神奈川県立音楽堂の主催イベント。
使用される楽器も演奏者の立場もバラバラな人々を集めた不思議な催しだった。
開始時間を少し過ぎてから会場に入ると、ホワイエでドレスに身を包んだ女性4人が弦楽四重奏を演奏していて、まるでイギリスの妖精の絵本のようだった。
スタッフに促されて歩くと、なぜか楽屋口と舞台袖を通る羽目に。袖に待機した出演者の姿を横目に、舞台の階段を下りて椅子に座る。午前中に運動してきて疲れているので、途中寝てしまうのを見越してなんとなくだいぶ後ろの方へ。
邦楽創造集団オーラJの、邦楽なんだけどちょっと違う演奏を目をつぶりながら聴いていた。
次の志人×内橋和久は、寝たり起きたりしながら見たこともあり、何がなんだかわからなかった。内橋和久の使っている楽器も、志人が語っていることも本当によくわからなかった。でも、子どもたちもたくさん来ている場所で、よくわからない大人がよくわからないことをしているのはなかなかよい。
次の鈴木昭男(演奏)・宮北裕美(ダンス)では、ふたりが客席に降りてきて踊ったり演奏したりした。カエルのイラストが描かれたTシャツがよく似合う。私がうとうとしている間に、ふたりはいつの間にかホワイエに。ほかのお客さんはちゃんとふたりを追いかけていたが、ぼんやりしていた私は周りに全然人がいなくなってからあわててふたりを追いかけた。階段を降りると、ふたりはホワイエの真ん中で踊ったり演奏したりしていた。
ホワイエのまわりには巨木で作ったイスがあって、何人かのお客さんはそこに座っていた。
そのあとは手作りパイプオルガン奏者のFUJI|||||||||||TAが演奏を始めて、客は木のイスに座ったり、階段に腰掛けたりしながらそれを聴いていた。ホワイエで出演者とおしゃべりしている人たちもいた。
休憩をはさんで芳垣安洋(Dr)・石若駿(Dr) feat. 象眠舎は強烈なドラムセッションにボーカルの入る不思議な演奏。お互いを挑発しあいつつ、音楽としての調和を生み出そうとする研ぎ澄まされたドラムの音。そこにポエトリーリーディングのような歌が混じって不思議な空間が作り出されていた。
ふと顔を上げると、客席に先端に小さな豆電球の着いた棒がいくつか立ててあり、ドラムの盛り上がりに合わせて電球の光がチカチカッと明滅した。まるで宮沢賢治の世界のようで、なんだかふっと笑ってしまった。
思わず涙しそうになったのはアイヌ影絵。鳥の神と人間の女性の異種婚姻譚。だが、男は鳥の世界に帰っていく。シンプルな照明に照らされた素朴な影絵を背景に、神と人を演じるふたりが踊る姿が美しくてなんだか泣けてしまった。
ボーカルのアペトゥンペの声は、会場を包み込むような柔らかさがあって、自分の心の中にもその柔らかさや優しさが溶けていったような気持になった。
私達が日常暮らす世界と、アイヌの歌の中にある世界はだいぶ違う。世界を違った目で捉えている人々の作った歌を聴くのは、とても大切なことだと感じた。
最後は渋谷毅によるピアノソロ。照明が変わり、ステージにはたくさんの小さな光が映し出される。その中央でピアノを弾く渋谷氏の姿は、さながら銀河に浮かんでいるようだった。
不思議なイベントだったけど、音楽に集中しないでぼんやり座っていることもできるところや、音楽なのかどうかもよくわからないものが出てくるところ、不親切なところも含めてかなり楽しかった。どんな音が鳴っていたのかいまいち覚えていない時間もあるが、それも含めてよかったと思う。
来年もやるようなのでまたのぞいてみたい。
<予定出演者・予定時間>
13:00- ウェルカム演奏[ホワイエ]カルテット・シエル(弦楽四重奏)
13:00頃 邦楽創造集団オーラJ
14:00頃 志人×内橋和久
14:40-15:10頃 鈴木昭男(演奏)・宮北裕美(ダンス)
15:10-16:00頃 FUJI|||||||||||TA
<16:00-16:30 休憩>
16:30-17:10頃 芳垣安洋(Dr)・石若駿(Dr) feat. 象眠舎
17:10-17:50頃 アイヌ影絵
ほしふね[小谷野哲郎・わたなべなおか]
アペトゥンペ[Rekpo・Mayunkiki]
17:50-18:30頃 渋谷毅(Pf)