シバタさんのブログを読んで、たとえライブに当たり外れがあってもなるべく現場には足を運ぼうと思った。(予算の範囲で)
いつか本当にBiSを応援するのがしんどくなって離れていく日が来るのかもしれないけど、とりあえずはまだ気持ちに余裕がある。なんとなく遠巻きに見ることでダメージを回避するのはやめようと決意した。
そんな気持ちで乗り込んだ次の現場はテアトル新宿。
上映演目は「アイドル・イズ・デッド2」。
本作はBiS創設時からのメンバーであるのんちゃん(ヒラノノゾミ)を主役に据えたバイオレンス・アイドル映画だ。
1作目のストーリーを踏襲しているため、オープニングで前作「アイドル・イズ・デッド」の概要が紹介される。ヒラノノゾミとプー・ルイ、そしてテラシマユフ(現:寺嶋由芙)ら、アイドルに憧れるはぐれものがアイドルグループを結成。しかし、プー・ユフは殺人のために刑務所へ。一人残されたヒラノがBiSの再始動のために奮闘するところから、本作は始まる。
しかし、プーは刑務所で洗脳を受け、原発推進のためのマスコットアイドル「エレクトリック・キス」のメンバーとなってしまう。
プーの身を案じるヒラノと、何とか刑務所を脱出したユフは、新メンバーにミチバヤシリオを迎え、アイドルイベントでプーの奪還をはかるが……。
アイドルらしからぬ活動が売りのBiSは、作中でもいわゆるアイドルらしいかわいらしさを意図的に封じられる。ヒラノは冒頭で地元の不良同級生に空中回し蹴りを喰らって血を吐くし、プー・ユフは女囚として登場。ミチバヤシリオことみっちぇるはナッティー・プロフェッサーよろしくの下品なデブメイクで姿を現す。
アイドルらしくないのはBiSだけではない。この作品ではそもそもアイドルは肯定的な憧れとしては描かれない。
原発推進のためのマスコットとして活動し、時に暗殺まで手がけるエレクトリック・キス。彼女たちは光沢生地のベアトップワンピースという、いかにもなアイドル衣装で登場する。
「子供を守れー!」「原発反対!」と叫んでいたはずの反対派はどんどんエレクトリック・キスに懐柔され、全作からののんちゃんのファンである反対派のリーダーは一人孤立しながら反対運動を続けていくことになる。
かわいい女の子たちが大人の野望のために利用され、付和雷同する大人を懐柔していく様は、シニカルではあるけどいかにもアイドルらしくもあり。以前ニコニコ動画配信の番組でプー・ルイが放った「アイドルとは大人のおもちゃ」という名言を思い出させる。
世間がイメージする、可愛くてキラキラしたテレビの向こうにいる憧れのアイドルの姿はこの映画には存在しない。
しかし、そうしたシニカルなアイドルの様相が描き出されるにも関わらず、本作はやはり正しくアイドル映画なのだ。それは、この作品がアイドルをアイドルたらしめるものは何かを描いているからにほかならない。
作中でヒラノがアイドルについて「その人が自分がアイドルだって心から思えば、アイドルなんだと思う」と語る場面がある。
この言葉は半分は正しくて、半分足りない。
なぜなら、アイドルは第3者にアイドルとして扱われないとただのアイドルを名乗ってる人でしかないからだ。(逆に、当人がアイドルと名乗らなくても、第3者がアイドルとして扱えばアイドルになる)
だから、その第3者の登場のために、この映画はクライマックスにライブシーンを用意する。
洗脳から解けたプー・ルイを加えたヒラノ・ユフ・ミッチェルの4人のBiSが舞台に立ち、350人もの観客のブーイングを声援に変えていくのだ。
実際にBiSのファンをエキストラとして集めたこのライブシーンは、観客が少しずつ熱に呑まれていき、その熱が曲が進むごとにどんどん膨張していく。
ライブシーンで大画面に映るBiSメンバーと観客の笑顔は、本当に幸せそうで、暑苦しい熱に満ちていて、とても爽快だ。
破綻した物語も、へたくそな演技も、登場人物が殴打でガンガン死んでいくバイオレンス展開も、すべてをクライマックスのライブシーンが呑み込んでいく。
その様子は現実に度重なるメンバーの脱退やトラブルを経たBiSが、それでもさらなる熱狂を求めて舞台へ飛び出していく様とも重なってみえる。
満員の観客の中に飛び込んでいくメンバーのキラキラした笑顔と、トリップしたような観客の狂騒は、ライブアイドル現場の刹那的な一瞬を凝縮して保存したかのよう。
そして、なんてことない普通の女の子たちが特別な何かであろうするために必死で何かに立ち向かおうとする様は、アイドルという枠を超えた青春映画としての力強さを備えている。
BiSは7月8日に解散する。
今ですらなんだかよくわからない彼女たちとその活動が「いったい何だったのか」を、解散後に言葉で説明することは、きっとできなくなる。そして、何となく、なんだかわからない何かとして扱われていくのだろう。
ただ、この映画に収められた熱狂は、BiSが「なんだかよくわからないけどすごく幸福な一瞬」を作り出すグループだったことの証明として残っていくに違いない。