ホンのつまみぐい

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久々に「Cats」を聴いて、どうしてグリザベラが天上に行く猫に選ばれるのかについて考えた

 アンドリュー・ロイド・ウェーバーが募金活動の一環として48時間限定配信している「CATS The Musical - FULL STAGE SHOW | The Shows Must Go On - Stay Home #WithMe」を観た。

 「人間に飼い馴らされることを拒否して、逆境に負けずしたたかに生き抜き、自らの人生を謳歌する強い心と無限の個性、行動力を持つ猫、それがジェリクルキャッツ」(劇団四季の作品紹介ページから)

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 Catsはこのジュリクルキャッツの中から誰が天上に昇るかを選ぶ物語である。といっても、猫たちが勝手気ままに自己紹介していく構成なので物語の筋は見えづらい。

 その中で唯一物語を通して変化し、天上に行くのがグリザベラという元娼婦の老猫だ。彼女は広場に集まるほかの猫たちに疎まれおり、大人猫は皆彼女を追い払おうとする。ただ一匹、子猫が手を触れようとするが、それもまわりの大人猫に阻止され、彼女は一人で昔を懐かしみながら歌う。

 このグリザベラが最後に天上に登る猫として選ばれたところで物語は終わる。

 CatsはCDを散々聴いたが、舞台そのものは高校生くらいの頃に一度観たきりで、その頃はあまり深く考えずに「歌がうまくて、実は心が美しいからグリザベラが選ばれたのか」くらいに思っていた。しかし、よく考えるとどうして天上に昇るのが彼女なのかがわかっていないので、いろいろ調べてみたら、よい文章があった。

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 マグダラのマリアと同じく、「姦淫の罪」を背負ったグリザベラだからこそ、神は彼女を救わなくてはいけない。

 そして、彼女を疎んでいた猫たちは、彼女を選択し、ふれることによって浄化され、彼女は天上に行く。なるほど、だからMemoryのサビは「Touch me」なのか。

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 しかし、キリスト教徒でない現代人からするとあまりに娼婦に課せられた罪が重すぎて腹立たしい気持ちが溜まる。市井の一個人としてではあるが、セックスワーカーの権利を考えている立場からすると理不尽すぎる。

 Catsはこれからも世界中で広く上演されていくだろうが、このあたりは何らかの形で更新できないだろうか。そして、キリスト教の理解が浸透していない日本で劇団四季はどのように解釈して演じているのだろう?

 さておき、この映像はとても見ごたえがあった。身体を自在に動かし、歌い踊る姿そのものがとても美しく、自由の具現化そのものだった。精鋭だけあって踊り終わった後の「今自分たちが世界一イケてるぜ!」というオーラが気持ちいい。カメラワークのせいか、日本版との演出の違いか、抱き上げた猫のふとももをなでたり、お互いの顔を擦り付けたり、セクシャルな描写が多くてちょっとドキッとしたが。

 しかし、この映像の中でもっとも感動的なのはその若々しい肉体美ではなく、思うように踊れずに唇をかみしめるグリザベラ(エレイン・ペイジ)の哀しみを具現化したような表情であり、御年90歳の身で舞台に上がり、昔話を若者に吹聴するかつての役者・ガス(ジョン・ミルズ)の姿なのだった。

 もう歩くこともままならず、よろめきながら手を引かれて登場するガス。猫たちがガスを缶に座らせる。ジェリーロラムが、優しい目線でガスを見つめながら歌いだす。彼女の敬意に満ちた表情と少し低い柔らかい声がたまらなくいい。歌声を聴いて、急に正気に返ったかのようにかつての栄光の日々を歌いだす。

 ガスの昔話がどこまで本当なのかはわからず、彼の妄想の可能性もある。ただ、よろよろと歌い出す彼が、徐々に役者だった頃の自分を思い出して顔を上げ、目を輝かせる。

 舞台ではこの後、ガスが衣装を着替え、若々しい姿でグロールタイガーというかつて演じた海賊役を披露する。しかし、この映画ではガスは老いた姿のまま。グロールタイガーの幻影が、幽霊のようにガスの周りをうろつく。幻影を追いかけようと立ち上がるガス。しかし、その影はふっと消えてしまう。消えた影を見やり、遠くを見るような目をし、泣きそうな声で歌うガス。それを聴いて優しく抱き留めるジェリーロラム。

 たとえそれが一瞬だったとしても、輝かしい生を生きたと思える時間があったか。ガスにはそのような瞬間があったのだ。イギリスを代表する名優だというジョン・ミルズは、輝かしい時間への誇りと、それを失ってしまった悲しみをとても細やかに、そして明瞭に伝えている。数分で数十年の生を伝える演技というものの奥深さ。その姿を優しく見つめる猫たちの姿も含めて、とても感動的な場面だ。

 老いというものをこれだけ優しく受け止め、生を肯定した映像は、なかなかないのではと思う。

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  この映像は配信が終了しても下記のソフトや配信の購入で観ることができる。

キャッツ (字幕版)

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  • 発売日: 2013/11/26
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