ホンのつまみぐい

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川崎のライブハウスで川崎のラッパーを観た(King&Queen@セルビアンナイトでのBAD HOP、DAWG MAFIA FAMILY、LiLMANら)

BADHOP観るならやっぱり川崎。ということで、行ってきたKing&Queen@セルビアンナイト。(2018年1月14日)

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しかし、川崎駅前徒歩5分のところにクラブチッタ以外のライブハウスがあったなんて知らなかった。スケジュールを見ると登壇者はローカルなアーティストが多め。横浜の箱も集客には苦労しているけど、川崎はよけいだろうな。

飲み屋に続く階段を上がって中に入ると、真っ暗なフロアの奥でステージだけに光が当たっている。DJタイム中なのだけど、フロアの客は目の前のことに無関心。ああ、苦手な空気だ。

私が着いた時間のライブショーケースはラップスタア誕生で300万を手にしたという沖縄のDaiaから。フィジカル強いと思うけれど、初聴きではちょっと好き嫌いの判断が出来なかった。

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お次のLiLMAN。「おれは死んでも川崎を忘れないぜ!」という高揚感のある叫びと自分史を盛り込んだ曲はまさにブルースでかなりぐっときた。今はフィリピンパブで働いていると言っていたかな。

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そしてDAWG MAFIA FAMILY。照明が真っ赤になり、効果音として銃声の音が鳴る。KNZZとA-THUGとEATは見た目がかなりファニーで見世物小屋的なキャラクター性があるのだけど、一方で目がすわっていて怖い。

PACKAGE PACKAGE!!
あそこで売ってる 買ってる
いつもここでやってる あいつもやってる
あそこで売ってる そこでも買ってる

ふてぶてしい雰囲気と禍々しい照明のおかげで、まるでホラー映画を観ているような気分にもなる。終了後にMCの人が「いやー悪い人たちだったね」と話していた。

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LEON a.k.a 獅子。横浜で何度か観ているけど、小柄でハニーフェイスな彼はイキり気味の歌詞をライブではあんまりうまく表現できていないような……。アウェイでの緊張が見えていて、ちょっと「がんばれ!」という気持ちに。

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GUN SHOT

GUN SHOT

  • LEON a.k.a. 獅子
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥200
  • provided courtesy of iTunes

大阪からWILLY WONKA。バタ臭いイケメンで、よくモテそう。この日は生き生きした川崎のラッパーたちと、アウェイで少し緊張気味の余所から来たラッパーたちという空気があって、彼もどこか気を使っている風だった。

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CCC

CCC

  • WillyWonka
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

トリのBADHOP

右手に立って観ていたのだけど、姿を現すと同時に目の前にいた中学生くらいの少年たちが一斉にスマホを掲げていた。

チッタで観た時は正直あまりの被せの強さに「いい悪い以前」という印象だったけど、この日は距離が近いこともあってか、彼らが全国ツアーで鍛えたせいか、そういった物足りなさは感じず、川崎という場所でライブをすることに対する強い思いが見えた。

その姿を追うように、薄くて小さな身体の少年たちが背を伸ばしたりする様子が、BADHOPは本当に地元のヒーローなのだというのを伝える。

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ライブはMobblifeの曲中心で、MCでたしかT-Pablowが「俺たち今度ZEPPTOKYOでやるんだけど。普通は箱を少しずつ大きくしていくのね。でも、ZEPPでやるっていうのは何でかわかりますか!俺たちがヒップホップの記録を塗り替えていかなきゃ、下が育たないから」と叫ぶのに貫禄を感じた。

それから、まだ曲を作りはじめる前、「もらったインスト音源のリリックでずっとラップをしていた」昔話から、「変わらないものもある」に導かれて始まったLife Styleが最後の曲。

ZEPP前夜として、完璧な物語だった。

Mobb Life

Mobb Life

 

ところで、この日はゴーゴーダンサーの出番があって、予備知識なしに観た私は極めて素朴に驚いてしまった。あ、こういうパンツとかブラの間にお金はさむ文化、こういうところにあるんだな……。何だか敗北感を感じるプリミティブさ……。

ただ、最前がBADHOP待ちの若い女の子中心だったためか、あんまりチップはもらえていなかったみたいだった。BADHOPにならうようなパーカーにキャップという、B-GIRLないでたちの小柄な女の子たちを、ダンサーがステージにあげていじっていたのはちょっとほほえましかったけれど。

でも、その日観た君島かれんはその後薬物使用で捕まってしまった。ルポ川崎で「亡くなった母のためにもがんばりたい」と話していた彼女。また戻ってやりなおすことは出来るだろうか。

ルポ 川崎(かわさき)【通常版】

ルポ 川崎(かわさき)【通常版】

 

 

E-TICKT RAP SHOW2@代官山LOOPに行ってきた

2,000円で7曲実質45分というのはなかなか衝撃の高コストだけど、短いというのは何となく聞いていたのでさしてショックではなかったし、覚悟していた部分もあった。

ほかのイベントだったら愚痴るところだけど、「E-TICKT RAP SHOW」は岡島紳士らが何とかしてE TICKET PRODUCTIONの才能を形にするために動いているプロジェクトという印象があり、あちこちから協力を募ったアイドルたちのライブがたとえ完璧なものでなくとも責める気持ちにはなれなかった。

ライブはリズムに乗ってダンスもバチッと決めた水春がもっとも目を惹いた。ボブカットにミリタリージャケットという快活そうな衣装も、曲や彼女の作る空気にぴったり合っている。リズムに乗せて歌うというのを、もっとも楽しんでいたのは彼女ではないか。

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「ふうれいいんだはーうす」がかわいい風間玲マライカ&神崎風花。2人の仲の良さがうかがえて楽しい「FUN FOR FUN」。最初のMCで「吉本目指してるんです」とたわいもないほらをふいていたのがかわいらしかった。

唯一のグラドル青山ひかる。最後のILLNINALも含めてちょっとミスが目立ったけれど、「WONDERFUL WORLD」の目の離せない危うさを直接味わえたのはよかった。グラビア写真では胸の大きさが目立つけれど、この日はダボッとした中華風の道着のような衣装で、表情は大人だけれど身体は小柄というアンバランスさと楽曲の世界がよくあっていた。

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ex:Summer Rocketによる花火。たぶん、これが音源ではもっとも曲の魅力が伝わらないのではと思う。ラップの訓練をしている女の子たちではないので、歌唱はふわっとしているのだけど、不思議と言葉が飛び込んでくるような力があって、ついつい体を動かしてしまう。卒業して間もないex:Summer Rocketメンバーだけど、4人とも陰のないほがらかさで楽しかった。

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全員によるマイクリレーILLMINAL。ステージの上を8人の女の子がくるくる円を描いて回る姿を観て、「そうか、ILLMINALのBPMはメリーゴーランドの速度なんだ」という妄言が頭に浮かんだ。かつてE TICKET PRODUCTIONが話していたユートピアとしての遊園地を思い起こさせる。

たしか「花火」が終わった後だと思うけれど、「おれ、ライムベリーめっちゃはまってたんだよ」という声が聞こえた。その声には、「E TICKET PRODUCTIONは特別だ」というニュアンスがあったような……。いや、私がそう思っていたからそう聞こえたのかもしれない。

韻が硬くて、乗りやすくて、明るくて、時にどこかせつない。普遍性があるのにほかのどこにもない、代わりのない音楽。

あっという間にライブが終わり、センチメンタルな気分になっていると、VJで新グループ結成のためのオーディションが告知された。吉田凜音がサポーター&審査員を務めるとのことで、告知動画の中でノリノリで話していた。

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「やっぱり、Eチケさんが腰をすえてプロデュースする曲が、メンバーの成長に寄り添って生まれた曲が聴きたい。そして、もっとぎゅっと熱の詰まったライブが観たいな」と思っていたのを見透かされたような気持ちに。

私はたぶん絶対あの頃と比較してしまうけれど、何かが始まるなら祝福したい。いつまでも「これじゃEチケ遺族だな」と思ってライブを観るのもカッコ悪い話だし。

終わってからオタのたちとあいさつして、代々木公園のドルオタ花見に行く。

グーグルマップがうまく読み取れなくて1時間くらい迷ってしまい、20分くらい立ち話をしてその場を立つはめになったけど、久々の人も含め、いろんな人と顔を合わせることが出来て楽しかった。Especia&StereoTokyo&アイドルネッサンス遺族合同花見とか、つばさレコードに人生を狂わされた人たちの集まりとか言われてたのが笑えた。

そうそう、代官山LOOPのレモネードビアがおいしかったのはポジティブな発見だった。横浜LOOPもあの味だとうれしいのだけど。

LIVE:
風間玲マライカ&神崎風花(sora tob sakana)
水春(桜エビ~ず)
青山ひかる
Summer Rocket
E TICKET PRODUCTION(OA)

セットリスト
E TICKET PRODUCTION(OA)
オープニングムービー(youtube発表済みの「こちら」)
水春 Right Now
青山ひかる WONDERFUL WORLD
ex:Summer Rocket 花火
風間玲マライカ&神崎風花(sora tob sakana) FUN FOR FUN
ILLNINAL 全員によるマイクリレー
アンコール
水春 Right Now
ILLNINAL 全員によるマイクリレー

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E TICKET RAP SHOW 2(フォトブックセット盤)

E TICKET RAP SHOW 2(フォトブックセット盤)

 
E TICKET RAP SHOW 2(通常盤)

E TICKET RAP SHOW 2(通常盤)

 
ILLNINAL vol.1(フォトブックセット盤)

ILLNINAL vol.1(フォトブックセット盤)

 
ILLNINAL vol.1(通常盤)

ILLNINAL vol.1(通常盤)

 
ILLNINAL vol.2(フォトブックセット盤)

ILLNINAL vol.2(フォトブックセット盤)

 
ILLNINAL vol.2(通常盤)

ILLNINAL vol.2(通常盤)

 

note.mu

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MIRI 1stワンマンライブ 「spit it out」の後、MOSHI MOSHI MUSIC FESTIVALで春ねむりと脇田もなりを観ました

MIRI 1st ワンマンライブ 「spit it out」@SOUND MUSEUM VISION

CD1枚で入場フリー&1ドリンクもしくは入場料1000円&2ドリンクのところ、かなり埋まっていて感動。アイドルオタクのほかにヒップホップオタクの人も多かったのでは。

ステージには左手にMIRIと描かれたグラフティ、右手に女の子の口元が描かれたグラフティが飾られていた。NHKのジューダイで出会ったグラフティアーティストに依頼したそうだ。

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ライブはOA、YUIKAちゃんの「今夜はブギーバック」カバーでスタート。ここで早くも感傷スイッチON。

とにかくパーティを続けよう
これからも ずっとずっとその先も
このメンツ このやり方この曲で
ロックし続けるのさ

発表当時のスチャダラパーがどこまで意識していたかわからないけれど、「このメンツ このやり方この曲でロックし続けるのさ」はアイドル現場ではより強く願いとして響く。YUIKAちゃんはちゃんと歌えるラップが好きな子で、そういう子と一緒にやれるのは強い。

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DJOMOCHIこと福円もちソロ。

アニメに出てくる巫女さんのようなサーモンピンクの衣装が可愛い。アイドルソングからなぜか怪談話に。母親の恐怖体験というていだったけど、あんまり怖くなくてすべってたかも。

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MCMIRIソロはバックDJにOMOCHIちゃんを従えてスタート。

MIRIちゃんは上品な白いブラウスに黒のスカートとピンヒールという一見女性的な衣装。だけど、片袖や腰回りがちぎられていたり、取扱注意と書かれたベルトを巻いていたりと、彼女の気の強さも表現されていた。

 

1曲目は「B-GIRLイズム」。ニコニコ笑顔での堂々とした姿がリリックになじんでいた。そこから攻撃的でアッパーな曲が続き、長めのMCが入る。

 

14歳で初めてマイクを握ったこと。最初はラップに興味なかったこと。そして、いろいろなことがあったけれど、好きじゃなかったラップやフリースタイルバトルを通して、いろいろな人と出会ってきたこと。

 

「MIRIはもともと豆腐メンタルだけど、ラップを通して背伸びして歌えることがある。そういうのが伝わればいいと思います」という話は、ずっとライムベリーとMCMIRIを観てきた人ならうれしいだろうなと思ったし、私ですらほっとした気分になった。その後に披露した本人作詞の「000」がヒリヒリした曲だったから余計に。

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ダークでハードな曲連発の中盤が過ぎると、後半からアンコールまで、MCMIRIのこれまでを踏まえた上で、彼女のこれからを祝福する曲が続いた。

 

印象に残ったのは藤本九六介による木琴らしきイントロとシンプルなドラムがリリックをストレートに心に届けるGOMESS作詞の「NOW ONE」や、JOSH WHITEによるアイドルポップスらしいかわいらしいトラックと、遠回りに寂しさを肯定するハハノシキュウ作詞の「後ろ向きで電車に乗る」。そして、さいとうりゅうじのさわやかかつフックのきらびやかさがハッピーなトラックに、上鈴木伯周によるリリックは一山越えたMCMIRIという感じの「My Life」。

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アルバムは全体的に今のRHYMEBERRYより洒脱なトラックが目立ちつつ、「PANDRA」や「NOW ONE」のようにところどころで攻めた音が入る面白い出来で、それをちゃんと感情を込めて乗りこなす様がたくましかった。でも、19歳のアイドルらしい朗らかさも失っていなくて、アンコールの声に応えて少し膝を折って「アンコールですか?」と言った時のうれしそうな顔は忘れられない。

 

会場では、それぞれ違う現場で出会った人たちとあいさつしたり、少し長い話をしたりした。以前も書いたように、私にとってライムベリーはちょっと複雑な存在なのだけど、それでもMIRIちゃんの生き生きした姿を見ると笑顔になるし、関わった女の子たちにはみんな幸せになってほしい。

 

衣装が可愛いかったので祝福の意味も込めてチェキ撮ろうかなと思ったけど、チェキが長蛇の列で、次の春ねむりさんに間に合わなそうだったのでvision離脱。

spit it out

spit it out

 
“hiphop”ト名乗ッテモイイデスカ

“hiphop”ト名乗ッテモイイデスカ

 

 MOSHI MOSHI MUSIC FESTIVAL@CUTUP STUDIO

春ねむりさんの出演イベントはMOSHI MOSHI MUSIC FESTIVALという、ちょっとよくわからない回遊型のイベント。ライブ会場はCUTUPSTUDIOだけど、最初にQRコードを読み込んで、さらにPeatixに登録してから別会場でハンコをもらうというちょっと面倒な手続きが必要だった。機種変して日がなかったので、通信制限の中でアプリを2個DLするところからはじめることになり、結局15分も時間を喰ってしまった……。

 

そんなこんなで、結局見れた春ねむりさんはMCと最後の3曲くらい。MCでは東京女子流に提供した「ラストロマンス」の話と、次のアルバム「春と修羅」の話。「春と修羅」初回限定版にはセカンドワンマンの映像がつくらしく、こちらはかなり楽しみ。彼女が音源とは全く異なった力強いライブをすることは、一度でも見たことがある人なら知っているだろうけど、ワンマンはそこにさらに凝ったVJがついたとても世界観を作り込んだ内容になっていたからだ。

 

ライブは「鳴らして」「ロックンロールは死なない」「kick in the world」という感情を絞り出すような曲が続き、久々に味わうそのまっすぐさと力強さに少し泣きそうになってしまった。

 

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春と修羅※初回限定盤(CD+DVD)

春と修羅※初回限定盤(CD+DVD)

 
春と修羅※通常盤(CD)

春と修羅※通常盤(CD)

 

 春ねむりさんの後は脇田もなりちゃん。音楽ジャンルにくわしくないので言語化できないのだけど、都会的な正統派J-POPに彼女の明るい雰囲気がよくあっていて、ずっと気持ちよく聴ける感じ。改めて、声の魅力というのは天性の才能だと思う。最終的にそれなりの広さのCUTUPSTUDIOがいっぱいになっていて、その人気に驚いてしまった。 

 

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I am ONLY

I am ONLY

 

 

こっちの会場でもいろんな人に会って、なぜかわからないけどしんみりした気分になってしまった。ある意味、とても春らしい日だったかもしれない。

 

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hontuma4262.hatenablog.com

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よく出来たポートレートはまるで写真家による絵画だ/女性の肉体のかわいさ・かっこよさを突き詰めるスリリングな展示「アイドルレスラー展」

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人間の肉体を撮影すると言うのが、こんなに面白いことなのかと認識させてくれる、めちゃくちゃスリリングな写真展だった。

 

アイドルレスラー展は女子プロレスラーたちを6人のカメラマンがそれぞれの方法で撮影するというコンセプトの写真展。

 

撮影方法や被写体との関係性は様々で、ソフトフォーカスを多用し、廃屋らしき場所に佇む伊藤麻希ちゃんをゴッシクに切り取った作品(山本華漸)もあれば、メインビジュアルに採用された、上福ゆきさんがその美しい背中を見せながら刀を構える極道映画のポスターのようなもの(鈴木ゴータ)もあり。山下実優さんが馬に乗る凛々しい姿を捉えたモノクロ連作(カツミリナ)あり。暗闇で蛍光の光の帯を光らせる写真(浮花)あり……。

 

中でもインパクトがあったのは、里歩さんが古いアパートの窓辺に薄手で花模様のワンピースを着て佇む写真(立花奈央子)と、ギャルゲーのパッケージをイメージさせるのどかおねえさんの連作写真「3Dバイノーラル のどかおねえさんVR」(鈴木武)だ。

 

どこか儚さを感じさせながらも、日活ロマンポルノ的なエロスも連想させる里歩さんのワンピース写真。その隣にはレスラーとしてほどよく鍛えたお腹を出しながら、キリッとした目でこちらを見ている写真もあり、そのギャップにめまいがした。

 

のどかおねえさんVRは、ぽっちゃりむっちり体型ののどかおねえさんが洗濯物を取り込んだり、フライパンで料理を作ったり、部屋でごろんと転がったりする様子を、ギリギリだらしなさより可愛らしさが勝つレベルで捉える。生活感のあるエロスがヤバかった。

 

大学では写真部だったのに、こんなことを書くのは恥ずかしいけれど、写真はデフォルメだということ。そして、よく出来たポートレートはまるで絵画のようだということを私はこの写真展で初めて知った。

 

たとえば、立花奈央子さんは作品で肌のマットな質感を強調することで肉体の凸凹を浮き立たせながら凜々しさとエロティックさを共存させ、レスラーの存在感をたしかなものにしている。一方、鈴木武さんは影のできない明るい画面作りをすることで、その肉体の陽性をあらわにしている。

 

ひとりの人間の姿をどのようにして写真に収めるか。それが、ある要素を引いて別の要素を強調させていくことならば、それはデフォルメと呼んでいいのではないか。そして、出来上がりに対する想像力と技術力こそが作家性なのだろう。

 

カメラマンの目線を受け止めるレスラーの媚びのないたくましさや、ナルシシズムを排したストイックさは、ファッション写真やアイドルポートレートと違った迫力があり、見飽きなかった。(でも、何となく昭和のエロスを感じる部分もあり……)

 

被写体のファンなら確実に見にいくべきだし、女性の肉体に興味があるなら、また見に行くべき展示だった。

 

ちなみに会場では作品はもちろん、A4サイズのお手軽な値段のポートレートに本展の写真集も販売している。会場は銀座のヴァニラ画廊。25日(日)の17時までなので、気になっている人はぜひ。

 

ところで、私は女子プロにはくわしくなく、ドルオタ属性から伊藤ちゃんの写真を見に何となく足を運んだのだけど、写真集に「伊藤さんの闇を表現しました」と書いてあって笑ってしまった。

 

伊藤ちゃんのプロレスラーに転向してからの活躍のめざましさは本当にすごい。アイドルだった頃はピンでの連作ポートレートや、雑誌の裏表紙でセミヌードなんて考えられなかっただろう。見ていて楽しいし、かっこいい。私はミスiDのポートレートを買ったことがあるだけのライトなファンだけど、いつか現場にも行ってみたい。

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wpb.shueisha.co.jp

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tapes lounge vol.3@中目黒solfaであめとかんむり、校庭カメラギャル、校庭カメラアクトレスを観ました

リリースパーティーがワーッと盛り上がったところでいきなりさっぴーはろうぃん脱退のニュースが飛び込んでくるという、なかなか試練の多いtapestok recordsの主催イベント。

3月半ばの雪の寒さにおびえながら、少し遅れて現場到着。オタの人たちにあいさつしていると、校庭カメラアクトレスのライブがスタート。

カメトレのライブについては、「悪くないけどそんなに印象に残らない」という記憶しかなかったのですが、この日のセトリは校庭カメラガールのカバー中心で、メンバーがフロアでいろいろあおってきたりと、いい意味でのライブアイドルっぽさがあって楽しかったです。

コウテカ3でやると違和感を感じそうと思っていた「Lost in Sequence」が中ほどに入っていて、しかもけっこうよかったことにちょっと面喰ってしまいました。「Lost in Sequence」はかなりポエトリー要素の強い曲なのですが、全体的に言葉の咀嚼の丁寧さや緩急のうまさが光っていて、詩の世界をしっかり伝えていた印象。

でも、「Lost in Sequence」は、ましゅりどますてぃ卒業ソングだと思っているから、「諦めたあの子の分も走るよ」を共有していないメンバーが歌っているのを見て、「この歌のあの子って誰になったんだろう……」とは思ってしまいました。

もともと「StreetDreams」が念頭にあるのも、他の日本語ラップにもよく「あきらめた奴らの分まで」というテーマの曲があるのもわかっているし、メンバーが次々と変わることで、曲の属人性がリセットされるというのはBiSで観てきたのですが。

ラウンジで「初めて観た」というオタの人が「カメトレ観て、この子たちは笑顔でライブするんだと思ったんですよ。だから別物になったんだなと思って」と感想を話してくれて、共感しました。いい悪いじゃなくて、そうなんだなって。

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ミギヒダリ

ミギヒダリ

 
Lost in Sequence

Lost in Sequence

  • provided courtesy of iTunes

神様クラブのライブも楽しみにしてたのに、タイムテーブルを把握していなかったので、うっかりラウンジでおしゃべりしているうちに終わってしまいました。うーん、不覚。

そして、西麻布BULLET’Sのお別れライブ以来校庭カメラギャル。さっぴーはろうぃん脱退の報が届いてから初めての、らみたたらったときゃちまいはーのライブ。

前回は急なライブだったせいかきゃちちゃんがかなりフラフラしていましたが、今回はきっちり仕上げていて、今後への気合いを感じました。

言われてうれしいかはわからないけれど、ぱたこの「どこまで本気でやってもちょっとトホホ感の出る」ラップと違い、攻撃的で意地の悪いリリックがバチッと決まるところがあって、初めて今後の校庭カメラギャルへの期待が生まれたような気がします。

ライブの機会がほとんどなくなってしまったけど、やっぱりウテギャのことももっとたくさんの人に知ってほしいな。

それにしても「バンドマンのDMより〇〇」という新しいリリックは笑いました。

スマイル・アゲイン

スマイル・アゲイン

 

久々のあめとかんむり

ホーム感のある現場でリラックスしたパフォーマンスでした。「客を沸かさなくちゃ」みたいなプレッシャーがなくなったのかな。

実は、今tapestok recordsで一番現場が楽しみなのがあめとかんむりです。「もるちゃんは辞めないだろうから」ってのもないことないですが、彼女の憂鬱さの映える声と、内省的で幻想的な音のバランスが、本当にぴったりあっているから。

ele-kingのレビューでベッドルーム・ハウスと表現されていましたが、エモーショナルを排した音と歌詞と声は、夜のクラブはもちろん、寂しさを噛み締めたい夜にぴったりで、遊ぶための曲というより、寄り添ってくれる曲という印象が強い。たった一人で音に浸りたいような時に、ずっと流していられる作品だと思います。

ライブは最後アドリブも交え、良い空気で終わりました。

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nou

nou

 

www.ele-king.net

tapestok records、やっぱ曲はよい。あとは売れてくれればもっと安心して見られるのですが。自分で音楽作って、現場を用意して、それを気に入った人が集まってくれて、ゆるいけど楽しいっていうのは、一生音楽やる人のつきあい方としては圧倒的に正しいと思うんです。ただ、アイドルの場合はそれだけだと限界があるので……。うーん。

ミュージカル「FUN HOME ファン・ホーム ある家族の悲喜劇」

原作コミックの時から文化系ファザコンの私には刺さる内容だったのだけど、ミュージカルはそれをさらに加速させる演出だった。

www.tohostage.com

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「ファン・ホーム」は、ホモセクシャルの父親・ブルースとレズビアンの娘・アリソンの物語だ。原作は作者・アリソン・ベクダルによる同名の自伝的コミック。

ブルースは芸術と学問を愛する人間だが、家業の葬儀屋を継ぐために地元に帰り、高校教師と並行して葬儀屋を営む。地元であるペンシルバニアには、彼が心を開ける人間はいない。ゲイであることを隠し、葬儀屋という労苦の多い仕事を生業とする生活の中、何かの埋め合わせか、ブルースは家の中を耽美的に飾り立て、完璧な空間を作ろうとする。

対して、アリソンは地元から離れて都会の大学生になり、そこで出会った人々との関わりを通して自身がレズビアンであるとはっきり自覚をする。レズビアンのコミュニティで議論を交わしたり、活動に参加したり、恋人を得たりする中で、彼女は自分のセクシャリティーをオープンにしていく。

大学生のアリソンは、両親に同性愛者であることをカミングアウトするが、その告白の後、ブルースはトラックにはねられて死んでしまう。しかも、それは自殺をにおわせる死だった。近しい抑圧を抱えながら、二人の行く先は大きく違ってしまう。

ミュージカルは現在のアリソンが少女時代、大学進学時、現在をランダムに回想する形で進行していく。

まだ、自身の性を誰にもオープンにしていない頃のアリソンが、大学での出来事を父に話す場面がミュージカルにある。

「あの教授のこの解釈はおかしいでしょう?」と問う娘に、父は「それはたしかにおかしい。〇〇は〇〇のはずだ。〇〇をいう本があるから送っておくよ」と返す。

この際のアリソンの誇らしげでうれしそうなこと。父を誇る気持ち、自分の解釈を肯定された喜び。対話の相手がいる幸福……。

ここでは父は、頼りになる先輩でも、かつて生活を共有した仲間でもある。

私は、この時のアリソンの気持ちが本当によくわかる。それは、私の父がアカデミズムの世界で生きながら、運悪く大成できずに病気で急逝したという過去があるからだ。

ブルースは自分の生徒に手を出して捕まったり、家族旅行の合間に男遊びに出かけたり、鬱屈をため込んで妻に怒鳴り散らしたりするようなダメ男なのだけど、私はブルースという男にどうしても愛着を感じてしまい、その罪より悲劇の方に目が行ってしまった。

これは役者の力も大きい。原作ではいかにも神経質そうな小男という雰囲気のブルースだけれど、吉原光夫はメガネがよく似合う風貌に、壮健で足の長い体躯で、パリッとしたシャツがよく似合うハンサム中年だった。まるでスパイ映画にでも登場しそうな迫力と落ち着きにうっかり目を奪われてしまう。それでいて、神経質で弱いところも存分に表現できているし、歌は低温の迫力が気持ちいいし……。

ある種甘美な父親への思慕が質の高いミュージカルを通して再現されるという、ファザコンにはかなり蠱惑的な作品だった。

 

作品の本題から大きく逸れているので閑話休題

 

古典文学からの引用やまわりくどい表現が多用される原作が、大変わかりやすく芯を食ったミュージカルとして仕立てあげられており、その構成の巧さに感動しながら、とても気持ちよく舞台を観ることができた。

観客が早い段階でブルースの自殺を知るため、どこで自殺の引き金が引かれてしまったのだろうという関心が生じ、それが舞台全体の緊張感を持続させているのがうまい。(コミックでは自死か事故かは断定されていないけれど、ミュージカルでは自殺であると確信できるような内容になっている)

また、この題材でどんな曲を作るのかが不思議だったのだけど、うまく個々人の感情の高ぶりを歌にスライドさせていたと思う。

個人的に印象に残ったのは、アリソンが大学進学で出会った恋人との、初めてのセックスの後の歌「私のテーマはジョーン/Changing My Major」。「私の論文はジョーンとのセックス!」と歌いだすところが本当にかわいらしかった。大原櫻子の演技は、一人の人間の中につまったさまざまな感情が全身から噴出してくるような、生命力にあふれたもので、観ていてとても気持ちがよかった。

私には中学時代からのゲイの友人がおり、思春期にずっと彼の話を聞いていたため、アリソンが大学で仲間を見つけ、恋をし、自分を受け入れていく過程と彼の昔話をついつい重ねてしまい、その一喜一憂に胸を痛めたり喜んだりしていた。

帰り道に口ずさめるような強い曲がないので、ミュージカル的快感を期待すると少し物足りなくはあるのだけれど、作品全体と音楽はうまく溶け合っていたと思う。

この日は終演後にアフタートークショーがあった。本来なら一部役者の参加予定だったのだけれど、最後のアフタートークということで、演者全員が舞台にあがり、それぞれの作品についての想いを語ってくれた。その雰囲気の真摯さとなごやかさにとてもいいカンパニーだったことをがうかがえた。

吉原光夫が芝居だけでなく、トークの回しもうまくてびっくり。

「わかりにくい作品だけれど、そこがとてもいい」「テーマ的にお客さんに受け入れてもらえるか心配していた」などの真面目な話のほかに、稽古でアリソン役が女の子っぽいそぶりを見せると、「ガーリー注意報!」というツッコミが入ったという話が面白かった。ちなみに、瀬奈じゅんには「ガーリー注意報」はほとんど発動しなかったらしい。

終演後にレビューをいろいろ見て回ったけど、批判も含めてどれも面白かったのでリンク。

ファン・ホーム ~ある家族の悲喜劇〈新装版〉~ (ShoPro Books)

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Fun Home (A New Broadway Musical)

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Fun Home, A New Broadway Musical

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  • アーティスト: Jeanine Tesori,Sam Gold,Michael Cerveris,Judy Kuhn,Beth Malone,Sydney Lucas,Emily Skeggs
  • 出版社/メーカー: P.S. Classics
  • 発売日: 2015/05/19
  • メディア: CD
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ameblo.jp

原作との差異についての指摘が鋭く、面白い。

t.co

ローカライズの問題点において。ブッチらしくないという批判はTwitterでも見かけ、私はブッチという言葉をそこで初めて知りました。

ozmopolitan.hatenablog.com

作中の曲やコミックとの比較を通してより深く作品を考察する内容。

comicstreet.net

コミックの詳細なレビュー。

blog.livedoor.jp

役者・演出家に事細かに言及した劇評。