ホンのつまみぐい

誤字脱字・事実誤認など遠慮なくご指摘ください。

三崎港の芋煮ロックフェスティバルに行ってきました

f:id:hontuma4262:20180921212026j:image

 

山形の芋煮を広めるためのロックフェスを三崎港でやるという不思議なイベント・芋煮ロックフェスティバル。

超絶おトクと噂のみさきまぐろきっぷのお試しも兼ねて行ってきました。

会場は市場を裏手に回った駐車場横の広場。運悪く荒天スタート。小雨が降り注ぐ中、寂しい客入りでのスタートでした。

印象的な瞬間だけ少し。

笹口騒音がYAOAY(やおやと読むらしい)という名前になっておりました。うみのての「もはや平和ではない」が好きだったのでどんなことをやるのかと思っていましたが、弱々しい自虐の挟まるMCと、これまたどこか弱々しいブルースのような歌の組み合わせ。これが小雨の降り注ぐさみしい風景とよく合っていました。

www.youtube.com

合間合間にお土産を買いに行ったり、お昼を食べに行ったり、ベンチで寝たり、大橋裕之に似顔絵を描いてもらったり(500円)して、あんまりがっつり取っ組み合って聴く感じではなかったのですが、The Fascismもmei eharaも気持ちよかったです。

トリ前出演のかもめ児童合唱団の出演者なのか、こういうイベントにしては珍しく小さな子が何人も走り回っていました。

アクト終了ごとに主催者による芋煮ロックフェスの解説とカンパのお願いが入りましたが、事前に録音した標準語のナレーションに主催の人の山形弁をかぶせていて、何だかほのぼのしていました。販売されていた芋煮は濃すぎず甘すぎずのちょうどよいお味でした。

主催者は「何とか晴れないものか」と心の底から思っているようで、何度も天気について口にしていました。

思い出野郎Aチームのスタート直前になんとか雨が上がり、テントを撤収してのライブがスタート。

f:id:hontuma4262:20180921212044j:image

アホみたいなこと言いますけど、楽器がたくさんあるので音がきらびやか。で、バンドとボーカルの歌い方のガサガサッとした歌い方のギャップがすてき。野球のユニフォームみたいな衣装がよく合っていました。

新曲の「去った!」に「失ってきた物が音楽に生まれ変わっていつかなくなる街に降り注ぐ」って歌詞があって笑ってしまいました。三浦市は消滅可能性都市指定受けてて、街のあちこちに移住を誘うポスターが貼ってあるから。

www.youtube.com

かもめ児童合唱団の頃には陽も落ち、オレンジ色の照明がステージの子どもたちを明るく照らしていました。

f:id:hontuma4262:20180921212058j:image

合唱団の子供達はおそらく未就学児から小学校中学年くらいまで。シンプルな歌声が神々しく、耳に届きました。手を振る場面でそれぞれがばらばらに、ある子はぶんぶんと力強く、ある子はゆっくりのびのび腕を動かしていたのがなんだかよかった。

でも、こういう小さい子にインターネットブルースとか言うツイッターのぼやきみたいな歌を歌わせるのが面白いと思えなくて、そこだけちょっと残念でした。 

www.youtube.com

そういえば、ロックフェスなのにいわゆるロックの人あんまりいなくてちょっと面白かったですね。

友達の作った曲が一番いい曲

 友人知人がいろいろリリースしていたのでちょっとまとめ。

mazairecords.bandcamp.com

ヤボシキイ&ドクマンジュコンビの新作「ロールスター/タイムラインストリート」。

日常の楽しさを歌いつつ、モチーフは何だかめちゃくちゃというのは変わらねど、歌い方にはチャレンジの跡が。二人とも忙しそうなのに制作続けていてエライ。

ドクマンジュくんが次回のMAZAI RECORDS主催イベントの情報をSNSでちょろっと出してたけど、ハッピーな現場になりそうで楽しみです。

 

名曲「もつ酢飯のテーマ」がぎぎぎのでにろうREMIXかつ、ニューリリックでMVに。

 

www.youtube.com

 

ライブで必ずやる曲だけど、聴くたびに「やったー!」と思うのですごく好きなんだと思います。当時尖った音作ってたドクマンジュくんが、「あえてポップに振った」という曲だけど、そのバランスが本当にちょうどよい。リミックスで多少おしゃれになりつつも、「全部イで終わらす」韻の気持ちよさや、デタラメっぷりが面白い言葉選びも健在。映像ははちゃめちゃだけどリリックは素直さや愛嬌もあって、そのバランスがグッドです。

↓は最初に発表されたやつ。

soundcloud.com 

昔を引きずる気はないのだけど、2016~2017年のMAZAI RECORDSのリリースやイベント、もつ酢飯結成などを間近で見れたのは本当に面白かった。

 

色んな人が集まって、一つのものを作り上げて、またバラバラになるのだけど、行った先でそれぞれがんばっていて。それをインタビューやイベントレポートという形で記録できたのも楽しかった。

 

私の大好きな高校演劇のマンガ「演劇部五分前」で、合宿の夜に登場人物が「多分 この先辛いこととかうまくいかないこととかたくさんあって けど そういう時 こういう思い出少しずつ消費しながら生きていくんだろうね」と口にするのだけど、私にとって、あの頃も「こういう思い出」の一つです。

 

演劇部5分前 1巻 (BEAM COMIX)

演劇部5分前 1巻 (BEAM COMIX)

 

 

演劇部5分前 2巻 (ビームコミックス)

演劇部5分前 2巻 (ビームコミックス)

 

 

演劇部5分前 3巻 (ビームコミックス)

演劇部5分前 3巻 (ビームコミックス)

 

まだ聴きこめてないけど、絶対忘れるなの「絶対忘れるな」もよかった。

 

マイクリレー曲の平凡が一番好きかな。いろんな人がいろんな語彙でそれぞれの日常を語る様子がとてもいい。

平凡 (feat. that's all folks, ez do dan子, 猫まみれ太郎 & 清友彦)

平凡 (feat. that's all folks, ez do dan子, 猫まみれ太郎 & 清友彦)

  • 絶対忘れるな
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

猫まみれ太郎くんやez do dan子さんが参加しているのもなんかいい。校庭カメラガールツヴァイ現場で出会ったケンホーさんが、猫くんをもつ酢飯の初ライブに連れてきてくれて、その猫くんが後に開いたサイファーでdan子さんと出会った、という数珠つなぎの出会いがかつてあったので。

 

絶対忘れるな

絶対忘れるな

 

 

「友達の作った曲が一番いい曲」なんて言うことあるけど、よくわかります。1曲から受け取る記憶や感情の厚みが違うもの。

 

ばらばらに出会った人たちが結びついたり離れたりして何かを作っていく様子は、何だか長い物語を見ているようです。

CHOICE VOLUME 11で思い出野郎Aチームに泣かされた

f:id:hontuma4262:20180817211120j:image

思い出野郎Aチームの、一見素朴だけど緻密な歌詞とゴロッとした歌い方に心にばんそうこうを貼られた気持ちになって泣いてしまった。

無許可のパーティー
踊れない街で
いつでもパーティー

野放しになってるヘイトよりも
禁止されたダンスビート

新曲の「無許可のパーティー」。風営法について勉強していることもあって、すごくわかる。こういうことを、あのにぎやかな音に乗せてくれたのが本当にうれしかった。

ほんとは「私の彼氏は才能もないのにバンドなんかやって物好きな人から拍手をもらっていい気になってるのよ」とか「続けてもいいから嘘は歌わないで」とか、そういう部分の話ばっかりしたいけど、ね。

「Magic Number」の歌詞も好き。

力をなくした歌はブックオフ
甘ったるいだけの物語はナンセンス
シティポップで行進するファシスト
ぶっとばすビート
役に立たないミュージック
それでも君と
役立たずのミュージック
君と聴けたら

kakubarhythm.com

高橋 自由さがどんどん失われてゆく気がするから、「自由」についてどんどん言っていかないと、って、ちょっと思っていて。ただ、それでいてすげえバカっぽい曲にもしようとも思ったんで、サビでは「スゲー自由」をひたすら連発するという(笑)。

思い出野郎Aチーム / 夜のすべて - 特設サイト - カクバリズム 

 

今立っている場所を「夜のすべて」の歌詞みたいに「スゲー自由」って、思うことができない。でも……。

youtu.be

 

泣いたのは思い出野郎Aチームだったけど、それはそれとして、ほか3組も点数をつける必要のない時間が続く良質なイベントだった。

 

洗練されてるのに、こってりした部分も持ち合わせたSTUTS。CMにばんばん使えそうな華やかさ。

www.youtube.com

 

ちょっとスカした感じで始まって、後半にかけてどんどんソリッドに盛り上がっていくWONK。

 

www.youtube.com

「誰もが踊れる曲」作らせたら右に出る人いないtofubeats。昔は「ライブ好きじゃない」って言ってたし、FANTASY CLUBのリリパでは何となく緊張した感じだったけど、今本当に楽しそうで「人って変わるなあ」、なんて。っても、彼のライブを継続して観てるわけじゃないけど。

www.youtube.com

歴史が動く瞬間に立ち会った ONE-MAN “BAD HOP HOUSE” @Zepp Tokyo

最初はBADHOPのプロモーション戦略の歴史や、楽曲に込められた感情とかをちゃんと書いた上でその日の流れが追えるようなレポにしようと思ったけど、時期を逃してしまったのでざくっとした内容で。

 

開始は金曜夜のZEPPTOKYO、19時30分。私が会場についたのは、たしか19時30分ちょうどくらい。脚も胸も見える格好の女性や、タトゥー入った人がたくさん並んでいるので、何かと思ったら関係者入口だった。

 

入口の扉を開けると、広い会場はすっかり人で埋まっていた。とにかく、若者の多さに驚く。しかもいわゆる不良だけじゃなくて、普段はおとなしそうな子もちらほら見かける。たぶん、この日が初めてのライブっていう中高生もけっこういたんじゃないかな。何となく一番後ろの壁にもたれかかるっていると、10分遅れでライブ開始。

 

最初に流れたのはくたびれた女性を主役としたイメージムービー。彼女が家に帰るとライブの招待状が届いているというストーリーだった。般若、漢 a.k.a GAMI、SHOらがタクシー運転手、工事現場の監督などに扮して登場。

 

粋な映像が終わって幕が上がると、舞台上にはメンバーの姿と巨大な2階建ての家。「めっちゃかっこいい!」と思う間もなく「Kawasaki Drift」。

 

www.youtube.com

この曲は前日急にPVが公開されていて、瞬く間にヒップホップオタクの間で話題になった。

 

「川崎区で有名になりたきゃ 人殺すか ラッパになるかだ!」というT-Pablowの咆哮。

 

声に込められた感情が圧力になって飛んでくる感じだ。 

そのまま矢継ぎ早に曲をやっていく。とにかく、ライブの圧とそれを受けて騒ぐ客の熱狂がすごい。盛り上がるというより騒ぐという言葉がふさわしい若々しい熱狂。

 

セットの二階建ての家にはちゃんと階段がついていて、「Asian Doll」では2階でダンサーの女の子をはべらせながら歌っていた。まるで映画のワンシーンのようだ。それにしても、こういうセクシーであることを見せびらかすダンサーがいる舞台を見ていると、「やっぱこの人たちめっちゃセックスする側の人間なんだなあ……」という感慨がわく。

 

まとめて曲をやって、合間の休憩が終わってからラジオ・リバトークのリアルタイム放送だったと思う。質問はツイッターのタイムラインで募集。くつろいだ内容で、たしか「Kawasaki DriftのPVはまだ歌詞が決まっていないときに作ったから唇の動きがあってない」みたいな話をしていたと思う。印象に残ったのは「BADHOPメンバーはSHOさんを尊敬している」話。そうなのか……。

 

児童だった頃から一緒にいたような川崎のラッパー・DJたちがゲストで登場し、心の底から彼らを祝っている感じもよかった。地元の仲間との会話って内輪になっちゃうこともあるんだけど、これだけスケールがでかいと狭くならない。

 

そして、ラスト近くのT-PablowのMC。

 

「ヒップホップ好きって言われると笑われる時代、終わりにしませんか?」

「金や権力を使って有名になっている奴ら、汚い業界を一緒にぶっ壊していきませんか」

 

本気ででかいこと言うのは覚悟がいるし、説得力がなくちゃ意味がない。しかし、今まさにZEPPTOKYOでそれを成し遂げている男が語るこの映画のようなタンカは、その先をクリアに想像させるものだった。

 

アンコールなしで「Life Style」が最後の曲という幕の閉め方も美しかった。

 

楽曲制作はもちろん、プロモーションや舞台演出を基本20代のメンバーたちで企画したっていうところも含め、なんかもう、全体的に「その時歴史が動いた」という感じだった。きっと、いつかあの場所にいたことが自慢になる。

 

クタクタになって、帰りの駅のホームで思わず「あ~~、疲れた」って言ったら横の人に笑われたのもいい思い出。

 

f:id:hontuma4262:20180815174712j:image

eyescream.jp

www.asahi.com

フィクサーYZERRのインタビュー。めっちゃおもしろい。

 

Mobb Life

Mobb Life

 
BAD HOP HOUSE [Explicit]

BAD HOP HOUSE [Explicit]

 

 

追記

 

ルポ川崎発売時のイベントの質疑応答の会話。


優しそうな話し方の中年の女性の質問。

「私は川崎に25年住んでいて、息子がBADHOPのメンバーと同じくらいの年齢です。彼らのことはこの本で初めて知りました。息子に聞きましたが、道を歩きながら急にフリースタイルバトルを始めたり、若い子たちにはラップが根付いているようです。彼らのライブに行ってみたくなったのですが、怖くはないでしょうか?」


磯部さん

1月に川崎で、彼らの幼馴染主催の12時から21時までのイベントがあったんですが、そこでは中学生くらいの女の子が彼らを正面で見るために昼から待っていたりしました。中高生もたくさんいて、とてもアットホームなイベントでした。
彼らが昨年、川崎でフリーのライブをやったのも、子供たちに来てほしかったからなんです。でも、終わった後に失敗したと言っていて。『時間が早すぎて職人(地元の仲間)が来れないんですよ』って。音楽で成り上がりたいと思っているけど、そういう地元の人への気持ちもある。

彼ら主催のイベントは怖くはないと思うので、4月にZEPPでライブをやるのでぜひお子さんと観に行ってください」

という一幕がありました。この方、本当に観に来ていたらうれしいですね。

ルポ 川崎(かわさき)【通常版】

ルポ 川崎(かわさき)【通常版】

 

 

アイドルに「なりたい」あの子にとっての「IDOL SONG」

おおっぴらにされるのを好まないだろうから詳細は書けないのだけど、「自分自身にとっての理想の女の子を演じながら人を笑顔にするのが仕事」の女の子が、その仕事で大森靖子の「IDOL SONG」を使っている場面に居合わせた。

今、この文章を書くために改めて歌詞を読みなおして、この歌があの状況にいかに似合っていたか、あの子がどんな気持ちでこの曲を使ったのかと考えて、胸がいっぱいになってしまった。

ねえアイドルになりたい すっごい愛をあげたい このいのちの使い方を 君に愛されたい

ねえもし君が他界したとしても君が 必要な分の幸せはあげられていたかな

これは、アイドルに「なりたい」歌なのだ。「自分は『アイドル』ではない、だけど……」とあの子は思っているだろうか。なんだか勝手に妄想してしまう。

※「他界」はアイドルオタクのスラングで、「ファン活動をやめること」です。


大森靖子「IDOL SONG」Music Video


【MAD】大森靖子「IDOL SONG」RESPECT MAD

そして、最近ネットで話題になっているこれ。大森さん、かつては言葉が足らずに誤解されることもあったけど、このインタビューは本当にわかりやすい。でも、単純でもないし、一面的でもない。

大森さんは、いつでもブラッシュアップしていて、いつでも怒りを忘れないで、いつでも優しくあろうとしている。

www.buzzfeed.com

IDOL SONG

IDOL SONG

  • provided courtesy of iTunes

 

地に足を着けながらやっていく/ロベルト吉野主催・豪雨災害復興応援ライブ「DRIFTAWAY」

数年後には西日本豪雨という言葉も、地元の人にしか通じない災害の名前になって、災害対策本部がすぐに作られなかったことも、その真っ最中にオウム真理教事件の死刑囚が一斉に処刑されたことも忘れられてしまうのだろうか。まず、どういう災害だったかを書いておく。

 

2018年6月28日から7月8日までに起こった豪雨は、100人を超える死者を出し、広島、岡山を中心に西日本に浸水被害や土砂災害をもたらした。

被害の様相に胸を痛めつつ、頻発する大災害にちょっと不感症になっているところもあった。一方、政府の対応ははっきりと不適切だったのに、「いやいや、よくやってる。文句をいうやつは政権にクレームをつけたいだけだろう」という人が少なくないことに、ずいぶん気持ちを削られた。

 

皆、「自分が国家に蹂躙されている」という屈辱的な状況を認めることが出来ないのだろうか。たしかに、「お上は自分たちのことをちゃんと考えている」という認識の中で生きることができれば「自分たちは搾取されているし、人権を蹂躙されている」という事実に向き合わずに済む。だけど、それは愚かな生き方だ。そして、そういう態度は弱い立場の人間を文字通り殺すことになってしまう。

 

私が社会に対して無気力になっている中、ロベルト吉野さんは被害が広まり始めた早い段階で、西横浜エルプエンテに話を取り付けて災害復興応援ライブを決めていた。

 

エルプエンテはいわゆるライブバー。主に平日はバー、週末はライブハウスになる。メタルに強いらしく、blackfileが制作した吉野さんのインタビュー映像にも登場している。

www.youtube.com

SNSで参加を募った演者は皆、仕事が終わってからの参加になるということで、「タイムテーブルはその場で決定。時間はだいたい各15~20分」というアバウトな段取だった。

 

会場についたのは19時半ごろ。エルプエンテは階段を下りて左手がフロア、右手が演者控室になっていて、控室は飾り気のない部屋に黒で覆われた機材が山と積まれており、反対にフロアはフライヤーやグラフティで雑然としていた。

 f:id:hontuma4262:20180812002141j:image

フロアに入ると、昔好きだった横浜へそまがりという喫茶店と、同じにおいが鼻をかすめる。好事家の店長が作った、二階建ての一軒家をまるごと喫茶店に改造した不思議な店で、シーシャというトルコタバコを吸う人がいたり、DJイベントがあったり、弾き語りライブがあったりという気まぐれな店だった。

 

「ああ、懐かしいな。やっぱり音楽の鳴る場所だから同じ匂いがするのかな」と思って親しげな気持ちになる。あとでそれは冷房機器の風の匂いだと気がつくのだけど。

 

入り口脇で固まっていると、奥にいた人が「バーカンで1000円払ってくれ」という。バーカンに置かれたお皿にお札を入れて、再び演奏を見つめる。

 

この日の演者はパンクやメタル畑の人が多かった。私は演奏者の感情や熱量がストレートに音に乗るタイプの音楽がちょっと苦手で、正直メタルもパンクも得意じゃない。

 

でも、そういう現場のお客さんのテンションの高さを見るのはけっこう好きで、突撃するかのようにモッシュしている人々の表情が、いつも少しうらやましい。

 

お互いの顔がはっきり見える小さなフロアで、演者の作り出す過剰なドラムやギターの音を、追いかけるように身体を振る客の様子は、相思相愛の美しさがあった。

 

吉野さんは刑/鉄とDJで参加していた。普段はあまり演者に近寄らないのだけど、今回は小さなバーなので、ほぼ初めてじっとDJの手元を見ながら聴くという経験をした。

 

刑/鉄を観るのは3回目くらいだけど、いつもテンションが上がりきった終盤頃から観ているので、この日初めてちゃんと音楽として聴いた。

 

ギターとDJの息を合わせてバイブスを加速させていくという、かなり変則的で情報量の多いことをひょいひょいやっていて、高度なことをしているはずなのに、洗練とは真逆の方向に行く様子が面白かった。

 

吉野さんが途中でTシャツを脱いでバーカンからビールを受け取ったあたりから、ギターのケイタさんが演奏を終えたほかのバンドの人に担がれたり、ドラムとギターが勝手に乱入したりとどんどんごちゃごちゃしていった。

 

吉野さんが途中のMCで「みんな普段は生活しながらだけど、こういう時間があるの最高だろ」という主旨のことを、いつものようにちょっと不器用な口調で話していたけど、ディテールを忘れてしまった。

 

たぶん間違いなく、この日の演者の中に音楽だけで生活している人はいない。普段はお店を経営していたり、サラリーマンをやっていたりするはずだ。バーカンの中の人がボーカルになることもあった。でも、日常の中にずっと音楽が寄り添っていて、いざという時にみんなで集まれるというのはとてもうらやましい。

 

ヒップホップ関連の演者は私の見た範囲ではKMCとICHIYONしかいなくて、そのKMCもSYMBOLというロックンロールバンドで登場。吉野さんらしいなあと思う。KMCは音源をはるかに上回る熱量の声だったけど、バンドの音が大きすぎて歌詞がほぼ何を言っているのかわからなかった。でも、大柄な体躯でマイクに噛みつかんばかりに歌う様子は、とてもチャーミングだった。

 f:id:hontuma4262:20180812002128j:image

 

そして、ICHIYONくんの客演に、以前猫まみれ太郎くんのサイファーに来てくれたEZ do dan子さんが来ていた。

 

dan子さんは、そんなに話したことはないけれど、現場で会えるとうれしい人。そういう人にこういう場所で会えるのは、本当にうれしい。

 

dan子さんの「イメージする横浜と違ってびっくりしました」という言葉に「みんながイメージする横浜なんで30分の1。いや、90分の1くらいですよ」なんて知った風な答えをする。

 

ICHIYONくんとの曲は、普段の彼女の柔らかい雰囲気とは違うクールな声がかっこよかった。

 

来た順に演奏というタイテで進行はどんどん押していって、11時頃、吉野さんがマイクを2本つかみながらフロアに残った人に「帰れる?帰れる?」と順番に聞いていて、なぜかちょっと笑ってしまった。

 f:id:hontuma4262:20180812002125j:image

最後のバドゥエリカが床にゴロゴロ転げ回るパンクなライブを終えた頃にはもう11時半。フライヤーの終了時刻を1時間半すぎていた。

 

「昔岡山のペパーランドってバーに呼んでもらったことがあって……。俺が何かするなら岡山かなって。こういうのがつながって続いていけばいいなって」という主催あいさつで終了。フロアの帰れない人、帰りたくない人たちが、残りの夜の段取りを話し合っている姿を見ながら帰宅。

 

到着してから4時間。あるバンドのギターの人が言った「楽しいことしながら人助けになるってサイコーですね~!」に代表されるような、わざとらしくない遊び心と優しさ、そしてちょっとの照れに満ちた空間がずっと広がっていた。

こういう夜のことを思い出しながら、生きていかなくてはいけない。

 

 f:id:hontuma4262:20180812002122j:image