仮名手本忠臣蔵は物語のあまりに共感しがたい設定に鼻白んでしまった。仁右衛門がいいと言われていたが、人物像が理解しがたくてよくわからなかった。海老蔵はなんだか軽かったし、おかる役の雀右衛門がうまいのはわかったが、楽しくなかった。
藤戸はとてもよかった。というか、私みたいな人間にもよく理解できた。菊之助が息子を探してさまよう母親を演じるのだが、悲しみがとても繊細に表現されていてびっくりした。
花道を歩いてくる際の、足を踏みしめる所作のひとつひとつから悲しみを読み取ることが可能という、その身体表現の高さに驚愕する。手の震えや、丸まった背の頼りなさから、長い時間息子を思って苦しんできたということが伝わる。
簡素な白装束だからこそ、ごまかしがきかないというのもあったと思う。
どう動くかをすべて決めているようなこの体の使い方は、芝居というより舞踊に近いものでは……? 形式を突き詰めることの凄みを感じた。
権力者に息子を殺された母が、最後に龍となって暴れるという話で、物語にも共感できた。しかし、最後の大暴れが花道の奥で行われため、二階席からすっぽり隠れる仕様になっているのはいいのだろうか。
下の写真は東銀座のヤンヤンで食べた夕ご飯。10年ぶりくらいに食べたけど、ちょっと味が変わったかも? でも、自分の味覚が変わってしまったのかもなあと思うなどする。