- 作者: リチャード・ウィーラン,沢木耕太郎
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展覧会「ロバート・キャパ/ゲルダ・タロー 二人の写真家」を観た。戦争写真家ロバート・キャパの展覧会はこれまでも何度も開催されてきたが、売れない写真家アンドレ・フリードマンに、「ロバート・キャパ」というペンネームを与えた女性「ゲルダ・ポホリレことゲルダ・タロー」と合わせての展示は日本初だ。
自らも戦争写真家として高い評価を受けていたゲルダは、キャパの恋人であり、職業上の同志だった。しかし、ゲルダは26の年にスペインの戦場で死に、キャパも54歳でベトナムの戦場で死ぬ。
鑑賞に行く前にテレビの特集をふたつ見た。
ひとつは「沢木耕太郎 推理ドキュメント 運命の一枚〜"戦場"写真 最大の謎に挑む〜」というNHKのドキュメンタリー。もうひとつはNHK日曜美術館の特集「ふたりの"キャパ"」だ。
- 作者: 沢木耕太郎
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また、日曜美術館では宝塚の演出家で『ロバート・キャパ 魂の記録』の演出家である原田諒がキャパへの思いを語っていた。
おもしろいのは、ふたりがまるでキャパを旧知の友人のように語っていたことだ。まるで、「ちょっとヘタレでゲルダの尻に敷かれているけど、優しくて気の良いアンドレ・フリードマン」に実際に会ってきたかのような話ぶりである。
写真の鑑賞にあまり作り手の人生を持ち込みたくないと思っていたので、男性陣の熱気に対してちょっと引いた目線で番組を観ていた。そもそも報道写真だし、あんまり過剰に受け手の思い込みを投影させてはいけないだろう。
そう思いながら鑑賞に出かけたにもかかわらず、美術館から出た後はキャパとゲルダのことを、友人とは言わないまでも、先輩くらいの距離に感じてしまった。
写真家として何度も同じ現場に出向いていたゲルダとキャパは、共通の被写体の写真をいくつも残している。たとえば、難民の家族を撮った写真。ゲルダは立ち尽くす老婆と、彼女のまわりに座り込む家族の写真を撮る。キャパは、泣き出しそうな老婆の写真を撮る。また、スペイン内戦当初に存在した従軍したという共和国軍女性兵士たちが、誇らしげに談笑する姿もゲルダが撮影したものだ。
また、ゲルダはスペイン内戦の犠牲者の人たちの亡骸を撮る。当時のキャパは撮影していない。同じ戦火を撮影しても、ゲルダの写真からは、見たものを写真にとどめておかなくてはという「強い意志と怒り」が。キャパの写真からは「とまどいと悲しみ」が伝わる。撮影者の表情が推測できてしまうような「血の通った報道写真」。
報道写真は本来は、起こったことを情報として伝えるためのものだ。しかし、新聞や雑誌の中で使用される情報としてではなく、一枚の写真そのものに向き合った瞬間に、鑑賞者は撮影者を写真の向こうに想像してしまう。写真そのものがゲルダとキャパの人生のドキュメントとして、私たちの前に現れる。
キャパとゲルダの二人が戦場に向かうその背中を、誰かが撮影した写真が残されている。まっすぐにキャパの前を歩いていくゲルダと、荷物を担ぎながらその背を追うキャパ。
こんな写真が残されているというのがちょっと不思議なくらいの、映画の一場面のような写真。彼らの残した写真から伝わる2人の感情が、たしかに実在したものだという、アリバイのように会場に展示されていた。