ホンのつまみぐい

誤字脱字・事実誤認など遠慮なくご指摘ください。

「総合芸術としてのアイドル」を実現させるアイドルがいるなら、それはきっとamiinAだ/amiinA presents WonderTraveller!!! act.5@www-x

「アイドルイベントに、いやライブそのものに興味がなくなってもこれだけは絶対に行こう」と思っている唯一のイベント、それが「amiinA presents WonderTraveller!!!」。

 音楽を楽しむこと、自分たちだけの世界を構築すること、ステージとフロアがお互いに尊重しあうこと……。これらすべてを兼ね備えたたぐいまれなアイドル「amiinA」の運営がプロデュースする、これまたたぐいまれなイベント。それがWonderTraveller!!!だ。

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※前回の記事はこちら

 アイドル中心のブッキングの中にパンクロック、エレクトロダブ、ミニマルミュージックを選出するセンスはもちろん、タイムテーブルまで洗練されたメインビジュアル、可愛らしい当日の会場装飾、5時間を超えるイベントのために用意された安心のケータリング……とライブ前からすでに入念な仕込みの様子が伺える。

 

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 スタートは12月28日の14時30分。社会人にはなかなか厳しいスケジュールにもかかわらず、450キャパのwww-xがソールドアウトしたのは、イベントに対する信頼と期待値の証明だろう。

 そんなWonderTraveller!!!では、いつも最初にスクリーンに月と地球、そして地球を廻るロケットの可愛らしいイラストが映し出される。これはWonderTraveller!!!の根底にある「旅」というコンセプトを表現したもので、このスクリーンをバックに、下手にスーツ姿の男性が登場すれば旅の始まりだ。

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「ナビゲーターのナガセ」と名乗るその男性が、天井からぶら下がった豆電球をつけると、大きな拍手が起きる。

「ついにこの日がやってまいりました」という言葉から入り、「この土地には多くの旅行者の方がいらっしゃいます。皆さんが快適に過ごせるよう、お互いに尊敬を持って過ごしてください」という前説。ナガセさんの言葉は常に抽象的で、まるで児童文学に出てくる不思議な案内人のよう。そう、彼の言葉はMCではなくセリフなのだ。

 そんなナガセさんが最初に紹介する演者は3776


 3776は長く実質的な井出ちよののソロプロジェクトだったが、8月から新たに「井出ちよののソロプロジェクト」と「3776(新メンバー募集中)」の活動を並行させている。そんな彼女を、ナガセさんは「ふたつの世界を生み出すという新たな境地にたどり着きました。形容できないものは無理に言葉にしなくてもよいと教えてくれたあの子。またあの子に会えます」と表現する。

 井出ちよのちゃんという不可思議な寛容さと高い技術力を持つ少女が歌いこなすニューウェイブサウンド。アイドルオタクにとっては3776の不思議さ面白さは今更説明するまでもないと思ってるけど、今回は3776&井出ちよの。3776として演じる「生徒の本業」「誰かのモノです」の2曲の後に袖にはけると、スクリーンに富士の街を歩くちよのちゃんの映像が入る。画面の向こうから「どんな高校生になるのかな~~。かつての高校生も高校生にある前の自分を思い出してください」とこちらに語り掛ける、NHK教育の平日昼の番組のような映像。

 ちよのちゃん、再び登場。アイドルらしい純白ベースの衣装から青いジャケットにタータンチェックのスカートというちょっぴり制服っぽい衣装に衣替え。披露されるのは「高校生になったちよのちゃんを想像して作られた」という曲たち。


 「小動物女子」というコンセプトで作られた「ハートの五線譜」が流れ、バックのVJに吹奏楽部にいそうな雰囲気のちよのちゃんが映し出された。「ハートの五線譜」はサビのきらびやかさがキュートなポップな曲。次は「イケメン女子」というコンセプトの「授業は今日も」。VJにはパンクファッションのちよのちゃん。ロック調のビートのアニソンぽい曲。「部活引退の次にすること」ではVJにバスケのユニフォームを着たちよのちゃんに、重めのアブストラクトなビート。

 

 曲ごとにカラーを変えて女の子を表現するプロデューサーの石田彰の相変わらずの変態っぷり。ちよのちゃんも相変わらず、親戚の子みたいな親しみやすさと、アイドルっぽいふてぶてしさと、プロフェッショナルな表情の豊かさと集中力で軽やかに踊っていた。

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3776を聴かない理由があるとすれば

3776を聴かない理由があるとすれば

 

  

もうすぐ高校生活

もうすぐ高校生活

 

 

sora tob sakana

 ナガセさんの「無数の波形をみんなでのぞきに行きましょう」という案内からsora tob sakana。4人組アイドルグループで、ポストロック調のちょっとひねくれた音に中高生の声といういわゆる“楽曲派”向けのコンセプト。


 ふんわりした真っ白な衣装と振りコピしやすいダンスはわりとスタンダードな正統派アイドルで、どちらかというといわゆるアイドルというより合唱団ぽいかな。その辺破綻のなさがちょっと物足りなくもある印象。

 ただ、この日はVJがとてもよかった。海中から水面の波形をのぞく映像に、地球のシルエットがかぶさる映像から始まり、涼しげなステージに魅入られていると真っ白な衣装の少女たちが登場するという入り。

 sora tob sakanaという名前だけど、深海にいるような、あるいは熱帯魚の水槽のような静けさがあって独特の美しさがあった。

 特に「広告の街」でのVJ。


迷路の様な恋に落ちていく
心と裏腹
ゲームの様にレベルアップ
うまくはいかない
検索結果並べても
探せない気持ちは
迷路の奥に消えていく
わたしを見つけて


 現代的な語彙と普遍的な恋心の組み合わせに、透明感のある少女の声が組み合わさった名曲。地図記号で描いた森のように密集した文字群が映し出され、サビに入ったところで「検索結果並べても」などのフレーズが大きく浮かび上がる。VJはそれぞれ見事だったけれど、この演出がもっとも攻めていて清楚な衣装で歌い踊るステージとのアンバランスさも含めて目が離せなかった。


サカナ日記27日目 「広告の街」ダンス映像

 

sora tob sakana

sora tob sakana

 

 

あらかじめ決められた恋人たちへ


 ナガセさんのナビゲートは「人は何度も過去をプレイバックし、未来に想いをはせる。ただ音だけがその隙間を埋めてくれる」。

 あら恋はエレクトロ・ダブという聞きなれないジャンルに分類されるらしい。アイドル2連からのバンドは、セッティング中の独特の緊張感が気持ちいい。

 

 前回も思ったけれど、あれだけ音数があるのにメンバーが主張しすぎずにひとつの塊になった音をぶつけてくるのがスゴい。お互いを引っ張り合いつつの演奏で、最後フロアを引っ張ってくれるのが最高だ。

 そして、フロントの池永正二さんが誰より身体を揺らしているのがいい。基本的に若い方がエラいと思っているし、美しい方が強いと知っているのだけど、Have a nice dayの内藤さん、浅見北斗さんしかり、おっさんが音に合わせて全身を揺らしている姿の汗と哀愁はまた別のありがたみがあって大好きだ。

 合間に「えー、2回目呼んでくれてうれしいです」という、簡潔だけど感慨深そうなMC。

 最終的にだいぶ汗をかく。フロアも盛り上がった!


あらかじめ決められた恋人たちへ - 前日 @ 頂2014

 

after dance/before sunrise
 

 

 インターミッションにアイドルラップとポップの中間点と言える楽曲の963のフロアライブ。ぴーぴるとやーぷんの2人組グループ963は、一度ぴーぴる1人になり、新メンバーねーぷんを加えてまた2人になった。2人はフロアの中央で踊り、その周りにオタクがサークルを作る。963の姿は見えなかったけれど、相変わらずの快活で、自虐的なのに嫌味のないMC。


 前回は観たときはぴーぴる1人きりだったので、正直楽曲を楽しむ精神状態ではなかったけど、改めて聴くとやっぱりあざといまでの良さ。拙い声が生きる音作り。

 ライブ終わり、「懲りもせず2人の少女が迷い込んだようですね」というナガセさん。


963(kurumi)『ストロー』

 

 

 

アイドルネッサンス


 ジャンル問わずの名曲カバーで知られるアイドルネッサンスの紹介は「過去と未来、彼女たちの光の旅へ参りましょう」。

 前回のWonder Traveller!!!ぶりだったけれど、みんな半年分お姉さんになっていた……。

 存在の圧力が上がっていて、過去の名曲を歌うコンセプトはそのままなのだけど、おそらく世界観に対する理解も変わったのか。曲に合わせて身体を音に乗せる能力も表情も格段にあがっていて以前とは別のグループのようだった。

 

 ダンスのレベルが高く、真っ白に制服風の衣装なのでそれぞれの身体の使い方がはっきりわかるのが官能的。踊るロールシャッハのタフなダンスでフロアも上がった。


11.6@お台場【「踊るロールシャッハ」ライブ映像(初披露)】アイドルネッサンス+オワリカラ+炭竃智弘+園木理人

 

アワー・ソングス

アワー・ソングス

 

 

RYUTiST


 新潟県の正統派4人組アイドル。「白い4羽のトキのような少女の世界」とはナガセさんの言葉。優しい曲調のポップスであるというのはもちろん、4人の女の子の柔らかな空気も大きな個性の一つだ。

 

 「奇抜で刺激的なものばかりに目を奪われがちですが、もっとも大切なのは普遍的なものだと私たちに教えてくれることでしょう」というナビゲートから波の音でスタート。

 80年代ポップス風の曲はユニゾンが清潔感バリバリ。mixやコールもほとんど入らない。本人たちのほがらかさも含めて、存在を崇める現場という感じ。点数をつける対象ではないというか。馴染みのいいメロディーの続くスタンダードな楽曲に、フロアを信頼しきっているかのように柔らかいパフォーマンス。

 すごみがあったのは毛皮のマリーズのカバーのラスト・ワルツ。雪の日、夢から覚めた少女が姉になだめられ、先ほどまで見ていた夢を思い出すという不思議な曲だ。

 

胸に大きなリボンの

とても綺麗なドレスで

そして 私は誰かのために

バレエを踊るのだけど

終わりは来るのよ

私 もう 悲しくって

泣いたまんまで踊るの

泣いたまんまで踊るの 

 

 歌詞は美のはかなさを優しく歌う内容。それをチェックのワンピースの4人の女の子がシンプルな振りつけで歌いこなす様は、まるでステージの上に4体のオルゴールが置かれ、それが回って歌っているかのように錯覚させるような透明感。でも、サビを歌うむうたんの少しかすれた声や、踊る女の子たちのしなやかさはあくまでも実在の女の子で、短い演劇のような美しさがあった。

 

 ラストワルツの後は高度なステージから一転して、ゆるキャラを紹介しつつののんびりした自己紹介MC。まるでNHKの子供番組みたいだけれどそれがいい。


 最後はこの日唯一mixの入ったポップな代表曲「ラリルレロロロ」で〆。最後に「バハハーイって言ってください」というお願いも。難易度高っ!


【カバー】ラストワルツ(毛皮のマリーズ)|RYUTist

 

日本海夕日ライン

日本海夕日ライン

 

 

HUSKING BEE

 

 「脳裏に焼きついて離れないその音が過去と未来とを焼き付けてくれました」「光に向かって歩き続けるんです」というナガセさん。

 

 エモ系パンクロックで、いきなり会場ぶちあがってそこからモッシュ・ダイブの嵐。後から知ったのだけど、30~40代の多いこの日の客層にドンピシャの、時代を代表するバンドで、「ロックに夢中だった若い頃ぶりに観た!」という人も多かったよう。

 正直パンクロックはあまり得意ではないのだけど、転げ落ちるようにダイブして、また笑顔でモッシュピットに突っ込んでいく人々の姿は向日性しかなく、その明るさにグッと来た。

 

 フロアの盛り上がりに押されて増していくステージの多幸感が、再びフロアに還元されていく様子はとても幸福で、どこか照れたような笑顔を見せるボーカルの磯部正文さんの表情が印象に残った。


 最後の曲でなぜか両手をソイソイ動かす盆踊りのような振りがフロアに広がっていたのが何か面白かった。


HUSKING BEE - 新利の風

 

Suolo

Suolo

 

 

 さて、トリかつ主催のamiinA

 満を持しての紹介の言葉は「涙を超えて脚力を増した少女たち」。

 

 6月の校庭カメラガールツヴァイの生誕祭以来amiinA。まず感じたのはmiyuちゃんの存在感。物理的に何がとは言えないのだけど、表情も動きもタフになっていた。

 

 amiinAはポストロックにワールドミュージックを掛け合わせたような、重量感があるけれどどこか開放的な音が特徴。駆け出す振り付けや空を仰ぐような動作が疾走感を煽るけれど、彼女たちを包むビートは決して軽くない。遠慮のないドラムに、2人のダンスがついていく。

 

 Atlasだったろうか。最後の低音の鳴りが怒涛の迫力で、まるで動物の群れが通り過ぎていくような振動を身体に浴びる。なんだこれは、圧倒的じゃないか。

 

 ここまでつづってきたように、これまでの演者は皆、すごみのあるライブをしていた。だけど、適切なマイクの音量、適切なフロアへの音響。このふたつに関しては比べるまでもなくamiinAが圧倒的な正しさで空間を作っていた。

 

 もちろん、単に音がすごいという話ではない。先ほど駆け出す振付と書いたけれど、パントマイムのような動きを習得した上で走り出す2人の動きは、ただ単に走り真似をしているだけでなく、その中に抑えきれない力がみなぎっていることを感じさせた。

 

 一方、monochromeでは、時にお互いの顔を見合わせ、時に背中で呼吸を合わせ、存在を確かめあうような繊細なダンスを繰り広げる。まるでミュージカルのようでもあり、コンテンポラリーダンスのようでもあり。

 

 さわやかな笑顔を切らさないのに、甘えのないステージをほとんど気圧される勢いで観ていた。

 一方、MCは相変わらずのゆったりした口調。どんな国に行きたいかというお題で「きゅうりの国!きゅうり畑のある国」というamiちゃんと、「ブロードウェイに行きたい!」というmiyuちゃん。amiちゃんがケータリングメニューのきゅうりの一本付けに言及すると「miyu途中で飽きちゃった……」という返事。一方、amiちゃんは「ブロードウェイって何?」と言ってmiyuちゃんに盛大に驚かれ、慌てて「ミュージカルいっぱいやってるところだよね」と釈明する。とにかく朗らかで、自分を作っている風がまったくない。

 

 後半のMCでは、amiちゃんがお客さんやスタッフに謝辞を述べながら泣きそうになり、背中を向けるし、miyuちゃんは書いてきたこれまた長い長い謝辞の手紙を読んで、「泣かずに読めた~~」と最後に付け加える。かわいらしくて、たくましい。

 

 アイドルのプロデューサーが自分自身のやりたい音楽(その多くは若き日に憧れた音楽)を女の子を使って実現させるという運営は少なくない。こうした傾向が生み出す化学変化はたくさん観てきたし、特に否定する気持ちもなかったのだけど、「やりたい音楽をやりながら、女の子たちの精神的自立心を信頼し、総合的により高い次元を目指す」ことに、これだけの水準で成功している運営は見たことがなかった。

 

 女の子たちのダンスと歌と音と衣装とメイクと演出。2人の柔らかな人間性も含めて、これは総合芸術としてのアイドルを目指していると言えるのではないか。

 

 miyuちゃんはFUJIROCKでCanvasをやりたいと言っていて、アイドルにしろバンドにしろ、若者はそういうことを言って、第三者はそれを微笑ましく思いつつ半笑いで聞くものだけど、amiinAの作り出す強度には、「たしかにそこで霞まないだけの存在になれるのでは」という説得力があった。

 この日はサークルモッシュ、ウォールオブデス、肩組しながらの円陣と、とにかくあらゆる種類のフェスでの動作がフロアに盛り込まれていて、それは直前のHUSKING BEEの影響もあるのだろうけど、ステージそのものにそれだけ人間の衝動を揺り動かすものがあったのだと思う。

 最後のCanvasには、サビにコールというか、オタクの合唱を前提とした箇所があるのだけど、そこでオタクが一斉に挙げた手を、先導する2人の少女の姿は可憐で壮観だった。

 

 壮絶なライブを終えて、ニコニコしながら少女が去っていく。ポカーンとしつつ、オタクのアンコールを眺めていると、ナガセさんがきっぱりとその日のライブの終了を告げる。そう、Wonder Traveller!!!には、少なくとも私の知る3回にはアンコールがない。それもこのイベントを特別なものにする要因のひとつかもしれない。とはいえ、しばらくしてから2人が飛び出してきてフロアに手を振ってはくれたのだけど。

 ライブという言葉に収まり切れない圧倒的な音楽体験。そんなものを味わうのはJAZZBiS階段ぶりで、アイドルという枠の持つ果てしなさに震えた。

 

 “「amiinA presents WonderTraveller!!!」は絶対に外してはいけない”

 

 この実感が、また大きく上書きされた夜だった。

 

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Avalon

Avalon

 

 

 

 

Avalon

Avalon

Avalon (Instrumental)

Avalon (Instrumental)

Atlas - EP

Atlas - EP

 

 

「失踪日記」吾妻ひでお

 

失踪日記

失踪日記

 

 

 

失踪日記2 アル中病棟

失踪日記2 アル中病棟

 

 

 購入以来の再読。

 改めて読み返すとホームレスになっていた頃の話より、配管工になってからの人間関係や、アル中病棟の人間模様が数倍インパクトがある。

 ガス会社で出会う、油圧のネジを隠して相方が困った顔をするのを楽しむ柳井さんや、マージンをもらうために無理やり電気屋を連れてきて家電を買わせる上森さんなど絶対一緒に働きたくない。

 「アル中は治らない。ぬかづけのきゅうりが生のきゅうりに戻れないのと同じ」というインパクトのある言葉が刺さるアル中病棟編。

「なかよくやりましょう」と言って飲み物やごはんのおかずをあげてしまうN村さんの話が悲惨。ミーティング(お互いが反省を吐露しあう会)で「一から十までやり直し」というものの、結局外出時に飲みすぎて倒れてしまい、総スカンを食らう様は目に浮かぶようでつらい。

 画のかわいらしさと、自己にも他者にも同情のまなざしを向けない吾妻ひでおの距離感が生臭いエピソードを娯楽として読ませることに成功しているけど、現実として見るとどれもなかなかしんどい。興味深いという意味では面白いけどね。

 書き手もそのあたりは理解しているのか、最後のエピソードはアル中病棟で出会った中年男女の何気ない信頼関係を描いていて、このあたりがうまい。

 病院内の庭でタバコを吸っている、サングラスでおしゃれな着こなしの中年女性。そして彼女に従う巨漢の中年男性。

 中年女性が草原に寝転がるのを、「枯れ草がついてしまうよ」と言って起こし、その背をはたく男性の姿を描いて、次のコマでぴゅうと吹く風と自分の姿と建物を描いて、それで何となくきれいに終わる。マンガの巧さというのはこういうところに出るのだと思わされるラスト。そして、やはり「絵が可愛いは偉大」。

※そして、これを書いて検索したところでアル中病棟が出ているのを今知った。

ワッショイサンバ×無能「もつ酢飯」デビューライブ「PASS DA 煩悩」@池袋knot

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 ワッショイサンバ×無能のユニット「もつ酢飯」のデビューライブを見届けにPASS DA 煩悩@池袋knotへ。


 池袋knotは駅から少し距離のあるアットホームな地下のクラブ。奥のソファーで演者が焼きそばを作っていたりする様子がちょっと部室のようでした。タバコのにおいに咳き込みながらバーカウンターに行くと、校庭カメラガールツヴァイ現場で知り合ったケンホーさんが。うぉーうぉーとーぅみーちゃんのオタクの蓄電a.k.a猫まみれ太郎くんを連れてきてくれたそうで、しばしコウテカ2現場やアイドルの話をしました。


 ケンホーさんは池袋PARCOで行われたファッションMCバトルの動画を観てワッショイサンバちゃんに興味を持って、足を運んでくれたのだとか。

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 ドレッド・迷彩のガチB-BOYも多い現場でちょっと居心地の悪そうなお2人でしたが、過去の現場のことなどお話しできて楽しかった。

 この日は本来ライブに参加する予定だったMAKI DA SHITくんがお身内の事情でお休み。代わりにMCバトルが開催されることになり、サンバちゃん、無能ちゃん、蓄電くんもバトルに参加することに。

 DJタイムが終わってバトル開始。賞金は2017円&サンバちゃん提供のディズニーランドチケット2枚。

 サンバ×Masaは先攻サンバちゃんの「ディズニーランドは嫌い 長時間並ばなくちゃいけない ディズニーチケットの使い方教えてくれよ」から入って、「卒業遠足で初めてのディズニー 着ぐるみ恐怖症 ドナルドダックで号泣 8歳の俺」など丁寧にアンサーを返すMasaくんの勝ち。

 無能×SHOHEIは無能ちゃんちょっと先攻でうまく攻められてなかったかな? SHOHEIくんの勝ち。乗りにくそうなビートだったのにふたりともちゃんとラップできててすごい。(この試合は動画があがってなかったので具体的なところははしょります)

 蓄電×ベアは蓄電くんがいきなり座りだしてからのスタート。「座りながらチルしてみんなのこと楽しませる 俺らふたり楽しませる 池袋knot俺単身乗り込んだがみんな拳突き合わせてウェイウェイやっててちょっと怖かった」から、ベアさんが「怖いのはヒップホップあるある 怖い立場に回りだす そんでもって後輩に酒をおごりな 呑んだ数だけ俺は強くなるぜ」と丁寧にアンサーを返してベアさんの勝ち。

 その後、ベアさんにいっぱいおごってもらってベロベロになった蓄電くんが「もっとラップしたいラップしたい!」って言いながらDJタイムにひとりでフリースタイルをしていたのが微笑ましかったです。

 バトルは「いかにディズニーランドに行きたいか」を切り口にしたものが多く、彼女のあるなし暴露も含めて通常のdisりあいとはまた違った面白さがありました。

 時間が押していたため、延長は出さないと主催が宣言していたのですがINAVA×MASAはあまりの熱さと面白さに2回の延長。いやあ、いい試合を見た。優勝はbunTesくんでした。

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  さて、バトル終わってもつ酢飯のデビューライブ。配信番組「らっぷの時間」の女性MC特集ですでに一曲披露ずみだけど、上がったり下がったりする客のいる場でのライブは初!

 バックDJにビートメイカーのDocManjuくんを従え、サンバちゃんソロ「meshi-agare」から、無能ちゃんのソロ「頭文字M」。

 どっちもパンチラインをガツガツ投げてくる曲。

いただきますでまずかますバース
おなかがすいたらファックアンドキック 
ラブアンドピースよりハムアンドチーズ

ごちそうさまで幕が閉じる

―meshi-agare

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別に興味感じねえって避けてきた三次元
人以上のコンプレックス隠す今日もマスクで
この思い消化させるこっからがリバースで
イエス アイアム真正の喪女
―頭文字M

 特に「いただきますでまずかますバース」は口気持ちよくて、ついつい唇が動いちゃうフレーズなので、ぜひ音源を聴いてほしい。

 そして、かわいい女子大生の日常をラップしていますというMCからのもつ酢飯のアンセム「G.I.R.L」。

  これが極めてタチの悪いパンチラインの連続。

メリクリハピバではしゃぐ女へ
シュークリームは投げるもんじゃねえ

彼氏がくれたサマンサタバサ
果てしなくベタ 黙んなバカが

キラキラ女子のスタバインスタ
デコピンすればくたばりますか

soundcloud.com

youtu.be

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 2人とも緊張していたと思うけど、リリックははっきり聴き取れて、周りのお客さんもノッてた! いい意味で人を調子に乗せるパワーがある!

 始まる前にサンバちゃんにバトル音源含めたラップをする上での目標を聞いていたので、ゲラゲラ笑いつつ、どこか感慨深く聴いていました。

 ライブ終わって最後にDJのDocManjuくんを紹介するも、彼は緊張のせいかテンション低めで「アレ……?」という感じを漂わせつつ終了。

 ステージから降りた2人はそれぞれの友だちや、クルーの仲間に労をねぎらわれていました。

 その後はのんびりライブを見たり雑談したりしつつ、DJタイムのタイミングで退出。ライブはみんな達者だったけど、たぶん詩奏さんという人のわりとゆったりした曲が好きだったかな。

 フロアも小さな段差のステージも、それぞれが好きなように楽しんでいるよいイベントでした。

 もつ酢飯は2月にEP発売予定。それとは別にMAZAIRECORDSではコミケでの音源の委託配布およびフリーダウンロードを予定しているので、こちらもチェック!

 

 また、無能ちゃんとサンバちゃんはどちらもシンデレラMCバトルに出るので、気になる方はこちらへ。

女性ラッパー限定MCバトル「CINDERELLA MCBATTLE」プラチナム主催で開催 - 音楽ナタリー

 

BELLRING少女ハート 活動休止前ワンマンライブ『BABEL』@赤坂BLITZ

 ベルハーについてはすでにいろいろな人が言葉を尽くしているし、きっとたくさんの人が昨日のことについて書くと思うし、書き留めるべき個人的な思い出もないので、簡単に。

 3時間弱、アンコールも含めて37曲。

 フロアの狂騒も含めてライブアイドルの面白さというのは言うまでもないこと。この日も当然、リフトされながらサイリウムを振り回すオタクや、倒れこむようにサーフするオタク、振りコピを楽しむオタクがフロアにあふれていたけれど、途中からそうしたオタクの喧噪すらステージの緊張感が飲み込んでいって、リフトで上がるオタクたちの背中が完全に舞台装置の一部に見えて来たのが印象的だった。手を天井に差し伸べる振付の多いベルハー。ステージに向けてオタクが手を差し出す様が演劇的。

 「ROOM24-7」「男の子、女の子」「タナトスとマスカレード」「サーカス&恋愛相談」「low tide」の流れは、まるで学生時代に見ていた寺山修司の実験映画のようで、特殊な儀式を目にしているようだった。いや、でも寺山の作品はいつも人間が道具になっていたけど、アイドルはどれだけの音楽的強度に支えられていても、主役は女の子たちなのだ。というか、ちゃんと主役になれる女の子たちがいてステージが完成するのだ。

 最後に「the Edge of Goodbye」のサビを繰り返し、オタクがヘロヘロになっていく中、みずほちゃんが「あれ~~え?」と言いながらフロアとのじゃんけんを続けていくさまがとっても可愛かった。

 そう、この日はみずほちゃんがとても楽しそうだった。いや、メンバーそれぞれが楽しそうだった。自分を含む多くの人にとっては「この日が最後のベルハー」だったと思うけれど、ステージは湿っぽくなくて、アンコール2曲目で折られた、メンバーそれぞれの色のサイリウムもなんだか商店街のお祭りの電飾みたいな浮かれた風に見えた。甘楽ちゃんだけちょっと失敗していて、最後のMCで顔いっぱいに悔しさをにじませていたけれど。(翌日インフルエンザと判明)

 アンコールでスクリーンに、さらっとメンバーの卒業後はベルハーの名前がなくなることが伝えられ、「ベルハーはベルハーの好きなようにやるから、お前らはお前らのロックをやれ」という文字が流れる。

 田中プロデューサー、健気な人だ。

 LinQの再編、あヴぁんだんどの小日向夏季ちゃんの卒業、BELLRING少女ハート甘楽ちゃんの卒業兼移籍、lyricalschoolの3人卒業と衝撃ニュースの続いた週だけど、感傷より先に、やりきった喜びや楽しさを前に出すメンバーがすがすがしかった。

 「出会っていればきっとベルハーを好きになった人」の多くが、その名すら知らぬうちに終わってしまうのは悲しいけれど……。

blog.livedoor.jp

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tagkaz.hatenablog.com

tagkaz.hatenablog.com

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BELLRING少女ハート「B -TOKYO DOME CITY HALL-」 [DVD]

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BELLRING少女ハート「Q -Zepp Tokyo-」 [DVD]

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ヒップホップごっこのその先へ/校庭カメラギャル 1st e.p. 「スプラッシュマウンテンでざるそば」 リリースパーティ 「ウテギャ VS コウテカ2」 @新宿Loft

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歌舞伎町のホストの看板は、まるで地下アイドルのアー写のようで、その発光具合に気圧されて思わず写真を撮っていたら、後ろから聞き取りやすい声のラップが流れてきた。

振り返ると、スーツ姿の男性がサンタのコスプレをした女の子の写真をキャバクラの立て看板にペタペタ貼っていた。

立て看の上には小さなスピーカーが置かれていて、そこから般若の曲が流れていたのである。

歌舞伎町とレベルミュージック。

立て看を横目に見ながらたどり着いた新宿LOFTは、地下1階のライブハウス。LOFTの地下へ降りる階段の前にもホストの看板があり、いつもそれを見ると「着いた!」という気持ちになるのだった。

校庭カメラギャルの初EP「スプラッシュマウンテンでざるそば」(会場限定)リリースパーティーは、校庭カメラガールツヴァイ(コウテカ2)×校庭カメラギャル(ウテギャ)の2マン。

同じレベールのラップクルーだけど、クラブミュージック×ラップのコウテカ2と、音もリリックもヒップホップ色の強いウテギャ。

そして、解散目前のコウテカ2と初リリースのウテギャ。

コウテカ2は、現場への足が重くなったタイミングで解散の報を聞いたことと、8月にそこそこ辛辣な内容のブログを書いたことが重なって、11月はどこか罪悪感みたいなものを抱えながらライブを観ていたから、乗り切れないことが多かった。

だけど、自分が違ったのかステージが違ったのかはわからないけど、この日はそういう面倒な感情を忘れて踊ることが出来て、もうそれ以上のことはないよな。

Wedge Sole Eskimoのサビのポーズを久々にしっかりやった。


半端ないくらいめっちゃダンス!!


校庭カメラガール/Wedge Sole Eskimo 【甘噛みモーニングコール】(2015年1月25日)

校庭カメラガールツヴァイ 3rd album "Night on Verse" teaser by tapestok records | Free Listening on SoundCloud

さて、コウテカ2で暖まったフロアに挑む、この日の主役の校庭カメラギャル

校庭カメラギャルいんだはーーうす!!!」

と叫んで飛び出てきた。

手足をバタバタさせる姿がかわいいらみたたらったちゃんと、衣装のせいでちょっとロシア演劇の登場人物っぽいぱたこあんどぱたこちゃん。

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夏のタワレコぶりに見た2人。ラップの上達はもちろん、煽りがうまくなっていて驚いた。

コーレスを書いたオタクの手作りパネルがフックごとにあがるハートフルさと、思い思いに身体を動かすオタクが作る自由な空気がフロアに独特の熱として広がる。ステージを追いかけるようなオタクのコーレスが一体感を作り出し、それを煽る演者の熱量も上がっていく。

お披露目ライブを観た時のぎこちなさを覚えているのでグッときてしまった。

ところでウテギャはリリックにdisが多い。

別にここは君の夢を再現する現場じゃないんだよ うっさいなもう黙ってろよ

ーボビーとシャンパ

 

音楽をやりたくてこの場所に立っているのに音楽を聴かない奴らの前で歌ってる

ー全然わかってないくせにわかってるぶってるおじさんウザい

 

ボビーとシャンパン (demo) / 校庭カメラギャル by tapestok records | Free Listening on SoundCloud

もともと人のよいお嬢さん2人という風情のぱたちゃんとたらちゃん。活動当初は明らかに言葉の強さが2人の雰囲気から浮いていたのに、いつのまにかフロアを踊らせるためのフックになっている。

でも、MCでは相変わらずひたむきな空気が魅力的で「こんなにお互いのパートが長いのは初めてで、ちょっとミスるとすぐやり直し〜〜みたいな」「コウテカの時のRECと歌い方違いすぎて」なんて話。

「オタクってドエムなんだなって思った」という話から「コウテカの曲でもみんなディス多い曲好きだよね。Puppet Rapperとかね!」でPuppet Rapper!


「暗夜行路TRIP!」がオタクのシンガロングになっていて、「あんやこーろーとーーりっぷー」というイマイチぴったり揃わない声の響きが間が抜けていて、でもハッピー。

たらちゃんが合間に「コウテカからウテギャに異動になった時、『なんで』って思ったけど、今はウテギャでよかったと思ってるー。最後までウテギャでよかったって思えるようがんばるぞー」と叫ぶ。ラップの時とはまったく違う、ちょっと抜けた感じの素直な話し方。そう、当初はコウテカとして活動していたたら&ぱたはコウテカ2の結成に伴って、ウテギャに移籍という形をとっている。

 

岩手から出てきたけれど、地下アイドル活動に納得がいかなくて、講談社主催オーディションミスiDを受け、校庭カメラガールに加入したぱたちゃんと、友人のつきそいのような気分で受けたオーディションに合格し、何となく校庭カメラガールになってしまったというたらちゃん。


そして「ディスと言ったらウテギャだよなー」からの全然わかってないくせにわかってるぶってるおじさんウザい。

全然わかってないくせにわかってるぶってるおじさんウザい (rough) / 校庭カメラギャル by tapestok records | Free Listening on SoundCloud

 

「うざいとか言いながら、お前らのこと大好きだー」と叫ぶぱたちゃん。

そして、後半に来て長いMCが入る。

「東京に来て2年が経ちました。最初は自分のやってることが悔しくて、そこでコウテカになって、今はウテギャだけど。私はもっと上に行きたいと思います!」

コウテカ以前のぱたちゃんのことはよく知らないけれど、コウテカだった頃のぱたちゃんが、どこか辛そうだったのはよく覚えている。

だからこの日、「お前らのこと大好きだー!」と満面の笑みで叫ぶ姿は余計に見事に感じた。

そしてたらちゃんのMC。

「この間、高校の同級生にあって、みんな結婚したり彼氏を作ったりしていて。ああ、うちは人生の一番濃い時間、大事な時間を使ってるんだなってやっと自覚してきて」という語りから、「その辺のリア充よりうちは幸せになりたいし、みんなのことも幸せにしたい!」という叫び。

盛り上がるフロア。

そして、「この歌詞、すごい大事なことが詰まってるのでちゃんと聴いてください」という言葉に導かれて始まった新曲「ギャルドリーム」。

”絶対にライブに来てください”とか自分の夢なのに結局人頼み かき消してよスピーカー

涙の数だけ強くなれるなら弱いままでいいからずっと笑っていよう

 

youtu.be

ピアノの音色に導かれて歌われる、シニカルなリリック。でも、その分切実で声に嘘がない。フロアは噛みしめるようにその言葉を聴き取っていた。

最後に花束の贈呈があり、アンコールでその程度。

その程度 / 校庭カメラギャル by tapestok records | Free Listening on SoundCloud

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正直、ぱたちゃんとたらちゃんの突然の移籍は唐突な感じがして、当時は違和感が強かった。

でも、LOFTでラップしてオタクを踊らせる2人の姿はかっこよかったし、本人たちの持つ健気さと相まって不思議なおもしろさ込みで輝いていた。

帰宅後、「今日のウテギャはヒップホップだった」というツイートをいくつか見た。でも、彼女たちがいくら挑発的なリリックを口にしても、そこに本人が生み出した言葉はひとつもない。

だって、アイドルだもんね。

でも、「マイナスも含めて自分自身を吐き出すことを悪しとしない」ヒップホップという形式の力が、ぱたちゃんとたらちゃんの殻を破る一因となっていたのは間違いなく、そしてこの日のライブの熱さは本物だった。ヒップホップごっこからつかんだ何かが、確実にあった。


「これからの校庭カメラギャルの成長を見てってください!」

「今日は素敵な歴史の1ページめ!」

というぱたちゃんのいたない声が、いつまでも耳に残る。そんな日だった。

 

※ちなみにウテギャは1月もライブ会場限定EP「シューマッハ」発売予定、3月は初の全国流通アルバムを予定しているそうなので要チェック!

 

校庭カメラガール

校庭カメラガール

 

 

Night on Verse

Night on Verse

 

 

dot.asahi.com

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校庭カメラガールツヴァイセットリスト

Post office Crusher

Lovin flash Da Bagdad
Please Breeze
Slingshot Stagecoach

Lil Tomte
Humpty Taxi
Star flat Wonder Last

Salt lake Lostman
TOKYO Terror
Lonely lonely Montreal
Wedge Sole Eskimo
#コウテカ2

校庭カメラガールギャルセットリスト

ボビーとシャンパ

チルチルイキル

その程度

Puppet Rapper

全然わかってないくせにわかってるぶってるおじさんウザい

ウインターギャル

ボビーとシャンパン(トラック違い)

ギャルウォッシュ

ギャルトマホーク

ギャルドリーム
EC その程度

友人で、仲間で、先輩後輩で、師匠弟子で。17歳差の二人の集大成/サ上と中江ワンマンライブ「支配からの卒業」@代官山LOOP

 ラッパー・サイプレス上野東京女子流の中江友梨、17歳差・音楽家だけどジャンルは別々・おじさんと女子高生(開始当時)という不思議なコンビの3年間の集大成ライブ。

 支配からの卒業は中江ちゃんがつけたタイトルらしいけど、深い意味はないそうだ。

 もともとスペースシャワーネットワークの単独企画「サ上と中江の青春日記」内ユニットだった「サ上と中江」。でも、3年で楽曲を制作して、中江ちゃんは自分でリリックを書くようになって、ミニアルバムを出して、イベントにも「サ上と中江」で呼ばれるようになって、2.5Dの企画として「マイメン100人できるかな?」が始まって……。

 最後のフルアルバムについた「ここらでいったん一区切り」というふれこみがちょっと切ない最初で最後のワンマンライブ。会場は代官山LOOP。

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 着いたのが19時40分頃、まだ始まっていなくてほっとして、荷物を下ろしたくらいのタイミングで「よっしゃっしゃす!」からスタート。

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 後ろにVJが広がり、今は亡き2.5Dを思い出させる雰囲気。第1印象は、「中江ちゃんラップ巧くなった! 」。銀色のジャケットにボロボロのジーンズ、プラスチックチェーンをネックレスにするコーデがキュート。上野さんは赤と青のジャケットにエクソシストTシャツで今日もファンシーおじさん。

 マイメンでは庄司芽生ちゃんがダンスで参加。ダンスパートで芽生ちゃんと顔を見合わせる上野さんがかわいかった。芽生ちゃんもポニーテールに白Tシャツというスポーティーな服装。「マイメン100人できるかな?」に参加してくれたゲストの写真もVJに投影。

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 MC中、突然バックDJのBAET武士さんに話を振る中江ちゃん。

「タケちゃんはサ上と中江の現場で鍛えられたでしょ?普通DJの人こんな風に話しかけられることないもんね?」

 押しまくる中江ちゃんに対して、「この人フジロック出てますからね?」と苦笑する上野さん。

「いや〜〜、そんな人に私ヤバくない?」

「無礼だよ……」

 からの売命行為。これは現場で聴くと本当にリリックがラッパーとアイドルにぴったり。

命を売るで売命行為
でも面白くなきゃなそのストーリー
骨は拾ってくれよホーミー

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 My Home Townでは元LinQで、今はソロで音楽活動を続けている深瀬智聖ちゃんが参加。この智聖ちゃんのラップがかっこよかった! 智聖ちゃんはもともとヒップホップ好きで有名で、DJとしてB-BOY-PARKに出演したこともあるけれど、ラップを人前で披露したことはあまりないはず。それなのに歯切れのいいラップが弾丸みたいで気持ちよい。

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 そして「最後までいたかったけれど、福岡で朝の3時からライブするので、最終の飛行機で戻らないと」というハードな話を披露。

 ここでの彼女の登場、なんだか意外なほどうれしかった。2013年からアイドルを見ているけれど、卒業したり、環境が変わったりすることで活動を続けられなくなる子が多い中、卒業後もソロで活動を続けて、しっかりとしたパフォーマンスを見せてくれる子がいるというのは希望に見える。
日本語ラップ大好きすぎて出来ませんってずっと言ってたんだけど、ふたりにそそのかされて。ひとつ突破出来ました!」と言って退場。

 MCで「CD買った人、中江ヤサに行くDVD見た?」という質問。CDを買った人に手を挙げてもらうことになったけど、リリイベがなく、この日が最後の特典会のためかけっこう少な目。「いや~リアルな数、出てくるね」というふたり。でも、「買ったよって嘘付かれるより、気まずそうな顔見てる方が面白いよね」という中江ちゃん。「My Home Town」が方言でのリリックのせいか、途中でちょっと大阪弁が出る。
 そして、再び武士さんに話を振る中江ちゃん。

「タケちゃん楽しんでる?自分だけ置いて行かれてると思ってない?タケちゃん、ここでやり残しちゃダメだよ?! 今しかないよ!」

「いや、でもこの人恥ずかしがりやなんですよ」という上野さん。

「ほんといつまでたってもあなたってシャイボーイよね?今日はタケちゃんにこの歌を捧げます! タケちゃん7割、みんな3割で!」からの TOO SHY BOY。

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 VJに映るMVの映像は、まだ距離を図りかねている3年前、学ラン×制服でふたりで遊園地デートをする様子。思わず「若い」を連発する中江ちゃん。
 お次のWE GOTTO GOでVJが夜の鉄筋を撮ったような少し暗い映像に。

大人はずるい 子供はダメでなんで大人はいいの?

なんでいっつも余裕なの それって子供に絶対わからない魔法?

知らないことをたくさん知ってる 私には出来てない経験

 から始まるリリックは一見すると子供っぽいのだけど、入りのピアノの音のメロウな雰囲気と合わせて不思議な説得力を持って響いていた。彼女の実感なんだろう。

道を進めば大人になれる? 思い描いていた大人になれる?

 サ上と中江の曲は基本的にふたりが順番に歌う作りになっているのだけど、個人的にはこれとSO.RE.NAが最もその構成の魅力が出ていると感じた。
 MCでは「いや~でも私これ最近ずっと考えてるんだよ。いつから大人になるんだろうねー」
 ここで登場する謎の箱。事前にアスタライトから集めたという質問を引くコーナー。
 印象的だった場面だけ。

 「次は誰とユニットを組みたいですか?」という問いに対して「私はうえちょと組みたい」と即答する中江ちゃん。「オジロー!」「めいちゃん!」というガヤが入ったのち、ちょっと間があってから中江ちゃんを指す上野さん。
 「もちろん続くでしょ?」という問いに対し「今日もタケちゃんが『続くでしょ?』って言ってて。いや~~、私怖くて聞いてないんだよねって言ったら、『でも続くでしょ』って。タケちゃんかっこいい」という中江ちゃん。
 「今日のパンツの色を教えてください」から、とりあえず武士さんに聞いて(グレーだったかな)、上野さんに聞いて(赤と青のシマだったような)、結局最終的に中江ちゃんも暴露する羽目に。

 「え~~大丈夫かな~~」と言いながら、わざわざ確認を取りに行く。
 上野さんの「はい、佐竹(プロデューサー)オーケー出ました〜〜」からの「今日は~あ、白?」

 「こんなにたくさんの人の前でパンツの色いうと思わなかった~~」。そりゃそうだ。

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 そんなトンデモなMCからのSO.RE.NA!

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 そして上野さんから中江ちゃんに課した最後の宿題として中江ちゃんフリースタイルに挑戦!

 上野さんの前ふりから中江ちゃんのラップ

サ上と中江と東京女子寮どっちも大事な居場所
終わるとかマジわかんねえ!
こんなんでいいですかね

 という感じの韻は踏んでいないけれどちゃんとビートに乗ったラップ。

 緊張感から解放されて「8時43分新しい中江が生まれましたね」という中江ちゃん。

 そこから中江ちゃんのリアル高校卒業に合わせて作られたさいごの宿題。

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 終わったところで、ふっと暗転して中江ちゃんが袖にはける。
 いきなり「はっ、ここはどこだ?」。「武士?なんでDJやってるんだ?今何年?」「2013年」「あれ、そうか。吉野が活動休止して……」

 ……? それは2014年では? 一瞬、「企画が決まったのが2013年だったのかな」と思って帰宅してから確認したけれど、番組開始が2014年10月末。「3年の活動の集大成」だから2013年だと思ったのかな。2014~2015~2016の3年間だよ……。

「なんだろう……。俺、学ラン着たり、おぼこい女の子と一緒に曲作ったり、修羅の道を歩んでいたような気がする……。なかえーーー!!!」という叫びに呼び出されて飛び出す中江ちゃん。

 そして、to be continued。

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 歌サビ以外はほぼ上野さんのリリックと思われるこの歌。ちょっと泣きそうな上野さん。改めて聞くと、中江ちゃんへのエールの曲なんだね。

背の高さ違うから見ている景色 違っても気持ちは同じ

先のことはわからないからこそ 大事な記憶いつかの宝物

 MCでは「なかえーーー!じゃないよ!」とか「私とうえちょで世界を取ろう!」にするつもりだったけど、これはスッと入ったほうがいいと思ったという話。

 そして、「うえちょ潤んでたでしょ」と自分でふって、つい「潤んでないけど、ちょっと寂しいかも……」と言って泣き出す中江ちゃん。
 「終わるまで泣かないでいようと思ったのに~~。さっきの曲の時も我慢してたし……」
 「だからずっとニヤニヤしてたの? おれ、新曲だから間違えろ~~とか思ってんのかと思った。思惑通り、飛ばしましたよ」とちょっとうれしそうに言う上野さん。
 「別に終わりとか思ってないし」と言って泣く中江ちゃん。

 「いや、でもまたやれるよ。エイベックストラ~クス!」という上野さんを「勝手なこと言うと上の人に怒られちゃうから」としかる。

 最後のSO.RE.NAに合わせて中江ちゃんが「ヤバい、今日楽しい!」と笑う。

 最後はふたりでまじめなあいさつ。

 「ワンマンなんかできると思ってなかった」「私終わりって言葉嫌いだし、怒られちゃうかもしれないけど、また続けたい」という中江ちゃん。
 「最初は企画ありきで始まったけど、ラッパーを自分でリリック書かなきゃダメだよって言って、書けないって言って電話が来て終電逃したり」「最初のみんなの敵を見る目!」「チェキでプロレス技かけてくださいと言われたり」と思い出話をしてから「期待させるとあれだけど、可能性を信じてるんで」と締める上野さん。

 明るくて楽しくてちょっと寂しいライブ終了。

 あー、楽しかった。から、残念。
 女の子のラップ、アイドルのラップをたぶんそこそこは見ているけれど、女性のラッパーはだいたいダウナーか強そうかのどっちかで、アイドルアップはおっさんの作った世界観を表現するタイプのグループがほとんど。

 もちろん、そういったラップも大好きなのだけど、サ上と中江はアイドルラップと呼ぶには自由で、ヒップホップという呼ぶには自己主張が激しくなくて、とにかく「気のいいおじさんとおませな女の子」が楽しそうに、でも大切そうにステージの上でラップしているのを見守るグループだった。

 普段はグループの一員としてしっかりと丁寧に歌い踊る中江友梨と、1MCとして客にストレートに向き合うサイプレス上野

 サ上と中江はふたりにとって番外編的なユニットだったと思うけれど、だからこそお互いの掛け合いをゆるく楽しみながら動き回る姿はちょっとほかのユニットには出せない明るさと開放感があったと思う。少し肩を落として体を揺らす中江ちゃんと、彼女の奔放なMCに翻弄されながら笑う上野さん。私はサ上とロ吉のワンマンとこの日しか、生では見ていないけれどね。

 そして、何より年齢も性別も音楽性も違うふたりが活動の中で友情を育んでいく姿が美しかった。友人で、仲間で、先輩後輩で、師匠弟子で。

 17歳も年下の女の子を侮らず、きちんと人間として尊重して作品と場を作っていった上野さんも、立場も考え方も違う大人と組んで、ちゃんと自分の意見をぶつけていった中江ちゃんも本当に素晴らしいと思う。

 活動休止という印が押されたのは大人の都合なんだろうけれど、きっとお互いがいくつになっても、待っていてくれる人がいると思うので、いつかしれっと再開してくれるのをのんびり待とうと思う。

夢見心地(DVD付)

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夢見心地

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※2013年はLOOPでNegiccoと対バンしてた年では?と思った。LOOPを知ったのがNegiccoの自主企画だったので何となく印象深い。まだ祭り湯でイベントやってましたなあ。

※上野さんのエーベックストラ~ックスで「そういえば、avexのアイドルと別ジャンルのアーティストのコラボあったな……。BiS階段……」と思った。でも、あれも女の子を開放するユニットだった。ノイズとヒップホップは演者の輪郭をはっきり浮き立たせるところがちょっと似てるかも。

※「こういう開放感のユニット意外とないんだよな~~。あ、ちょっと違うけどEチケライムベリー……。そういえば、サ上と中江はじめて意識したのはライムベリー事変の時に思わず2ちゃんを見て、『ライムベリーとリリスクは音楽性が違う。どちらかというとサ上と中江が近い』って書いてあったのを読んだのが最初だった」ということを思い出した。

※サ上と中江の人としての距離感は本当に憧れで、いろんな意味で自分の人としての不甲斐なさを自覚させられるので、ちょっと観ててつらいこともありました。これは個人的な話。

※チケットを譲ってくださったアスタライトのMさんとの「中江ちゃんかわいかったですね。アイドルラップ好きなんですよ」「東京女子流は?」「あ……MV観るくらいですね。でもアイドル全般いろいろ見る感じです。あ、アイドルじゃないんですよね」「いや、それはいいんですが。特典会行きますか?」「いや……。ちょっと金欠なので」と会話の流れ我ながらひどかった……。ありがとうございました、すみませんでした。

インタビュー:年齢差を超えても友達だって思える――サイプレス上野 + 中江友梨(東京女子流) = サ上と中江『ビールとジュース』 - CDJournal CDJ PUSH

インタビュー:最初で最後のワンマン・ライヴ〈支配からの卒業〉直前 サ上と中江、1stフルアルバム『夢見心地』を語る - CDJournal CDJ PUSH

インタビュー:日本語ラップ対談「サ上とロ吉と深瀬さん Back Again」サイプレス上野とロベルト吉野×深瀬智聖(LinQ) - CDJournal CDJ PUSH

 

 サ上と中江対談入り。この本でしか話していないエピソードもあります。このブログでの感想はこちら。

2014年の地下アイドル現場の記録「ゼロからでも始められるアイドル運営」「サイプレス上野とロベルト吉野のアイドル ライヴオン ダイレクト」 - ホンのつまみぐい