ワンマンライブは集大成と皆気軽に言うけれど、それはただ曲をたくさん、一生懸命やることなのか。いや、それだけじゃない。ワンマンでしか見せられない何かがあるはずだ。では、それは何なのか?
12月18日、年末の金曜日という忘年会シーズンに行われた校庭カメラガールのワンマンは、そうした問いに答える誠実な内容だった。残念ながら仕事の都合で途中参加になってしまったのだけど、そんなことを忘れさせるくらい幸福で音楽に満たされた時間だった。
会場は渋谷WOMB。「常に世界最先端のエレクトロニック・ミュージック・カルチャーをリアルタイムで東京の音楽ファンたちに紹介しながら 」と堂々とホームページに掲げるこの箱を選んだのは、コウテカがテクノ、ヒップホップ、トランス、ポストロック……と、電子音楽の美味しいとこどりをしたようなアイドルだからなのだろう。
心配されていた集客だけど、地下の扉を開けるとフロアはいっぱいになっていて、顔を上げるとまるで体育館のように高い天井とミラーボールが見えた。メンバーの全身が見渡せる高いステージも、人でいっぱいになったフロアも、明るく白く照らされていて、薄暗いライブハウスをイメージしていたので少し驚く。背景にVJが大きく映し出されていて、どこか古いSFアニメの宇宙船内を思わせた。
コウテカ初のワンマンライブとなるこの日は、前半に代表曲、中盤にポエトリー調の曲を入れ、後半にフロアの熱量をあげる曲を集中的に投入。合間にメンバーが、コウテカでの思い出とこれからを書いた手紙を読み上げるという構成だった。私が到着した時は、「Tommorow Girl Secret」が始まったところで、残念ながらその直前に行われたという、らみたたらった、ぱたこあんどぱたこのMCは見られなかった。
「Tommorow Girl Secret」の後は、「TOKYO Terror」「Puppet Rapper」と、もるももるのラップスキルが映える曲が続く。コウテカはラップにきちんとdisを入れてくるグループだが、フィメールラッパーと呼ばれる人たちのマッチョさに比べると、「総務のお姉さん」ぽいもるももるのラップは、不思議なクールさがある。「毎日磨くスニーカーと自撮り 平日もヒロインよりどりみどり」「また増えて消えてくだけ」といった歌詞は、アイドルシーンに対するdisだけれど、一方で自虐にも聞こえるアンビバレンスが含まれていて、こうしたひねくれた歌詞が結果的に彼女たちのアイドルらしさを強調するという奇妙なねじれが生じている。
「Puppet Rapper」の後、しゅがしゅらら、ののるるれめるによるMC。
萌えアニメのキャラのように言葉と声を作り込んで振る舞うしゅがしゅらら。彼女は、加入当初は自分はこのグループにあってないのではと考えたことを話し、「私は私のままでいいんだ。それが校庭カメラガールなんだと思えるようになった」「今は、新曲をいただくたびにどう表現しようか考えている」と語った。
あどけない表情と小さな身体が児童文学の主人公のようなののるるれめるは、偶然見つけたオーディションから加入したことと、悔しい思い、辛い思いを重ねてきたこと、最近家族が応援してくれるようになったことを話した。〆に「バカにしたやつらを見返してやります」という言葉を選んだところに、彼女らしさを感じた。
感情の溢れ出たMCから、ゲストのギターが加わりアコースティックでの「iuM」が始まった。曲が終わり、ゲストが抜けるとそのまま「Where the Wild Thing」「Lough Ma Fleur」につながる。静の立ち位置の、おとぎ話をきいているような印象すらもたらす3曲をじっくり聴かせる演出。「iuM」で半泣きのまま歌うののるるれめると、それを受け入れるように優しく見つめるましゅりどますてぃ。降る雪が映し出されたVJを背負いながら歌われる「Lough Ma Fleur」は、刹那的で美しかった。
「Lough Ma Fleur」で暗転し、ステージが真っ暗になる。しばらく待った次の瞬間、照明とともに「Her L Bo She」のイントロが流れると、ステージの上に細い背中が2つ映し出された。シークレットゲストの2人組中学生アイドルamiinaだ。amiinaは対バンでたびたび一緒になった盟友とも呼べる相手である。amiinaは「Her L Bo She」を、校庭カメラガールは「Canvas」をリミックスし、それぞれが配信されている。少ししんみりした空気があっという間にアイドル現場らしい明るい熱量で満たされ、あみちゃーん!みいなちゃーん!というコールが響く。「Her L Bo She」は生活する場所が変わって離れ離れになった男女(恋人なのか友人なのかは明示されていない)の、穏やかな別れを歌った切ない曲だ。この日からほんの4日後に、かわいみいなが卒業することが発表され、結果としてこの日のライブは暗示的なものになった。
セカンドアルバムのラスト曲の「Lost in Sequence」が歌われ、しゅがしゅららの「校庭カメラガールでしたー!」で、メンバーが袖に引っ込む。アンコールの声に応え、もるももると、この日を境に卒業するましゅりどますてぃがステージに現れ、手紙を読み上げた。
もるももるの手紙は、ずっと自分に自信がなかったという話から始まり、プロデューサーにラップを教えてくださいと頼んだこと、コウテカの楽曲を本当に愛していることが語られた。特典会の様子から、本当はとてもシャイな子なのだろうことがうかがえる彼女らしい話だと思った。
ソロのもるももるでスタートしたアイドルラッププロデュースが、どういう経緯で校庭カメラガールになったのかはよく知らないのだけど、「ラップを教えてくださいと言った自分を初めてほめてあげたい」「最高のライブをします。ついてきてください」というもるももるの言葉にはリーダーとして、そしてアイドルとして、ラッパーとしての強い矜持が見えた。
そして、最後に手紙を読み上げたましゅりどますてぃ。
「コウテカ入るまでの私は大学院の研究室のテクニシャンという仕事をしていて」というところで笑いが起きる。コウテカのオタクはテカニシャンと呼ばれているのだ。「研究しながらアイドルをやった人はいないと思ったから、私がパイオニアになろうかなと思った」と話す。
「入ってからは困難の連続だったんだけど、このWOMBいう場所でやれたことも、素晴らしいメンバーに会えたことも本当にありがたいと思います」と謝辞を述べてから、「私はたぶんずっと、しゅりはしゅりで唯一無二の存在でいると思います。応援してください。ありがとうございます!」という言葉をどこか照れくさそうに語って締めくくり、もる&ましゅりによるベトナムコーヒーへ。
もるももるソロ時代の楽曲で、「くれたら、あげるよ、やさしくないね。あげたら、もらえるよ、それやさしくないね。」というところでフロアに向かって屈んで手を差し伸べるましゅりどますてぃが、急に視界から消えた。ああ、フロアに降りたんだと思った次の瞬間、ハイタッチしながら走っていく彼女の姿が目の前を通り過ぎていって、いつの間にかフロアは有志が配った赤いサイリウムで紅に染まった。走り去った先を追って左側を向くと、真っ赤なフロアの真ん中でサビを歌い上げる彼女が見えて、それは本当にアイドル現場の祝福の力を思い知る美しい光景だった。
ステージにましゅりどますてぃが戻ると、いつの間にかフロアにメンバーが集合していて、卒業する彼女のために作られたのであろう「Last Glasgow」が始まった。
コウテカの楽曲はアイドルオタクの間でよく「かっこいい」と表現されていたけど、サビは思い切り歌い上げさせるものが多い。ダサさを恐れてない感じがして、いい意味でとてもアイドル的だ。
個人的な話だが音楽に関してずっと門外漢だった私がいろいろなジャンルの曲を聴く勇気を得たのは、ひとえにアイドルというジャンルの持つダサさにある。「かっこいい」と違って「ダサい」は人を弾かない。
「Last Glasgow」は「ここで歌ったこと覚えててね 私がいなくなっても 刻み付けて」というストレートすぎる曲で、それを堂々と歌い上げるメンバーの姿はとてもかっこよかった。
そこからの「Trip with Mr.Sadness」「Swallow Maze Paraguay」といわゆるアゲ曲が来て、フロアはモッシュとリフトの渦に。圧縮で後方がぽっかり空いたけど、暴力的な感じがなく、ステージもフロアもハッピーでアッパーだった。そして、可愛らしいメロディーに乗ったマイクリレーが印象的な「Unchanging end Roll」。
終わりが見えたら写真を撮ろうよこれまでとこれからをつなぐ詩になるよ
という曲の後に、集合写真を撮影するのはなかなかズルかった。
ダブルアンコールと「Wedge Sole Eskimo」と「Last Glasgow」。「Wedge Sole Eskimo」には片手をあげる振りがあるのだけど、それをフロア全体が真似している様子はとても壮観だった。それだけ一体感のある風景が作り出せたのは、それまでの2時間弱のライブが充実したものだったことの証明だ。単純に、楽しそうなことは真似したくなる。帰り際に聞いた客の言葉から、amiinaが誰かも、今日卒業のメンバーがいることも知らない人がいたことを知って、よけいにそう思う。
そして、本当に最後の、「Last Glasgow」。
「その光の中 踊ってた君は 誇らしく微笑んでたんだ その光の中 踊ってた君は 誇らしく手を振って 去っていった」という歌詞を、ましゅりどますてぃをにらみつけるように強く見つめながら歌うののるるれめると、サビで感極まったように両手をあげるましゅりどますてぃの姿はどこかプロレス的で、なんとなくユーモラスだった。ましゅりどますてぃが一言も発さなくても充実感と寂しさでいっぱいになっているのがよくわかって、その表情の晴れやかさと力強さはいつまでも忘れられない。
2時間をきっちり使い切った、校庭カメラガールの最初のワンマンライブかつ卒業ライブ。
それは自分たちの楽曲をどう見せるかをきっちり考えた上で、メンバーそれぞれがアイドルとして背負っているものを見せていく硬派な内容だった。
卒業ライブという場で、ほぼそのことに関するMCをしなかったのに、パフォーマンスそのものからお互いに対する敬意や思いが見えたのも素晴らしかった。
ましゅりどますてぃの卒業という大きな節目のライブでもあったけれど、この誠実さを持って進み続けるであろう校庭カメラガールに、これまで以上に多くの人が目を向けることになるだろう。
いつかまた、この場に居合わせたことを自慢出来る未来に向けて。
p.s
らみたたらった、ぱたこあんどぱたこのMCの内容を教えて下さる方は随時募集しています。
昨日の校庭カメラガール1stワンマンAt.WOMB 年末の金曜にも関わらず400名近くの方にお越しいただきました。ありがとうございました!止まってられないので第二章はじめます。#コウテカ pic.twitter.com/0twx0DhW3l
— tapestok records (@tapestokrecords) 2015, 12月 19
セットリスト
Happy Major
Her L Bo She
Dance with Mr.loneliness
Post office Crusher
Star flat Wonder Last
Tomorrow girl Secret
TOKYO Terror
Puppet Rapper
iuM
Where the Wild Things
Lough Ma Fleur
Her L Bo She feat.amiina
Lost in Sequence
encore
ベトナムコーヒー
Last Glasgow
Trip with Mr.Sadness
Swallow Maze Paraguay
Unchanging end Roll
encore
Last Glasgow
補足
ホームページにはアルバムのトレイラーと歌詞が用意されていますが、別でライブ映像もいろいろあるのでセトリ順に並べました。ないものもある。
こーれかーらーのこーとはまーだわからないの。
もう壊れちゃって何もかも終わりっていうのが陽気でいいです。ライブ限定販売のCDに入ってます。
短編小説的な歌詞の構成が魅力。さよならポニーテールのあの頃とよく似ていますね。
踊れるーのーならーもうどーこーでもいいからとーの後のギターからのラップがすごいいいです。
初めてライブで聞いた時に一番びっくりした曲。サビは次誰が歌うんでしょう……。
コウテカたまにアニソンぽいって言われてるけど、歌詞のひねくれ具合とロマンチシズムの割合はたしかにギーク男子って感じがしますね。
「ここで歌ったこと覚えてるよ」の後のリリックが「なんで未来が明るくても」なのかをよく考えている。
これもサビのダサさがめっちゃ好きです。
私は誰?レスキューミー!答えを教えて レスキューミー!めるちゃんが高校演劇みたいになっているのが味わい深い。
しゅがちゃんがピースサインをしゅーってやるやつ。この曲の歌詞は全部いい。なんかライムベリーでのEチケとかに通じる、昔のテキストサイトっぽさを感じます。宙に放たれたはずの言葉なのに、なんだか自分のために用意されたよう言葉のように感じるところとか。ピロリロリッロっておもちゃみたいな音が郷愁を誘います。