こんな私にも営業部員だった時があった。
そして、私は勝手な勘違いをしていたために、営業部員としては無能だった。
その、勘違いというのは「コミュ力」を「人と仲良くなる力」だと思っていたことだ。
飲み会で隣の席の人とすぐLINEidが交換できるとか、営業に行った先の商談相手を笑わせることができるとか。
でも、これは間違いだ。
じゃあ、コミュ力ってなんなのか。大東京トイボックスには、これがとても適格に描いてある。
小さなゲーム開発会社が舞台のこのマンガには、若手エンジニアのマサが、仕事を放り出して逃げ出してしまうエピソードがある。
マサはとあるシステムの開発を志願して引き受けるが、そのために、ある新型システムを利用しようとする。
しかし、それは主人公であり上司である天川太陽が、かつて追い出された因縁の会社ソリダスの開発したSWEというシステム。使用料が高いこともあり、G3ではこの使用を認めていなかった。にもかかわらず、マサはそのSWEをこっそり利用して、社のみんなを見返してやろうとたくらむ。
しかし、目論見はうまくいかず、マサの開発はどんどん遅れていく。禁制のシステムを使っているために、周囲に相談も出来ず、状況は悪化していく。マサはついに、自宅作業をすると伝えたまま出社出来なくなり、仕事を放り出してしまう。
仕事におけるコミュニケーション不足というのは、ここでマサとG3のスタッフの間に起こったようなことだ。
進捗を伝える、わからないことがあったら聞く、自分の能力では処理できないことがあったらきちんとそれも伝える。そして、相手の進捗をきちんと問う。聞きやすいような環境を作る。相手の能力をきちんと把握する。これがコミュ力だ。
これを営業に置き換えると、「相手の要求を把握する」「自分の要求や限界を伝える」「お互いの合意点を探る」だろうか。
かつての自分がまさにそうなのだけど、これを酒の席でうまいお世辞が言えることや、趣味の話で盛り上がれる時間が長いことだと勘違いすると、仕事がうまくいかない。
トイボックスではマサは出社できないまま首になってしまい、残されたメンバーは彼の尻拭いに奔走し、プレゼンに失敗してしまう。
降り積もるように積もっていったすれ違いの負債がいきなり大金になって降りかかってくる。こういうリアリティのある仕事描写が、トイボックスのドキドキのひとつだろう。
ただ、それだけではワクワクが足りなくてエンタメではない。のちに、この出来事は誰もが想像する少年マンガ的な展開の伏線になる。10人中9人が想像するマンガ的な正しさをもって進む物語と、リアルな疲労や苦労のバランスがとてもよい。
ほかにも、課金型ゲームに移行していくゲーム業界の話や、表現者やメーカーは規制とどう折り合いをつけるか、あるいは戦うかの話も面白い。
どちらもわかりやすい解決策がある事柄ではないので、ここでは細かいことは書かないけど、これらの課題に向き合う際に読んでおくと、考えが整理されると思う。ただの「いいこと言い合う大喜利」ではなく、仕事としてどうつきあっていくかが真剣に作品全体で討議されている。
あとは、作画が女性なだけあって(うめさんは夫婦ユニット)服装や髪型がリアル。こういう子ってこういうバッグ持ってる感がよし!
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