「アイドルイベントに、いやライブそのものに興味がなくなってもこれだけは絶対に行こう」と思っている唯一のイベント、それが「amiinA presents WonderTraveller!!!」。
音楽を楽しむこと、自分たちだけの世界を構築すること、ステージとフロアがお互いに尊重しあうこと……。これらすべてを兼ね備えたたぐいまれなアイドル「amiinA」の運営がプロデュースする、これまたたぐいまれなイベント。それがWonderTraveller!!!だ。
※前回の記事はこちら
アイドル中心のブッキングの中にパンクロック、エレクトロダブ、ミニマルミュージックを選出するセンスはもちろん、タイムテーブルまで洗練されたメインビジュアル、可愛らしい当日の会場装飾、5時間を超えるイベントのために用意された安心のケータリング……とライブ前からすでに入念な仕込みの様子が伺える。
【WT5情報】
— amiinA (@amiina_official) 2016年12月28日
amiinA presents『WonderTraveller!!! act.5』
本日のイベントは、当日券を若干数ですが販売致します。
ご購入をご希望の方は、前売り券をお持ちの方の入場が落ち着いてからのご案内となります。
よろしくお願い致します。 pic.twitter.com/jnEmQnSWUr
スタートは12月28日の14時30分。社会人にはなかなか厳しいスケジュールにもかかわらず、450キャパのwww-xがソールドアウトしたのは、イベントに対する信頼と期待値の証明だろう。
そんなWonderTraveller!!!では、いつも最初にスクリーンに月と地球、そして地球を廻るロケットの可愛らしいイラストが映し出される。これはWonderTraveller!!!の根底にある「旅」というコンセプトを表現したもので、このスクリーンをバックに、下手にスーツ姿の男性が登場すれば旅の始まりだ。
「ナビゲーターのナガセ」と名乗るその男性が、天井からぶら下がった豆電球をつけると、大きな拍手が起きる。
「ついにこの日がやってまいりました」という言葉から入り、「この土地には多くの旅行者の方がいらっしゃいます。皆さんが快適に過ごせるよう、お互いに尊敬を持って過ごしてください」という前説。ナガセさんの言葉は常に抽象的で、まるで児童文学に出てくる不思議な案内人のよう。そう、彼の言葉はMCではなくセリフなのだ。
そんなナガセさんが最初に紹介する演者は3776。
3776は長く実質的な井出ちよののソロプロジェクトだったが、8月から新たに「井出ちよののソロプロジェクト」と「3776(新メンバー募集中)」の活動を並行させている。そんな彼女を、ナガセさんは「ふたつの世界を生み出すという新たな境地にたどり着きました。形容できないものは無理に言葉にしなくてもよいと教えてくれたあの子。またあの子に会えます」と表現する。
井出ちよのちゃんという不可思議な寛容さと高い技術力を持つ少女が歌いこなすニューウェイブサウンド。アイドルオタクにとっては3776の不思議さ面白さは今更説明するまでもないと思ってるけど、今回は3776&井出ちよの。3776として演じる「生徒の本業」「誰かのモノです」の2曲の後に袖にはけると、スクリーンに富士の街を歩くちよのちゃんの映像が入る。画面の向こうから「どんな高校生になるのかな~~。かつての高校生も高校生にある前の自分を思い出してください」とこちらに語り掛ける、NHK教育の平日昼の番組のような映像。
ちよのちゃん、再び登場。アイドルらしい純白ベースの衣装から青いジャケットにタータンチェックのスカートというちょっぴり制服っぽい衣装に衣替え。披露されるのは「高校生になったちよのちゃんを想像して作られた」という曲たち。
「小動物女子」というコンセプトで作られた「ハートの五線譜」が流れ、バックのVJに吹奏楽部にいそうな雰囲気のちよのちゃんが映し出された。「ハートの五線譜」はサビのきらびやかさがキュートなポップな曲。次は「イケメン女子」というコンセプトの「授業は今日も」。VJにはパンクファッションのちよのちゃん。ロック調のビートのアニソンぽい曲。「部活引退の次にすること」ではVJにバスケのユニフォームを着たちよのちゃんに、重めのアブストラクトなビート。
曲ごとにカラーを変えて女の子を表現するプロデューサーの石田彰の相変わらずの変態っぷり。ちよのちゃんも相変わらず、親戚の子みたいな親しみやすさと、アイドルっぽいふてぶてしさと、プロフェッショナルな表情の豊かさと集中力で軽やかに踊っていた。
sora tob sakana
ナガセさんの「無数の波形をみんなでのぞきに行きましょう」という案内からsora tob sakana。4人組アイドルグループで、ポストロック調のちょっとひねくれた音に中高生の声といういわゆる“楽曲派”向けのコンセプト。
ふんわりした真っ白な衣装と振りコピしやすいダンスはわりとスタンダードな正統派アイドルで、どちらかというといわゆるアイドルというより合唱団ぽいかな。その辺破綻のなさがちょっと物足りなくもある印象。
ただ、この日はVJがとてもよかった。海中から水面の波形をのぞく映像に、地球のシルエットがかぶさる映像から始まり、涼しげなステージに魅入られていると真っ白な衣装の少女たちが登場するという入り。
sora tob sakanaという名前だけど、深海にいるような、あるいは熱帯魚の水槽のような静けさがあって独特の美しさがあった。
特に「広告の街」でのVJ。
迷路の様な恋に落ちていく
心と裏腹
ゲームの様にレベルアップ
うまくはいかない
検索結果並べても
探せない気持ちは
迷路の奥に消えていく
わたしを見つけて
現代的な語彙と普遍的な恋心の組み合わせに、透明感のある少女の声が組み合わさった名曲。地図記号で描いた森のように密集した文字群が映し出され、サビに入ったところで「検索結果並べても」などのフレーズが大きく浮かび上がる。VJはそれぞれ見事だったけれど、この演出がもっとも攻めていて清楚な衣装で歌い踊るステージとのアンバランスさも含めて目が離せなかった。
ナガセさんのナビゲートは「人は何度も過去をプレイバックし、未来に想いをはせる。ただ音だけがその隙間を埋めてくれる」。
あら恋はエレクトロ・ダブという聞きなれないジャンルに分類されるらしい。アイドル2連からのバンドは、セッティング中の独特の緊張感が気持ちいい。
前回も思ったけれど、あれだけ音数があるのにメンバーが主張しすぎずにひとつの塊になった音をぶつけてくるのがスゴい。お互いを引っ張り合いつつの演奏で、最後フロアを引っ張ってくれるのが最高だ。
そして、フロントの池永正二さんが誰より身体を揺らしているのがいい。基本的に若い方がエラいと思っているし、美しい方が強いと知っているのだけど、Have a nice dayの内藤さん、浅見北斗さんしかり、おっさんが音に合わせて全身を揺らしている姿の汗と哀愁はまた別のありがたみがあって大好きだ。
合間に「えー、2回目呼んでくれてうれしいです」という、簡潔だけど感慨深そうなMC。
最終的にだいぶ汗をかく。フロアも盛り上がった!
インターミッションにアイドルラップとポップの中間点と言える楽曲の963のフロアライブ。ぴーぴるとやーぷんの2人組グループ963は、一度ぴーぴる1人になり、新メンバーねーぷんを加えてまた2人になった。2人はフロアの中央で踊り、その周りにオタクがサークルを作る。963の姿は見えなかったけれど、相変わらずの快活で、自虐的なのに嫌味のないMC。
前回は観たときはぴーぴる1人きりだったので、正直楽曲を楽しむ精神状態ではなかったけど、改めて聴くとやっぱりあざといまでの良さ。拙い声が生きる音作り。
ライブ終わり、「懲りもせず2人の少女が迷い込んだようですね」というナガセさん。
アイドルネッサンス
ジャンル問わずの名曲カバーで知られるアイドルネッサンスの紹介は「過去と未来、彼女たちの光の旅へ参りましょう」。
前回のWonder Traveller!!!ぶりだったけれど、みんな半年分お姉さんになっていた……。
存在の圧力が上がっていて、過去の名曲を歌うコンセプトはそのままなのだけど、おそらく世界観に対する理解も変わったのか。曲に合わせて身体を音に乗せる能力も表情も格段にあがっていて以前とは別のグループのようだった。
ダンスのレベルが高く、真っ白に制服風の衣装なのでそれぞれの身体の使い方がはっきりわかるのが官能的。踊るロールシャッハのタフなダンスでフロアも上がった。
11.6@お台場【「踊るロールシャッハ」ライブ映像(初披露)】アイドルネッサンス+オワリカラ+炭竃智弘+園木理人
新潟県の正統派4人組アイドル。「白い4羽のトキのような少女の世界」とはナガセさんの言葉。優しい曲調のポップスであるというのはもちろん、4人の女の子の柔らかな空気も大きな個性の一つだ。
「奇抜で刺激的なものばかりに目を奪われがちですが、もっとも大切なのは普遍的なものだと私たちに教えてくれることでしょう」というナビゲートから波の音でスタート。
80年代ポップス風の曲はユニゾンが清潔感バリバリ。mixやコールもほとんど入らない。本人たちのほがらかさも含めて、存在を崇める現場という感じ。点数をつける対象ではないというか。馴染みのいいメロディーの続くスタンダードな楽曲に、フロアを信頼しきっているかのように柔らかいパフォーマンス。
すごみがあったのは毛皮のマリーズのカバーのラスト・ワルツ。雪の日、夢から覚めた少女が姉になだめられ、先ほどまで見ていた夢を思い出すという不思議な曲だ。
胸に大きなリボンの
とても綺麗なドレスで
そして 私は誰かのために
バレエを踊るのだけど
終わりは来るのよ
私 もう 悲しくって
泣いたまんまで踊るの
泣いたまんまで踊るの
歌詞は美のはかなさを優しく歌う内容。それをチェックのワンピースの4人の女の子がシンプルな振りつけで歌いこなす様は、まるでステージの上に4体のオルゴールが置かれ、それが回って歌っているかのように錯覚させるような透明感。でも、サビを歌うむうたんの少しかすれた声や、踊る女の子たちのしなやかさはあくまでも実在の女の子で、短い演劇のような美しさがあった。
ラストワルツの後は高度なステージから一転して、ゆるキャラを紹介しつつののんびりした自己紹介MC。まるでNHKの子供番組みたいだけれどそれがいい。
最後はこの日唯一mixの入ったポップな代表曲「ラリルレロロロ」で〆。最後に「バハハーイって言ってください」というお願いも。難易度高っ!
「脳裏に焼きついて離れないその音が過去と未来とを焼き付けてくれました」「光に向かって歩き続けるんです」というナガセさん。
エモ系パンクロックで、いきなり会場ぶちあがってそこからモッシュ・ダイブの嵐。後から知ったのだけど、30~40代の多いこの日の客層にドンピシャの、時代を代表するバンドで、「ロックに夢中だった若い頃ぶりに観た!」という人も多かったよう。
正直パンクロックはあまり得意ではないのだけど、転げ落ちるようにダイブして、また笑顔でモッシュピットに突っ込んでいく人々の姿は向日性しかなく、その明るさにグッと来た。
フロアの盛り上がりに押されて増していくステージの多幸感が、再びフロアに還元されていく様子はとても幸福で、どこか照れたような笑顔を見せるボーカルの磯部正文さんの表情が印象に残った。
最後の曲でなぜか両手をソイソイ動かす盆踊りのような振りがフロアに広がっていたのが何か面白かった。
さて、トリかつ主催のamiinA。
満を持しての紹介の言葉は「涙を超えて脚力を増した少女たち」。
6月の校庭カメラガールツヴァイの生誕祭以来のamiinA。まず感じたのはmiyuちゃんの存在感。物理的に何がとは言えないのだけど、表情も動きもタフになっていた。
amiinAはポストロックにワールドミュージックを掛け合わせたような、重量感があるけれどどこか開放的な音が特徴。駆け出す振り付けや空を仰ぐような動作が疾走感を煽るけれど、彼女たちを包むビートは決して軽くない。遠慮のないドラムに、2人のダンスがついていく。
Atlasだったろうか。最後の低音の鳴りが怒涛の迫力で、まるで動物の群れが通り過ぎていくような振動を身体に浴びる。なんだこれは、圧倒的じゃないか。
ここまでつづってきたように、これまでの演者は皆、すごみのあるライブをしていた。だけど、適切なマイクの音量、適切なフロアへの音響。このふたつに関しては比べるまでもなくamiinAが圧倒的な正しさで空間を作っていた。
もちろん、単に音がすごいという話ではない。先ほど駆け出す振付と書いたけれど、パントマイムのような動きを習得した上で走り出す2人の動きは、ただ単に走り真似をしているだけでなく、その中に抑えきれない力がみなぎっていることを感じさせた。
一方、monochromeでは、時にお互いの顔を見合わせ、時に背中で呼吸を合わせ、存在を確かめあうような繊細なダンスを繰り広げる。まるでミュージカルのようでもあり、コンテンポラリーダンスのようでもあり。
さわやかな笑顔を切らさないのに、甘えのないステージをほとんど気圧される勢いで観ていた。
一方、MCは相変わらずのゆったりした口調。どんな国に行きたいかというお題で「きゅうりの国!きゅうり畑のある国」というamiちゃんと、「ブロードウェイに行きたい!」というmiyuちゃん。amiちゃんがケータリングメニューのきゅうりの一本付けに言及すると「miyu途中で飽きちゃった……」という返事。一方、amiちゃんは「ブロードウェイって何?」と言ってmiyuちゃんに盛大に驚かれ、慌てて「ミュージカルいっぱいやってるところだよね」と釈明する。とにかく朗らかで、自分を作っている風がまったくない。
後半のMCでは、amiちゃんがお客さんやスタッフに謝辞を述べながら泣きそうになり、背中を向けるし、miyuちゃんは書いてきたこれまた長い長い謝辞の手紙を読んで、「泣かずに読めた~~」と最後に付け加える。かわいらしくて、たくましい。
アイドルのプロデューサーが自分自身のやりたい音楽(その多くは若き日に憧れた音楽)を女の子を使って実現させるという運営は少なくない。こうした傾向が生み出す化学変化はたくさん観てきたし、特に否定する気持ちもなかったのだけど、「やりたい音楽をやりながら、女の子たちの精神的自立心を信頼し、総合的により高い次元を目指す」ことに、これだけの水準で成功している運営は見たことがなかった。
女の子たちのダンスと歌と音と衣装とメイクと演出。2人の柔らかな人間性も含めて、これは総合芸術としてのアイドルを目指していると言えるのではないか。
miyuちゃんはFUJIROCKでCanvasをやりたいと言っていて、アイドルにしろバンドにしろ、若者はそういうことを言って、第三者はそれを微笑ましく思いつつ半笑いで聞くものだけど、amiinAの作り出す強度には、「たしかにそこで霞まないだけの存在になれるのでは」という説得力があった。
この日はサークルモッシュ、ウォールオブデス、肩組しながらの円陣と、とにかくあらゆる種類のフェスでの動作がフロアに盛り込まれていて、それは直前のHUSKING BEEの影響もあるのだろうけど、ステージそのものにそれだけ人間の衝動を揺り動かすものがあったのだと思う。
最後のCanvasには、サビにコールというか、オタクの合唱を前提とした箇所があるのだけど、そこでオタクが一斉に挙げた手を、先導する2人の少女の姿は可憐で壮観だった。
壮絶なライブを終えて、ニコニコしながら少女が去っていく。ポカーンとしつつ、オタクのアンコールを眺めていると、ナガセさんがきっぱりとその日のライブの終了を告げる。そう、Wonder Traveller!!!には、少なくとも私の知る3回にはアンコールがない。それもこのイベントを特別なものにする要因のひとつかもしれない。とはいえ、しばらくしてから2人が飛び出してきてフロアに手を振ってはくれたのだけど。
ライブという言葉に収まり切れない圧倒的な音楽体験。そんなものを味わうのはJAZZBiS階段ぶりで、アイドルという枠の持つ果てしなさに震えた。
“「amiinA presents WonderTraveller!!!」は絶対に外してはいけない”
この実感が、また大きく上書きされた夜だった。