけど、彼もドクマンジュにそそのかされてビートメイク始めたんですよ。もともと彼がトラックにつけたタイトルがMaze=迷路って意味なんです。だから、自分がヒップホップに出会った時のもがいている感じが表現できるかなと。

 

ぼくはわりと抽象的な言い回しを使うんですが、それを聴いた人がある日はっと気づいてくれればいいかなと思ってそうしているところがありますね。

 

―「Maze」は説得力のある曲だね。ちゃんと聴かなくちゃという気にさせられます。曲の展開から世界観を考えるんだ?

 

ぼくはリリック先ってほとんどないですね。リリックの書き方を忘れないように、メモ帳に書いておいたりはしますけど、そのまま使うことはないです。リリックだけ用意しても、曲に合わないとおかしいじゃないですか。

 

―「ERG4EVER」はアニメか何かの話?

 

これはぼくもらいんひきさんもギャルゲーが好きで、いろんなギャルゲーを四季に合わせて春夏秋冬を表現してラップしています。直接的にオタクっぽいことやるのはやめようって思ってたんですけど、せっかくお互いギャルゲー好きだから1曲やろうってことになって。

 

MAZAI RECORDSの面白いところは、お互いに客演することで新しい個性が出てくることですね。ヤボシキイくんのアルバム「テンシルエア」に入ってる「お小遣いも貰えない」とか。「お小遣いも貰えない 昔は会うたびもらってたのに」というフレーズが印象的です。

 

ヤボシとこの曲でやろうという話は前からしていたんですが、その頃にヤボシのおじいさんが亡くなって、R.I.Pする曲を作ろうという話になって。

ぼくのおじいちゃんが亡くなったのは中1くらいの時なんですけど、5歳くらいの遊んでもらった時の記憶をもとに書いています。ぼく一人だとこういうテーマでは書かないので、あいつが引っぱってきてくれたという。これもなすティーさんのトラックですね。

 

競い合い、作り続けることによって保たれるモチベーション

―「ILL THUG TRIPLE」が2016年9月、コンピ2枚「MAZACON1」「Python Code」が2016年12月、「もつ酢飯EP」「テンシルエア」「Earthbound」が2017年3月、ヤボシキイ2枚目「ENERGY WAVE」「JabLin」が2017年6月、そして今回同人音楽即売会「M3」に参加と、制作ペースの早さはMAZAI RECORDSの大きな特徴だと思うけれど、どうしてあんな早いペースで制作できてるの?

 

ぼくらがやっていることってインディーズですらない……。もう無名も無名なんですよ。しかも、ポップじゃなくてアングラ寄りだし。無名がアングラやるってことの人目を気にしなさもありつつ、やっぱり、作ったからには聴いてほしい。そのためにどうするかというと、やっぱり継続的に活動していくというのが一番大事かなと。

 

ドクマンジュと話したのが、「3ヶ月に1回は何か形のあるものを出す。しかも無配でというのが大事」ということでクオーター単位で目標を作ってます。モチベーションも維持できますし。

 

―合間にTinpot Maniaxが入るのも、いいサイクルになっていると思います。自分たちが作ったものを発表する場になっているね。

 

Tinpot Maniaxは3月9月だから、ちょうどクオーターのケツに来るんですよ。だいたい制作が佳境に向かっている時にイベントがあるっていう。それで大変な思いをするんですけど、自分が好きでやってるわけだしその制作、イベント、制作っていうサイクルにケツを叩かれている部分はありますね。

 

あと、ドクマンジュが前に「特にビートメイクは身内を一番意識してる」と言ってたんですけど、ぼくもそういうところがあります。身近な仲間が精力的に活動していて、しかもかっこいいものを作ってくるんで、おのずと刺激を受けざるを得ないっていうか。ぼくはあいつが作るものに刺激を受けて、「負けてらんねえ」ってすごいモチベーションをもらってるので。

 

―ブッキングはどうやってるんですか?

 

最初のTinpot Maniaxは都内のレンタルスペースを借りて身内だけでこじんまりやってたんですけど、川崎のアニソンDJバー「月あかり夢てらす」になってからは、もともとドクマンジュと交流があったMr.Smileさんが、ShirayukiさんとのユニットSNOWSMILEでライブに来てくれたり。そのMr.Smileさんが3on3バトルのために読んでくれたカクニケンスケさんが次にライブをやってくれたり

 

9月のTinpot ManiaxOLD RIVER STATEは、もともとオーリバのメンバーの松元さんが出した「Instagram EP」というのがすごく面白くて、ラップもうまいしドクマンジュが呼びたいって言ってたのでお願いしたら、オーリバで呼んでくれるならという話になって実現しました。

 

DJをやってくれたKATAOKAくんは、ドクマンジュの中学の友達なんです。茨城のMC・GOTITさんが主催しているMCバトル・常陸杯で再会して。そこで「イベントでDJやってよ。じゃあ、ライブも」という話になって、ALSEADさんがライブで参加してくれました。

 

GOTITさんとか呼煙魔さんはTwitterでの関わりがあって、それがきっかけで呼べたというのがありますね。

 

―お客さんの中にもTwitterつながりでイベントに参加してくれる人が多いよね。

 

そうなんですよね。仙台住まいの遊牧民さんとか、秋田のハリーさんとか。わざわざぼくらのイベントに来てくれて。こっちに来るきっかけがぼくらのやってることってのもうれしいです。

 

―それでは、今後の制作について。

 

音楽同人イベントM3に向けてアルバムを作っています。MAZAI RECORDS名義で、ぼくのソロと、ヤボシ&ドクマンジュのユニット「大丈夫音楽」で合計2枚。ぼくのほうはこれまでの3年間で自分がやってきたものの集大成で、自分が好きで観てきたもの、聴いてきたものを表現しようという感じです。

 

ムノウちゃんとヤボシに参加してもらってRoutine Boogieのpt.2を作りました。ヤボシもムノウちゃんも今年から社会人なので。あとらいんひきさん、ドクマンジュとも曲やってます。

 

Jabvara「Routine Boogie pt.2 ft.YABO$HIKI-1, Munou」 by studio tinpot | Free Listening on SoundCloud

―出会った頃は大学生だった仲間と、新しく仕事の歌を歌うのいいですね。具体的な目標はM3として、活動全体に対する今後の目標はありますか?

 

ずっと続けていきたいっていうのはもちろんですけど、自分の作ったトラックに誰かがラップを乗せてくれるのはすごくうれしいので、今後は身内以外にも色んな人と曲を作ることが出来ればいいなと思います。

 

―読んでくれる人に言いたいことはありますか?

 

誤解されてるところがまだまだあると思いますけど、生活に物足りなさを感じてる人はヒップホップやってみてください。

 

ヒップホップの起こりそのものが抽象的なものだと思うので、固定観念にとらわれてもいいことがないというか。未完成であるがゆえにどんどん変化していくから、自分が表現する余地がまだまだあるんじゃないか。そう思えるところがやってて飽きないところですね。

 

―出来上がっていないからこそ入り込みやすいというか、面白いのかもと思います。面白い人が好きなように生きてるジャンルですね。

 

特にMAZAI RECORDSに関しては、一癖ある人が集まってくれて、みんな思い思いの事やってるんで。「全然ヒップホップ知らないけど、ラップやってみた」という人のラップが突拍子もなさがあって新鮮さだったり。そういうのはうちのメンバーから学んだことですね。本当にヒップホップは可能性の塊だと思います。

 

※ MAZAI RECORDSは10月29日「M3」にて初の有料音源を販売予定。

今後の活動にも期待大!

 

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水上音楽堂でウエノ・ポエトリカン・ジャム5(UPJ5)を観てきました

日比谷野音を小さくしたような上野の水上音楽堂。
ステージ前に小さな池があるのが公園らしくてほのぼのしました。

無料で谷川俊太郎志人小林大悟、GOMESS、狐火、東直子、松永天馬が観られるというのでミーハー心満載で足を運んだウエノポエトリカンジャム。イベントというより上野動物園に遠足に来たような気分でおりました。遠足といいつつ、手にするのは酒だし、冷たいイスから微動だにしないわけですが。

www.upj5.net

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学生時代からポエトリーのイベントに足を運んでいたという俳人の松本てふこさんと話しながら、のんびり鑑賞。

イベントは主催者ブッキングのライブパートとオープンマイクパートが順番に繰り返される構成。ポエトリーリーディングという名目ですが、淡々と手元の詩を読み上げる人、落語のように動作をつける人、歌を歌う人、フリースタイルラップをする人、ギターに合わせて朗読する人、突然走り出して会場を駆け回る人と、その表現方法はさまざまでした。※リンクの動画は当日の演目とは関係ないものもあります。

おもしろいのは、結果として詩の言葉を届けるためにパフォーマンスをする人と、自分自身を表現するためにパフォーマンスをする人に分かれていたこと。

動作があまりに演劇的わざとらしさに満ちていて詩の言葉が入ってこない人もいれば、前振りがうまくてついつい身を乗り出して聞いてしまう人もいたり。

「いきなり上着を脱ぎ捨てて半裸になり、会場を走り回って最後にシャウトする」とか、素朴なやり方ですが、印象には残りますよね。何言ってたのかは忘れちゃったけど……。

あくまで詩のために人が語る演者と、自分自身を含めて作品とする演者と。後者はある程度慣れていないと難しいですね。

そういう意味で、ちゃんと詩を伝えるためのパフォーマンスになっていたのは川原寝太郎や東直子谷川俊太郎かな。ポエトリー畑の人はちゃんと余白のある言葉の使い方をしていました。東直子が「歌人としてプロップスのある」と紹介されていたのには笑ってしまいましたが。

GOMESSのMVや映像での記憶と違った、非常に男性的な雰囲気のラップも意外性があった。
当日のイベントのひとつに、開催していたMCバトルの優勝者権限で、ライブが出来るというのがあり、優勝者の黄猿がフリースタイルを披露していましたが、彼が表現しているのは何より自分自身なのだというのがよくわかって対照的でした。

達者だと思ったのは狐火、松永天馬、志人、そして谷川俊太郎

狐火は自分自身の弱みをさらけ出すようなラップをする人で、自身で「弱音が過大評価された男と呼ばれた」と書いたりしているわけですが、自分のその弱々しさがステージでどう見えるかすごく理解している。

「ぼく、今まで○枚アルバム出していて、その在庫のおかげで引っ越し考えているんですけど、その1枚1枚の暖かみみたいなの嫌いじゃないんですよね。皆さんもその重みを共有しませんか?」から、認知症になった祖母に捧げる「マイハツルア」の流れは、よく考えられているなと思いました。

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松永天馬の大柄な体躯に、血糊のついたシャツ。そして芝居がかった口調はいかにも演劇的で、「俺の言葉を妊娠しろ!」などの啖呵に説得力を持たせていました。ただ、全体的にパロディの集積に見えてしまい、性癖じゃないと物足りない感じもしましたが。

 

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さて、志人。帽子にざっくりしたシャツとズボンという、どこか70年代のボヘミアン風の服装で登場。「皆様は人間様でいらっしゃいますか?」という一言から始め、私はキノコという設定で始めるラップ。節回しはまるで浪曲のようでもあり、演説を聴いているような気にもさせる。ただし、いかにも日本的なのに、気持ちよくリズムを刻むラップはやっぱり音楽的で、会場中に興奮の混じった緊張感をもたらしていました。宮沢賢治作品の登場人物みたい。

最後は「ラブレター・フロム・マッシュルーム!」で〆。完成されている。ただ、心に何かを共有するというより、質の高い芸を拝聴する風になってしまったかな。

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「教科書の中から出てきた人」という案内で登場した谷川俊太郎。「詩ってのは叫ぶものじゃないんですけどねえ」と言いながら、「私は禿頭の老人です」「私の書く言葉には値段がつくことがあります」などという言葉の「自己紹介」という詩から始める。

ラッパーが多かったこともあり、この日は客がけっこう騒ぐタイプだったため、一挙一動に「ワーッ」と声があがっていたのですが、それを受けて「なんでだよ~」という姿がチャーミングでした。

とはいえ、谷川俊太郎に脅威を感じたのは、自分のことを会場中の人間が知っているということを当然のように受け止めていたことですね。詩人の中にはあまりにピュアすぎてちょっと心配になってしまう人もいるのですが、さすが生き延びた詩人。「なんでもおまんこ」を朗読したときは、「あ、ウケ狙いにきてる」と思いましたもん。真意はともかく、自分の存在に対する絶対的な自信は透けて見えました。さすが教科書の中の人。

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ほかにも、ヴァイオリン×アコースティックギター編成というスッと気持ちのいい音を操りながらやってるうちにどんどんテンションがあがっていって、何となく怪しい人形劇みたいになっていったてあしくちびるや、イルカへの対抗意識を語るMCから入ったAntiーTrenchもよかった。AntiーTrenchの向坂くじらの、主張しすぎずすっと入ってくる声がとても気持ち良いです。世界観をちゃんと持っているのに、自意識を出しすぎず、どこか地に足がついた感じ。

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また、オープンマイクでいきなり「先週父が死んだのですが……」から入り、意味不明な言葉を叫び続ける人や、ステージ手前の池に飛び込んでいく人もいたりして、その姿は達者さとはほど遠いけれど、それぞれが捨て身で表現する姿は人生を感じさせるものがあってよかったです。

現場ではまじめに観ているというより、「狐火のバックDJ可愛い話」なども交えつつの鑑賞だったのですが、見に行ってよかったです。松本さんには会うたびしょうもない話をしてしまって申し訳ない……。あと、リアルサウンドなどで活躍中の鼎さんに久々にお会いしました。新しいお仕事大変そうですが、お身体お気をつけて。ムノウちゃんとカクニケンスケくんにも何気にチンマニぶりに会った。

今回8年ぶりの開催ということで、次回はどうなるかは未定とのことですが、続いていってほしいと一観客ながら思います。

あと、主催の一人、胎動のikomaさんが首からパンダのお財布をさげていて、それがとてもかわいかったです。

 

「夫のちんぽが入らない」こだま

著者の体験をもとにした、不思議な私小説だ。

主人公は封建的な地方から大学進学のために上京し、そこで後の夫と出会う。互いに教職の道を選び、まるで兄妹のようと形容される仲の良いふたりだが、夫の陰茎を挿入すると膣が裂けてしまうため、セックスができない。

交われないことにストレスとプレッシャーを抱えながら二人は生活を続けていく。そして、彼らの生活にはお互いの体の問題だけでなく、小学校教員としてのストレス、不妊に対する親族や周囲からのプレッシャーなどさまざまな問題が降りかかってくる。

学級崩壊を目の当たりにし、セックスできない申し訳なさから夫にも頼れなくなった主人公は、ネットの掲示板で出会った人々とセックスを続ける。サイズの問題か、ほかの人のは入るという事実が彼女を二重に追い詰める。目の前の仕事の苛烈さも含め、精神的にも肉体的にも追い詰められていく。

つらい出来事が延々とつづられる本作だが、その描写にはどこか達観したような開け放した感じがある。

たとえば、ネットの掲示板で出会った男が職場である小学校を訪ねてくる場面はこんな様子だ。

「僕、遠くに転勤することになっちゃったの。その前に君にもう一度会いたくなっちゃって。でも会ってくれないのはわかっているから、来ちゃった」
 これでは「おじさん」が純粋な少女で、私が悪い男みたいだ。

話はとても重いのだけど、自身のこっけいさを湿度の低い文体で描いているので、不思議と読みやすいし、安い同情を誘わない。

物語は最終的に、夫の風俗通いを受け入れ、不妊を親族に認めさせ、病気による自身の身体の変化も含め「普通」とは違った二人の生活を肯定して終わる。夫婦の闘いの記録だ。

ただ、私が読み終えて気にかかったのは、夫婦のあり方の部分ではなく、学校についての描写だ。

夫婦・親族など「家族」にからむ箇所では、必死で自分らしいあり方を探る主人公が、学校にかかわる場面では、健全な「よき教職者」であろうとする。

もっとも不思議だったのは、新興宗教に入信している親を持ち、学級崩壊の一因となった少女が、中学生になって彼女を頼って自宅を訪ねてくる箇所だ。引きこもり状態だった主人公は、彼女を車で目的の場所に送り届けてあげて、こんな自分もかつての生徒の役に立つことができたと安堵する。実話だとしても創作だとしてもすっきりしない。主人公の教員としての自我が、一人の生徒の人生に依存しているからだ。

また、「普通の家族」を押し付ける社会についての長い格闘の物語と並行して読むと、全体的に「聖職の滅私奉公」を教員に押し付ける社会に対する違和があまりに希薄で、少し拍子抜けしてしまうのだ。自分の家族のことではないから、細かに書き込めなかっただけなのだろうか。あるいは、いまだに整理のついていない存在なのだろうか。

「反省しろ」あるいは「告発しろ」と言いたいのではないけれど、かつての小学校教員を母に持つ身として、その存在への思索が深まらないまま苦い場所としてあり続ける学校の姿は、寂しい気分になる部分だった。

とはいえ、繊細な問題を限りなく開かれた形で物語った作品であることは間違いない。何より、タイトルが素晴らしい。絶賛と並行し、無遠慮な酷評の並ぶAmazonレビューを見る余計にそう思う。この本はびっくりするほど遠くまで届いているのだ。

 

夫のちんぽが入らない

夫のちんぽが入らない

 

 

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WWW & WWW X Anniversaries "Emotions" supported by EYESCREAMでかっこいいゆるふわギャングとかわいいtofubeatsなどを観た

何日か前から急に冷え込んできたせいで風邪を引いてしまい、この日は終日鼻をかんでいた。

おまけにべちゃべちゃした雨の日で、山手線はつっかえながらの運行。WWWXの階段も混んでいて、箱の中に入れたのは20時頃だった。

チケットは安いのに豪華なラインナップで、とにかく混雑していた。

 

KID FRESINOを観るつもりでステージ横に行く。うーん、客がおしゃれだ……。風邪のせいでもっさり厚着をしている自分は浮いているな。女の子地下アイドル現場に慣れすぎている。

KID FRESINO、軽々としていてリズム感抜群で、楽器としての存在感がすごい。ただ、出音がアンバランスにデカかったり、歌詞を忘れて曲をやめてしまったり、あまりいい印象は受けなかった。私はこの適当さを身軽さと思って笑えるタイプじゃないな。

 


KID FRESINO - Peace / Starring Takeru Wada (Diaspora skateboards)

 

お次のゆるふわギャング待ちでさらに人が増える。Sophiee、今日は肩を出さないTシャツ姿で、軽々とした身のこなし。何となくゴロッとした不器用な重さを感じるRyugo Ishidaと対称的。

3曲目くらいに、Sophieeの「みんな歌えるっしょ~!」からの「FUCKIN CAR」。サビで飛び跳ねる人々でWWWXが揺れる。一瞬地震と錯覚するくらいの激しいバウンド。

客の盛り上がりを観てか、フロアをいったんかがませ、ジャンプするように促す。ステージの二人を追いかけるように、フロアが一斉にジャンプする。音源で聴く「FUCKIN CAR」はメロウで優しい印象すら受ける曲なのに、ライブではまるで別物のようだ。

ライブは別物と言えば、「Escape To The Paradise」のシャウトも。

Ryugo Ishidaのシャウトには、彼の感情が音に乗ってそのままこちらに流れ込んでくるような激しさがある。

暗闇から手を伸ばしな 暴力じゃもう押さえきれない

切実だし、美しい。

 

ゆるふわギャングが終わると、その後のtofubeats待ちのために人が入れ替わる。いかにも文系という感じの男女カップルが「怖い人いなくなったね」と言いながらステージに向かう。「その言い方はないな」と思ったけど、常にクラブでの居場所の無さを嘆いてしまう自分も同じようなもんか。

 

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ちょっとはZOMBIE-CHANG観られるかなと思ってWWWに行ったけど、タイムスケジュール通りのようで、すでに終わっていた。スカスカのWWWを観て、WWWXに戻る。

tofubeatsが始まっていてフロアは満杯。最後方は少し空いていたので中に入る。白いロングTシャツのtofubeats。フロアの上で姿がはっきり見える。

「みなさんが踊りやすいように、tofubeatsのライブ。ノンストップでお送りしております」というMCでちょっと笑う。tofubeats!優しい!

tofubeatsのライブは本人が歌うことに価値があるタイプのライブではなくて(というか、この日って被せだったよね?)、どっちかというと音楽をつないでいく力を味わう感じなのだけど、この日は本人が楽しんでいるのが音に出ているかのような何だかはしゃいだようなDJで、重たくてどんくさい自分の身体も音にあわせて動く。

CD発売時の渋谷タワーレコードでのリリイベで感じていた強い緊張感がこの日はなく、彼の大柄な身体が身軽に見えた。

聴きこんだアルバム曲中心のセットリストに、自然と笑顔になりながらぴょんぴょん飛んでいると、「Baby」終って「今年はずっとこの曲で終わってるんですが、今日来た人はラッキーですよ~~」というtofubeats。なんだろうと思っていると、YOUNG JUJU登場!

「LONELY NIGHTS」が始まった際の、直前のゆるふわギャングとはまた違う、軽快な会場全体の揺れ。時折お互いを見つめながら歌うふたりがとてもチャーミングだった。

彼を直接観るのはまだ3回目くらいだけど、「かわいいtofubeats」は初めてだ。

だいぶ汗をかいて、風邪のことをいつの間にかすっかり忘れていた。

 

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噂のC.O.S.A.を観るためにまたWWWに行くが、会場全体がパンパンでスピーカーの真横で聴くことになり、ちょっとしんどさが上回ってしまう。

C.O.S.A.は古い邦画のような世界観の歌をずっと歌っていた。詞の世界で描かれるのはどこか閉じたところのある物語で、女性の描き方などは古臭いのだけど、情景をこちらの心の中に描いてくるような声と言葉の重厚感はたしかに圧倒的な説得力がある。

ライブ終わって「フレシノ来なかったね」という声を聞きながら、外に出る。音に合わせて飛んだり跳ねたりしたせいか、だいぶ身体が軽くなっていて、ほっとする。

 

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Salve

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Mars Ice House

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FANTASY CLUB(完全生産限定盤)

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Girl Queen

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「新・今日の作家展2017 キオクのかたち/キロクのかたち」@横浜市民ギャラリー

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横浜市民ギャラリーのキオクのかたち/キロクのかたち、とてもよかった。

語りすぎなところも含め、美術と社会のつながりについてきちんと向き合っている。

海兵隊だった曾祖父と、彼が乗っていた船についての話を聞きに行く映像と原子力に関するインスタレーションを合わせた久保ガエタン作品。

曾祖父が乗っていた「梨」という艦隊が撃沈され、引き揚げられたのちに、解体・再利用されていたことを知り、その歴史から「破壊と創造」をイメージする。ちょっとロマンチックに解釈しすぎていると思ったけれど、面白い。

陸前高田の人々の話を聞き取りながら作品を作る小森はるかと瀬尾夏美。「2031年、再生した町に住む人々が過去の町とのつながりを思い起こすという物語」を、2017年に生きる人々が語る映像。「祖父母の過去を私が語り継がなくては」と決意する孫など、2031年の人々があまりに過去に対して好意的なところはちょっと気になったけれど、理想の未来を書くという行為なのかもしれない。絵画の色合いのにごりのない華やかさもよかった。

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様々な土地でのクジラにまつわる物語を収集し、文章と刺繍でつづる是恒さくら。親しみやすい刺繍の有様に反し、冊子「ありふれたくじら」の内容は学術的でもある。作者はアラスカに4年半滞在していたそう。刺繍の形を取ることで、どこかの地域で実際に作られていたタペストリーを見ているような錯覚に陥った。

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広島の公園や資料館に集う人々を撮影する笹岡啓子。記録や記憶の担い手が感じる無力感や不安を共有させるような、おとなしい写真。

のどかな公園の風景には、直接的には広島の過去は映らない。では、なぜ写真を撮るのか? その写真には何の意味があるのか? を問い直しているような印象を受けた。

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PARK CITY―笹岡啓子写真集

PARK CITY―笹岡啓子写真集

 

タイトルとなっている記憶と記録は、芸術と学術、あるいはジャーナリズムとの違いとは何かという問いでもあるのだろう。

ちなみに、学術と自身の仕事については是恒さくらも小森はるか+瀬尾夏美もインタビューでかなり具体的に語っている。

作者インタビューが動画と小冊子の両方に記録されていて、どちらもWEBで閲覧できるのもとてもよい。

展示は明日で終わってしまうけれど、このインタビューは終了後も長く読まれてほしいし、読まれるべきだと思う。

 

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