ホンのつまみぐい

いろんなもののファンをやっている人が、日々のよしなしごとを綴っています。

オタクだってアイドルになるし、アイドルだって大声で「舐めんな!」って言う

 学校でいじめられない方の人生を歩む人がアイドルになるのだと思っていた。ふわふわお嬢様なのか、自信たっぷりのギャルなのかという種別の違いはあるけれど、とにかく教室で中心にいて、ちやほやされる人。

 でも、「でんぱ組.inc」の第一印象は「コスプレ広場にいそうな普通の女の子」で、「あまりアイドルらしくないな」だった。

 でんぱ組.incに初めて会ったのは横浜市庁舎。日時は4月1日。5月に行われるイベント「ヨコハマカワイイパーク」を前にしての、市長への表敬訪問会見の場だった。

 会場は市庁舎の応接室。絨毯が引かれ、重々しいイスと机が並べられる。会場に集まった横浜市職員、主催のJ-Pop Culture Festival in YOKOHAMA実行委員会の関係者のほとんどはスーツかオフィスカジュアルで、自分も含めたわずかな数の記者だけがTシャツにズボンという出で立ちだった。

 そこにジャンパーを抱えて、そそくさと入ってきた「でんぱ組.inc」のメンバーはなんだかアニメ「マクロスF」のキャラのようで、しかし、たたずまいは本当に「普通のオタクの女の子」だった。

 特別に自信にあふれたたたずまいでもなく、目のさめるような美女たちでもなく、どこか照れたような表情を浮かべるメンバーは、コミックマーケットのコスプレ広場でよく見たタイプ。

 笑顔を浮かべながらも緊張した面もちで、そそくさとイスに座るメンバーを、不思議な気持ちで眺めていた。「オタクの子もアイドルになるんだ」と。

 メンバーが着席した後、「あらあら、可愛らしい」といいながら市長が部屋に入る。役者が揃ったところで、「でんぱ組.inc」によるあいさつが始まった。

 イスから降りて立ち上がり、「萌えキュンソングを世界にお届け!でんぱ組.incです」というあいさつ。会場のお堅い空気に似合わないそのかけ声を聞いて、「まあまあ、ぶっ飛んでいるとは聞きましたけど、これほどとは」と笑う市長。

 そして、着席して改めて一人一人自己紹介をする各メンバー。「金色の異端児」「歌って踊れるゲームアイドル」「永遠の魔法少女未満」という自己紹介の単語に驚く。それは3次元の人間につける形容詞か?

 メンバーに「あなたは何のオタクなの?」と聞く市長。「1歳の頃からコスプレしてました!」「パソコン3台使ってオンラインゲームをしていました」「杉浦茂が好きです」というメンバーの本物具合に驚く。

 なんだろう?この子たちは?

 質問はイベントについての意気込みへ変わる。詳しい応答は忘れてしまったが、自分の言葉で丁寧に、しかし少し緊張しながら答えるリーダーの相沢梨紗

 アニメ調のカラフルな衣裳や不思議な自己紹介の印象に反し「公的な場で語られるしっかりした自分の言葉」に、軽い感動を覚えた。

 本物のオタクがアイドルになって、自分の言葉でしっかり語っている!

 オタクはアイドルにならないし、アイドルは自分の言葉で語らないものだと思っていたから、それはちょっとしたカルチャーショックだった。

 事務所に戻って軽く「でんぱ組.inc」のことを調べて、さらに驚いた。ちょうどcakesで各メンバーの長文インタビューが公開されていた頃だ。

 古川未鈴(以下、みりんちゃん)のインタビューには、こうあった。

“私には持論があります。それは「アイドルは解散に向かって全力で走っている」ということ。悲しいけど、アイドルには賞味期限があります。綺麗なまま解散をするか、人気がなくなっても続けていくうちに空中分解するか。できれば綺麗なまま散りたい。そういった意味で、あっちゃんの卒業は本当に美しかった。”

 アイドルはそんなに自分のことを客観視しているものなのか?

 そして、それでもなお、アイドルになりたいものなのか?

 みりんちゃんのインタビューは、「どうして自分がアイドルを目指したのか」に続いていく。

「いじめられてひきこもっていた」「自分をいじめた人を絶対に見返してやりたいから、アイドルを目指した」

 ネガティブな動機ばかりを並べながら、なお這い上がろうとする強い意志がむき出しのまま語られる。

 アイドルは大人が作るお人形じゃなくって人間なのか! そして、アイドルが「私は人間です」って言っていいものなのか!

 しかも彼女たちが歌っている「W.W.D」という歌は「いじめられ部屋にひきこもっていた」という歌い出しから始まり、サビで「マイナスからのスタートなめんな!」というタンカに着地する。

 何もかもがマンガ的で、これが、現実に存在する女の子たちとその周辺の人々が起こしていることだというのが、ちょっと信じられなかった。

 でも、「W.W.D」の「バカにしたってケッコーケッコー そんなに慣れっこどーぞ どーぞ」という歌詞には背中を後押しされるような真実味があって、目が離せない。

 悔しいとか、見返したいとか、努力したいとかいう気持ちの原石のようなその曲を何度も何度も聴いて、その中の言葉を自分のことのように反芻した。

 アイドルという職業を敬意を持ってみるようになったのはその時からだ。

 ちなみに取材後の記事はこちら。
「でんぱ組.inc」が横浜市長を表敬訪問−ヨコハマ カワイイパークをPR