ホンのつまみぐい

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ndjc2014上映会

 友人に誘われて角川シネマ新宿の「ndjc2014上映会」へ。

 存じなかったけれど、ndjcというのは、2006年から始まった若手映画発掘プロジェクトとのこと。

 新人監督による5本の短編映画の作成と上映を終点にしたこのプロジェクトでは、監督は各団体からの推薦の上、ワークショップで作った短編映画の出来を見て選考される。映画にはプロの役者や技術の人が参加。けっこうな予算と時間がかけられ、新人にとっては贅沢な環境での制作が行えるよう。

 この日の上映作品は

「チキンズダイナマイト」飯塚 俊光
「もちつきラプソディ」加瀬 聡
「本のゆがみ」草苅 勲
「good−bye」羽生 敏博
「エンドローラーズ」吉野 耕平

 なんとなく垢抜けない作品が続く中、ネットカフェで生活する貧困母子家庭の日常を描いた「good−bye」と、無茶な要望を繰り出す中小企業のじいさんと葬儀社の若者のドタバタを描いた「エンドローラーズ」は面白かった。

 「good−bye」はあらすじ通りのひたすらつらい話で、子供の演技の緊迫感がとてもよかった。そして、もう少し時間があればどう物語を続けたのだろうという関心が湧く。

 「エンドローラーズ」は、葬儀の際に流すメモリアル映像に、町工場の老社長があれこれ注文をつけてくるという話。「孫にも分かるようにロボットアームの説明アニメを作ってくれ」(一晩で!)という要望に応え、転職したばかりの新入社員は昔の職場にアニメ制作を頼む。ところが、出来上がったのは工業用ロボットアームの動画ではなく、ゲッターロボ風のアニメーション。しかし、老社長はそれを気に入り、「全編アニメに出来ないか」「歌で説明できないか」と無茶な注文を振ってくる……。アイデアとユーモアに満ちた作品で、周防政行の「シコふんじゃった」を観た時に近いような満足感があった。

 「全体ではちょっとダメなところもあったけど、タダだしな〜」と思って帰ってから他の人の感想を読もうと検索すると、映画音楽に関わっている方による「脚本の出来が悪い。ワークショップをしているはずなのにチェックしていないのか?」「1本1500万かかってるはずだけど、これならインディーズ映画数十本に100万ずつ出資した方がまし」という意見が。地域メディアで公共の文化支援に関する問題を見聞きしてきた身として、そういう意見はたしかにありかもと思った。

 また、このプロジェクトで作成された作品は、上映に当たってお金を取ってはいけないそう。そのため、会場費すら回収できないので、せっかく作ったのに上映の機会がほとんどないらしい。そこはもっと、「柔軟な運用」を考えればいいのに……。

 ただ、面白いのはその映画関係者が私がもっとも出来が悪いと感じた「もちつきラプソディ」を激賞していたことだ。「もちつきラプソディ」は田舎になじめず都会で結婚したが、夫とうまくいかず娘と2人暮らしをしている女性が久々に田舎に帰って家族と衝突しつつもそのありがたみを思い出していくという話だが、設定の古くささと不自然な行動とセリフが見ていて痛々しかった。

 具体的には、ぼけてしまった父を、都会から帰ってきた娘が風呂に入れて背中を流す場面があるのだが、娘はその際に父を風呂に入れようとしたヘルパーに「自分に任せる」用に頼む。プロのヘルパーが、実の娘とは言え初めて出会った素人に任せるのが不自然。しかもその後、娘が父に向かって自分のこれまでの葛藤を語り、それを姉たちが聞いているという陳腐な展開。全編こんな調子で、先の展開も読めてしまうし、まったく感動できなかった。

 細かいところで言えば、孫娘がおもちを食べて「美味しい!」という場面。普通は口に入れて、少し噛んでから味の感想を言うものだと思うが、この映画では口に入れてコンマ0.1秒で「美味しい!」と叫ぶので、とても嘘くさい。テーマも古くさく、まるで20年前のドラマのようで、褒めるところがどこにもないなと思っていたら、その辛辣な映画関係者が「雜さの一切ない感」と書いていて、なんだか不思議な気分に。どうも監督の知り合いかなんかっぽいが……。

 正しさも感想も人の数だけある!というのをしみじみ実感した夜だった。