ホンのつまみぐい

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昔のBiSと研究員の話

ちょっとBiSのこと書いておこうかなと思います。

私がBiSを知って、現場に行き始めたのは2013年の6月頃で、でんぱ組.incにはまりはじめていた私が、対バン相手として名前を知ったのが最初でした。

それと同時にツイッターでハグチェキ写真が流れてきて、「なんだ、こいつら(客も含め)ヤバい」と思ったのが第一印象でした……。さらにリーダーのプー・ルイテラシマユフの仲が悪いというのがおおっぴらにされていた話を知り、ますます「なんかヤバい」いう思いを強くしていました。

その後、テラシマユフ脱退ライブのBiS4、新メンバーのテンテンコ・カミヤサキファーストサマーウイカの加入ライブBiS48をニコ生で観て、ファンの悲嘆や議論を眺めているうちにBiSが気になり始め、いつの間にかハマってしまった……というのがBiSを追いかけるまでの流れでした。

当時から研究員と呼ばれるオタクの存在感は際立っていて、でんぱ組.incのライブのハッピーな一体感とは対照的な、殺伐とした雰囲気や謎の熱意に満ちていました。

自転車に乗ったオタクをそのまま持ち上げるチャリフトとか、100kmマラソンに併走しながら、メンバー励ますために踊ったり光ったりとか、ライブ中に特定の曲でオタク同士でキスしたりとか。

BiSの危なっかしさと、それを追いかけ続ける研究員の熱意に何となく惹かれて見始めて、その後解散にいたるまで、BiSには感情を相当振り回されました。

最近、たまにBiSが伝説のグループのように語られている文章を見つけることがありますが、少なくとも私が観ていたころのBiSは歌もダンスも下手だったし、人間関係も上がったり下がったりで、お世辞にも常にいいライブをしているグループとは言えませんでした。

これは別にメンバーの責ではなく、当時の渡辺淳之介が、ちゃんとしたパフォーマンスを用意することを重視していなかったことによるでしょう。漏れ聞く話からすると、とてもではないですが、恵まれた状態で練習しているとは言い難かったようですから。

曲はいいけれど、メンバーは別にいわゆる美少女ではなく、ライブも素人っぽい。それなのに、演者もオタクもスタッフも、なぜかBiSに心から取り憑かれていました。

どうしてそういう状態が作り出されたのか、いろんな角度から語れると思いますが、私は渡辺淳之介が対談で話していたことがやっぱり正鵠を得ているんじゃないかと思います。

渡辺 すごいですよねー。ホントにラッキーだったんですけど。そこでいうと、ある種BiSっていうものは一般ピープルの星っていうか。ホントにスクールカーストの最下層系の雰囲気を持ったヤツらが目標を実現させた、『がんばれ!ベアーズ』みたいなもんですよね。

吉田豪インタビュー企画:渡辺淳之介「BiSはスクールカーストの最下層系で一般ピープルの星」(1)(1ページ目) - デイリーニュースオンライン

渡辺 そうですね。BiSによって生まれたのかもしれないですけど、BiSでも、それこそ「生誕で●●さんを呼んでステージに上げたい」って言われて断ったんですよ。「ふざけんな、おまえらがフロアで何かやることに対して俺らは文句は言わない。だけど、なぜおまえらが勝手に●●さんを呼んでメンバーの生誕を祝わせる演出をするんだ!」って。だから基本的にスタンスは変わってないんですよ。やるんだったらフロア上で勝手にやれ、と。それはたしかにお客さんの自由なんですけど、ステージ上は聖域だっていうことで。たぶん結構セットリストとか伝えちゃうアイドル運営がいるんだろうなと思うんですけど、僕たちは公開したことはないし、BiSのときから徹底してやってはいるんですけどね。

──自由にさせてくれるところがあるから、そういうものだと思ってるんでしょうね。

渡辺 そんなヤツらが売れるわけないじゃないですか。でんぱ組も絶対に教えてないですよ。だから、BiSが弱いものが好きな人たちの集合体だとしたら、BiSHっていうのは強いものが好きな人の集合体にしたいんですよ。

──客層もあんまりかぶってないですよね。

渡辺 でんぱ組とかは多分最初は弱い側だったんですけど、強い側にシフトしたんですよね。だから、こっちじゃないとダメなんだなと思って。 

吉田豪インタビュー企画:渡辺淳之介「BiSのメンバーのなかで一番成功してるのは僕なんで(キッパリ)」(3)(1ページ目) - デイリーニュースオンライン

 

「BiSは弱いものが好きな人の集合体」というのは実感としてよくわかる。

解散ライブの日に話したオタの人が「結局BiSは世界を変えられなかった」と話していたのを思い出します。弱いものが世界を変えるところが観たくて、追いかけてた人は多いと思います。まあ、お客さんてひとりひとり違うから、それが総意ではないだろうけど。

どんどんエクストリーム化していった研究員の出し物も、正直「ライブが面白くないから」、あるいは「メンバーがひどい目にあってるから励ましたくて」みたいなところもありましたもんね。

それ以前はまたちょっと違っていたそうなのですが、私が見始めてからのBiSは解散までの道のりの重さに押しつぶされそうになって、メンバーが精神的にボロボロになっている場面が本当にたくさんありました。

最たるもののひとつが、メンバーの全裸写真がQuickJapanの裏表紙になって全国で売られた時。今思うとどんなバツゲームだ……。そんで、明らかに病んでるメンバーをはげますために、ワンマンライブで一部男オタクも前張りだけの全裸になってリフトしたりとかしてましたね。あれは本当に研究員って前向きにバカバカしくてすごいなと思いましたけど、思い返すと「そんなものを肯定的にすごいって思ってしまう精神状態にオタクも演者もいた」ってことが、どんなルールの中で生きてたんだって感じですよ。

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でも、そういう行為による相互作用の面白さは実際たしかにありました。別にオタクだって単に同情していたわけではなく、ほぼ悪ふざけみたいなことをしながらステージ・フロアの双方に楽しんでもらおうとしていたし、時にはステージとフロアがバチバチやりあう場もありました。(ヒップホップの現場は演者が怖いから、ああいう客がしょうもないステージに対して異議を申し立てるみたいなのなくなっちゃって、ちょっとつまんないですね。)

継続性のない一瞬の花火のような時間の連続だったとは思うけれど、だからこそ生まれた宗教的な一体感と熱狂がたしかにあったと思います。

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ただ、それが効いたのはギリギリ2000の箱だったのだろうと思います。解散ライブは横浜アリーナで、私は1万5千円席という、そこそこ濃いめのオタクが集まってた場所にいたので気付かなかったんですが、発表曲ほぼ全曲をただ淡々とノンMCで演じる構成に、途中から客がどんどん飽きてきたそうで、後ろの席から観ていた人の感想には厳しいものも多かったみたいです。

ちなみに、この素っ気ない構成のおかげで、研究員が用意していた出し物(メンバーの変顔をA4サイズの紙にコピーしたものをアンコールの時に掲げるなど)はいくつか封じられてしまいました。とはいえ、風船を投げ込むという、今思い出すと、有志がやるにはちょっとセキュリティ的に色々問題があったんじゃないかっていう仕掛けが実行されて、あたかも運営が準備したもののように受け入れられていたのは面白かったですが。

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解散ライブの直後、横浜アリーナ前で撤収の準備をしていた熱心なオタクの人が叫んだ「あーあ!つまんねーな!!」は、身もふたもないけど、率直な実感だったのだろうと思います。まあ、自分たちが用意した出し物をつぶされたイライラも大きかったと思いますが……。

直後の呑み会での「とはいえ楽しかったよね」「やっぱりあの5人編成の時のBiSが一番」という会話を「今までの騒ぎは一体何だったんだ……」という気持ちで聞いていました。すっきりしなかったけど、その場の全体に「まあ、BiSはこんなもんでしょ」という開き直りみたいなのがあったという。不思議な解散でしたね。

 

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ところで、私が研究員という人たちのことで思い出すのは、星咲優菜さんのことです。星咲さんはよくBiSの現場に来ていたAV女優で、MOBiSPROOF―BiSの7日間戦争という本でメンバーひとりひとりと短い対談をしています。彼女が、研究員が配信していたツイキャスか何かで、「今まで行っていたアイドル現場でAV女優に近づいてほしくないと言われて現場から遠ざかってしまったことがある。だけど、BiS現場はそういうことがなくてうれしかった」という話をしていたことがありました。そのあとに誰かが「俺だってちゃんとした人間じゃないし」という意味の返事をして、星咲さんの言葉を受け止めていた気がします。

研究員と呼ばれる人たちが共有していたのって、けっこう「そういうところ」なんじゃないかと思っていて、だから、当時の研究員が急逝したオタ仲間のために、49日間毎日酒を呑みつづけるチャレンジをしていたりするのを見ると、アイドル現場で出し物をしている姿を見た時より「研究員っぽいな」と思ったりします。

別に「研究員はみんな善人だった」とかそういうことが言いたいわけでは断じてないのですが、人間的なところを隠さない人がたくさんいて、BiSらしさみたいなものって、けっこうそういうところが大きかったんじゃないかという気がします。

その後、いろいろあったみたいで星咲さんは現場に遊びに来なくなってしまったのですが、解散してからだいぶ経ってから偶然テレビに登場しました。ウイカちゃんと一緒に遊んでいるところを撮影されたのですが、「AVを辞めて、今は芸能の裏方の仕事を楽しんでやっている」と話しているところを見ることができました。

 

2月27日追記:

プー・ルイ作詞のロミオの心臓MVオマージュの研究員による動画。

アイドルオタクの、こういう好きっていう気持ちをちゃんと相手に伝える努力をするところは本当にすばらしいと思うし、好きなところです。

誰もがこんなにクリエイティブになれるわけじゃないし、節度と客観性を持って何かするというのは難しいけれど。

明るく盛大に卒業させてあげたい、そっと見守っていたい

様々なご意見があるのは重々承知しております。

それでも…

分かってはいるけれど、言わずにはいられない!

プールイさんやめないで!

どうせなら形に残そう!

 

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ただ、私にとっては知り合いや、そうでなくともSNSや現場で顔をお見かけする人たちが映っているこの動画はすごく感動的なのだけど、一方で「みんなが平等に参加できる愛情表現」でないのは明白です。

オタクのがんばりなんて見たくないという人も多いでしょうし、目立つオタクとそうでないオタクが出てくること自体が気持ち悪いという人もいるでしょう。

だから、グループが大きくなるにつれて「オタクの出し物」が減っていくのは当たり前のことなんですよね。

ですが、こういうドルオタの本気の茶番こそが、私自身が何かのファンでいる時の指標になっている部分があるのです。