利用開始から2か月間、東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県内の美術館・博物館などの文化施設の入場料が無料もしくは割引になる「ぐるっとパス」というチケットがあります。正式名称は「東京・ミュージアム ぐるっとパス2024」。金額は2500円。カードかQRコードでのオンラインチケットを選択することができます。
対象の美術館・博物館は103。そのうち96が都下の施設です。2年前からその存在は知っており、理屈ではオトクと思いつつ、これまで購入に至っていませんでした。
最近は仕事も生活もほぼ横浜市内で完結しており、美術館に足を運ぶ機会も減っていたので、モトを取れる程度に活用できる自信がなかったからです。
しかし、先日退職を決め、転職活動のために中途半端な時間に都内に行く機会が増えたこともあり、思い切って購入してみました。
すると、思った以上にプラスの面が多く、単なる割引にとどまらないメリットがありました。
いくつか実例を交えてお伝えしていこうと思います。
4月17日、BELLRING少女ハートのワンマンライブのために恵比寿のLIQUIDROOMに行った日、少し早めに恵比寿駅に行って、東京都写真美術館の展示を観ました。
・記憶:リメンブランス―現代写真・映像の表現から(700円が560円)
・TOPコレクション 時間旅行 千二百箇月の過去とかんずる方角から(700円が無料)
記憶:リメンブランスで観たマルヤ・ピリラの「インナー・ランドスケープス」シリーズがとてもよかった! 老人たちが生活を営む空間に、何気ない風景をさかさまで投射し、その不思議な光景を撮影した作品。
5月10日16時、代々木に用事があった日、近場で立ち寄れる文化施設はないかチェックしたところ、初台のオペラシティーアートギャラリーで宇野亞喜良の回顧展が。
・宇野亞喜良展(1400円が無料)
イラストレーションだけでなく、立体、アニメーション、肉筆画等々、さまざまな切り口で巨匠の仕事を一望できる大ボリュームの展示で、1時間半くらいかけたのですがとてもじゃないけど味わいきれない内容でした。
見終えてから初台から代々木まで軽く歩いたら、途中で古い知人に本当に偶然会ったのにびっくり。
5月22日13時、五反田で要件を済ませ、ちょっと歩いて目黒区美術館まで。よく晴れた日に目黒川沿いを歩くのはなかなか楽しかったです。
・青山悟 刺繍少年フォーエバー(900円が無料)
これも普段なら目黒までは見にいかない展示でした。かつては主に女性の主たる労働のひとつであった裁縫が、産業革命以降機械によって奪われてきたことを前提とし、さまざまな問いかけをする刺繍によるインスタレーション。テーマも興味深いですが、モノとしての見ごたえも高く、充実した展示でした。また、この美術館のカフェは安くてのんびりできてとてもよかった。写真にはないですが、隣の区民ギャラリーでやっていた「中平穂積 写真展 Jazz Giants 1961-2013」も見ました。
この日は時間切れで、同じく目黒の東京都庭園美術館には行けずじまいでしたが、どちらも無料になるので、目黒に行ったら目黒区美術館と庭園美術館のハシゴもいいかも。
このほか、東京藝術大学大学美術館の「大吉原展」(2000円が1800円)と、東京国立近代美術館の「中平卓馬 火―氾濫」(1500円が1400円)にも行きました。上野動物園も無料になるので、「大吉原展」のあとに行こうと思ったのですが、残念ながら入場時間に間に合わなかった。
実際に使ってみると、単に金銭的なメリットだけでなく、文化施設の楽しみ方をさまざまに広げてくれることが分かりました。
・訪れた駅を起点に、暇つぶしのために文化施設に立ち寄るようになる。
・短時間の訪問が選択肢に入る。
・あまり興味のなかった展示に足を運ぶきっかけになる。
・文化施設が休憩所になる。
貧乏性なものだから、美術館に行くとなるとついつい「じっくりと時間をかけて見なければ」と思ってしまいます。自覚していなかったのですが、これが意外と「ついでに」のハードルをあげていたよう。
たとえば、恵比寿はEBISU BaticaやLIQUIDROOMでのイベントのためによく立ち寄る駅ですが、その時についでに東京都写真美術館に行くことは今までありませんでした。
「〇〇円払って展示を見るのだから、好みの展示の日に行きたい」「じっくり見るために早めに到着しなければ」などなどのハードルを設けてしまい、結果的に選択肢から外していたのです。
しかし、それが無料あるいは割引料金で、だからこそ立ち寄りが10~30分でいいとなれば、「何かのついで」のハードルが下がります。
目黒区美術館、東京都写真美術館での展示はどちらも事前知識ゼロの状態で訪れましたが、どれもそれなりに楽しめたし、あえて自分では選択しない展示を見たからこその新鮮さがありました。
立ち寄った駅を基点に「ここなら歩いていける」と探す時間も楽しく、街歩きの選択肢が増える面白さがありました。
そして、これは意外なメリットだったのですが、美術館・博物館を休憩所ととらえられるようになりました。
外出の際の目的の時間までの暇つぶし、いろいろあると思います。本屋に行くとか、駅前のビルで服を眺めるとか。でも、そういう暇つぶしって空間単位の情報量が多くて意外と疲れるんですよね。
美術館も情報の塊ではあるのですが、おおむね空間がゆとりをもってプロデュースされているし、だいたいの施設は展示品を傷めたり、鑑賞の邪魔をしたりしないように落ち着いた照明や空調が用意されているから、いてもあまり疲れない。
美術館特有の大きめのソファーに座り込んで、気持ちのいい高い天井、暑すぎも涼しすぎもしない空調、柔らかい照明と壁面、人の気配はするけれど音楽の流れない空間に囲まれていると、ついついひと眠りしてしまう。
文化施設というのは、ただ作品に接する場所でなく、リラックスした状態でとことんぼーっとできる、自分をゆるめるための空間にもなるんですね。
展示品をぼんやり眺めながら体を休める時間には、海や山を眺めるのと同じような効能があるように感じます。
時間つぶしや休息の場の選択肢として、今まで以上に気軽に美術館や博物館を利用できるようになるのはなかなかいい感じです。
ぐるっとパスの利用は1施設1回の制限がかかっていて、同じ施設を期間内に何度も使うことはできないのですが、普段は訪れる機会のない地元の美術館や博物館を、休憩所として気軽に使ってみるのも面白いんじゃないでしょうか。
あと、貧乏性なので「モトを取らねば!」の気持ちでいろんな施設に行くので強制的に文化的になってそれもいいかも。
残念なのは、冒頭にも書いたようにこのパスの登録施設が東京に偏っていること。話題になって利用者が増えると、3県内の登録施設がもっと増えたりするんでしょうか?
今のところ都内の人とそうでない人のお得感がだいぶ違うので、そのあたりが少しでも改善されればなあと思っています。
東京・ミュージアム ぐるっとパス2024 (rekibun.or.jp)
正直サイトは使いにくいのですが、該当月の無料、割引展示を教えてくれるブログを見ながら利用しています。