ホンのつまみぐい

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ハッピーでもバッドでもない、不思議な夢の終わり/喫茶へそまがり閉店

生まれては消える地方都市の“カルチャースポット”。横浜駅15分の立地に存在した喫茶へそまがりも、先日消えた地方都市の一部だった。

喫茶へそまがりは、2013年に一軒家(借家)を改造して作られたマンガ喫茶店としてオープンした。古い家屋の引き戸の入り口を開けると、右手には物々交換の棚があったり、左手には場所貸しで古本販売の棚があったりする店だった。

靴を脱いで中にあがると壁1面にマンガが飾られていて、手にとって読めるようになっていたり、2階には麻雀卓やファミコンがあって、見ず知らずの人同士が対戦したり。みんなが順番にマンガを描いていくノートがあったりと、文化部の部室と小学生の頃の友達の家が合体したような空間だった。

店主のTさんはヴィレッジヴァンガードで10年働いていて、自分のおすすめのマンガをヴィレヴァンっぽいPOPで紹介したりもしていた。トイレに行くと宮沢りえサンタフェ漫☆画太郎のマンガが置いてあり、そこにもあの黄色いポップっぽいものが飾られていた。

イベントもいろいろやっていて、DJイベントからライブ、映画の上映会、お茶の出し方教室、フリーマーケット、日本酒持ち込み会まで、本人主催のみならず、客が持ち込むありとあらゆるイベントを実行していた。結局1度だけだったけれど、近所のお母さん方が育児しながらくつろげる日を作っていたりもした。そういえば、私もなぜか「BiS階段のライブDVD上映会」とおすすめの絵本紹介イベントをやったのだった。ちなみに人はほとんど集まらなかったが。

Tさんが日本酒好きなので毎度5種類以上の日本酒が用意されていたり、コーヒー豆がやたらいいやつだったり、けっこう凝ったカレーが出たりという、食に関する細かいこだわりも見せていた。こういう店の凝った食い物はたいがい塩気が足りなかったり、“エコ”によりかかった甘えがあったりするのだけど、ちゃんとおいしかったのが商売人としてのセンスを感じた。

そして、ここが最も肝心だと思うのだが、こうした趣味性の高い喫茶店というのはたいがいどこか薄汚れた感じがするものだけど、この店はごちゃごちゃしながらもそれなりの法則性をもって管理されている、清潔な雰囲気があった。

開店当初は「みんなが遊びに来れるような」という表現に基づいた文化交流スポットとして成立していて、音楽好きの高校生の自分語りを聞いたり、原発作業員の青年の話を聞いたり、バイの男の子の「ウイスキーの飲み過ぎか何かで、5階から落ちたけど死ななかった」話を聞いたりした。

「人間って机の足にひっかけたヒモでも首くくって死ねるじゃないですか。でも、死ぬ気が無いと5階から落ちても死なないんですね」

いや、運がよかっただけだよ!

しかし、そのうちにマンガの数がごそっと減り、2階の部屋がゲストハウスとして貸し出されるようになり、だんだんとイベントもやらなくなり……。最後の方はTさんと歳の近い30~40代がメイン客層になっていって、常連同士がそこにいる人となんとなく酒を呑んで雑談をしながら帰るという場所になっていた。

慣れた人しか集まらなくなったせいか、Tさんの話もずいぶん遠慮のない内容になっていって、「この人は本当にろくでなしだな」と思う機会も増えた。でも、そういう身も蓋も無さのある人じゃないと、こんなに色んな人が集まる場所は運営できないよな。

そして、やっと閉店。だいたいお店がなくなるのは「売上」「家主も含めた人間関係」「老朽化」「健康問題」「跡継ぎ不足」なのだが、ここの場合はTさんのやりたいことがなくなったという方が正解という気がする。あれこれやってみて、そこそこ成功したり失敗したりして、「うーん、これ、ずっと続けるタイプじゃないな、俺」と思ったみたいな。

Tさんはもともと2年くらい前から「お店をやめて高知で別のことをしたい」とかいう話をしていたので、閉店にまったく意外性はなかった。しかし、「新しいことを始めるためにやめる」というより、「もうやりたいことがないからやめる」というのは、すがすがしいような、未来のないような、だらしなさと潔さが混じり合った判定のしにくいエンドだ。ハッピーでもバッドでもない。

閉店前に、いくつかライブがあった。私の訪れた5月3日は「もう飲食を用意することはない」という案内がなされ、持ち込み可のライブ料金のみ2,000円。演者はにたないけん、沢田ナオヤ、三輪二郎。到着すると、部屋一面に敷かれた座布団に座った8人くらいの客の前で、にたないけんが演奏をしていた。ふと後方壁面を見ると高めのイスが置かれており、手に酒を持った男性がそのうちのひとつの席を譲ってくれた。

店内の大量のマンガやCD、コーヒーを出すための棚はすっかり引き払われていて、ヴィレヴァン的なサブカル濃度がすっかり抜かれたその場所は、公民館の一室のようになっていた。

にたないけんのライブはハスキーな声と、手になじんだギターの音が気持ちいい。時折ハーモニカの音を挟みながら、目をつぶりつつの演奏は華美じゃないのに退屈しない感じ。

ライブが終わって呼び込まれた次の演者沢田ナオヤは、先ほどイスを譲ってくれた男性で、酔っ払い特有のハイテンションで「いや、酒入っちゃったし、ちゃんと演奏出来るかな」と言って「金払ってんだからやれ!」と突っ込まれていた。

ライブはちゃんとしていて、時折感情を叩き付けるように激しく鳴るギターが面白かった。

最後は三輪二郎

落ち着いたトーンの弾き語りで、たわいもない日々の感情を歌うフォークソングというのはこれまでの2人と変わらないのに、なんとなく聴いているうちにもこちらの気持ちがぐっとつかまれる瞬間が都度都度あるのがさすがだった。ああ、アイドルとかヒップホップとか情念が強かったり、情報量が多かったりする音楽ばかりを聴いていると、こういうの染みるな。

MCの三輪さんの「試聴室もなくなっちゃうし……」という話に「でも、あっちはまた始めるから」と答えるTさん。

最後は3人で弾き語りセッション。「誰が一番へそまがりかあ~~」みたいなことを歌いながら終了。お別れ会なのにむしろ同窓会で集まった人たちの二次会みたいなのんびりした空気だった。

Tさんに「生存確認できるようにしてくださいよ」と最後に一言。Tさんは体を動かすバイトを始めてからだいぶ経っていて、えらくシュッとして健康的になっていた。「今のバイト楽しい」と言っていたが、かっぷくの良さが削がれたら顔もずいぶん年相応になったようで、それがちょっと寂しくもあった。

そういや、私はこの店の最初の客だったんだ。今となっては、だいぶ昔のことだ。

 


川本真琴 with ゴロニャンず/プールサイド物語

※在りし日の店が記録されたMV。

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「インタビュー術!」など、インタビュー原稿作成時に参考にした書籍や記事を紹介します

先日、お邪魔してるサイファー・カレー会から生まれた、ラップユニットもつ酢飯のMC、ワッショイサンバちゃん、ムノウちゃんと、ビートメーカーのどくまんじゅくんにインタビューしました。

いつかは弱い女の子達の支えになりたい-「もつ酢飯」のトリックスターラッパー・ワッショイサンバの道のりと夢 - ホンのつまみぐい

私は自分の人生の当事者なんだ―自称「ただのオタク女子」が、もつ酢飯のラッパーMCムノウになるまで - ホンのつまみぐい

ラップを好きでいろよ-出会う人をラッパーに変える、MAZAI RECORDS運営兼もつ酢飯のビートメイカー・DocManjuが語るヒップホップへの愛情 - ホンのつまみぐい

 

ものすごく久々に一字一句違えないようにテープ起こしをして編集する原稿作りをしたのですが、身体的にはかなりしんどかったもののとても楽しかったので続けていきたいと思います。書くという行為を大事にしていきたい。

ただ、テープ起こしの時間だけで1本5〜10時間かかってしまったので、継続にあたってはやり方を考えないといけませんね……。

 

先人への敬意をこめて、原稿の作成に当たり参考にしたものや面白く読んだものを、いくつか紹介していきたいと思います。


インタビュー術! (講談社現代新書)

インタビュー術! (講談社現代新書)

 

 

永江朗さんはエロ・出版産業・書評など幅広い分野で活躍しているフリーライター。ご自身の経験から生まれた知恵と、幅広い読書から得た知見が事細かに書かれています。

具体的に役に立った箇所は

・質問項目の作り方。
・最初に時系列に沿って質問をすると相手が自分の言葉を物語化しやすくなる。
・「それでは最後の質問ですが」「言い残したことはありませんか」という〆方。
・テープ起こしは厳密に。語尾にその人の個性が出るから。

でしょうか。「言い残したことはありませんか」超便利!

ほかに倫理的に参考になる箇所として、

・インタビュー時間外に聞いた話はどんなにおもしろいことでも仁義として使わない。使わないけれど、反映させる。
・「役不足/力不足」などの間違った言葉遣いがあったら、相手に恥をかかせないために思い切って削る。

こういうの、本当に大事ですよね。だから、アーティストに文章を書かせて何の添削もしていない最近のネットメディアなんかを見るとを何やってんのと思ってしまいます。依頼した相手に恥をかかせている。

永江さん自身が参考にされた本についてもかなりの紙幅が割かれていて、ブックガイドとしても優秀。

 

realsound.jp

ーーその話は別の機会にするとしまして……。前回のインタビューでは、大黒摩季さんのお名前が何度も出てきましたが、今回は冒頭から久宝留理子さんのお名前が出てきましたね。
ちゃんまい:そうですね、さっきも言いましたけど久宝留理子さんはロックを消化させる上で、本当に影響をうけていて結成当初からカバーしてるんですよ。あと、私はDAISUKI!な本田美奈子さんの「WILD CATS」と和製ランナウェイズの「GIRLS」も意識していますね。
ーー「男はアイツだけじゃない」は、最初は1990年代風のプログラミングやキーボードが鳴るサウンドに耳を奪われますが、たしかにキャッチーなメロディーを重視して制作された楽曲だと感じました。特にサビでそれを感じます。

読み物としても面白さと、音楽としての価値を読者に共有させるためのバランスがいい。宗像さんの文章のエモーションや、社会との関わりを語る姿勢もとても好きですが、やっぱり音楽の教養あってのことだと実感させられます。

インタビューではないのですが、ほかに宗像さんの記事で特に好きなのはこちら。

news.yahoo.co.jp

 

realsound.jp

 

大谷:書き言葉は目の前に誰もいないまま書きますよね。相手がいないまま無限に語れるのが書き言葉です。書き言葉、文字は、誰が言ってるのかわからないし、誰が読むかもわからないところに存在するんです。

姫乃:あれっ、なんだか怖くなってきました。
大谷:原理的な話ですよ。怖いですか(笑)。

姫乃:ずっとそばにあった世界に気づいていなかった恐怖があります。

姫乃たまちゃんのものすごい教養人なのにそれをひけらかさず、かと言って卑下もせず、先人に教えをこいつつ本質に切り込むインタビューとても好きです。

大谷さんへの「怖くなってきました」。なかなか言えないし、書けない。ご自身の役割をよく自覚されているのだと思います。

realsound.jp

でか美:そう。自分自身が想像してるアイドル像から離れ過ぎちゃってて、それで自称できないんだよね。最近はアイドルも多様化してるし、地下アイドルって言われることにもだいぶ慣れてきたけど、アイドルですよねって言われると……。
姫乃:にゃはは、それはそれでねえ。

あとは、合いの手や語尾の選び方にいい意味で個性のコントロールが出来ている。さすがアイドル。「にゃはは」……。


KAMINOGE vol.61

KAMINOGE vol.61

 

 井上崇宏編集長によるサ上とロ吉インタビュー。

ヒップホップとの接点はサイプレス上野だけと言いつつ、音楽ライターじゃないからこそのツボのつき方が面白い。

KNZZvs漢a.k.aGAMIの騒動に対し、「あの人たちはみんなケンカが強いんですか?」と聞いたエピソードとか、サイプレス上野の「バトルではプロレス式に相手の話を聞いてから返す」という言葉に、「でもそれって弱いんですよね。一回相手の技を受けないといけないですから」とか。

あと、プロレス誌の取材なのに「プロレスは上野くんの話だけでお腹いっぱい」というマイペースなロベルト吉野に、最終的に読者が興味を持っていくように全体が構成されているのも巧い。これ、会話の流れ当日のままなんでしょうか。だとしたらすごいな。最初から最後まで「キャラ立て」の文法にガッチリ寄ってる感じがさすがプロレス誌。てか、前号に原一男が登場したりと、この雑誌謎が多い……。

POPEYE(ポパイ) 2017年 3月号 [二十歳のとき、何をしていたか?]

POPEYE(ポパイ) 2017年 3月号 [二十歳のとき、何をしていたか?]

 

地の文に語り手の言葉を混ぜていくルポルタージュ調の構成。さすがマガジンハウスという安定感のあるクオリティ。二十歳というキーワードから今に至るまでの物語をじっくり構成した内容は全編読みごたえがあります。今回はやらなかったけど、こういうのも面白いですね。

 

ヨコハマシカの

「もらった影響は同時に宿題になるから一つの答えじゃ終わりは無い」

を肝に銘じつつ、引き続きがんばります。


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ヨコハマシカ feat. OZROSAURUS

ヨコハマシカ feat. OZROSAURUS

 

2017年4月29日とラップミュージック

朝起きたら、北朝鮮がミサイルを落として都営地下鉄が止まったという。しかもその話はすでに過去として情報の向こうに押し流されていた。

 

昼頃にテレビをつけたらBSでは「ハミルトンが問うアメリカ」というドキュメンタリーをやっている。建国の祖のひとりであるジョージ・ハミルトンの生涯を黒人やヒスパニックキャストが演じるというヒップホップミュージカルだという。映像の中で、脚本・作詞・作曲のリン・マニュエル・ミランダが、オバマの前でフリースタイルを披露していた。しかし、本作はマイノリティーの物語として賛美・共有されるにとどまらず、リベラルの傲慢さの象徴として、保守派から非難を浴びせられることになる。リベラルを既得権益者として扱う保守層の姿を目の当たりにして、果たして私は彼らと対話することが出来るのだろうかと不安になる。

 

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家を出て、前日のゆるふわギャングのライブの感想を考えながら、校庭カメラギャルのリリイベに向かう電車の中、ツイッターを開いてDJ油井俊二の訃報を目にする。ちょうど2ヶ月前、clubLizardの建設的で聞いたロベルト吉野の「お次はディージェーーゆいっ!しゅんじーー!」という声がループする。

 

リリイベ会場の錦糸町タワーレコード。人はそこそこ。ウテギャの二人は新衣装。貫頭衣にフリルをつけたような、なんだかちょっと高位の中世ローマ人みたいな格好。かわいいけど、まったくラップっぽくなくて笑える。

 

中目黒solfaぶりのウテギャ。ライブ映像だと正直ラップのほころびが見えてしまう部分もあるのだけど、現場だとあまり気にならない。テンションの高さに取り込まれるというか、気迫にこちらの気持ちが引っ張られるし、曲がいいので踊れちゃう。ただ、もうちょっとリリックが聴き取れた方がいいとは思うけど……。中盤、通りすがりのヤンキーっぽい兄ちゃん3人組が、叩き付けるように歌う2人を観て思わず拍手をしたのがおそらくこの日のハイライト。しかし、その兄ちゃんたちは最後まで観ずに出て行ってしまったが。

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現場で観て面白いと思ったのは、サウンドクラウドやMVではあまりピンとこなかった「みんないい人だって言ってるけど実際はアイツサイコパスだしヤバい」と「ゴー!ギャル ~ほんとうのギャルを求めて~」がライブでちょうどいい彩りになっていたこと。

 

ゴー!ギャルはバンドサウンド寄りで、ウテギャにしてはベタな展開の曲だと思うけど、音が明るいのでハッピーな気分にしてくれるし、サイコパスはなぜかぱたちゃんが反復横跳びやブリッジをかましていて、なんかもうギャグだった。

 

そうか、ウテギャは「なぜかドープな自分語りミュージックをやらされている女の子ふたりが自分の中にある衝動をはき出していくエモ系ストーリー」だと思ってたけど、実は「マイペースガールふたりが、やったもん勝ちミュージックに乗って右往左往するトホホ系コメディ」だったのか。校庭カメラギャグだ。

しかし、ふたりともとても楽しそう。「ギャルドリーム」にはかつて校庭カメラガールのメンバーとしてステージに立った頃から今をふりかえって「あの頃のWOMBとは全然違う」というリリックがあるけど、本当に違う。私はエモーションを消費していくより、ばかばかしいけど楽しいって言う方が好きだから、6月6日の下北沢シェルターでのワンマンライブも楽しみになる。ライブ後、ちょっと雑談してから黄金町試聴室の閉店ライブへ。

校庭カメラギャル 1st album"スマイルアゲイン" teaser by tapestok records | Free Listening on SoundCloud

youtu.be

黄金町試聴室その2は高架下のライブバー……いや、ライブが出来るほったて小屋という方が実態に近いか。ステージ正面中央の一番いいところに柱があって、さらにその柱にマンガやサブカルチャー関連書がぎっしり詰まっていて、ちょっと遅れていくとまったくステージが見えないし、電車が通るとガタゴトいうので音響もへったくれもない。ライブに行ってもガラス戸の向こうで酒を飲んでくだらない話をしているだけみたいなこともあった。

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でも、そういう価値のない時間がたくさん生まれるところこそが貴重なのだ。閉店は黄金町バザールの意向なのだろうか。だとしたら、相変わらずしょうもない運営である。

 

ありがたいことに試聴室は徒歩5分の場所でその3を始めるそうで、さよならイベントのはずの大島輝之大谷能生のライブもさして暗くもエモくもない空気で、ステージの演者の出す音も呑気なものだった。即興ノイズだけどノイズ現場によくある緊張感がないし、フロアもほぼ同窓会ノリ。

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バーカウンターで串揚げセットを頼んだら、めんどくさいという空気を隠さずに「からあげならすぐ出せますよ」と言われたことになんか頼もしい気分になった。しかし私は串揚げが食べたいんだ。めんどくさくてすまん。

 

かつて何度かそうしていたように、古本をあさったり、知り合いにあいさつしていたりするうちにライブが終わっていて、大谷能生が最後に適当なラップを披露していた。

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黄金町から桜木町まで歩いて、相鉄本多劇場、たけうま書房、猫企画、nitehiworks、clubLizard、喫茶へそまがりと、横浜からなくなった場所やなくなってしまう場所のこと、そして、いなくなってしまった人のことを考えながら歩く。帰りの電車、窓に映った自分の顔のガラの悪さに思わず苦笑した。2017年4月29日。

#038 DJ 油井俊二 by UNDER THRONE | Mixcloud

使い慣れない言葉だけど、R.I.P。

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こうの史代×おざわゆき「はだしのゲン」をたのしむ@明治大学 2016/4/16 「この世界の片隅に」「あとかたの街」「凍りの掌 シベリア抑留記」にもふれて

このトークイベントは米沢記念図書館で行われたマンガと戦争展+α内の企画として開催されたものです。「はだしのゲン」というテーマを掲げていますが、まさに「マンガ表現と戦争」と作家がいかに向き合うかが語られる内容になっていました。逆に、「はだしのゲン」の話が広がる前に終了時間が来てしまった感もありますが。

www.meiji.ac.jp

当日のメモから個人的に印象に残った箇所を記載いたします。2016年のイベントの話ですが、今だから有効な箇所もあるかなと。(おざわゆき=お、こうの史代=こ、ヤマダトモコ=ヤ)

 

ーマンガと戦争展+αの展示について

 貝塚ひろしさんの「ゼロ戦行進曲」は続きを読んでみたい。小林よしのりさんの「戦争論」は、戦争マンガとして意識していませんでした。

 今回の展示には入れさせていただきました。こういったテーマ展は考証も含めてお金がかかるし、有名作家の個展の方がうけるけれど、京都国際ミュージアムでの展示を見て、ぜひここでもやりたいと思って。

 戦争マンガを語るとなるとワンパターンになりがちだけど、こういう風に分けることが出来るのかと新鮮でした。これで終わってしまうのはもったいない。

ー印象に残った戦争マンガについて

 幼い頃に読んでいたものには意識せずに何かしら戦争が入っていたから、そういうことが普通だと思っていました。「ガンダム」もそうだし、「気分はもう戦争」もそう。レディコミはまだ夏になると戦争特集をしていて、花村えい子さんが作品を発表しています。フォアミセスは慰安婦の問題も扱っていました。戦争マンガと言われてパッと出てくるのは「紙の砦」。

 「ザ・クレーター」。死んだと思われ、軍神になっていたパイロットが生還した故郷でまた死んでくれと言われる。「これを書かなくては」という手塚さんの気迫を感じました。

 「ザ・クレーター」には強烈な話が多いです。凝縮された本。

 

ザ・クレーター (手塚治虫文庫全集)

ザ・クレーター (手塚治虫文庫全集)

 
手塚治虫「戦争漫画」傑作選〈2〉 (祥伝社新書)

手塚治虫「戦争漫画」傑作選〈2〉 (祥伝社新書)

 

 

ーお互いの作品について

 おざわ先生からこうの先生の作品についてお話しいただきたい。

 「夕凪の街」が大好きで……。映画は病に倒れたところが入っていないのが残念。それまでが平和な雰囲気だったのに、フッと落ち込んだように病気になって死んでしまう。この表現がすごいと思って。

 皆実が倒れたところは編集さんには黒にしてくれと言われましたが、絶対に白にしますと言った。夜だと思えば正しいのだろうけど、黒にしてしまうとあまりにかわいそうで。(友人や親族が代わる代わる見舞いに来る場面のこと)

 暗くなっていく状況なのに白。ふわっと天に昇っていく感じが哀しい。

 「夕凪の街」は最初はジュールに乗る予定だったけれど、担当さんの移動でアクションに。最初は32Pだったのが30Pになったんです。打越さんが皆実をおぶっていく場面があったけれど、あったらあったでいちゃいちゃしすぎだったかも。映画の脚本の方が書いた小説にはこのエピソードも入っています。

 「あとかたの街」を描くときは「この世界の片隅に」を読まないようにしていました。今回対談をするにあたって読ませていただきましたが、やはりそれでよかったと思いました。近い表現が出来なくなってしまう。右手がなくなってしまう場面。読んでいたら描けなかった。

 このマンガは手段を選ばずと言うか、いろいろ選んだというか……。終わりの何回かは毎回画材が違うんです。最終回は何の断りもなく勝手にカラーで描いたから、雑誌では白黒でした。もう少し早くこの演出を思いついていれば、カラーに出来たかもしれないけれど。(最終話は途中から世界が色彩を取り戻したかのようにカラーになる)

 宮本大人×吉村和真トークイベント「僕たちの好きな『戦争マンガ』」では「しあわせの手紙」を書いたのは誰なのかについての考察がありました。吉村さんは真偽をこうのさんに直接聞いたけれど、こうのさんは「それは読者のために取ってある」という反応だったとか。

 別にそんなことないですよ? あれはすずの右手が読者に向かって書いているんです。戦時中に不幸の手紙が流行ったらしいので、それを踏まえて描いています。

 「今此れを讀んだ貴方は死にます」というのは?

 だって、結局死ぬでしょ? みんな。

 

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

 
この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)

この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)

 

 

「凍りの掌 シベリア抑留記」「あとかたの街」について

 「凍りの掌」は、つらそうで手を出すのを躊躇していたけれど、あっという間に読んでしまいました。

 つらそうってよく言われます。絶望しかない。

 おざわさんの絵は一見簡単に見えるけれど、やせほそった手の絵ひとつで多くのことを語っています。日本に帰ってきてからの話が印象的でした。シベリアからの帰還兵はアカ扱いされ、抑留者なのに補償がなかったなど。

 アカ扱いされると仕事に就けないから、自分が抑留者であることを言わない人が多かったそうです。父と叔父は兄弟で抑留しましたが、叔父はそのことを言わなかった。家から二人もアカを出したと言われるから。
 戦争が終わったからと言って終わりじゃないというのが伝わりました。

 終戦でいろいろ切り替わったけれど、抑留はなんとなく終わらないままで。父も時間が経過したからこそ、話していいと思ったのかも。

 「凍りの掌」はお父さんの体験で、「あとかたの街」はお母さんの体験。印象に残ったのは、鳥鍋の場面。マンガでお腹が空いたという表現を描くのは難しい。「すきっぱらのブルース」にもデートをすっぽかすシーンがあるけれど、共感できませんでした。でも、「あとかたの街」の鳥鍋を食べる場面には共感しました。これまでの作品で、自分にできることはやったつもりだったけれど、私には出来なかったことが描かれています。

 この連載前にグルメものを描いていたので食べる描写には思い入れがあったのかも。

 この時代のリアルが描かれていますよね。昔の人は親に敬語で話しかける。夫婦も知り合い同士が結婚するわけじゃないからずっと敬語だったり。

 昔の本を読むと子供と大人との距離が遠いんです。不自然だとは思うけれど。

 婦人会では、男のいない家族はバカにされるとか。こういう描写は青年誌では描けなかった。

 当時は、男がいない家は役に立たないという引け目があったとか。

 お父さんだけ紙がもらえたという話。「この世界の片隅に」で、水原に「絵なんか描くな」と言わせるつもりだったけど、読む人減るかなと思って描かなかったんです。

 男の子を産まないと離縁というのもあった。こうした差別や貧困は忘れられがちだけど、実はそういうことも戦争につながっているのかなと。

 主人公のあいちゃんが防空壕に入る場面。次の場面で別の防空壕に切り替えて、空爆で死んでしまう子供たちを描く。一瞬あいちゃんたちが死んだかと思わせる描写がすごい。

 防空壕でみんな死ぬという場面を作りたかったので、苦肉の策でした。

 戦時中は髪型も服装も一緒だから、それを利用して「本当は亡くなったのはこの人だったかもしれない」と思わせているのかと。

 そこまでは考えていませんでした。一応服の柄で書分けてはいるけれど。

 

凍りの掌

凍りの掌

 
あとかたの街(1) (BE・LOVEコミックス)

あとかたの街(1) (BE・LOVEコミックス)

 

 

はだしのゲンについて

 ゲンは少年ジャンプということもあってか明るい。悲惨なマンガとして取り上げられがちだけど、この明るさがあるから楽しく読めるんです。原爆症で髪が抜けるのを見て笑うゲン。悲惨な話ではあるのだけど、このコマがあるから一瞬軽くなる。読みやすさや面白さを意識して描いたのではないでしょうか。

 戦後の話も面白い。恋愛したり、絵で生きようと思って上京しようとする。青春ものになります。

 説明台詞が多いんですよね。「よく寝たわい」とか「サイフを盗まれたわい」とか。

 重い原爆症の夏江さんが死期を悟って作った骨壷を、ゲンが割ってしまうシーンが……。

 気持ちはわかるけれど、割らなくてもいいのにね。夏江さんが必死で作ったのに。女性として生きづらくなっていた夏江さんをはげますために割るんだけど、彼女は骨壷を作り直すこともできずに亡くなってしまう。

 ゲンがはげましたい存在としての女の人なので、女の人は弱いんですよね。ゲンは一直線過ぎて、「それは間違いだろう」という行動がたくさんある。

 読み進めると、次はゲンがどう間違えるかが楽しみになってしまう。彼が物事を素直に受け取って、間違った行動をするのが面白さになってる。

 でも、私たちはものを壊すことはよしとしないけれど、ゲンが相手に優しくしようと思っているのはわかるんですよね。

 今は危ういことを書くと自粛と言われがちだけど、こういう危ないことをする子につっこみながら読む方がいいのかもしれないですね。

はだしのゲンは実は1巻が一番怖い。人間関係の不自由さがヒリヒリした感じで描かれている。爆弾が落ちてくることが怖いとなりがちだけど、人間関係の怖さが戦争物にはかかせない。いつまで続くかわからないご近所のいじめの恐怖。ストレスがたまると人はこうやって排除するのだろうなと。

 みんなお腹が空いているし、すごくイライラするのだと思います。人間性がむきだしになっていがみあいになってしまう。でも、同じ状況に置かれたら自分もやるかわからない。

 戦争のそういう側面って大切なんだけど、マンガではあまり描かれていない。夏江姉ちゃんが桃を食べる場面が強烈で、原爆の日になると桃をお供えしています。
-好きな場面について

 ミツコさんの場面。ゲンはちょっと見ただけの女の子に恋をして、地面にずっと彼女の名前を書いてしまうんですよね。こういうマンガらしい描写がいい。

 ミツコさんをデートに連れて行って、絵を描くところも泣けます。「はだしのゲン」は私にとって自分のふるさとが描かれた地域マンガ。「ゲンのように生きていこう」と思える広島の宝です。

 読み返すとすごく読みやすい。素直に面白いと思える作品。テーマばかりが話題にされるけれど、それを届けるための面白さがすごいんです。

 奇跡のような……。これだけの経験をされた方が、これだけの才能を持ってこれを描かれたことがうれしい。 

はだしのゲン 1

はだしのゲン 1

 

 

-質疑応答

ー「この世界の片隅に」では、横書きの文章を左から右で読むように書いている。これは現代の読み方だけど、作中で使われる字そのものは旧字で書かれている。こうした現実とマンガとの間のリアリティーのバランスはどう意識されているか。

 マンガに描くのが難しい部分というのはあります。たとえばお腹が空くとか。おざわ先生はちゃんと描いてらしたけれど。強いてあげれば昭和14年の辞書を編集さんに買ってもらって、それを普段から引いて、そこに出てくる言葉を使っていました。

-(わだつみのこえ記念館で働いている方から)館長が人が来てくれないと悩んでいる。堅苦しいテーマだと言われがちだと思うが、どのようなモチベーションで描いていたのか。

 両親のことなので。父の話を聞いたときに「これは面白い。作品になるのでは」と思いました。ただ、描くにはあたっては世代差があるので、当然理解の及ばないところも多い。自分の中にある感覚を使って描いていました。

 描くのはつらかったけれど、義務感みたいなものがあったので。戦後マンガの伝統として、手塚治虫の頃から描かれてきたことだから、それを我々も受け継がなくてはいけないと思って。だから、皆さんにも描いてほしい。けっこう人生観が変わりますよ。

 おふたりは今の読者に伝わる形で戦争を描いています。戦後71年(イベント当時)、歴史が消失しようとしている時期に、何を書こうとしているのかを受け継いで体験してほしいですね。

-2016年4月16日 明治大学リバティータワーにて

 

映画「この世界の片隅に」に火がつき始めた頃に、「はだしのゲン火垂るの墓みたいな押しつけがましい話を見るよりこっち!」という言説が流行っていました。ほかならぬこうの史代が「はだしのゲン」への敬意を口にし、戦争を描くという課題を先人から受け継がれてきたものとして語っていたにも関わらず。

 

片渕須直にしても、高畑勲への影響を直接的に語っていて、その延長線上に映画「この世界の片隅に」があるにも関わらず、そうした短絡的な語りを自己肯定をするがごとく語ってしまう。こうしたことこそ、まさしく過去や歴史に対する関心のなさの現れだと思います。


ほんとは映画がブレイクした頃にこれ出せればよかったんですが、ちょっと遅かったですね。マンガと戦争展自体がとても面白かったのですが、当時は変に気負ってしまって感想が書けなかった……。なるべく書くペースを上げて後悔のないようにしたいです。

 

konosekai.jp

【イベント】4/16『こうの史代・おざわゆき:「はだしのゲン」をたのしむ』【アフターレポート】 | マンガ論争Plus

www.asahi.com

gigazine.net

http://www.kamatatokyo.com/home.html

 

火垂るの墓 [DVD]

火垂るの墓 [DVD]

 

 

THA BLUE HERB YEAR END LIVE 2016 @WWW X

2016年末にWWWXでの「THA BLUE HERB」を観てきました。その上で、「今のTHA BLUE HERB」に関しては、こちらのブログに書かれていることが一番共感できました。

yoshimi-deluxe.hatenablog.com

 

でもBOSSの歌ってることって
他のヒップホップもそうなんですけど
ほぼ説教なんですよ。
自分の信じた道を生きろとか
他人の言うことに惑わされるなとか
わずかな金やちょっとした名声のために誇りを売るなとか。
汚れつちまつたババアには暑苦しく感じることも多いんだけど
それをメンタルとフィジカルの両方に響かせるべく
力強くてエモーショナルに訴える
20年戦士のラップだった。

カッコよくてもすぐにイタくなり
常に色んな視点からの評価がメタメタに感じられ気になり
何事も言い切れない、決めきれない 
相対化の大海原にいるからこそ
生き恥でも痛くても、ピークじゃなくても、
おっさんでも、中流階級でも、
俺はこうなんだ、これを信じるんだ、と
熱く押し付けてくれる力を眩しいと感じるのかもしれないなと思う。

 

私もわりと近い感想で、少し付け加えるなら黒澤明の登場人物を思い出したということ。

昔、何かで「黒澤明の作品が描く倫理観を多くの観客は生きる為の指針として求めていた」という趣旨の文章を読んだことがあります。当時はその言葉がピンと来なかったのですが、先日久々に映画館で「赤ひげ」を観て、その意味を理解しました。

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社会から墜落してしまって抜け出せないような時や、逃れようのない孤独にとらわれている時こそ、黒澤映画が物語るような分厚い倫理観が必要とされるのだろうなと。正しくあるための倫理でなく、自分らしく、優しくあるための倫理。

そんなBOSSの、あの日のMCの断片。

「魂の会話んしに帰ってきたんだよ!」

「今日ラッパーひとりやふたり来てんだろ
ボスの格言だ
タダでくれてやる
20代なら20代、30代なら30代
それぞれのライフストーリーを語るのがヒップホップだ」

「タクシーで帰ったらいくら残るんだよというライブを続けていた頃、俺の相棒は『違うよ、俺たちは今徳を積んでるんだよ』と言ったんだ」

「地元を離れなくても食っていけるのを証明する」

自分自身に言い聞かせるような率直なMC。

ライブの中盤、「負けを知ってるあいつがどのくらい強いか思い知ったよ。何度だって始められる。始めようと思ったらそれがその時だ」というMCに呼び込まれて出てきたのはECDドネーションTシャツのYOU THE ROCK☆でした。

YOU THE ROCK☆の印象は何より「声がでかい!! 」。何というか……人間銅鑼? YOU THE ROCK☆の過去はかろうじて知っていて、復帰後あまりよく言われていないことも何となく知っていたのだけど、そういう前評判を吹き飛ばすようなただただ強い声で、いや、すごい説得力でした。

そして最後は来年大きい場所(日比谷野外音楽堂)でライブをやるからという前置きから、「20年やってるうちに、去ってった人たちにも見せたいんだよ」という言葉。

なるほど、「BOSSの説教を聞きに行く」という表現がなされるのもわかるライブでした。誠実で熱い任侠の人だ。

ただ、今回に関して言えば、コンディションが悪かったせいか、予習が足りなかったせいか、あんまり「音楽として楽しむ」ことは出来なかったので、次回はその辺をちゃんと受け止めたいなと。シューゲイザー調で好きな感じの曲もけっこうあったんですが。

 

youtu.be

 

STILLING STILL DREAMING

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ラッパーの一分 [DVD]

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 ちなみに、観に行こうと思ったきっかけはこの本。

 

ヒップホップの詩人たち

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春ねむり初ワンマン"ひとりでねれるもん!"vol.1@dues新宿 1/10

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彼女の3回目のライブとなったBAYCAMP2016はAbemaTVで中継されていて、ちょうどそれを見ていた私は「大森靖子以後の女の子」という印象を受けたのでした。歌い方のクセや髪型に共通項を見いだすことももちろん出来るのですが、それより私がはっきりと覚えているのは彼女のMCです。

「私は生きづらいなって感じることがめっちゃ多くて、BAYCAMPに出させてもらったのはオーディションなんですけど、CDを出させていただくのとかを、半年前まで仲良くしてた同級生とかに私の見ていないサブアカウント枕営業とか書かれる日々を送っているんですけど。


そういう他意のない言葉って人を殺すじゃないですか。


私には音楽があるから死なないですむけど、私の大切な人はそういうことで殺されちゃう人がすごく多いから。


私は『そういう人が生きていくための最終兵器になりたい』と思って作った曲が、オーディションに受かってBAYCAMPに出れることになりました」

 

怒りと覚悟が含まれた、泣き疲れたような声と鋭利な目つき。そして、自分が向かうべき場所をきちんと定める聡明さ。荒削りなのに研ぎ澄まされたその姿に惹かれたのを覚えています。

 

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彼女の初ワンマンはdues新宿。ディスクユニオンが管理している、ライブハウスと言うより音の出せる会議室のようなスペースです。

開場待ちの列に並ぶ人々の顔ぶれは、本人たちが小声で話していたように「ヒップホップのイベントっぽくない」。アイドルオタクもいれば、音楽好き、女子ラップ好きもいるけれど、「どんな層」とは括りにくい。

60キャパのduesはパンパンで、ゆったりした空気。VJがきちんと用意されていて、世界観のたしかさを感じました。深海の泡を映したようなVJと、水の音をアレンジした音があわさる場面もあり。作り上げた世界をもとにどれだけ大きくなるかという段階なのだと感じました。

映画音楽のような曲調に乗る「ロックンロールは死なない」「ガラス細工の新世界 ぼくは夜明けを告げる新世代」という言葉は、やはり激しくて力強いけど、この日はどこか穏やかな部分も。

それはMCで彼女が「リリースパーティーは友達を呼んだりしたけれど、今回は春ねむりを愛してくれる人だけを集めたくて。そしたらいっぱいで」「2017年はどんなことも肯定していきたい。安心してねって言いたいです」と語ったように、あの場が彼女を祝福したい人たちばかりが集まった場所だったことによるのでしょう。

ゲストにレイトが出てきて、「ロープにクスリ カッターの刃」というフレーズでコールアンドレスポンス。レイトはガンバの冒険やねずみのアーノルドといった、小さな体で走り回る児童文学上のネズミを思い出させる人でした。高い声と、深い色のパーカーがまたネズミっぽくて。後にカッターの刃に続く言葉が「路地裏のネズミ」と知って思わず笑ってしまいました。

Lyrics - レイト / Reito

最後の方でファンが持ち込んだバースデーケーキと一緒に記念撮影。朗らかで熱い夜でした。

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さよなら、ユースフォビア

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アトム・ハート・マザー

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