ホンのつまみぐい

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2014年の地下アイドル現場の記録「ゼロからでも始められるアイドル運営」「サイプレス上野とロベルト吉野のアイドル ライヴオン ダイレクト」

 

 

ゆるめるモ!運営の田家大知さんは、見た目がフリースクールの先生みたいなんですけど、中身もそういう人なんだというのがよくわかる。モ!の運営にあたり彼が実際に見聞きしたことが、シンプルな言葉で綴られています。

 
ブッキングはどうするか。グッズをどのように制作するか。衣装や振り付けはどうやって準備したか……。「何となくリリイベの衣装をコスプレ仕様にしたら、チェキを撮る楽しみが増えたと喜ばれた」「アイドルはノルマがないのが楽」など実践的な箇所も多々ありますが、この本の特徴は田家さんの人柄がまるっとそのまま記録されていることではないかと。
 
田家さん、歌割は偏らないように用意するし、まめに声かけしてメンタル潰れないように気をつかっているし、アイドルの運営なんて普通は奥様が良く思わないだろうに「みんないい子たちだからがんばりなさい」と言って送り出されているって、どんないい人なんだって思いますね。
 
震災後の「がんばろう」の合唱に対して、「がんばらなくてもいいんじゃないか?」と思ったのがモ!のコンセプトになっているというのも、アイドルとしては例外的。
 
先日卒業した櫻木百ちゃん(当時はももぴ)の夢の話がとても印象的でした。
 
ウィルスに感染したもねちゃんと田家さんの知り合いがいる。田家さんの手元には一人分のワクチンしかない。もねちゃんは「じゃあ、私はいいです」と田家さんに伝えるのだけど田家さんはずっと「どうしよう。どうしよう」と困っている……。
 
そういう優しすぎる人は普通ならアイドルの運営なんて仕事には向いていないと思うんですけれど、ゆるめるモ!は紆余曲折ありながら大きくなり、まだまだ続いていく。
 
やり方って1つじゃないんだなと言う意味で色々希望が持てる本だと思います。ただ、田家さんが音楽評論家・田家秀樹の息子であること、世界一周してしまうような人であること、家族が協力的ということは考慮しなくてはいけませんが。
 
フリースクールの先生感あふれる田家さんがたっぷり観られる動画。 

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realsound.jp

 

アイドルに興味のなかったサイプレス上野が、ひたすらアイドル現場におじゃまして、ある時は演者として、ある時はいち観客として、好き勝手に感想を言うBUBKAのインタビュー連載の単行本化。最初はロベルト吉野も参加して鼎談形式だったんだけど、彼の活動休止で、途中からサイプレス上野へのインタビュー形式に。

 
もうひたすら懐かしいですね……。この連載のことを知ったのはBiSが登場したのがきっかけ。lyricalschoolの回やBiSの解散ライブの回など、連載中もちょこちょこ目にしてました。
 
運営とメンバーの関係性も悪く、オタクも疲弊し始めていた頃のBiSのライブに対しての、「ここっていうところで盛り上げるということが出来てない。ファンがライブの出来にかかわらず盛り上がってしまっているから、ステージにメンバーがいれば内容どうでもいいの?と思ってしまう」という率直な感想を吐いていて、当時のオタクが図星を突かれた思いでいたことなどを懐かしく思い出しました……。あと、リリスクめっちゃ褒められてて何となく嬉しかったな。
 
ラップアイドル以外だとBiSだけが2回取り上げられてるんですね。ありがたや。
 
解散ライブ、全力のライブにそれなりに感動していたサ上に対し、同じ誌面でギュウゾウさんがBiSのパフォーマンス力の限界を目の当たりにして少し唖然としてしまったことを、遠回しに告白していたのも懐かしい。あれ、完全におまいつオタクとその他のファンの感想と一緒で、最後のツアーほぼ全通していたオタクに解散ライブを「あーあー、つまんねーな」と言われるアイドルなかなかいないでしょ……。
 
さておき、テンテンコが単行本のために収録したインタビューで解散ライブが本当に楽しかったことを告白してくれていたのが嬉しかったです。
 
改めて読み直してみると音楽の事や演者目線でのツッコミなども充実していて、なかなか読み応えのある内容ではないかと思います。進行役の高木JET晋一郎の気安いツッコミがいいですね。
 
基本呑気な企画なのですが、1年以上の連載の間にロベルト吉野が精神をやられて活動休止し、ライムベリーは分裂し……というわけで、ドキュメントとして意外な意味を持ってしまった本でもあります。
 
青SHUN学園のモッシュではしゃいでしまった自分を後から振り返って、「あの時の俺は病んでた。心が弱っている時にアイドルにハマると言うのがよくわかった」と語るサ上の様子が生々しかった。東京女子流の中江友梨ちゃんとの企画もこの連載中に始まっていますね。
 
印象的だったのはBELLRING少女ハートの回での会話。企画者である担当編集が、朝倉みずほちゃんについて熱弁を振るうのを聞いたサ上の「吉野みたいだな」という感想。
 
ベルハーのオタクに怒られそうだけど、た……たしかに。
 
でも、ロ吉は8カ月休んでも帰って来れたけど、アイドルだったら絶対帰って来れないよなぁ。
 
ちょうどPOP改めGANGPARADEがシグサワアオちゃんの脱退を発表したところだったので、アイドルの窮屈さについて改めて自覚させられ、辛い気持ちになりました。
 
アオちゃんは脱退に際して、長めのインタビューを発表していて、その中に以下のような言葉があります。
 
ーー結構最近のことなんですね。メンバーはどういうふうに反応してました?

アオ : みんな優しいから、未来を考えて言ってくれるんですよ。いなくなるのはいやだけど、命をかけられないアオとは一緒にやっていきたくないっていうことをちゃんと目を見て言ってくれるんですね。

ーー普通だったら一緒に頑張ろうよって言うところだと思うんですけど、できないよって反応が返ってきたことに対してアオちゃんにはどういう気持ちでした?

アオ : すごく強いなと思った。私は変化の怖い人間で、本当に怖がりだから、いろんなことから逃げてきたんです。また逃げるのかって思うんですけど…。私がいなくなっても絶対に止まらないって言ってくれる人たちだから強いなって思います。
そうなってしまったものは仕方がないと思う。メンバーが悪いという話でもない。でも、一方でもう少しお互いの気持ちが整理されるまで待つと言う方法もあったのではないかと言う気がしてしまうのです。
 
モ!では、ちーぼうが学業のため、1年以上の活動休止を発表したことがありますが、そうした措置がいかに例外的であることか。
 
もちろんメンバーの関係性やグループの方向性など、様々な要素の絡むケースバイケースなものなので、単純に所属している分野によってなされる決定ではないとは分かっていますがそれにしても、ね。