ホンのつまみぐい

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校庭カメラギャルpataco&pataco卒業ライブ「GAL HANDS UP」@中目黒solfa

「どうしよう?泣けないんだよねー」と校庭カメラギャル(ウテギャ)のpataco&patacoは、自身の卒業ライブで繰り返し言った。上京して3年、校庭カメラガール(コウテカ)のぱたこあんどぱたことして活動して6ヶ月、校庭カメラギャルとして活動して1年5ヶ月。8月13日のライブは、その3年の集大成だった。

 パタコは校庭カメラガール(コウテカ)だった頃の自分を「コウテカのバックダンサー」と自虐的に語っていた。たしかに、コウテカだった頃のパタコ、そして相方のラミタタラッタは担当バースも少なく、はっきり言って影が薄かった。

 彼女たち2人が唐突にコウテカから分離して、ウテギャして活動することになるとアナウンスされた時は、正直運営の気まぐれに振り回されて2人とも辞めてしまうんじゃないかと心配になった。そして、ウテギャの活動開始から数ヶ月間、2人には3曲の持ち歌で15分のライブをこなすような日々が待っていた。ちなみにスタート時はビアファローを含めた3人組だったが、彼女が辞めてしまってその後はずっと2人組として活動している。

 この「ド地下で延々3曲」の時期の現場に私は行っていないのだけど、時折フォロワーのツイートに表示されるセトリを見て、こりゃしんどいなと思っていたことをよく覚えている。しかも、全然かわいくない歌なのに。

 しかし、2016年末のEP発売の案内を前にして少しずつ曲が増えていき、やっと1時間のライブをこなせる量の楽曲が揃う。EP発売記念の12月12日の新宿ロフトではライブで感情を爆発させる。

スマイル・アゲイン

スマイル・アゲイン

 

 

アルバムが発売され、ワンマンが終わる頃には、うまく自分を出せないちょっとぼんやりとした女の子2人はオンリーワンのラップクルーになっていた。

 しかし、パタコは母親の待つ岩手の実家に戻るため、東京を離れることになる。

東京に来てからもう何年が経った?
私が今やってることは間違ってるの?

-その程度

 会場は中目黒solfa。これまで何度もtapestok records主催イベントに使われた場所だ。開演から40分以上前に到着すると、まだ人が集まりきっておらず、百合や蘭があしらわれた豪華なフラワースタンドや、かつて生誕イベントに使われたタペストリーが会場に飾られていた。

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 小さな会場奥の使われていないバーカンが荷物置き場になっていて、イスに座れるようになっていた。開演までの様子をイスの上で眺めていると、プロデューサーのJasさんがテキーラを振る舞う。「もーすぐはじめまーす。今日はパーティーなので、盛りあがってくださ~い!」というJasさん。

 フロアがいっぱいになり、暗転・ミラーボールがついて2人が入場してくる。いっぱいのフロアを見ての感想か「やばくない?これ」とキャーキャー言う。

 自己紹介ソング的なボビーとシャンパンから、全然分かってないくせに分かってるぶってるおじさんウザい (re:gal)、ゴー!ギャル ~ほんとうのギャルを求めて~、ギャルバーガーと、盛り上がりやすい曲からスタート。「私じゃ無理だとかよく言ってたっけ 私を全部使い切ってから言えよ!」というゴー!ギャルの叫びから、間奏での「オーイェー!」。オタクも後を追って「オーイェー!」を連呼する。パタコの声がとにかく明るい。

 その後のチルチルイキルが終わってMC。

 いきなり「え、しゃべることなくない?」というあっけらかんとした言葉。タラちゃんが「パタちゃんTwitter消しちゃうので、みんな写真とか保存して!」というと、「みんなしゅきしゅきとかリプ送ってきてうるさいからさっさと消そうと思って」とニコニコしながら返す。

 ああ、そっか。パタコってこういうあっさりした子だったなあ。以前、ライブの後呑みで「ウテギャにガチ恋が増えない」とオタク同士で話していたけど、そりゃ増えないだろう。2人とも媚び方を知らないし、興味もない。でも、その嘘のなさがいい。

 第三段階はじめるよ-からストレイトギャルストーリー。ストレイトギャルストーリーは青春映画の挿入歌のようなさわやかな曲だ。

タラちゃんが「今まで悪口とかばっかりだったから、普通の曲がうれしかったよね!」と話す。

 そこからギャルトマホーク、ウインターギャル、ギャルドリームと暗めなトラックが続く。ギャルドリームの力強い「あのときのWOMBとは全然違う 私の声で声あげるオーディエンス」を受け止めるように声をあげ、その後の2人のシリアスなバースはしっかり聴き入るフロアの様子も美しい。
 このあたりから、定番曲をフロアが賢明に盛り上げるというより、二人の声に導かれるように盛りあがる流れに切り替わり、アクトにオタクが呑まれる場面も出てきた。

 そして、二人のための最後の曲。GAL HANDS UP。

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 多くの人にとって、ライブでは初めて聴く曲のはずなのに、すっと自然に聴き入る流れになっていた。メロウになりきらないトラックと暗くなりきらないリリック。

 そして、その程度、ゴー!ギャル、うざおじ、その程度と再びアゲ曲の続く流れ。なぜかゴー!ギャルの間奏でガチ恋口上を入れるパタコに笑ったり、「ラミタタラッタとパタコアンドパタコ 今はこの2人だ 輝いてやるぜ 戦って勝つぜ」でお互いの顔を見合わせる2人にグッときたりした。

 この日、Jasさんは何度もパタコのバースで音を抜いていた。それはライブ感の演出だけでなく、最後の別れのために彼女の声をはっきり聴かせるための配慮のようで、何となく愛情を感じる場面でもあった。

 そして、アゲ曲の間のMCで唐突に発表された「物販終わったらライブもう一回やる」という話。ちょっと首をかしげるが、以前校庭カメラガールツヴァイの解散ワンマンで、特典会が終らずに、後日わざわざ箱を借りて場を設けることになった失敗を踏まえていたのだろうか……。

 小さい箱でのライブとはいえ、最後と言うこともあって物販列もそこそこ長い。ライブをやる時間があるのか心配になったものの、とりあえず物販に並んでチェキを撮る。チェキでも、2人とも最後という感傷より「やったる!」という気合いを感じさせた。

 物販も落ち着いてきて、フロアに再び人が集まる。先ほどはずっと後方から見ていたけれど、最後は直前まで話していたヒとミさんと一緒にフロアで待機。すると、Jasさんが「今日の予約特典、まだ取りに来てない方は取ってってくださ~い」と案内が。出て来たのは2回目のふるまいテキーラ! そして、なぜか流れるHave a Nice Day!のLOVE SUPREME。ライブ前から高まるパーティー感にアガるフロア。

 かつてのコウテカのワンマンとはまた違ったどこか行き当たりばったりな明るさに、ウテギャらしさを感じる。というより、これがウテギャらしさだったのかと気づく。

 2人が入ってきて、パタコが「今日は卒業ライブに来てくれてありがとうございます! やっぱり泣ける気がしないな~~。たのしいな~~」という。MCでは、上京した頃に給料未払いの職場を皆でボイコットするところから始まり、流されるままにアイドルになったという昔話。そして、ウテギャを選んで続けてきた話。

「きっかけさえあればすごい変われるなって。こんなうちについて来てくれてありがと~~」というパタコの言葉を聞いて、「パタちゃんより先にうちが泣くよ~~」というタラちゃん。「あ、でも泣けないんだよねー? どうしよう?」という引き続きのひょうひょうとしたパタコの言葉から、GAL HANDS UP、ボビーとシャンパン。一度断ち切られた熱が上がり直すのに時間はかからなかった。

 そして、みんないい人だって言ってるけど実際はあいつサイコパスだしヤバいから、その程度。

 ギャルウォッシュ、うざおじと続いて、最後の曲ゴー!ギャル。沸き立つフロア。そして、もう一度ゴーギャルのサビが流れる。間奏でフロアにモッシュピットが出来たので、ウォールオブデスになるかと思いきやなぜかお互いが肩に手を乗せて電車ごっこになってたのに笑ってしまった。

 これで最後という言葉を聞いて、パタコTOのみちいぬさんが叫ぶ。「ぼくは3年間パタコを応援してきました!今日で最後だけど、みんなもっとパタコの声聴きたいですよね!」から会場中に響くパタココール!

 みちいぬさんはほぼすべてのイベントに参加し、動画を撮影してアップし続けていた人だ。濃い追いかけ方をしているのに、押しつけがましいところのない不思議な人で、この日の彼のコールも力強いけれど湿っぽいところはなく、それは何となくパタコの持つ雰囲気とも通じるものがあった。

 パタコとみちいぬさんはアイドルとオタクだけど、そこに存在したのは一種の友情と言っていい何かだったと思う。

 そして再びゴーギャル!からのその程度!

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 タラちゃんが「パタちゃんが3年間やってきてよかったと思えるような環境を作ってくれて、みんなありがとうございました~~」と叫ぶ。ラップの時の違ってふわふわした口調のタラちゃん。心細いだろうに、真摯で嘘のない声。

 「それでもそれでも光が見えるからやってきたんだ!いえーいー!」

 ルサンチマンの強いリリックのその程度を明るく堂々と歌い上げて、最後には「皆さんのこと大好きで~す! 日常は続くので生きましょう!」と言いながら去って行った。

 たぶん、成果だけを取り上げればパタコもその前々日に引退したれめるちゃんも「勝てないまま表舞台から去った」と言える。でも、感傷的な言葉ではあるけど、2人とも勝ち負けでは計れないものをちゃんとつかんで、新しい日常へ帰っていった。その力強さを、費やした時間を誰が笑えるというのか。

 岩手から出てきた自信なさげな女の子が最後はライブでばっちりかまして、軽口を叩きながら去っていく。

 かっこよくて、唯一無二だったよ。というか、唯一無二になったね。パタコアンドパタコ。そして、これからもよろしくお願いします。ラミタタラッタ。

 お疲れ様です。Jasさん。

 

 

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