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ホンのつまみぐい

いろんなもののファンをやっている人が、日々のよしなしごとを綴っています。

没後20年展「三原順復活祭」

「過剰なまでに饒舌」というのが三原順と、その読者に対する第一印象だった。

 まだ作品を直に読む前、高校の図書室でマンガ評論誌「ぱふ」のバックナンバーを読んでの印象だ。おそらく先輩が寄贈していったのであろうその「ぱふ」では、ちょうど「はみだしっ子」完結直後、三原順が特集として大きく取り上げられていた。

 当時はすでに24年組をはじめとする古典と言われる少女マンガをそこそこ読んでいたけど、まったく知らない作者名と作品だった。

 しかし、誌面はびっしりと文字で埋まり、過剰なまでの熱意の読者投稿が大量に掲載されている。その言葉の多くは、ただ最終回を惜しむのではなく、どこかシニカルで、しかしまるで自分事のように真剣だ。

 特集内で紹介されているマンガのコマは、どれもどこかゆがんでいて、しかし何ともいえない強度がある。立ち姿や動かし方に、キャラクターの性格がにじむような絵なのだ。

 とにかく強い印象を受けたけれど、その頃は三原順の単行本の多くは、すでに書店に置かれなくなっていた。いや、実は「ビリーの森ジュディの樹」が1995年に単行本化されており、偶然にマンガに詳しい世界史の先生に見せてもらっていたのだけど、それが「ぱふ」で特集されている人の作品だと気づくのも、実際に中身を読むのもまだまだ先のことだった。

 三原順との再会は、1999年の「ムーン・ライティング」復刊の時。これも「ぱふ」の新刊紹介コーナーだった。豚になったトマスとDDが初めて出会う場面だ。大人びた絵柄と装丁に惹かれ、すぐに本屋で手に取ったことを覚えている。
ムーン・ライティング (白泉社文庫)

ムーン・ライティング (白泉社文庫)

 この文庫化が、なんとかして作品を気軽に読める状態にしたいと考えた熱心な読者の活動の賜物だと知るのはもっと後のことだ。

 それからはあっという間にのめり込み、ぞくぞく刊行されていく文庫を集めだした。しかし、文庫を揃えるだけでは飽きたらず、古書店で単行本を見つけたら、どんどん買い足していった。

 ちょうどインターネットを見ることを覚えた頃だったので、検索して過去のデータや議論なども読んでいく。インターネットのサイトは、改めて振り返ると異常なほど充実したものが多かった。
整理されたデータベースとして使える「三原順記念館」。
引用元などを細かに拾い上げ、作品を掘り下げて読む手助けになる「三原順メモリアルホームページ三原順メモリアルホームページ」。
ファンの交流場所になっていた「三原ワールドへようこそ!!よろず屋デパート」などなど。

 そのうちに絵本「かくれちゃったのだぁれだ」「夢の中悪夢の中」が2000年に復刊。2003年には、未収録作品や「はみだしっ子」の草稿収録した大型本「LOST&FOUND」の発行が決まる。

 2010年には文庫が一斉新装され、全集を思わせる装幀になった。(個人的には以前の装幀の方が好きだったのだが……)

 そして2011年。震災と同時に発生した原発事故により、三原順は再び脚光を浴びるようになる。

 原発問題を扱った「Die Energie 5.2☆11.8」の作者として。スリーマイル原発の事故を受けて描かれたこの作品を、正直なところ私は初読時にまったく理解していなかった。今も続く悲劇的な事故をもって、やっと自分が原発問題を自分ごととして考えるようになったのである。

三原順傑作選 (’80s) (白泉社文庫)

三原順傑作選 (’80s) (白泉社文庫)

 2013年には森下文化ミュージアム開催の「永遠の少女マンガ展」内で原画が展示され、大きな話題となった。

三原順、美内すずえらの原画展示「永遠の少女マンガ展」 - コミックナタリー

 こうして振り返ると、一時は代表作の入手が難しくなっていた三原順の、ほぼすべての作品がそれなりに気軽に変えるようになったというのは奇跡的なことだ。

 それは、これまで多くの読者が三原順について過剰なほど饒舌に語り続けてきたからにほかならない。

 そして、20周年にあたり2015年は米沢嘉博記念図書館で「没後20年三原順復活祭」が開催され、これまでの未収録作品、単行本化の祭に修正された「はみだしっ子」の雑誌掲載原稿などを収めた「LAST PEACE」の発売。河出書房新社から「総特集 三原順」が発売される。

三原順の没後20年展、「はみだしっ子」などの原画約250点を展示 - コミックナタリー

三原順作品集「LAST PIECE」単行本未収録の「はみだしっ子」資料も - コミックナタリー

 実際に復刊に関わった人々や、ファンサイトの管理者の力を借りて開催された今回の展示は、まさにそうした読者の行動の贅沢な結実と言っていいだろう。「復活祭」という、あまり聞かない展示の名前も、これまでの道のりにぴったり合っている。

 だから、私は小さな会場にいっぱいに入った人を見て、展示の内容はもちろん、「ぱふ」に長い手紙を書いたり、同人誌を出したり、ホームページを作ったり、イベントを企画した人たちの活動がこういう形で実っているということにうるっとしてしまった。

 会期は5月31日まで。小さな会場だけど展示替えもあるので、何度か足を運んで欲しい。