ホンのつまみぐい

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「三原順の世界展」関連トークイベントを見ました

 札幌で三原順の原画展『三原順の世界展』が開催中。北海道は三原順が終生を過ごした土地で、開催は念願だったとか。

 小学生の頃の絵や中学生の頃の文集など、さまざまな展示があるそうで、関東での原画展にはだいたい足を運んだ自分でも、思わず札幌に飛び立ちたい気持ちにかられました。

moonlighting.jp

 トークイベントが配信されていたのでちょっと感想を。

 

1.「三原順のことばを考える」
日時:2021年7月31日(土)13:00~
出演:瀧波ユカリ(マンガ家)、三角みづ紀(詩人)
司会:赤木国香(北海道新聞社記者)

 

 『はみだしっ子』と『ロングアゴー』から言葉を拾い上げながら三原順語り。

 「脇の大人がふと口にする言葉に、その人の人生が滲んでいる」という話があり、たしかに子どもたちの叫びの物語だと思われがちだけど、大人の生きづらさにも初期から目を向けていると納得。

 個人的によく思い出す「よくやったってことの報酬はそれをやったってことだけさ」が取り上げられていて、ちょっとうれしい。

 私なら「金があれば防げる不幸があると骨身にしみている」「愛ってすごく不気味だね」「思い出になってしまったものはすべて哀しい」を挙げるかな。全部『Sons』だ。

 アンジーが圧倒的、次にサーニンの言葉で、グレアムの言葉が少なかったのが意外でした。マックスは言葉で伝える機会が少ないから…という話が出てましたが、ひとつだけ選ばれた言葉が「ボクたちドブネズミみたいだね」なのが面白い。

 「少女マンガのキャラとしては異色のフーちゃんのことをアンジーが好きなのがいい」という話が出ていて、ここだけちょっと複雑な気持ちになりました。

 フーちゃん途中から母親のような仙人のような人物になってしまって、ちょっとアンジーに都合が良すぎないかと感じてしまったので。最初はけっこう威勢のいい女の子だったのに、ああいうちょっと引いた立場のキャラになってしまうのは、三原さんに「女の子では自由を表現できない」という気持ちがあったのかとも。

 それはともかく「美しく老いるでしょう」という愛の言葉がすごいというのはわかります。

 8月15日まで↓のURLで観られます。

 

www.youtube.com

2. 「順さまのワイワイ仕事場(あるいはシュラバ)」
日時:2021年7月31日(土)16:00~
出演:笹生那実(マンガ家)、楡崎玲奈(元アシスタント)

 

 アシスタント経験者の笹生さんと楡崎さんのトーク。音声トラブルなどありつつ、いろいろ砕けた話や技術に踏み込んだ話などが出てきて面白かったです。

 

・アシスタントさんが悩んでいるととても親身に話を聞いてくれた。その一方で、いい加減な相手には対処しないきっぱりしたところも。(楡崎さん)

・ご本人は食事に頓着しなかったが、アシスタントさんには美味しいものを食べさせてくれた。調子が悪い時にうなぎをとってくれたり、仕事終わりに出前の寿司を出してくれたり。(楡崎さん)

・ヘビースモーカーで、アシさんもタバコを吸っていたので、原稿にタバコのにおいがついていて、編集者が封筒を開くと、わっとタバコのにおいがした。部屋には三原さんが自分とアシさんのために買ったさまざまなタバコが常備されていた。(楡崎さん)

・最初はOLをやっていたので、街で制服姿の三原さんと会うこともあった。(楡崎さん)

・(なぜ北海道を出なかったのかという質問に対し)直接聞いたわけではないけれど、アシさんとのこともあったのではないか。三原さんの絵を支える優秀なアシスタントさんとのつながりが北海道にあった。(笹生さん)

・(『Sons』の扉絵を見ながら)原画を見て、こんなにスクリーントーンを削っているのかと驚いた。こんなに削るなら最初から貼らなくてもいいんじゃないかと思うところもあるくらい。経験者なら粉が飛び散るからマスクをしないといけないというのがわかる。(笹生さん)

・(どうやって情報を集めてさまざまな世界を描いているのかという質問に対し)映画はよく見ていたようで、亡くなったあとに和室に行ったら部屋いっぱいのビデオテープがあった。(笹生さん)『スタンド・バイ・ミー』とか。(楡崎さん)

などなど、様々な話題があがっていました。新しいもの好き、ゲーム好きで、ドラクエYoutubeのチャット情報)なんかもやってたらしいというのがなんだかわかるような。『ビリーの森ジュディの樹』の一場面が何度かスクリーンに写っていたので久々に読みたくなってきた。

 

3.「北海道にマンガミュージアムを!」
日時:2021年8月1日(日)14:00~
出演:ヤマダトモコ(マンガ研究者、明治大学 米沢嘉博記念図書館
表智之北九州市漫画ミュージアム専門研究員)

 

 北海道にはマンガ家が多いという話から入り、マンガ原画の保存やミュージアムの意義の話に。

 作家の地元で展示を見ることの意義や、ミュージアムにおける原画保存についてさまざまな話が交わされました。

 印象的だったのは、デジタルデータについての話。再生機器が残るかもわからないし、色を作家の望むとおりに再現できるかもわからない。やはり印刷されたものをひとつの形として残さなくてはとのことでした(ちょっとニュアンスは正確ではないと思いますが)。デジタルがあるからといって安心できないというのは本当につくづく思います。

 それから、「今回の展示を別の地域でやってくれないか」という質問が出た時かな? 「地域の公共施設などに有志で呼びかけてみては」という提案が出ていました。『三原順の世界展』は札幌文化芸術交流センターの公募事業に応募し、採択されて実施の運びとなったとか。

 「樹村みのりさんの原画見てみたいな誰かやらないかな」と思っていたのですが、菜の花畑シリーズの舞台でもある茅ヶ崎の公共施設でやってくれたらうれしいかも。ちょっと調べてみようと思います。

 「入場料だけでは基本ペイできないので、事業の継続のためにグッズ買ってください」とストレートに話していて、やはり大変なのだなとしみじみと。

 

 イベントの司会進行役の方が北海道新聞の記者さんと、北海道の大学の大学院生さんというのもよかったですね。