彼女の3回目のライブとなったBAYCAMP2016はAbemaTVで中継されていて、ちょうどそれを見ていた私は「大森靖子以後の女の子」という印象を受けたのでした。歌い方のクセや髪型に共通項を見いだすことももちろん出来るのですが、それより私がはっきりと覚えているのは彼女のMCです。
「私は生きづらいなって感じることがめっちゃ多くて、BAYCAMPに出させてもらったのはオーディションなんですけど、CDを出させていただくのとかを、半年前まで仲良くしてた同級生とかに私の見ていないサブアカウントで枕営業とか書かれる日々を送っているんですけど。
そういう他意のない言葉って人を殺すじゃないですか。
私には音楽があるから死なないですむけど、私の大切な人はそういうことで殺されちゃう人がすごく多いから。
私は『そういう人が生きていくための最終兵器になりたい』と思って作った曲が、オーディションに受かってBAYCAMPに出れることになりました」
怒りと覚悟が含まれた、泣き疲れたような声と鋭利な目つき。そして、自分が向かうべき場所をきちんと定める聡明さ。荒削りなのに研ぎ澄まされたその姿に惹かれたのを覚えています。
彼女の初ワンマンはdues新宿。ディスクユニオンが管理している、ライブハウスと言うより音の出せる会議室のようなスペースです。
開場待ちの列に並ぶ人々の顔ぶれは、本人たちが小声で話していたように「ヒップホップのイベントっぽくない」。アイドルオタクもいれば、音楽好き、女子ラップ好きもいるけれど、「どんな層」とは括りにくい。
60キャパのduesはパンパンで、ゆったりした空気。VJがきちんと用意されていて、世界観のたしかさを感じました。深海の泡を映したようなVJと、水の音をアレンジした音があわさる場面もあり。作り上げた世界をもとにどれだけ大きくなるかという段階なのだと感じました。
映画音楽のような曲調に乗る「ロックンロールは死なない」「ガラス細工の新世界 ぼくは夜明けを告げる新世代」という言葉は、やはり激しくて力強いけど、この日はどこか穏やかな部分も。
それはMCで彼女が「リリースパーティーは友達を呼んだりしたけれど、今回は春ねむりを愛してくれる人だけを集めたくて。そしたらいっぱいで」「2017年はどんなことも肯定していきたい。安心してねって言いたいです」と語ったように、あの場が彼女を祝福したい人たちばかりが集まった場所だったことによるのでしょう。
ゲストにレイトが出てきて、「ロープにクスリ カッターの刃」というフレーズでコールアンドレスポンス。レイトはガンバの冒険やねずみのアーノルドといった、小さな体で走り回る児童文学上のネズミを思い出させる人でした。高い声と、深い色のパーカーがまたネズミっぽくて。後にカッターの刃に続く言葉が「路地裏のネズミ」と知って思わず笑ってしまいました。
最後の方でファンが持ち込んだバースデーケーキと一緒に記念撮影。朗らかで熱い夜でした。