昨日記事書いてたらもう少し考えついたことがあったので、メモ。
アダチケイジの絵がいいということを前回少し書いた。その理由の一つはキャラクターの造形でしっかり人格を表現した上で、うまく表情をつけている点にある。
たとえば、ライバルチームに在籍しながら凡田が“中継ぎの先輩”として慕う原武投手。
番長のイメージに反して小心なプレイスタイルで自己評価も低い原武が、凡田に入団当時の自分を語るコマがこれだ。
このコマの説得力!
実際に不良だったこともあり、番長キャラを演出して人気を博している原武の、より所のなさが見事に表現されていて、なんだか何度でも読んでしまう。『グラゼニ』にはこういう“いいコマ”がちょこちょこある。これが見過ごせなくて、『グラゼニ』を読み返している部分すらある。
この、人格をうまく表現した造形を見ながら、『グラゼニ』は人生設計という現代的な尺度以外に普遍的な仕事に対する真理を表現していることに気がついた。
それは、「仕事の成果や結果は、どうしようもなくその人の人格にひもづいている」という点だ。『グラゼニ』では、登場人物の性格がストレートに仕事の結果に結びつく場面が非常に多い。5話の夏雄、9話の関谷、11話のトーマス、12話の栗城、14話の原武……。そして、4巻の9割を占める18話はたいした野心も持たずに、のんびりと2軍でプレイしていた樹が、出産をきっかけに奮起し、試合で活躍し始める話だ。しかし、これまでだらだらと野球をしてきた樹には、モチベーションを維持してうまく成果を継続させることができない。そんな中、球団はもつれた優勝争いに突入し……という話だ。
心構えで仕事の成果に如実に差が出てしまう、あるいは性格が露骨にプレイスタイルに出てしまうことは、よくある。しかし、仕事の成果が自分の人格を反映してしまうというのはけっこうしんどい。仕事がうまく行かなくなると、自分の人格が否定されたように感じてしまうことがあるからだ。一方で、仕事に向き合い続けるためには自分らしくあらねばならない(そうでないと続かない)という真理もある。結局、自分の個性をうまく尊重しながら仕事の現場と折り合いをつけて働かなくては、継続的に成果を出し続けるのは難しいのだ。
『グラゼニ』はそういう空気のようなことを、かなり意識的に描いている。また、12話で凡田は投球フォームを変えることでスピードを手に入れるが、それによってコントロールが甘くなり、ある日ホームランを打たれてしまう。スピードで攻める方法は魅力的だし、ホームランを浴びるまでは成果も出ていたのだけど、凡田は“スピードに色気を出す”のをやめて投球フォームを戻す。これは人格にひもづいた例ではないけど、自分を見極める冷静さの重要性が強調された話だ。
自分の個性に冷静にそろばんをはじいて、最大限の成果を出すために切磋琢磨し続ける。そういう『グラゼニ』の持つしんどさを、アダチケイジの絵はうまく受け止めてるなあと思う。
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