歴史マンガには「何があった」ではなく、「何があったことによってどうなった」の連鎖を求める。これが出来ていない作品は歴史マンガではなく、伝記マンガ・時代マンガだ。
作者のみなもと太郎はギャグマンガ家として名を馳せたベテランマンガ家だ。本作はギャグによって、マンガとしての身軽さを保ちつつ、長大な歴史の流れとともに、その濁流に翻弄されながらも、それぞれの立場を生きていく人々を描いている。
そんな本作の原画展が深川江戸資料館で行われると聞いて、連休初日に友人と足を運ぶ。
会場である資料館は江戸の長屋を完全再現した施設。引き出しを開けてもいいし、小物でごっこ遊びしてもいいしのエンタメ空間で、友人と湧く。
原画展の会場はその奥の公民館のスペースのようなところで、とても手作り感溢れる場所だった。キャプションが100均のカードケースに入っているし、会場には資料館に遊びに来たついでに寄る子供達のための塗り絵が用意されているのだ。アットホーム。観光に来たらしいおばあさま方が会場に置いてある塗り絵を囲んで「お孫さんに」「ボケ防止に」という会話を交わしていた。
複製原画と原画を何の表記もなく混ぜていたり、解説が薄かったりといくつか気になる点はあったけれど、ほのぼのとした空気はそれはそれで楽しかった。
原画は修正の少なさと、線の意外な繊細さが印象的。基本的にギャグマンガの文法で描かれているのに、時折映画的文法のコマ割りが入る手法が、歴史を描く上で大きな武器になっているのだなと実感。マンガ的に戯画化された人物とリアルな背景のごった煮は日本のマンガ独特のものらしいけど、みなもとマンガはこれを本当によく活かしている。マンガらしいマンガと言われて私が思い浮かべる作品のひとつだ。
吉田松陰が「私は人のために自分を投げ打つことができるんだ……」と言いながら佇むページの原画は、松陰の表情のヤバさが読み取れて素晴らしかった。あまり指摘されていないけれど、あの単純な描線で心の機微を描ける先生の力はやはり尋常ではないと思う。「オープンセットのような江戸の町へ…」というセリフで通りにたたずむ前野良沢を選ぶセンスに笑った。まさにすぐ横は時代劇のセットのような江戸なのだ。しかし、田沼意知が殺されるところの原画も見たかった……。
明日までなのが残念だけど、興味のある方にはぜひにとおすすめしたい。
あ、風雲児たち完結にはあと13年かかるそうです。
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