ホンのつまみぐい

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春ねむり “SHUNKA RYOUGEN” TOUR FINAL@LIQUID ROOM

神聖かまってちゃんが出ることを完全に忘れていて、最初に聴きなれないピアノの音が鳴って、バンドセットに見慣れない人たちが入ってきたことにびっくりしてしまった。


初生かまってちゃん。

生で聴くの子の声が可愛くて、どこか郷愁を感じさせる子どもっぽい電子音と、心の中に封じられた衝動を爆発させたがっているようなドラムの音の混じり合いが気持ちよかった。


古いイメージとは理解しつつ、の子に対して自傷的なイメージがあったので、「タダで来てるガキとかいるんだろ?」というユーモアのある煽りからの「金なんかより大事なもの持って帰ろうぜ?」という言葉や、かまってちゃん企画のオーディションに参加した頃の春ねむりの話などを聞きながら、「こういう人はこういう成熟をするのか」と考えていた。


の子の慣れた身体の振り回し方や、キーボードのmonoが背中を丸めながらロボットダンスのような動きをする姿を見ながら、ステージに独特の身体表現を取り込み、どこか演劇的な後味を与えるところが春ねむりとの共通項なのかもと思う。


そんなことを考えながら、かまってちゃんのステージを楽しんだ後、長い転換の時間を経て、春ねむりのステージが始まった。


いつものように身体を揺らして踊りだす春ねむり。いつからか春ねむりはステージで踊るようになっている。


その姿を見て、かまってちゃんのライブで感じたことがなんだったのか理解した。


の子のステージの動きも、春ねむりのダンスも客席を支配するための煽りや動作ではない。共同的な時間を作り出すための動作なのだ。


つまらないアイドルやバンドのやる、いわゆる煽りに何となく反感を感じていたけど、それとこれとが違う理由がここでわかった。


のこも春ねむりも、時折挟まるタクトを振るような動きで、自分の音楽と観客の間の補助線を作っているようで、その姿のしなやかさにグッと来た。


でも、春ねむりも昔は観客を煽るために客席に降りて、無理矢理叫ばせてたりしたんだよな……。


古参であることにほとんど価値を感じない人間なのだけど、この変化を見ていられたこと。そしてその進化を感じられたことは、実はとてつもなくラッキーなことだったのではないかと思った。今はなきduesでの観客60人ほどのワンマンライブを思い出す。


合間のMCで、数日前にドロップした入管法に対するプロテストソングWreckedの話が出た。


「内容が具体的政治的すぎて宣伝するのが難しい部分があって。あーって感じなんですけど。みんながそういうこと言えるようになったらいいなって」というMCからの、Old fashinedでの「批評のできないジャーナリスト!!」というシャウトに背筋が伸びた。


それから、長嶋水徳 – serval DOG -が登場してのシスターwith Sisters。


そして、マイクスタンドを立てて、不可思議wonderboyのカバー曲、世界征服やめた。

 

ここに来て少し目頭に涙が浮かぶ。「詩を書き続ける」というシャウトが真っ直ぐすぎる。


時に腰を折り曲げ、身体を振りまわしながら、突き刺すかのように鋭く、しかし体温のある声を放つ。音楽家としての体力がすごすぎる。


最後の曲・生きるの前のMC。細かいニュアンスは忘れてしまったけど、こんなことを話していた。


「毎朝生まれてこなければよかったと思うけど、たまにこういう時があって、もしあなたが死にたいと思ったら、あなたは春ねむりに生きたいと思わせたんだって思い出してほしい。

クソみたいなこの世の中で、たまに生きたいと思うようなことがあって。生きるってそういう残酷なことの繰り返しだと思うから」。


「毎朝生まれてこなければよかったと思う」。


心から同意してしまう。でも、大人が同意していい言葉ではないな、本当は。それでも、死なないようにしなくてはいけないよな。そんなことを思いながら、フロアにダイブして、ファンに支えられながら谷川俊太郎の詩の一節を語る春ねむりの透明で力強い姿を目に焼き付けていた。

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そして、生きるで振り上げられる拳を見ながら、なぜか、「私は私のやり方で踊らなくてはいけないのではないか」と思って少し焦っていた。春ねむりが自分の音楽を自分で表しているように、私たちも皆、自分の身体で自分の中にあるものを語らなくてはいけないのではないか……。そして、それは例えばロックンロールの現場から持ち込んだやり方ではなく、それこそ「私の踊り」ではなくてはいけないのではないか……。踊りに対する想像力も、それを表現する身体に対する客観性もないことがもどかしかった。


生きるのあと、一度幕が閉まってから、初バンドセットという今度のアルバム収録の新曲が始まった。


サビで大きな声で「私は拒絶する」と叫んでいて、「壊したい」「拒絶する」という言葉を、こんなに力強く、開かれたものとして歌える人はいないよなと思った。

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英語がたくさん記されたフラッグ。観客も国際的で、さまざまな姿の人がいた。白ワンピース衣装のコスプレをした女の子が印象的だった。ex星なゆたがフラッグと写真を撮っているのにちょっと驚いた。

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追記:東京キネマ倶楽部でのデパートメントHの前に、鶯谷の銭湯の「萩の湯」に行ったら、聞き慣れない言葉で話すアジア系の女性が3人湯船にいた。「さすが国際的だな」と思いながら風呂に浸かっていたら、日本人女性ふたり組が、おそらくいいふうではない口調で「不法滞在とか…」「この間入管法が…」と話していて、ガッカリしてしまった。

政府の行動の大きさを思い知らされて恐怖心が芽生えたし、報道の質の重要性を思い知らされた。

ああいう普通の人には、「入管法改悪反対」ののぼりの下でカードを持って立ったりすることもある私なんかは、それこそ異次元の存在なんだろうな。