偽史山人伝は2017年の8月に知ったマンガで、読んですぐに紹介ツイートをしたのですが、その時はまったくと言っていいほど話題にならなかったんですよね。
三毛別熊事件が話題になっているようですが、ああいった強烈な害獣の歴史に想を得た偽史山人伝というすばらしいwebマンガがありまして。哲学ニュースとか好きな人には全員読んでほしい。https://t.co/pT078w9RQi pic.twitter.com/1JJDJU6ccZ
— hontuma (@hontuma) 2018年1月17日
それがいきなり1万RTとかびっくりしました。いやー、「こんな面白いマンガが話題にならないのおかしい!」と思ってたので「やったー!」という気分です。
偽史山人伝は民俗学・伝奇風ですがSF短編っぽいそのほかの作品もめっちゃ面白いです。↓
このマンガほどの普遍性はないけど、この方のほかのマンガも古いSF児童文学みたいで面白いので、リンクから探してください。
— hontuma (@hontuma) 2018年1月18日
過去作読めるリンクここです。個人的には「人間のように立つ」とか「虚数時間の遊び」とか好き。https://t.co/iehWKCOFGP
— hontuma (@hontuma) 2018年1月19日
私、もともとこういう
「かわいいキャラクター」
「有機的な背景」
「不条理な物語」
の組み合わせが大好きなんですよね。
なので、「チラシのウラ先生の他のマンガも全部読んでしまったけど、まだまだこういうの読みたい!」という人のために、とりあえず今手元にあって読み返せるやつで、次におすすめしたいやつを勝手に書いていきます。
少し昔のカトゥーンを日本向けに落とし込んだような画の山本ルンルン。小生意気な少年少女の心の機微を描かせたら一流の、児童にも評価の高い作家ですが、実はデビューはガロなんです。シトラス学園は他単行本よりダークな初期短編が多く収録されていて、苦みのある終わり方にゾクッとします。
新装版ではどちらにその初期短編が入っているのかよくわからず……。
ここでちょっと本編読めます。
『シトラス学園 キューティ』 | このマンガがすごい!WEB
下町人情ものと思われがちな「じゃりン子チエ」が、実は人と人のすれ違いや、取り返しのつかない過去とのつきあい方を教えてくれるハードボイルドな物語であることは読んだ人なら知っているでしょうが、そのハードボイルド成分をさらに煮詰めたのが猫たちの物語です。
本編にも時々猫たちの抗争や旅の物語が出て来ますが、用心棒から話の骨格をいただいた「どらン子小鉄」は、表情豊かな猫たちと絵画的な背景、そしてグロテスクな世界観がばっちりはまった大傑作です。死んだ仲間の首を吊して、どれが最初に腐り落ちるかをベットするとか発想がハンパない……。単行本はもう増刷しないらしいので、手に入れた方は捨てないでいただけると……。
あと、はるき悦巳はもともとつげ義春に影響を受けていて、「ねじ式」につらなるような不条理な夢の描写を「じゃりン子チエ」本編にもよく取り入れています。あれも「夢のような」マンガの中でベスト5に入るくらい素晴らしい。
↓「映画秘宝」好きな人なら全員読んだ方がいい傑作レビュー
「足摺水族館」「動物たち」など panpanya
現実とよく似ているけれど、どこかノスタルジックでところどころズレた風景の中を、見た目も自我のあやふやな人間がさまよい歩く(本人にさまよっている自覚はない)。まるで夢をそのままマンガ化したような作風で、チラシのウラさんの作品と一番イメージが近いのはこれかもしれません。ビニールカバーの「足摺り水族館」とか、カバーを外すとコンクリートの写真がエンボス加工で印刷されている「動物たち」とか、装丁もそれぞれ図鑑っぽいのが魅力。
自殺によりその作家生命を終えたねこぢるの初期短編集。サーカスで出会った大魔導師と話しているうちに虚無の世界に取り残されてしまう姉にゃー子の話と、夜中にカブトムシを取りにいったら彼岸に近い場所に迷い込んでしまった弟にゃっ太の話が好きです。
ガロから離れ、発表媒体が広がるうちに、少しずつ露悪的な攻撃性が前に出てくるようになって、そのあたりになるとちょっと読んでてつらいのですが、「ねこぢるうどん」は淡々とした話の筋とかわいいキャラクターの取り合わせが超越的な印象を与えてくれて心がすっきりします。
「船を建てる」 鈴木志保
かつて「ぶ~け」という、少女マンガ誌で一番「かっこいいが似合う」雑誌があったんですが、そこの看板連載のひとつでした。まるで海外の写真集を眺めているような美しい背景の中、かわいらしくも不気味なデザインのアシカたちが遊び続ける不思議な物語。彼岸の世界をこれ以上スタイリッシュに描くマンガ家はいないでしょう。白黒のコントラストの芸術!
「クッキー缶の街めぐり」 田中六大
絵本画家でもある田中六大のコミックス。表紙はのどかで、画もかわいいのですが「二千年前からの先祖の頭蓋骨が陳列された塔を守っているおばさん」とか、「身体が半分溶けたギャルっぽいしゃべりの天使」とか、「生け捕りにされた人食い鬼の鼻水を使ってジュースを作るおっさん」とか、ダークで無遠慮な世界が広がっています。
「クロとマルコ」 掘骨砕三
人体改造・異種間交配エログロマンガの第一人者・掘骨砕三の一般誌連載作品。18禁もそうですが、この人の作品は身体が目も当てられないほど変化しても開き直るでもなく明るく振る舞っているところがほんと気持ちよく読めますね。SF調、伝奇調、都市伝説モチーフとさまざまな短編が収録されています。本命は「下水街」や「ひみつの犬神コココちゃん」なのですが……。
「マヨネーズ姫」 松井雪子
純文学小説家でもある著者のガロ連載作品。何度死んでも生き返る双子の美少女、デパートの中に閉じ込められ、ずっと一人で遊んでいる女の子、食べても食べてもお腹の減らず、その大食いを見世物にしている美少女などなど、女性であることの渦を遠回しな表現で描き尽くす短編集。久々に読み返したら松井雪子意地悪すぎてちょっと気持ち悪くなりましたが、奇書であり名著であることは間違いないかと。
「寒くなると肩を寄せて」 鈴木健也
「おしえて! ギャル子ちゃん」でブレイクした鈴木健也作。でも、こっちの方が変態的で圧倒的に強力。体臭のきつそうな人物とねちっこい絵柄とコマ割は、これまで紹介した作品とかなり趣が違うとは思いますが、知名度低くてもったいないと思ってるので入れてしまいました。
ここで無料で読めます。
寒くなると肩を寄せて - 鈴木 健也 | マンガ図書館Z - 無料で漫画が全巻読み放題!
あと、単行本見当たらない&持ってないんで解説あきらめたんですけど、
「ディスコミュニケーション」植芝理一 ディスコミュニケーション(1) (アフタヌーンKC)
「不安の立像」諸星大二郎 不安の立像 (ジャンプスーパーコミックス)
「拡散」小田ひで次 拡散 1 (アフタヌーンKCデラックス)
「S60チルドレン」川畑聡一郎 S60チルドレン(1) (イブニングコミックス)
※Kindleで読めるようになってるとは…!
「チキタGUGU」TONO チキタ★GUGU(1) (眠れぬ夜の奇妙な話コミックス)
「宮沢賢治童話集」 ますむらひろし ますむら・ひろし宮沢賢治選集 2 銀河鉄道の夜 (MFコミックス)
「ミルク・クローゼット」富沢ひとし ミルク クローゼット(1) (アフタヌーンコミックス)
「水域」漆原友紀 水域 愛蔵版 上巻
「空が灰色だから」 阿部共実 空が灰色だから 1 (少年チャンピオン・コミックス)
とかも多分好きな人多いんじゃないかな。
SFが少なくてすみません。これも面白いよってのがあったらコメント欄とかで教えていただけるとうれしいです~。
※チラシのウラ作品、その後一部単行本になりました。