ホンのつまみぐい

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水上音楽堂でウエノ・ポエトリカン・ジャム5(UPJ5)を観てきました

日比谷野音を小さくしたような上野の水上音楽堂。
ステージ前に小さな池があるのが公園らしくてほのぼのしました。

無料で谷川俊太郎志人小林大悟、GOMESS、狐火、東直子、松永天馬が観られるというのでミーハー心満載で足を運んだウエノポエトリカンジャム。イベントというより上野動物園に遠足に来たような気分でおりました。遠足といいつつ、手にするのは酒だし、冷たいイスから微動だにしないわけですが。

www.upj5.net

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学生時代からポエトリーのイベントに足を運んでいたという俳人の松本てふこさんと話しながら、のんびり鑑賞。

イベントは主催者ブッキングのライブパートとオープンマイクパートが順番に繰り返される構成。ポエトリーリーディングという名目ですが、淡々と手元の詩を読み上げる人、落語のように動作をつける人、歌を歌う人、フリースタイルラップをする人、ギターに合わせて朗読する人、突然走り出して会場を駆け回る人と、その表現方法はさまざまでした。※リンクの動画は当日の演目とは関係ないものもあります。

おもしろいのは、結果として詩の言葉を届けるためにパフォーマンスをする人と、自分自身を表現するためにパフォーマンスをする人に分かれていたこと。

動作があまりに演劇的わざとらしさに満ちていて詩の言葉が入ってこない人もいれば、前振りがうまくてついつい身を乗り出して聞いてしまう人もいたり。

「いきなり上着を脱ぎ捨てて半裸になり、会場を走り回って最後にシャウトする」とか、素朴なやり方ですが、印象には残りますよね。何言ってたのかは忘れちゃったけど……。

あくまで詩のために人が語る演者と、自分自身を含めて作品とする演者と。後者はある程度慣れていないと難しいですね。

そういう意味で、ちゃんと詩を伝えるためのパフォーマンスになっていたのは川原寝太郎や東直子谷川俊太郎かな。ポエトリー畑の人はちゃんと余白のある言葉の使い方をしていました。東直子が「歌人としてプロップスのある」と紹介されていたのには笑ってしまいましたが。

GOMESSのMVや映像での記憶と違った、非常に男性的な雰囲気のラップも意外性があった。
当日のイベントのひとつに、開催していたMCバトルの優勝者権限で、ライブが出来るというのがあり、優勝者の黄猿がフリースタイルを披露していましたが、彼が表現しているのは何より自分自身なのだというのがよくわかって対照的でした。

達者だと思ったのは狐火、松永天馬、志人、そして谷川俊太郎

狐火は自分自身の弱みをさらけ出すようなラップをする人で、自身で「弱音が過大評価された男と呼ばれた」と書いたりしているわけですが、自分のその弱々しさがステージでどう見えるかすごく理解している。

「ぼく、今まで○枚アルバム出していて、その在庫のおかげで引っ越し考えているんですけど、その1枚1枚の暖かみみたいなの嫌いじゃないんですよね。皆さんもその重みを共有しませんか?」から、認知症になった祖母に捧げる「マイハツルア」の流れは、よく考えられているなと思いました。

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松永天馬の大柄な体躯に、血糊のついたシャツ。そして芝居がかった口調はいかにも演劇的で、「俺の言葉を妊娠しろ!」などの啖呵に説得力を持たせていました。ただ、全体的にパロディの集積に見えてしまい、性癖じゃないと物足りない感じもしましたが。

 

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さて、志人。帽子にざっくりしたシャツとズボンという、どこか70年代のボヘミアン風の服装で登場。「皆様は人間様でいらっしゃいますか?」という一言から始め、私はキノコという設定で始めるラップ。節回しはまるで浪曲のようでもあり、演説を聴いているような気にもさせる。ただし、いかにも日本的なのに、気持ちよくリズムを刻むラップはやっぱり音楽的で、会場中に興奮の混じった緊張感をもたらしていました。宮沢賢治作品の登場人物みたい。

最後は「ラブレター・フロム・マッシュルーム!」で〆。完成されている。ただ、心に何かを共有するというより、質の高い芸を拝聴する風になってしまったかな。

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「教科書の中から出てきた人」という案内で登場した谷川俊太郎。「詩ってのは叫ぶものじゃないんですけどねえ」と言いながら、「私は禿頭の老人です」「私の書く言葉には値段がつくことがあります」などという言葉の「自己紹介」という詩から始める。

ラッパーが多かったこともあり、この日は客がけっこう騒ぐタイプだったため、一挙一動に「ワーッ」と声があがっていたのですが、それを受けて「なんでだよ~」という姿がチャーミングでした。

とはいえ、谷川俊太郎に脅威を感じたのは、自分のことを会場中の人間が知っているということを当然のように受け止めていたことですね。詩人の中にはあまりにピュアすぎてちょっと心配になってしまう人もいるのですが、さすが生き延びた詩人。「なんでもおまんこ」を朗読したときは、「あ、ウケ狙いにきてる」と思いましたもん。真意はともかく、自分の存在に対する絶対的な自信は透けて見えました。さすが教科書の中の人。

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ほかにも、ヴァイオリン×アコースティックギター編成というスッと気持ちのいい音を操りながらやってるうちにどんどんテンションがあがっていって、何となく怪しい人形劇みたいになっていったてあしくちびるや、イルカへの対抗意識を語るMCから入ったAntiーTrenchもよかった。AntiーTrenchの向坂くじらの、主張しすぎずすっと入ってくる声がとても気持ち良いです。世界観をちゃんと持っているのに、自意識を出しすぎず、どこか地に足がついた感じ。

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また、オープンマイクでいきなり「先週父が死んだのですが……」から入り、意味不明な言葉を叫び続ける人や、ステージ手前の池に飛び込んでいく人もいたりして、その姿は達者さとはほど遠いけれど、それぞれが捨て身で表現する姿は人生を感じさせるものがあってよかったです。

現場ではまじめに観ているというより、「狐火のバックDJ可愛い話」なども交えつつの鑑賞だったのですが、見に行ってよかったです。松本さんには会うたびしょうもない話をしてしまって申し訳ない……。あと、リアルサウンドなどで活躍中の鼎さんに久々にお会いしました。新しいお仕事大変そうですが、お身体お気をつけて。ムノウちゃんとカクニケンスケくんにも何気にチンマニぶりに会った。

今回8年ぶりの開催ということで、次回はどうなるかは未定とのことですが、続いていってほしいと一観客ながら思います。

あと、主催の一人、胎動のikomaさんが首からパンダのお財布をさげていて、それがとてもかわいかったです。