ホンのつまみぐい

いろんなもののファンをやっている人が、日々のよしなしごとを綴っています。

最近観た映画(牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件、オクジャ、ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣)

そんな最近でもないか……。備忘録。

 

牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件

なぜか知らないけれど、見終わった後に手がブルブル震えていた。

この映画はある種の極限状態に陥った人間を美しく撮っており、そこかしこに暴力が発生する。そういった表現は多くの場合逆説的に生命力にあふれた画を作り出すものだけど、クーリンチェではなぜか玉虫の羽をむしり取るさまを見せられているような、昆虫を観察するかのような距離で描く残酷さがあって気持ちが擦り切れた。

露悪的ではないのに、目を覆いたくなるような残酷さがあって、そここそがいちいち研ぎ澄まされていて美しい。印象的なのは、ショッキングな場面や表情から常に少し距離を撮るカメラワーク。過剰な人物への没入を許さないからこその美しさなのかもしれない。台湾の湿度が、夜をとても滑らかに、時に万華鏡のようにきらびやかに見せていた。私は時代に翻弄される知識人として登場する主人公の父親に感情移入していて、こういう状況で子供を守ることと自分の信条を守ることを両立させられるだろうかとずっと考えていた。

 

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オクジャ

友人の当てたプレミアム試写会に同行。ネットフリックス出資作で、基本ネトフリ配信のため、映画館での上映は今のところこの日だけだったとか。

最初に監督と主演の女の子、そして香川照之となんか子役の女の子が出てきて記者会見をしていて、「このぬるい茶番ヤバくないすか」と映画好きの友人に言ったら「いや、これは映画の話をしているからちゃんとしてる方ですよ」と言われてびっくり。たしかにハイテンションでヤバかった香川照之も、子役の女の子も映画の話はしてたけど……。

映画のほうは女の子の表情の強さがすごかった。物語はびっくりするほどシンプルだったけど、前半のガラス戸に体当たりする場面とトラックを追いかける場面で元は取れる(タダで見たけど)。CGで動く巨大豚・オクジャのクオリティの高さにちょっとぞっとした。

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ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣

天才バレエダンサーの道程を描くストレートなドキュメンタリー。私の周りというか、大多数の観客はポルーニンの美しさに心を奪われていると思うのだけど、私はポルーニンの母に心を奪われていた。

母はウクライナの貧しい家庭に生まれおちた息子の才能を開花させるため、ポルーニンのイギリス留学を決行するのだが、その資金を捻出するために祖母・父は外国に出稼ぎに行き、家族はバラバラになってしまう。結局、両親は離婚してしまい、「自分がバレリーナとして大成することが家族のためになる」と信じてイギリスで孤独に耐えていたポルーニンの心に大きな穴をあけることになる。

その後、ポルーニンはスター・プリンシパルとして活躍するも、コカインを打ち、タトゥーを入れ、自堕落な生活を送り、イギリス、ロシア、アメリカと居を転々とする。

母と再会した際、ポルーニンは「母のせいで家族が離散する羽目になった」という趣旨のことを言うが、その言葉に対して母は「人生の責任を果たしただけ」という。

自分たちと同じような人生を歩ませたくない。そして、この才能を埋もれさせたくないという気持ちから、身を粉にして働いていた母親。そして、そんな母の決断のために苦闘する息子。

自分が生まれた意味を、息子を育てることに全振りしている姿はだいぶ不気味でもあるのだけど、ロイヤルバレエ団最年少プリンシパルを産んだ女性にとっては、これは天から授かったやりとげなければいけない仕事であり、その思い込みが「人生の責任」という言葉を引き出したのだろう。気持ちはわかる。自分の生に価値を感じることの喜びというのは確実にあるし、市井の人として生きるのではなく、可能性に向かって進んでいく生を息子に送ってほしいという気持ちは否定できない。

あとは、ロシアの演出家の「思い切り踊れるのは若いうちだけ」という言葉が印象に残った。身体表現はやっぱり期限付きなのか。ロシアにはバレエのバラエティ番組があるというのもびっくり。

ドキュメンタリーとしては意外性のある画がまったくない物足りなさや、説明のためのカットしかない単調さはあったけれど、それなりに面白かった。

 


Bunkamuraル・シネマ7/15(土)よりロードショー「ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣」予告編

 

セルゲイ・ポルーニン写真集 The Beginning of a Journey: Project Polunin

セルゲイ・ポルーニン写真集 The Beginning of a Journey: Project Polunin