ホンのつまみぐい

誤字脱字・事実誤認など遠慮なくご指摘ください。

イレギュラーリズムアサイラムに行って見た

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 模索舎へのイルミナ納品のついでにイレギュラーリズムアサイラムへ行ってみた。

 

 2004年オープンしたインフォショップです。アナキズムDIYをメインテーマに、社会運動や対抗文化に関する書籍やZINEやグッズ、またそれらに直接携わる人々が国内だけではなく海外からも集まるスペースです。

 

 本屋と呼ぶには少ないけど、関心に即していれば充実していると言える本の在庫と様々なグッズ。そして、喫茶スペースがある。喫茶用に飲み物をいくつか売っているけど、この日はサッポロとウーロン茶しか在庫がなかったので、サッポロにした。

 流れてる音楽の大きさがちょうどよく、読書がとてもはかどった。新宿に行くたびに読書のために訪れたい。しかし、こんな店が2004年からあるなんて全く知らなかった。

 ここで読み終えた『生活の批評誌No.5』が壮絶な本で、誰かと丁寧な言語でこの本から与えられたものについて語り合い、分け合いたいと感じた。

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 お礼のつもりでイ・ランといがらしみきおの往復書簡を買った。このふたり、あまりかみ合わなそうな気がするのだが、どんな会話をするのだろうか……。

 

ira.tokyo

あだち勉物語のレビューを寄稿しました

 RealSoundに『あだち勉物語』のレビューを寄稿しました。

 

realsound.jp

 本文には書ききれなかったのですが、本作は実際にあったエピソードを大胆に組み替えた様子がはしばしに見られます。

 代表的なものは、作者のありま猛赤塚不二夫の出会いでしょう。

 『あだち勉物語』では赤塚から直接面接を受ける様子が初対面として描かれていますが、関係者証言を集めた『天才バカボンの時代なのだ!』では、赤塚が自身が編集する雑誌の写真を撮るために、古谷敏行の仕事場に訪れた際にありまと出会ったと描かれています。

 

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※『あだち勉物語』1巻

 

 

 

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 マンガを面白く読みやすくするために、必ずしも現実をそのまま描かない選択をしているのでしょう。かの有名な「登場人物のアップを見開きで描く」ギャグも、本作では勉の手柄のように描かれていますが、長谷邦夫のアイデアが元になっているという証言が存在します。本書を歴史資料として扱いたい場合、ほか媒体での証言とのすり合わせは必須となります。

manba.co.jp

 しかし、その思い切りがあるからこそ、本作は「単なる面白エピソードを集めた証言集」を超えた、青春ドラマとしての強固な普遍性を備えています。

 今はもう名前を憶えている人もほとんどいない作家や、現役ではあるけれど単行本がほとんど出ていない作家もちらちら登場するところも本作の特徴で、それは広く知られないまま消えていった作家たちも、たしかにともに時代を作った人々であるということを、ありま自身が強く意識しているからではないかと思います。

 

 

 余談となりますが、赤塚の仕事場については多くの人が書き残しているので、別証言と読み比べるのも楽しいのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

lyrical school現体制終了ライブ「lyrical school tour 2022 “L.S.”FINAL東京公演」

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 見事。

 というのが現体制終了ライブ「lyrical school tour 2022 “L.S.”FINAL東京公演」を表現するもっとも的確な言葉だったと思う。

 

 夏の日比谷野外音楽堂。しかし、刺すような日射しでも、押しつぶされるような暑さでもない、酷暑の夏の一日としては絶妙な陽気。メンバーがコロナウィルスで離脱することもなく、客席は9割埋まっている。

 

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 客入れのBGMは日本語ラップと蝉。少しずつ少しずつ下がっていく気温に身体を緩めながら、しかし、開始前の緊張に少し心臓がきゅっとなる。曲はずっと聴いていたけど、特別応援していたわけじゃないのにこれだから、もっと思いの強い人はどうしてるんだろうか。

 

 しかし、ステージに現れた5人は何の陰りも緊張もないふうで、ライブが始まってみればこちらの緊張はふっと消えてしまった。

 

 5年間の間に蓄えた楽曲が、30分ほどの区切りごと、惜しみなく披露される。どの曲を聴いてもリリース時よりはるかにラップが巧くなっていて、それぞれの声が音楽として完成した上で、こちらに飛んでくる。

 

 2017年からのリリスクのステージの特徴は、特に固定した振り付けを持たず、時々座り込んだり、メンバー同士ではしゃいだりする自由な振る舞いにある。この日も急にステージ脇に腰掛けてファンと戯れたり、メンバー同士が抱き合ったりしていた。

 

 鍛え上げられたからこそ生まれた強度と、その堅さを緩めるようなステージの軽やかさ。極めて独特の洗練されたステージが存在していた。

 

 たとえば、『LAST DANCE』の途中でhimeちゃんがファンに「泣かないで~」「最後まで笑おうよ」と言った場面とか、『オレンジ』披露前に、risanoちゃんがフリースタイルで「この空をオレンジで染めてく」と言ったけど、実際はまだ空は青く、「ちょっと早かったかなー」とこぼしたところとか、いかにもなフェミニンアイドル衣装で登場するhinakoちゃんとか、その他いろいろ気持ちがほころぶ瞬間はあった。でも、そういう細部よりは、現体制ラストライブをこのような洗練されたショーケースとして差し出せることに感動する。

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※写真は『オレンジ』披露時の空。

 こういうステージだと歌詞がどんどん頭の中に入ってきて、今までなんとなく聴いていた曲のフレーズが心に刻みつけられていく。

 

 『Bring the noise』の「世界中に嫌われても」が新鮮に聴こえたり、前半の〆と言っていい『LAST DANCE』の「それじゃ またね」が本当に切なく響いたり。

 

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 高品質なトラックが絶え間なく大音響で流れる中、身体を揺らしながら「またリリスク観にいきたいな」という思いが頭に浮かんでいた。

 

 後半のMCで「アンコールはない」「本当にないから!」と明言される。最後の数曲が始まる前に、誰かが「始まったら終わっちゃうよ」と言っていて、「ここに『ねえ』とか『ほら』とか二文字足したらアイドル短歌下の句として永遠に使えるな……。あるいは5文字付け足して上の句に」と考えたりした。

 

 最後に『LAST SCENE』。ファンの用意したサイリウム野音の客席全体に光り、メンバーも泣きそうなのが、あるいは泣いているのが後方の席からも伝わる。ステージから5人の姿が消えて、途中のMCでの告知通り、アンコールのないライブが終わる。やっと「そうかあ、今度観にいきたいと思ったけどもうないんだ」としみじみ思った。

 それから1週間くらいはずっとリリスクを聴いていた。

 

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 ラストライブ中、ふと考えていたのが『LAST SCENE』の「最後のシーン撮り終えたら君はクランクアップして」という歌詞のことだった。かつてアルバムを映画のサントラというコンセプトで作っていたリリスクらしい歌詞だ。でも「運営のコンセプト」という箱がしっかりしているがゆえに、その枠にキレイに収まってしまっている物足りなさを、リリスクには感じていた。

 

 この「運営のコンセプトという箱に収まっているが故の限界」は、アイドルを見ているとたまに感じることだ。運営のおじさんが、自分の心にある世界をどうやって音楽と女の子たちを通して具現化するか。あるいは化学反応を起こすかに腐心した結果として生まれるアイドルグループ。AqbiRecやTapestok.incがわかりやすいだろうか。

 

 そういう運営は、おじさんの心の箱の大きさの限界がそのままグループの限界になってしまうようなところがあり、「個人的には好きだけど、どう考えても広く世間に受け入れられることはないだろう」と見ていて思う。そういう狭い世界を嗜好し続ける運営と、演者の間にどこまで合意があるのだろうかと疑問に感じることも多い。演者が自分からは選択しないような世界観を表現することで、新しい表現の可能性に出会うこともあるし、それが一概に悪いとも言えないのだけど。

 

 「演者と運営の共同作業」なのか。それとも「おっさんが女の子をおもちゃにしてる」なのかは非常に微妙で、ケースバイケースだけど、運営はもちろん客も含めて、後者になっていないかを点検してほしい。

 

 話がそれたが、今までのリリスクにも運営が用意した「箱」の限界をうっすら感じてはいた。けれど、この日はショーケースとしての完成度が飛び抜けていたため、これはこれでひとつの望ましい完成形ではないかと思えた。

 

 後日発表されたminan×キムヤスヒロ×細田日出夫らの鼎談には、プロデューサーのキムヤスヒロさんが「これからはメンバーの個性を際立たせていくことを考えていた」と話していて、それが実現していれば、この日の完成形のさらに先があったのかもしれない。

 

今回は、過去作にあったようなアルバムごとのコンセプトやストーリー性を設定せずに作ろうと初めから考えていました。タイトルもグループ名を冠したものにしようと決めてたんですよね。その時点ではまだ今の体制が最後になるという話もなくて。この体制でやる音楽がかなり成熟してきたので、いよいよ次は一人ひとりの個性をどんどん際立たせていくフェーズだと思い作り始めたんです。

qetic.jp

 この鼎談では、キムさんがアイドルビジネスの問題点、ひいては他者を消費することの異常さについて語っていて、こちらもうなづくことばかりだった。特に「例えばアイドルが『結婚します』とか、プライベートなことをお客さんに伝えないっていう選択肢も許されるようになって欲しいと思ってるんですよ。」という言葉が衝撃的だった。「結婚したっていいじゃないか」とは口にしていたけど、たしかに言われてみると、アイドルに限らず芸能の世界では「結婚報告」が半ば義務付けられていること自体がおかしい。

 

 4年前に「なかなかブレイクしないし、地元の親友も結婚してしまった」と不安を漏らしていたminanちゃんが、リリスクに残る決意をしたのは、キムさんの倫理観に対する信頼や、アイドルの未来に対しての責任感もあるのかもしれない。

 

minan 同じ時期に頑張ってたグループもどんどんいなくなってしまって。どうしてもアイドルというのは長く続けられない仕事というイメージが拭えなくて、それはやってる本人たちも感じている。私もグループをやっている中で、メンバーの誰かが卒業を考えてるんじゃないか、もう長くないんじゃないか、というのを常に不安に思ってきました。でも「それっておかしいじゃん?」と感じる時もあるんです。不安に思ってる私も含めて、皆、精神的に不健康な環境なのかもしれない。アイドルという職業に対しての認識なのか、システムなのかどこかに歪みがあるように思えます。そういう部分を新体制のリリスクではしっかり考えていきたいです。

 

 次のリリスクがどうなるか、現時点ではまったくわからないけれど、新しいことを探りながら成長していくグループになるのだろうと思うし、次も自分なりの距離で観ていきたい。

 

 

 ところで、この日は真ん中より少し後方、売店直結の通路横の席で見ていたのだけど、後ろで酔っぱらったオタクが奇声をあげたり、メンバーが着替え休憩に入っている間に通路をダッシュしたりしていてうるさかった。後半になると酒で疲弊したのか声が小さくなっていて、「いい年してしょうもないな……」と思いながらその声を聞いていた。

 

 しかし、しょうもないと思いつつ、ついそれらを風物詩のような気持ちで懐かしんでしまっていて、自分もだいぶしょうもないなと思った。

 

 そもそもこの日は始まる前から懐かしい気持ちになる瞬間が多かった。

 

 大事なライブの前にオタクが気合を入れて書いたブログがバズったり、イスの上に有志の用意したサイリウムが配られていたり。

 

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 ライブ前に「アイドルラップ同好会」「みんなが集まるlyricalschool」等の言葉を添えて写真をツイートするオタクの様子を見て、コロナやグループの解散などで断絶していた2010年代のアイドル文化のノリに、久々に出会えてちょっと嬉しくなってしまった。酔っ払いも含めてのあの頃の感じ。リリスクが10年以上いい曲を作り続けてきたことにより、2010年代を生きてきたオタクが集まっている。すっかり現場を離れてしまい、最近は半ば過去の亡霊化していたから、なんだかほっとしてしまった。酔っぱらって奇声を上げるのはよくないことではあるんだけど……。

 

 亡霊と言えば、開始前の会場に『date course』のTシャツを着ている人がいて感慨深い気持ちになったのだけど、終わってから友人たちに会いに行ったら、lyricalschoolとライムベリーの対バンTシャツを着ているメンツがふたりいて笑ってしまった。

 

 そのひとりであるAさんと、ライブ後の飲み会で「アイドルって難しいね(大意)」という話をしていたら、Aさんが「ライムベリーは〇〇だったんですよ!」と言い出して、「Aさん7年経ってもその話するんか!」ということにちょっと感動してしまった。

 

 私も過去の亡霊として、いつまでも「とっくに終わってしまって、もうめったに顧みられることのないアイドルグループ」のこと考え続けると思う。


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佐々木チワワと谷頭和希の ビブ横界隈最前線 vol.3【ゲスト】 中村香住@ネイキッドロフト

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 中村さんが新しく編著書『アイドルについて葛藤しながら考えてみた』を出されるので、ごあいさつも兼ねてと思い訪ねたのですが、現場の客が自分一人で、ネイキッドロフトの苦境に思いをはせることになりました。

 前の武田砂鉄×T.V.O.D(パンス&コメカ)のトークも4人くらいだったし、さすが「サブカル不毛の地・横浜」。このサブカル不毛の地って古本屋猫企画のTさんの言葉だっけ。それとも喫茶へそまがりのTさんだっけ……。

 それはともかく、とにかく頭の回転の速い3人がそれぞれの現場での知識や実感を高速で話していくので聴きごたえはばっちりでした。

 最も印象的だったのは、歌舞伎町研究者の佐々木さんの「自由恋愛を建前にしているから性風俗で説教する男が出て来る。海外の風俗はもっとお互い割り切っている」という話。自由恋愛という建前の弊害がこんなところにも。

 ほかにもいろいろ聞いて面白かったけど、どこまで書いていいのかわからない話もぽつぽつあったし、記憶があいまいなので詳細は置いておきます。

 中村さんがディズニーランドの変遷について語っていて、なかなか面白いと思っていたらイベントが決まってました。

www.loft-prj.co.jp

 

 

 

 

 

ロシア語入門体験講座に行った

 あまりにロシアについて知らなすぎると危機感を覚え、3月に発作的にロシア語の体験講座に行って見た。

 場所は横浜平和と労働会館。京浜東北線桜木町→横浜間を行き来する人なら、「平均賃金1500円以上」「原発即時停止」などの垂れ幕と、窓に貼られたロシア語教室の文字を見たことがあるはず。

www.kanagawa-eurasia.org

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 初めてこの建物を意識したのは大学でロシア語を習っていた20年ほど前だと思う。その頃は日本における「ロシア」と「労働会館」の関係性に、あまりに意識が向いていなかった。

 いや、今でも直結してはいない。私の知っているロシアは、共産主義をやめて豊かになろうとしているところだったから。

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 ついにこの建物に……というちょっぴり興奮した気持ちで扉を開くと、古い建物の入り口にはロシア関連の掲示物だけでなく、労働関連のチラシがたくさん貼られていた。

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 これまた古いエレベーターに乗って会場に着くと、小学校の教室にあった木のイスと机が用意されていた。イスには手作りのくたびれた座布団。うーん、放課後感。

 席についた受講者数名も、講師の二人も女性。女性数名でのんびり第二外国語を受けていた大学生の頃を思い出して、テンションがあがってしまった。講師のお二人は文学や芸術をきっかけにロシア語を学び始めたようで、美術展が大きなきっかけとなった自分はシンパシーを感じた。

 授業はアルファベットの読み方から、「これはペンです」レベルの会話まで。

「シトゥエタァ」。旅行に行く時、これは最低限覚えておけと言われた「これは何ですか」。

 な、懐かしい……。教室の古びた感じも講師・生徒のどこかマイペースな感じも。

 講師の方々は皆ロシアの侵略にショックを受けているけど、それぞれ切り口や語り口が違うのもなんとなく面白かった。

 講師のAさんがいろいろロシアの困ったところを挙げたあと、「でも、ロシア人は愛情深い人たちですよ!」と言ったあと、Bさんが「……そうね…。まあ…」と言っていたのが申し訳ないけれどちょっと笑ってしまった。

 全体に漂うマイペースな雰囲気がとてもよくて、こういうところも含めて、ロシアに好感を持っていたのだったということを思い出す。ロシアのことをもっと知りたいし、この空間に来たいと思ったが、受講は時間が合わなかった。残念。

 建物一階の売店で紅茶を買って帰った。

 ロシア語、またいつか習いたい……。


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