ホンのつまみぐい

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賭博破戒録カイジ読み直した

 上京生活録イチジョウ→pixiv→同人誌→破戒録アニメ→黙示録アニメ→賭博黙示録カイジ賭博破戒録カイジの順でおさらいしていた。

 黙示録と破戒録の再読における一番の発見は、カイジと兵藤会長の精神がシンクロしていることだった。

命はもっと・・・ 粗末に扱うべきなのだっ・・・・・・
命は・・・・・・ 生命は・・・・・・
丁寧に扱いすぎると 澱み腐る・・・
最近の連中は みんなもうやりすぎ・・・・・・
自分を大事にしすぎだ・・・・・・・・ 
その結果・・・・・・・・ 機会を掴めず・・・
ズルズル後退しながら・・・・・・・・・・ 腐ってゆくのだっ・・・・・・

 という会長と、

迷ったら・・・・・・・・望みだろ・・・・・・!

望みに進むのが気持ちのいい人生ってもんだろっ・・・・・・!

仮に・・・・・・地・・・地の底に沈もうともだっ・・・・!

 というカイジ

祈りや応援・・・ ・・・

そんなものの無力・・・・・・

効力の無さを知って欲しかった・・・・・・・・・・・・

あんなものは・・・クズどもの気休め・・・・・

浅墓な迷信よ・・・・・・・・・・!逆に言うなら・・・・・・・・・・・・

祈るようになったら人間も終わりって話だ・・・・・・!

 という会長と、

あろうことか・・・祈ってしまった・・・!

何も考えず・・・神頼み・・・

救ってくれ・・・ オレを助けてくれ・・・ だっ・・・!

もう自分以外・・・頼る者などいない・・・と 骨身に染みて・・・知っていたはずなのにっ・・・!

 というカイジ。どちらもギャンブルに勝つための極端な思想であり、狂気である。

 こうした狂気を共有しているのは作中ではこの2人だけ。おそらく、カイジが会長と並び立つためにはこうした狂気が必要という考えなのだろう。

 現在の連載を見ていると「『カイジ』終わる気あるのか?」と心配になるが、破戒録ではまだ終わらせるための戦略を練っているような感じがある。

 しかし、つまり常に仲間に裏切られたり死なれたりしている孤独なカイジと、唯一心を重ね合わせて相対することができるのは会長ということなのか? 会長×カイジ??

 いつか再び直接対決になった時に、会長が『アカギ』の鷲巣みたいに「主人公と気持ちを重ね合わせることのできた唯一無二のおじいちゃん」になったらどうしよう。最近の展開を見ているとありえなくもないので心配だ。

 そして、黙示録からすぐに破戒録を読むとカイジの造形の変化が顕著である。

 耳と指が簡単にくっついてしまうサウスパーク的身体の持ち主になったことにより、物語の中での死が軽くなっているし、行動や発言が「伊藤カイジという人間の言葉」というより、「伊藤カイジというキャラのセリフ」になっている。

 この変化、元アシスタントの佐藤秀峰による福本作品評にぴったり当てはまる。以下は佐藤がアシスタント時の思い出も交えながら書いた「銀と金」評、ならびに福本作品評からの引用である。

福本さんの作品が面白いのは、トリックが優れていたり、ストーリーテリングの才能があるからということではなくて、作者が作品の面白さを信じ切り、その情熱のすべてを捧げているからだと思いました。

福本さんは「カイジやアカギはある意味、学校の同級生より深い知り合いなんだ。20年も連載していて、いつも読者の横にいた友達なんだ。だから、常にそばにいて読者と一緒に成長し続けることが大切なんだ」と言います。それも分かるんだけど、それって作者と作品の間に距離が出来ているということではないかと思うのです。

銀と金」では、作者は漫画そのものだったと思うのですが、今の「カイジ」は作者がすでに主人公を追い越し、少し離れた場所から全体をコントロールしながら見守っているように見えるのです。あのギリギリ感をもう一度見たいと思ってしまうのは、僕の贅沢なのかなぁ…?

 

note.com

 全面的に同意。『賭博黙示録カイジ』では、作者の魂の体重が乗った言葉を放っているのはカイジ自身で、だからこそあの過剰なまでのメッセージがビリビリと脳に入ってきた。しかし、『賭博破戒録カイジ』ではカイジの言葉に説得される場面があまり思い浮かばない。うまく説明できないが「言葉というよりセリフ」として読んでしまう。

 今回読み直して感じたのは、破戒録でもっとも作者に愛されているのはどう考えても坂崎のおっちゃんだということだった。破戒録中、もっとも作者の魂の体重が乗っている言葉は、間違いなく最後の最後で坂崎が一条に放つ口上だろう。脇役としてのいきいきとした生を全うしている。

 制作時の年齢に近い人物にどうしても感情を乗せてしまうのなら、これまでのような感情移入型の作劇をいったん捨てて、改めてカイジという人物の造形と物語のテーマを考え直さなくてはいけないと思うのだが……。

 

賭博黙示録 カイジ 1

賭博黙示録 カイジ 1

 
賭博破戒録 カイジ 1

賭博破戒録 カイジ 1

 

  破戒録は破戒録でエンターテインメントとしては面白いし、なんなら黙示録より好きという人がいるのもよくわかる。ただ、私は黙示録に描かれるあの感情の重量が好きなんだ……。57億の孤独を真に受けて生きているよ。