ホンのつまみぐい

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8月に読んだ本・マンガなど

  無料公開していたので全部読んだ。面白かった! 紙で買い直そうと思う。別冊文藝やユリイカで特集してほしい。政治学文化人類学、地理学、歴史学、動物学などなど、あらゆる角度から語られてほしい。

 杉元が本当にブレなくいいやつで感心する。アシリパさんを自分が失った無垢の象徴として扱っていないかという内省があるところなど、他者に対する目配りが誠実だ。強い理由が「体力があってケガの直りが早い」という明快さもすばらしい。

 あと、まだうまく説明できないけどけっこう少女マンガ。BLとして読まれるのわかりすぎる。ありとあらゆるカップリングが見い出されているのもとてもよい。

 ファンの人の「尾形はドストエフスキーオーディションを書類審査だけで通過できる」というパワーワードも忘れられない。

 

  4、5話がストリップの話と聞いて、アプリで無料公開されているタイミングで読んでみた。性描写の多い大人向け少女マンガ短編集。

 絵もお話も達者なのだけど、きれいにまとまりすぎているせいか登場人物が何を考えているのがわかりづらく、のめりこめなかった。

 ストリップの話はわりと共感しやすい内容になっていて、なおかつそれなりに調べている印象。ただ、「セックスすることで本当のエロスを知る」という展開も、両想いとはいえ相手が支配人という設定もちょっと面白みに欠けるというか、ストリップ好きな人なら物足りなく思うんじゃないか。また、昭和40年代はリボンさんもタンバさんもいないだろうし、踊り子以外もさまざまなショーをやっていたはず。

 青年誌としては露出が多く、どんなプレイをしているかがはっきりわかるセックスシーンが本作の大きな特徴なのだが、ヤンジャンのアプリ内でのぼかしの基準が不明瞭でもやもやした。もともとぼかしそのものに否定的な立場だが、「乳首も×か、厳しいな」と思ったら次の話では全要素ぼかしなしという、とてつもないあいまいさが気になる。

 

  所用あって全部読んだ。キャラクターは繊細さの解像度が高くて魅力的だけど、トータルでは読みにくさの方が勝った。

 

  1~2巻までは発売時に買っていたのだけど、改めて読み直すと当時の自分では理解できていなかったさまざまなことを丁寧に掘り下げていることがわかる。

 中年のFtMのトランス男性にいちいち構おうとするかつての同級生や、女装が好きだけれどゲイという自意識はない少年(クエスチョニング)と主人公との衝突など、わかった気でなれなれしくふるまうことや、不用意に相手に踏み込むことの残酷さが丁寧に描かれていて背筋が伸びる。アセクシャルを取り上げたのも早かったんじゃないだろうか。

 さまざまな立場の登場人物を丁寧に描いている故に、マンガとしては少し推進力が弱く、題材に関心が高い人以外に届いていなさそうなのがもったいないといえばもったいない……。

 

 

  『渾名をくれ』もよくわからなかったし、野田彩子とは萌えのツボが合わないのかも……。「ヤクザ萌えと思わせといて本当の萌えはここだったのか」という逆転は面白かった。

 

 

 エロマンガ家志望の女の子・戸田セーコ。語学でのコミュニケーション能力が低く、問いに即問い出来ず「あー」「うー」と言ってしまう彼女だが、自分の心の中にある物語に形にしたい欲望は誰よりも強い。

 そんな戸田先生を支えるエロマンガ編集部のタナカと、彼女たちの周りの人々が織りなす情熱の日々を描く。

 リーダビリティがずば抜けていて、話がスルスル頭に入る。文字量も多いのに負担にならない。絵がうまくないとよく言われているが、作品に必要な絵は描けているし、不器用で複雑な人間が多いのに、キャラクターの気持ちはしっかり伝わってくる。このマンガの巧さがもっと知られてほしい。

 タナカさんがずっと戸田先生に敬語を使っているところに顕著に見えるけれど、人に対する敬意を欠かさない人間しか出てこないので読んでいてストレスが溜まらないのもいい。

 本作の白眉は表現としてのエロマンガの意味をしっかり掘り下げているところ。小器用にまとめてしまう欠点を指摘され、修行の意味で少年マンガ誌からエロマンガ誌に移ってきたNoRush先生の存在がとてもいい。

 また、どうして戸田先生が表現の場をエロマンガに定めているのか。エロを提供する大人が未成年をどのように守るか。「売れる作品=読者に喜んでもらえる作品」をどうやって提供するかなど、さまざまな避けられない課題にしっかり向き合っている。名作。

 

  みなもと太郎のインタビュー目当てに読んだが、思いのほか密度が濃い。ヤマダトモコ×川原和子の2017年振り返り対談も、一般誌では踏み込まないような細かいニュアンスが残されていて面白い。

 先日立憲民主党を離党した本多平直表現規制についてインタビューを受けていた。離党時のネット世論では本多氏に非難が集中していたが、表現規制反対について地道に活動していた人たちや、性風俗事業者の方々は本多に心から信頼を寄せ、離党に際し感謝の弁を述べていた印象がある。

 以下の文章を踏まえてそうした人々の発言を思い出すと、適切な対応というのは何かということが自分の身に迫ってくる。

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  母へのプレゼント用。

「私は大和和紀さんが好きだったけど、全然特集されないね」「ほかのマンガ家さんとの交流ってあるのかしら」とよく話していたので、山岸凉子青池保子との鼎談やインタビューを喜んでくれた。年表に作品のメディアミックスの歴史も書いてあるので、『はいからさんが通る』のドラマ化や舞台化の合計回数を数えて教えてくれた。10回らしい。阿部寛沢村一樹が少尉をやっていたというのにびっくり。

 母親が仕事として洋裁をしていて、幼いころからスタイルブックを読んでいたというのに納得。大和和紀の描く服は、着こなしに独特のセンスの良さがある。

 『あさきゆめみし』執筆時、源氏の身勝手さにイライラしていたという話が面白かった。主人公に惚れこんでいないと描けないので、彼なりの誠意のつもりなのだろうと自分を納得させながら描いていたとか。

 「光源氏ほど教養のある賢い人でもなかなか悟りを開けず、ジタバタと恋愛の中でもがいている。そういった人間の解脱への難しさ、というのが『源氏物語』のテーマでもあるんです」という本人の言葉におおっとなった。

 それは私が『あさきゆめみし』を読んで源氏に感じたことそのものだからだ。教養のある賢い人とは思っていなかったけど……。

 

moonlighting.booth.pm  有志が作ったものとは思えないほどしっかりした内容でため息が出る。三原順作品をすべて読み返したくなる。最後の立野さんの文章も読みごたえがあった。ドストエフスキー読まなくちゃなあ。

 

  ドライブで山を通った三人組と大学生の堀口さんが、土ぐも一族という土着の信仰によって結びついた共同体に捕らえられる。

 岩山の中での共同生活や、彼らを支える信仰の詳細(「おうらみもうす」という祈りの存在感!)、そして逃亡者は斬首という秘密の維持のための残酷な処遇など、丁寧に描きこまれた異世界が面白い。堀口さんが自主的に土ぐも一族のもとに残るという展開が衝撃。「大学での無為な日々より、古い生活様式の残った共同体で手を動かして生活したい」という感覚が生々しい。

 国家から分離した土着の共同体に対する郷愁と、カルト化した集団に対する批判精神が入り混じった不思議な作品。

 

  男性学特集のために読んだ。網羅的で面白かった。表紙に反して中身は人文書ガイドブックみたいになってるけど、サイゾーって誰が読んでるんだ?

目次
・ドラッグ取り締まりのための法律「薬物四法」成立秘話
・社会の変容でカテゴリが揺れる――「男らしさ」のイメージの変遷
男性学を知りたきゃこれを読め! 完全ブックガイド
・同性愛者は救われない? キリスト教の男性優位主義
・舐達麻は服も部屋もステキ 女子が萌える“ラップ男子"
・[COLUMN]サンドウィッチマンに見る“男同士のケア"の理想形
劇団EXILE「青柳翔」が語った男としての俳優論
・「軽はダサい」はもう古い? オトコたちが乗る軽自動車事情
・今もキムタクは男の憧れか――変容するジャニーズの男子像
・家父長の波平が女を抑圧するアニメ『サザエさん』は有害か?
・ポルノスター「井田裕隆」に聞く現代のAV男優像
・Pornhub騒動から考える! ポルノ視聴と男性性の劣化
・若者は逃げ出した! フェイスブックがおじさんだけの理由
・誰もが当たり前に育児をこなすためのDX「ベイビーテック」
夫婦別姓に女性議員まで反対――自民党の男尊女卑思想

 

  政策ってこういう基準で決まっているのか!ということが改めてわかって勉強になった。著者があとがきで「高校生のうちは経済学より歴史なり語学なり理数なりの基礎教養を大事にしてほしい」と書いていて首肯。

 

予言

予言

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  やっと読み終えた。とても好きなのだけどうまく説明できない。

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 映画『寛解の連続』のパンフレット。「ユリイカでこの映画を特集したらこうなるのかな」と思うような濃い座組で読みごたえがすごかった。

 目次は以下。
・イントロダクション
・小林勝行プロフィール & アルバム紹介
光永惇監督インタビュー

・綿野恵太(批評家)×光永惇 「『寛解の連続』が捉えたもの」
・
二木 信(音楽ライター) 「黒いペンがお前に力を与える─小林勝行と『寛解の連続』について」
杉田俊介(批評家) 「食うべき詩(リリック)」
・野原位(映画監督/脚本家)「小林勝行の深淵」
小泉義之 (哲学者)「半生の作品」
・『寛解の連続』採録シナリオ
・コメント

 

 『ザ・シェルター』を読み返したくて読んだ。台風の会話やっぱりいい。お母さんが家族に敬語を使っていて時代を感じる。巨大な災害がそれまでの家族の在り方を解体していく話と読むことができる台本だけど、現在の上演ではどう演出されているんだろう。老人と子どもが最初に脱出するというのは今だと解釈が難しそう。家族制度の中での役割が少ないがゆえに、家族から逸脱できる存在なんだろうと思うけど、今は老人と子どもも昔とは違った大変さがあるような。

 

hontuma4262.hatenablog.com いや、『横浜野毛』は面白い本なんですよ。

 

 

bucchinews.com  心理分析めいた見立てを振り回すのはよくないと思いつつ、読んでうなってしまった文章。ロマンさんの見立てが実情に近いかはわからないが、もしこの通りだとしたら「大森さんが今回のことをいち社会人として反省し、内輪だけでなく外に向かって謝罪する」というのは相当難しいということに……。

 また、『夏の魔物』でのことが下記のように描写されていて、当時は面白がってしまったけど、たしかにその通りだと今さら反省した。

2014年の青森時代のフェス『夏の魔物』での「私の旦那とやったアイドルが今日いる」発言。Twitterにその情報が流れてきたときに「この人は本当に自分のことだけなんだろうな」と思ったのを思い出す。そんなことを言えば、当日出演してた複数のアイドルに対して好奇の目が向くのは必然だし、当事者が特定されたら色々と揶揄されたり叩かれたりもするだろう。だいたい、それが事実であったとしても、そこに当事者が責められるべき非があったかどうかもわからないし、たとえそれがあったとしても、ああいう場であのような形で発言するのはオーバーキルでしかない。

 

www.thedailybeast.com 翻訳してくれた方によると「すぎやまこういちの起用は安倍の肝いり」とのこと。嫌悪感がすごい……。

 地獄のような閉会式にDJ松永が出てきたのもぎょっとしてしまった。SNSでは無邪気な喜びを語っていたけど、葛藤とかなかったのだろうか。  松永はNAMIMONOGATARIの騒動に対して「悲しいし悔しい」的なことをツイートしていたけど、その発言の無難さにもがっかりしてしまう。ああいう時の「無念です」「悲しいです」とかって言葉、「自分は損しないで、”ちゃんと気にかけてます感”を出す」ための言葉選びとして完璧すぎるんだよな。

 

note.com  商売ってこういうことなのかと思いながら読んだ。

 

to-ti.in 読みながらボロボロ泣いた。マンガ論でも作家論でもあり、みなもと太郎一個人の内面や生き様も伝わってくるすばらしい追悼文。本当に亡くなられたことが悲しい。

 

www.vogue.co.jp  わかりやすくまとまっていて、読みごたえがあるいい記事。

 

comic-days.com この作品を読んだ時の気持ちがまだうまく言語化できない。寂しいとか情けないってホント毒だな。