ホンのつまみぐい

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現代ストリップは多彩なボディーパフォーマンスの場に 女性たちが憧れるストリップの多様性(2018.11.22、messyに寄稿)

 きらびやかな衣装を着て音楽に合わせて踊る女性。会場にはミラーボールや豪華な照明器具があり、ダンサーの姿を美しく照らす。それをキラキラした目で見守る女性たちがいる。

 でも、それはアイドルのライブでも宝塚でもミュージカルでもない。なぜなら、ステージの女性は途中からどんどん服を脱いでいって、最後は裸になるからだ。これは、性風俗関連特殊営業3号営業「ストリップ劇場」での一幕なのだ。

 かつては繁華街や温泉地の定番スポットとして知られ、ピーク時にはその数300以上と言われたストリップ劇場は、今全国に約20軒ほどしか存在しない。風前の灯、絶滅危惧種、斜陽産業と呼ばれがちなストリップ劇場に、今ひとつの波が訪れている。

 女性客の増加と、それと併行するかのような業界全体の変化だ。性風俗に位置づけられ、男性の娯楽と言われてきたストリップ劇場が、今多くの女性の心を捕らえている。撮影可のライブイベントが珍しくなく、あらゆる空間がSNSで共有出来るようになった昨今、完全撮影禁止の劇場内。その秘密の場所、ストリップ劇場で、今一体何が起こっているのだろうか。そして、女性たちはストリップをどう見ているのだろうか。

ステージの神々しさに打たれ、舞台の上へ
「あ、これやんなきゃダメなやつだ」

 AV女優の武藤つぐみは、初めて浅草ロック座でストリップを見た時、そう思ったという。

「思ったよりずっと踊ってるところが多いし、舞台も大きくて広いし、お客さんも熱心な人が多くて……。ストリップって『ピンクでエロ~』ってイメージしかなかったんだけど、その常識を覆されて」

 浅草ロック座の舞台は、本舞台と呼ばれるステージからまっすぐに花道が延び、花道の先には盆と呼ばれる円形の舞台が用意されている。ストリッパーは群舞に囲まれながらステージでダンスを踊り、一人になってから花道を歩き、盆の上にたどり着いたところで、ゆっくりと脱いで、その身体を人々にさらけ出す。この盆での見せ場はベットショーと呼ばれている。

 美しい裸体を誇るようにポーズを取るストリッパーを「まるで銅像みたいで神々しい」と思った武藤は、鑑賞直後に浅草ロック座のプロデューサーに感想を聞かれ「あれなら一日で覚えられますね」と答えたという。

 武藤の大胆な答えに根拠がなかったわけではない。彼女は14歳からの3年間バレエを習っていた。しかし、トウシューズが性に合わずに裸足で出来るコンテンポラリーに移行。それから現在までずっとダンスを続けているという実績を持つ。

 肝の太い答えにプロデューサーが期待したのか、彼女は次の週、2014年5月1日からの浅草ロック座公演にオファーされることになる。出演予定のストリッパーがいなくなったためのピンチヒッターだったが、これが武藤のデビュー。そして、現在ロック座随一の女性人気を誇る人気ストリッパーであり、同時に異端児として注目を集めるストリッパー・武藤つぐみの誕生となった。

 「ピンクでエロいイメージ」しかなかったという武藤を魅了した浅草ロック座のストリップとはどのようなものなのか。

 一般的にストリップ劇場では、4~6人のストリッパーが1日おおよそ4回ステージに立つ。踊るダンスの内容(演目と呼ばれる)はストリッパーごとに違う。ソロアーティスト4~6人の対バンが、1日何度か繰り返されるとイメージしてもらっていいだろう。

 しかし、浅草ロック座では一つのテーマに合わせ、メインのストリッパー7名が、ダンサーを従えてステージを作る。舞台はプロジェクションマッピングで華やかに彩られ、照明がストリッパーの肌を美しく照らす。クレイジー・ホースやラスベガスのショーを参考にしているというその舞台の華やかさは、まさしく「ショー」という言葉にふさわしい。

「自分自身の身体を使って世界を作っていくところがストリップの最大の魅力」

 20代女性のSさんも、浅草ロック座を機に「スト客」となった一人だ。足を運んだきっかけは大学時代にTwitterで流れてきた女性によるストリップのレポートマンガ。もともとK-POP好きだったSさんは、そのマンガに描かれていた「女性アイドルに近い」という表現を見て、足を運んでみたという。

「踊り子さんのスカートがふわっと舞ってパンツが見えた瞬間、『やばいとこ来ちゃったな』と思ったんですよ。これから脱ぐのわかってるのに。でも、見終わったら友だちに『もう一回観ない?』と言ってました」
※業界内では演者をお姐さん、踊り子さんと呼ぶ習慣がある。

 その公演で「推し」のストリッパーを見つけたSさんは、それから浅草を中心にさまざまな劇場に足を運ぶようになる。

 今、日本には約20の劇場が存在するが、浅草ロック座以外の劇場は、おおむね先ほど挙げたように複数名のストリッパーが一日数回ダンスを披露し、合間にポラロイドカメラもしくはデジタルカメラでの写真撮影(1回500~1000円)を挟むという構成になっている。

 通常、ストリッパーは10日を1単位として劇場に出演する。その10日の間に1つの演目をやり通す演者もいれば、2つ以上の演目を披露する演者もいる。

 ここで面白いのは、おおむねその内容は演者にゆだねられているという点だ。たとえば、どんな衣装が着たいか、どんな世界を表現したいか、どんな役になりたいか、どんな曲で踊りたいか、あるいは踊らないか。

 10分ほどのダンスの後に5分ほどの盆でのベットという定番の型さえこなせば、演者は自身を望むようにプロデュースできる。当然、選んだもので人気が取れるかというハードルはあるが。

 もともとアイドル好きだったSさんは、手軽な値段で会話が出来て、さらに近い距離で女性たちのダンスパフォーマンスが観られるストリップにハマっていったという。

「劇場のかぶりつき席は汗が当たるくらい近いから、アイシャドウの色まで見えることもあります。そこで衣装と色を合わせているのに気がついたり」

 ストリップ劇場の席数はおおむね数十から百数十席。イスなどない温泉地の劇場の場合、もっと少ない場合もある。そして、ストリッパーは手を伸ばせば触れることの出来るような距離で踊ってくれる。

 無防備な状態で人前に身体を晒しながら、全身を使ってエロスを表現する。その親密さや緊張感、そして多様さにSさんはすっかり魅了されていった。

「裸になるって、本来は露出しないコンプレックスの多い部分を人前にさらすことですよね。お姐さんの中にはガリガリにやせてる人もいれば、ぽっちゃりの人もいて、すべてが完璧な人はいない。だけど、みんな堂々としてかっこいい。『色んな女性像があっていいんだ。じゃあ、私のこんな体型でもいいのかな』と安心させてくれるんです。」

 Sさんは、「自分自身の身体を使って世界を作っていくところがストリップの最大の魅力」という。そこには、生まれ持った身体を活かすことでオンリーワンの世界を作り上げ、人を魅了していく女性たちへの憧れがあるのかもしれない。

描かれる物語も表現方法も多様化

 そして、現代のストリップを語る上で欠かせないのが演目のバリエーションだ。先ほども書いたように、ストリップは基本の形式に乗っ取っていれば、その後の演出は自由に選択できる。「脱ぎ」という枠の中で、それぞれが自身の個性を活かしたエロスを追及する。その面白さにハマっていく人が多い。

 たとえば、先日NHKのドキュメンタリー番組『ノーナレ』に出演した香山蘭は、「反戦歌」という演目を持っている。戦禍に翻弄され、恋人を失い、自暴自棄になった女性が再生するまでの物語を合計約45分、3部構成で演じるものだ。1部ごとそれぞれにダンスとベットを入れ、セリフなしで戦中から戦後までの女性の生き方を表現している。ちなみに、戦争をテーマにした演目自体はオンリーワンというわけではなく、現役のストリッパーでは黒井ひとみ「上海バンスキング」、葵マコ「ほたる」なども評価が高く、これらの演目はもはやエロを組み込んだ一人芝居の様相に近い。

 こうした物語性の強い演目もあれば、古風なストリップのイメージに直結する花魁の生き様を描く演目、セクシーな女教師が攻めてくるというAV的な文脈の演目などもあり。もちろん、シンプルなダンスを踊りきった後、ベットではゆっくりとその身体を見せつけるようにポーズを取っていくスタンダードな演目もある。そのエロスの表現は一様ではない。

 また、身体表現の方法そのものも多様化している。近年注目を浴びているのは「空中」でのパフォーマンスだ。天井から下ろした布を身体に巻き付け、空中でポーズを取るエアリアルティシュー。フラフープほどの大きさのリングにつかまり、時に激しく回転しながらダンスを構成するリング。正確には空中ではないが、ポールに身体を巻き付け、ステージから身体を離して踊るポールダンスなど。高い身体能力を備えた演者によるパフォーマンスが増えているのだ。

 10年以上空中演目に取り組んできた第一人者・浅葱アゲハは、ほっそりした身体全体に均整の取れた筋肉をまとい、ダンス、ベットという制約にさらに空中でのパフォーマンスを加えながら、さまざまな物語を演目に組み込んでいく。重力から自由になったかのようなその姿は、性別を超えて多くの人を引きつける。空中演目は現代のストリップの多様性を象徴するものの一つと言っていいだろう。

 武藤つぐみも、空中パフォーマンスによりその人気を拡大していったストリッパーの一人だ。もともと、ダンススキルの高さや、役柄が憑依したような演技で高い評価を得ていた武藤だが、その存在感をストリップ劇場の外に知らしめるようになったのは、現在のようなボーイッシュな見た目になり、空中技を披露するようになってからだろう。

 もともと武藤はボブカットに小柄な身体を活かした、いわゆる「ロリ売り」AV女優だった。しかし、ストリップに出続けることにより、自然と身体は「ロリ」に反した筋肉質な肉体になっていく。身体に合わせるように髪を切り、ボーイッシュな見た目を手に入れることで武藤に憧れを抱く女性が新しく増えていった。

「女の子はすごくキラキラした目で見てくれるんですよ。たまに泣いてる子がいたり。男の子は『ふーむ、なるほど』みたいな感じなんですけど(笑)。一見さんでもすごく楽しそうに観てくれるから、ついつい手を振っちゃう。そうすると『キャッ』ってなってくれたり。そういう時はジャニーズになった気分ですね」

 また、浅草ロック座でも彼女の身体能力を信頼し、エアリアルポールなどの新しい空中技や、緊縛師HajimeKinokoとのコラボといった新しい試みを任せるようになる。

 体力的にも精神的にも過酷な演目を任されることもある武藤だが、「『これ出来るでしょ?』ってプロデューサーに言われると、つい『やってみます』って言っちゃうんですよね」と笑う。

「最近だと『WonderLand』という公演でエアリアルポールをやって。それも経験無かったんで、深夜に劇場に行って毎日ポール触って練習しました。終わった後はいつも『二度と乗らねえ~~』って思うんですけど、オファー来たらすぐ『はい』ってなっちゃって。『はい』っていうことは、やりたいんですよね」

 通常のエアリアルティシューとも、ポールダンスとも違うエアリアルポールは、空中に吊さげられたポールにつかまり、回転しながらポーズを決めるという非常に難易度の高い技だ。この公演の準備から開演までの様子はBSでのドキュメンタリー番組『ストリップ劇場物語』として取り上げられ(BSフジや日本映画専門チャンネルで放送)、多くの好意的な反応を引き出した。

 また、同番組のナレーションを担当した人気講談師・神田松之丞が武藤に惚れ込み、ラジオや雑誌で取り上げるなど、連鎖的なストリップのメディア露出の増加につながっている。

 一方でストリッパーたちの劇場外活動も増えており、演劇やダンスパフォーマンスのほか、美しく均整のとれた肉体を活かしてモデルを行うものや、演者としての参加だけでなく、自分自身でダンスや芝居をプロデュースするものを表れている。

 これまで「日陰の芸能」と言われがちだったストリップ界に新しい視点での注目が集まるのと同時に、ストリップで得た表現力を活かして、活躍の場を広げていくストリッパーがいる。性風俗でもあり、同時に表現でもあるという不思議な芸能は、今新しい展開を見せつつあるのだ。

 ストリップの世界を内外に広めるアイコンとなりつつある武藤に、今後の目標を聞いてみると、「これ、ちょっとふざけてると思われるかもしれないんですけど、シルク・ド・ソレイユに行きたい……。それで、情熱大陸に出て『今の自分があるのは浅草ロック座のおかげです』って言って恩返ししたいなって」という答えが返ってきた。

 浅草から世界へ。広がり続けるストリップの世界は、これからどのようにして外の世界へ届いていくのか。芸能であり性風俗でもあるストリップは、今岐路に立っているのだ。