ホンのつまみぐい

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『エルピス』う~ん

 『エルピス』ちょっと危ういなと思う。

 批評のために見返す余裕が無いのでなんとなく書くけど、いい感じの証言者が絶妙なタイミングで出てくるところにリアリティの欠如を感じてしまう。

 顕著に感じたのは、事件の起きた地域の警察署に務める警察官と、真相解明にやっきになるTV局員・岸本の邂逅の場面だ。警察官が岸本に「自分たちの組織は腐っている」と滔々と語るのだが、あまりに小説的かつ説明的な言葉すぎて、登場人物個人の語りというより、作り手の言葉を直接聞かされているような気分になった。寓話的構造を重視するために、細部がなおざりになっている。報道側である主人公たちの細部は見事なのだが、被害者やその他の人々が物語に都合がよすぎると思う。リアリティがなくても問題ない物語もあるが、『エルピス』が扱う題材は、リアリティを欠いていいものではないと思う。

 あとは、退任間近の裁判官が国に逆らうような判断をする話を用いて、「人間には善を行いたい気持ちがある」という性善説を主人公の浅川に語らせたのも不快だった。「この国では通常三権分立が機能していない」という事実を耳にして、感心している場合ではないだろうという違和感が先に立つ。作劇上は浅川の楽天的とも言える見解を、岸本が否定するための前フリなのだが、「セックスワークにも給付金を訴訟」の判決や諸々の行政訴訟の結果を見て、裁判官ひいては司法に対する信頼が低下している自分には、現実の司法の問題を軽く扱いすぎているように感じた。

 コメカさんが以下のツリーで指摘していることも理解できる。ツリーなので、クリックして最後まで読んでほしい。できればブログがなにか、まとまった形で残してほしいが……。

 これはどうでもいいことなのだけど、斎藤と浅川が別れたので浅川の華やかな服装が見れなくなってちょっと残念。長澤まさみが着ると3万円のワンピースが5万円に見える。