ホンのつまみぐい

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2月に読んだ本、マンガ

 

女子をこじらせて

女子をこじらせて

 

  ストリップが好きな女性から「女性の身体でいると自分の体をジャッジされることが多すぎて嫌になるけれど、ストリップ劇場は礼節をもって身体を見る場所だから安心できる」という話を聞くことが多い。「なるほど」と思いつつ、実は実感としてはまったく理解できていないかったのだけど、これを読んで自分が「自分のことなんて誰も見ていない」という自意識に悩まされていたからだとわかった。その他の感想は↓に。

 

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キャラがリアルになるとき ―2次元、2・5次元、そのさきのキャラクター論―

キャラがリアルになるとき ―2次元、2・5次元、そのさきのキャラクター論―

  • 作者:岩下朋世
  • 発売日: 2020/07/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

  『寄生獣』における描線の変化の話がとてもよかった。自分でも言語化できるようになりたい種類の観察の記録。あとは『課長島耕作』におけるバイオレンス描写や死生観も面白かった。しかし、そんな世界観で島だけぬくぬく生きてるの気持ち悪……。リアルな死が描かれているのに、主人公はすべてが他人事な男ってなんなんだ。

 

ジョニー・B・グッジョブ 音楽を仕事にする人々

ジョニー・B・グッジョブ 音楽を仕事にする人々

  • 作者:浜田淳
  • 発売日: 2010/06/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

  ミュージシャンからイベンター、高校教師まで。音楽に関わる人々の姿をインタビューで追う。

 お仕事記事にありがちな「すぐに役に立つ情報を書こう」「参考になる情報を提供しよう」という姿勢に明確に背を向けている。専門用語や現場のノリといった枝葉がとことん文章に残されており、全体的に混沌としているが、そこに著者の本書を通して社会の姿を描こうという姿勢を感じる。イリーガルとは言えないけれど、オモテではないやり方でお金儲けをしている人の話があるのもしびれた。名著! 

 

  unlimitedで読了。わかりやすく書かれているけれど、2013年刊ということでちょいちょい情報が古いので注意。「年金いろいろ課題はあるけど、なんだかんだ日本はいい国なので大丈夫だと思います」というトーンが今読むとつらい。

 

 

  「自分が管理できるだけ持つ」というのは大事……。『片づけたいのに片づけられませんっ!』は片付けができないことによって損なわれる自尊心の話に踏み込んでいてよかった。

 

 ちばてつやの自伝でもあり、コミックエッセイでもあるフルカラーコミック。老齢になってからののんびりした日々の生活と、壮絶な中国からの引き揚げの話が交互に描かれているが、ご近所のお年寄りの思い出話を聞くような柔らかい気持で読める。かつてのような線の力強さはないが、犬が不思議とかわいらしかったり、愛嬌のある人々の表情が見事だったりと、マンガとしての読みごたえは損なわれていない。

 もっとも印象に残ったのは、マンガ家仲間で健康のためにゴルフの会を結成する回。マンガに生活をささげ、60歳で亡くなった手塚治虫のお別れ会でのおしゃべりをきっかけにゴルフの会が生まれる話なのだが、最後のコマの下に小さく手書きの文字で「しかし残念なことに石ノ森、赤塚、園山、藤子F、あきお、たかもちげん山田花子ねこぢるさんたちは間に合わなかった…………合掌。」と書かれている。

 ちばてつや山田花子ねこぢるのことをマンガ家仲間として気にかけていて、急逝した旧友や弟の名前と並べて記すような人であることに、涙が出そうになった。

 

賭博黙示録 カイジ 1

賭博黙示録 カイジ 1

 

 

 

賭博破戒録 カイジ 1

賭博破戒録 カイジ 1

 

 

 

賭博堕天録 カイジ 1 賭博堕天録カイジ

賭博堕天録 カイジ 1 賭博堕天録カイジ

 

 

 

 

 

賭博堕天録 カイジ ワン・ポーカー編 1

賭博堕天録 カイジ ワン・ポーカー編 1

 

 

 

賭博堕天録 カイジ 24億脱出編 1

賭博堕天録 カイジ 24億脱出編 1

 

 『上京生活録イチジョウ』きっかけで福本伸行作品を読み直している。カイジは破戒録までしか手元にないので、それ以降はkindleunlimitedで読める分だけチェック。『賭博黙示録カイジ』やはり歴史に残る名作……。57億の孤独……。

 「生きることに意味などなく、人と人はわかりあえない! しかし、生はそれ自体が希望そのもの!!」というメッセージ、いま新たに染みる。無価値なまま、孤独なまま生きようと思える。

 しかし、改めて読み直すと自我に引きこもることを良しとするようなところもあり、そりゃ森田は離脱するし、カイジは迷走するよなと納得した。「いかに生きるべきか」は問うているけど、あくまで個人の内面の物語で、「どのような社会を理想とするか」までは描いてないんだよな。

 自我に引きこもるのはとても大事なことで、生きるために必要なことだ。でも、カイジが負け犬代表として兵藤を倒し、死んでいった者たちの無念を晴らすことを目標のひとつとするのなら、やはり「そもそも兵藤に象徴される悪とは何か」「倒すとはどのような状態になった時を言うのか」を煮詰めなくてはいけないのでは。

 しかし、近年の福本作品を見ていると、どれも作者のこれまでの人生の貯金で描かれているように思うので、新しく思索を深めた上での物語展開は期待できないのだろう。 

 あとは、カイジの欲望が「ギャンブルしたい」だけというのが話の作りづらさにつながっている気もする。「自身の欲望に忠実であること」は自我の形成のための大切な要素で、福本世界でもとりわけ大事にされるところだけど、「お金持ちになりたい」でも「悪い奴を倒したい」でも「他人を助けたい」でも「好きな仕事に身を浸したい」でもなく、「ギャンブルしたい」がカイジを突き動かす欲望。そうなると、「誰かがギャンブルをけしかけてこないと動かない」ということになり……。「働くのが嫌」というのもアピールされているけれど、あれは欲望ではないし、物語の動力にはならない。

 ただ、その「ギャンブル以外のことに関しては平凡以下のお人よしが、巻き込まれた先で発するヒューマニズム」というのが大きな魅力のひとつだし、難しいな。今チャンとマリオの二人と行動しているのは、一応新しい物語展開を開こうという思いの表れないのだろうか……。

 ところで、一番熱心に読んでいた13~14年前は意識してなかったけど、読み返すとサディスティックな露悪趣味が目に付く。最近の24億脱出編で汚らしいギャグをやっているのは、この人のもともとの資質なんだとしみじみ納得した次第。サディスティックも露悪趣味も面白ければ全然気にならないし、むしろ個性のひとつだけど、肝心の作品がいまいちなので目についてしまう。『最強伝説黒沢』も今思えば露悪趣味満開だけど、面白かったな……。

 最近の福本作品についているレビュー見ると「2019年に読んだ中で最も面白くない漫画」「今の福本の悪い所を煮凝りにしたような悪夢の出来栄え」「 最後まで自惚れ堕落牛歩漫画でした」「破り捨てたくなった」「どのツラ下げてこんなもん描いてんだ」とかもうすごいことが書かれてて、思わず笑ってしまう。まったく楽しくないが……。普通、そこまで言われることある????

 

 最近コミックデイズ使い始めたので『イチジョウ』も読んでいるだけど、本当に村上と一条のほのぼの日常BLみたいになっていて、まあまあ面白いんだけど読むたびハテナがすごい。同人誌の世界が逆輸入されている。村上が人間というより「よくできた彼氏という概念」になっている……。講談社狙ってやってるんだろうか。

『イチジョウ』読んでの所感は以下↓

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 しかし、意識高い系のわりにポンコツで、村上にあれこれ世話を焼かれている一条を見ていると、一条を愛している数多の読者たちの複雑な心境を思ってしまう。一条を描いた二次創作は「どうして大学に行けなかったのか」「なぜ帝愛に就職したのか」「何を望んでいたのか」「地下に行ってからどうなったのか」を個々人が深く考えて掘り下げたものが多く、そういうものを見るたび「書き手の中で一条というキャラクターが生きている」ということを実感させられた。

 私はそこまでの思い入れがないから容易に別キャラクターとして読みかえることができるけど、人によってはかなり厳しい気持ちになると思う。星飛雄馬がバカ扱いされていちいち怒っていたあの頃を思い出す。

 ……って、途中まで書いて思ったけど、よく考えると他ならぬ作者のせいでキャラクターがよくわからん感じになってしまった『カイジ』や『賭博覇王伝零』や『最強伝説黒沢』のファンも相当厳しいな。いや、『巨人の星』なんて世間と作者の両方から……。『新巨人の星』…。『巨人のサムライ炎』……。

 あと同じモーニングだったら『OH!MYコンブ ミドル』も非道だしなあ……。(キリがないので止めます)