ホンのつまみぐい

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ラップ・ミュージアム RAP MUSEUMにて特別映画上映「サウダーヂ」を観た@市原湖畔美術館

市原湖畔美術館、あまりにも遠い。

東京駅からの高速バスを降りて、バスターミナルから事前に呼んでいたタクシーに乗り込む。山道を行く車の車窓から外を眺めると、「ぞうのくに」という看板が見えたので、思わず運転手に声をかける。

「『ぞうのくに』って何ですか」

「象が10頭以上いるんですよ」

「えっ……」

「このへんの子に描かせると、みんなうまいこと象を描きますよ」

「へえ……」

巨大で賢い象の飼育はとても難しいと聞く。それなのに、その象ばかりが10数頭いるなんて、どんな施設なんだ。

「ぞうのくに」の看板を通り越し、湖にかかった橋を渡ると、左手に白鳥ボートが見え、目的の市原湖畔美術館についた。現代的な建物の右手には巨大な湖が見える。曇天にけぶるその風景は、まるでイギリス絵画のようで、象のいる施設、人気のない白鳥ボート乗り場と合わさって非現実的だった。まるで涅槃だ。

建物の中に駆け込むと、そもそもの目的だった映画・サウダーヂはもう始まっている。

東京駅から高速バスで何時間。バスターミナルを降りてさらにタクシーという立地のこの場所のイベントに行くには、交通機関の乗り遅れが許されない。私も念を入れてかなり早めにバス停留所に来ていた。

しかし、停留所が2ヶ所あり、時間ごと順番にバスが止まることを知らずに待機していたら、あっさりバスに逃げられた。いや、私京成バスの人に何度も確認したんですが……。「おっさん! ここでいいですよねって画面見せながら聞いたやんけ!」と、思わず頭に関西弁の罵倒が浮かぶが、逃したものは仕方がない。映画は途中からとあきらめて、まずは展示に目を通す。

入口はサイプレス上野の部屋の再現。1980年生まれのB-BOYの部屋には少年時代からの蒐集品と、今の彼らの活動の片鱗が混ざり合っている。ひときわ目立つスチャダラパーのポスターに、レコード、CD、テープ、マンガ、雑誌、古い写真などなど。

大量のヒップホップ関連品の中に、町内会の広報が何気なく貼ってある。7月のドリームハイツ夏祭りでのサ上とロ吉のライブの様子が載っていた。

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上熱大陸 @ドリームハイツ夏祭り2017

奥に進むといとうせいこうの東京ブロンクスが聴こえてくる。展示の中で最も独自性の高い内容と思われる、フロウの可視化だ。小節ごとに言葉がどのように配置されているか、韻がどこで踏まれているかがパネルの上に表示されている。パネル横にはヘッドフォンが設置されており、該当のラップが流れる。歌唱に合わせ、矢印が歌詞を指し示してくれる。

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ラップにおける「乗せる」「ハメる」の概念が一発で理解出来る。各MCの言葉の詰め方や韻の置き方を見比べることで、漠然と個性やクセと呼ばれていたものが可視化されている。批評的価値が高く、なおかつラップの面白さを門外漢にも理解させやすい。これこそ学問の仕事。

音楽の構造を理解するための手がかりといえば、KOHHの曲を分解した展示も面白そうだったけれど、触る時間がなかった……。

リリック帳の展示はノートや原稿用紙など、ほぼ紙だったけれど、今はスマートフォンのメモ帳に書いている人も多いと思うので、そこはもう少し世代差のある人を入れて欲しかったかな。

階段を降りて地下に行くと、カセットテープ、レコード、Tシャツ、フライヤー、雑誌、書籍などの展示。じっくり眺めるヒマがなく残念。

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 そして、VRゴーグルをかけてサイファーができるという空間。あらかじめ撮影したサイファーの映像が流されていて、そこに割り込める仕様らしい。私は体験しなかったけれど、サイファーに参加するのはけっこう勇気がいるので、味わってみたい人にはいいかも。

※下記の記事から実際に会場で流れている映像が閲覧可。

www.360ch.tv

B1Fで印象的だったのは、磯部涼ルポルタージュ「川崎」連載時に掲載されていた写真のパネル。おそらくBADHOPの川崎チネチッタでのフリーライブの写真だと思うのだけど、若者たちが柵に捕まりながらステージを見上げる写真が強く印象に残った。全体的に青味の強い細倉真弓の写真は、明け方の空の懐かしさや冷たさを連想させて、ヒップホップを記録するのにふさわしい美しさがある。

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また、「女性ラッパー」というテーマで取り上げられていたRUMIとCOMA-CHIへのインタビュー映像で、COMA-CHIが女性が増えてきた今のシーンを肯定的に語るくだりに胸が熱くなった。

奇妙なインパクトがあったのは壁に貼り出された来場者アンケート。

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「ヒップホップだった瞬間」には、憧れの人のライブを見た時や自分の活動のことを書いてる人もいれば、橋の欄干でノグソしたとか、ケンカ売られたけどひるまなかったとか、給料踏み倒されたとか、自身の野生的な経験を書いてる人も多かった。それはただのひどい目にあった自慢、ボンクラ体験自慢では……。いや、そういうものなのか。

「展示を見て生じた感情を書かせて壁に貼る」というしかけはよくあるけれど、これはどちらかというとファンジンなんかにある「好きになったきっかけは?」「どの曲が一番好き?」への回答が書かれた参加者紹介ページというノリ。あるいは昔のインターネットでよく見かけた「〇〇好きへの100の質問」か。ああ、つまり結果としてファンの可視化になってるのか。

 

ざっと展示を見てから上映会場へ。サウダーヂは建築業が衰退した山梨の町を舞台に、閉塞感漂う人々の日常を納めた映画だ。

生業と平行しながら撮影をしているため、制作には1年半を要している。登場人物の多くはスタッフの友人・知人を頼っており、今も山梨で生活する人が多い。

カメラは劇映画的な美しい風景を捉えず、地方の町の生々しいリアリティを映す。光がさすごと、ふりつもったホコリが浮かび上がってくるような古い街並みや店先の画から感じられるのは、懐かしさではなくわびしさだ。一方で、登場人物が幻覚を見る場面では、レンズを単色のセロファンで覆って撮影したような、チープであざやかな画が映し出される。

山梨出身のラッパー・田我流は、地元の町に進出する移民たちに激しい憎悪を燃やし、急速に右傾化していくラッパー・猛を演じている。

率直に言って、観ると憂鬱な気持ちになる映画だけれど、その生々しさからは目をそらせない。


映画『サウターヂ』予告編

www.youtube.com

上映後のトークには監督の富田克也、脚本の相澤虎之助、主演の田我流が参加。磯部涼が司会を務めた。

トークでは、映画制作の裏話、2011年の公開時から現在までの変化についてなどが語られた。

サウダーヂの公開は2011年11月。東日本大震災直後に公開されている。

6年後の今を語る言葉として下記のような話が出た。

「公開当時鼎談で『ひとつ苦言を呈するなら、類型化されすぎているのではないか』と話したが、レイシズムや排外主義の横行により、社会そのものが類型化している」(磯部涼

地元の20代の若者と話すと、感覚がまるで違う。ぼくらは落ちていく最中を見ていたけど、彼らは、ずっと落ちた状況を見ている。もし続編を作るなら彼らの世代を書かなくては」(冨田克也)

「(映画は移民を排斥する場面があるが)若い子にとっては、移民の子がいるのは当たり前になっている。次に制作するならそういう世界を描くことになるだろう」(相澤虎之助)

また、冨田監督は「バンコクナイツを作り終えて、見方が随分変わってきた。改めてサウダーヂを観て、意地の悪い映画と感じた。当時はそんなつもりはなかったけれど」「(当時の)知事に『これは裏の山梨ってことで』と言われて、当時は反感しか持たなかったけど、今見ると『そうですね』と思う」と話していた。

制作についての裏話としては、作中に登場する日出ずる国、大和魂などという言葉がちりばめられた愛国ラップのリリックは磯部涼が協力して書いたという話や、田我流が台本を覚えようとしたら、前日に「覚えなくてもいい」と言われ、かなりアドリブで撮影した話や、あまりの適当さに現場に来た磯部涼が驚いた話などが紹介された。ちなみに、UFO-Kは甲府アナグラム。アーミービレッジのラッパーたちの名前は、武田二十四将から取っているそうだ。

各人が主に山梨で働きつつ、地元の町を取材しながら制作するという空族の方法論についてもさまざまな話が出たが、下記のインタビューやちょうど先日発売されたAERA掲載の「現代の肖像・冨田克也」と重複する部分もあるので、割愛。

www.mammo.tv

AERA8/28号

AERA8/28号

 

主演の田我流の言葉はいちいち印象的だった。

磯部「映画に出てくる空き地のスケールがデカイよね。田ちゃんがそういう中で暴走族に会うとナウシカ王蟲みたいなパワーを感じてうれしくなるって

田「今でもそういうことあるよ。『今日は暴走族来るってよ!見に行こ!』みたいな」

田「出口のない話だと思うけど、現状を知るにはいい映画だと思う。あれこれ言うけど、いろんな国の人が来ないとやっていけないし。都内のコンビニは中国の人ばかりでしょ。あと、ギャグが面白いよね。現状が行き止まりでも、面白い瞬間はあるというか。生きてる人に罪はないし、いつでも一生懸命生きているから」

田「(ロードサイドの郊外化がもたらす風景の均質化について)オレはけっこう楽しんでるよ。『おっ、この道の感じは、次は松屋が来るぞ!当たった~』みたいな。ドンキの駐車場にいるやつの顔を見ると、街の質がわかる。『ここはヤバいな』と思ったら、そういうところはいいラッパーがいるんだよね

田「ぼくらは山梨の記録する係みたいなもんなんで。あ、これなくなったなとか。いろんな街に行ってライブするけど、元気、どんどんなくなってるよね。今の若い子のリリックを見ているとAKIRAを感じる。ハイになりたいみたいな。そういうのをニヤニヤしながら見ていきたいなと。『あのおっさん、まじイカれてるな』みたいな感じで

記録する係……。叙事詩人なのか。自我から少し離れたところに、表現に対する責務を感じているというのが印象的。

トークが終わり、帰りのタクシーを待つ間に、少し美術館の人と話をする。今回の展示は、ヒップホップ好きのいち学芸員が企画したということだった。あとで過去の企画展を調べていて「開発好明:中2病 展」ではYOUNG HASTLEが音声ガイドに起用されていたことを知り、伏線に笑う。

夏休み中なので、けっこう子供たちや近所の年配の方も訪れているらしい。そういえば、この時期の地方の美術館は子供向けのフレンドリーな展示をしているところも多いのに、ここではなんだかんだ不良であることも強みに出来る文化を本気で展示していて、ちょっと面白い。会期中のワークショップにも幼児から小学生までを対象としたものがいくつもあった。

「彼女は、展示用のTシャツを大切そうに眺めていましたよ」という美術館の人の話にちょっと胸が温かくなる。ただ、その熱意の展示が、一部で「東京でやってくれればいいのに」と言われていたことを思い出して、勝手にちょっとイラッとした。地方がいくらがんばっても、結局東京なのか。

帰りのタクシーとバスの中で、CDTVの収録のために東京に来ているというライムスターファンの方とお話しする。Mummy-Dのリリック帳を観に来たのに、展示されていなくてショックだったとか。9月頭には展示されていたようなので、9月6日発売のアルバム関連のリリック帳だったのだろうか?

行きは電車を乗り継いで来たという彼女は、途中で「歌声列車」というものを観たらしい。先頭1両だけ「歌声列車」として運行しており、外から列車の中でアコーディオンを演奏する人が見えたとか。市原に対する涅槃浄土の印象が再度更新された。

lsm-ichihara.jp

 

9月3日~7日の現場(日ノ出町で大谷能生×トオイダイスケ、自宅でECD、タワレコ横浜店でサ上とロ吉、寿町で水族館劇場「FURUSATO2009」)

9月3日

涼しくなったせいか、犬の急逝のせいか。やんわりと人恋しくなってきたので日ノ出町試聴室へ。黄金町からの移転後はじめての訪問。

以前なら喫茶へそまがりが人恋しいときのひまつぶしの場所だったのに、なくなってしまってやっぱり寂しい。前日にカレー会(MAZAIRECORDSメンバーが聖蹟桜ヶ丘でやっているサイファー)でたっぷり好き勝手叫んできたのに、犬の死からなかなか元気になりきれない。

試聴室の演目は「大谷能生(サックス)×トオイダイスケ(ピアノ)」の、のんびりしたセッション。1000円ワンドリンクというお手軽な値段が、気分転換にはありがたかった。

日ノ出町試聴室は古いビルの2階にあり、中に入ると暗い照明に木の床が落ち着く品のいい喫茶室になっていた。京浜急行高架下のコンクリ打ちっぱなしにガラス窓のほったて小屋での営業を思うとずいぶんライブバーらしい風袋になっていた。

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机とイスがたくさんあるので、本を読んだり文章を書いたりしながら演奏が聴ける。贅沢だ。気負わないセッションの合間に入る雑談が楽しい。

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エヴァンス麻薬中毒の中でこの曲を作って、もっとも時間をかけた自殺って呼ばれたんだよね。ははは」

「この曲すごく理屈っぽくてさ、そこがね、いかにもエヴァンスで…!」

日曜午後の音響として最高の空気のゆるやかさ。

休憩を入れて3時間ほどの演奏が終わり、外に出るものは出て、残るものはマスターと雑談などを続けていた。

9月4日

ドミューンのECD特集を家事の合間に見た。

ECDの音楽には、いつもどこか懐かしい昏さがある。それはたぶん、大学生のころに見ていた小劇場などに通じているものだ。クラブミュージックあるいはR&Bという文脈から生まれる熱気や明るさと、少し距離のあるほの昏さ。どこか俯瞰的な彼の歌は朗読劇のようで、でも、不器用な熱量がある。

登壇者は磯部涼、二木信、石黒景太(ex キミドリ、ILLDOZER)、今里(STRUGGLE FOR PRIDE)、坂脇慶、佐々木堅人、高木完荏開津広スチャダラパーBose、ANI、SHINCO)、K DUB SHINE山崎春美(ガセネタ、タコ)、山本哲 & 有近真澄 & 池田敬太(ex 劇団 キラキラ社)、野々村文宏、宮里潤(編集者)、続木順平(QuickJapan編集長)、スチャダラパーDJ OASIS、田我流、YOU THE ROCK☆、YAS。各人の「この人のことを語らねばならない」「記録しなければならない」という静かな熱が伝わってくる。

どう見ても狭いドミューンの観覧ブース。ライブになって明かりが落とされると、狭い小屋の中で宗教行事が行われているように見えた。客席の声をあまり拾わないから、YOU THE ROCK☆の雄叫びのような激励も画面のこちら側には静かに響く。

この日のECDのアクトはDJ。それはそれで彼の体温や思想を感じられるものだったけれど、やはりライブは見られないのかなと少しさびしく思う。

最後に2015年のライブが再放送され、まだ太い首のECDがラップをする姿が映されて、そのくらいつくような声に少し泣きそうになる。そして、なぜか少し元気になる。

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21世紀のECD

21世紀のECD

 

 

www.ele-king.net

9月6日

タワーレコードビブレ横浜店でサイプレス上野とロベルト吉野メジャーデビューミニアルバム「大海賊」のリリースイベント。一足先にストリーミングで聴いたけど、「なるほど、ゴージャス」というのと「環境変わってもイズムは変わらないな」というのがおおまかな感想。アーティストがちゃんとプロダクトをハンドリングしていて、一時期どっと増えていたアイドルのメジャーデビューとは違うな。ちゃんとした感想は後日書くかも。

リリイベもスタッフが多く、普段はマネージャー一人、スタッフ一人みたいな地下アイドル現場にいるのでメジャー感にちょっとビビる。

8月23日にバイク事故で鎖骨を折り、前日はFMYOKOHAMAに出っぱなしのサイプレス上野がパッと見でわかるくらい疲れていてちょっと心配になった。反対にロベルト吉野は元気で、いつもより饒舌なくらいだった。

セトリは

ぶっかませ

メリゴ feat.SKY-HI

Walk This Way(アセ・ツラ・キツイスメル)

「ここに上野ってやつがいるってことを証明してくれ」というMCからの上サイン

WHAT'S GOOD

タワ横のスピーカーは相変わらず音がよくて、ストリーミングで聴くよりクラブミュージックとしての魅力がよく伝わる。メリゴ、生バンドのディスコっぽい曲調に、WONDER WHEELのリリックを引用したSKY-HIの甘い声のサビがロマンティックな、いわゆる踊れる曲。でも、上サインやWalk This Way(アセ・ツラ・キツイスメル)の方が「来た!」って感じがするな。

新曲はどれも手を振ったり、無理やり上サインさせたり、客を巻き込むリアクションが用意されている。

帰宅してからメリゴのMVを見る。

一見かわいい人形劇なのに嘔吐するシーンがあって、ゲロの処理の仕方にちょっと出崎統のアニメを感じた。あしたのジョーには矢吹丈が嘔吐する場面があるのだけど、そこで出崎統はリアルなゲロを吐かせず、光をあてて嫌悪感をもよおさないような演出をほどこしている。こんなところでつながるマイフェイバリット。

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メリゴ feat. SKY-HI

メリゴ feat. SKY-HI

fnmnl.tv

realsound.jp

amebreak.jp

9月7日

寿町の水族館劇場「盜賊たちのるなぱあく」にて映像制作集団・空族の「FURUSATO2009」を観た。

水族館劇場についても、寿町についても、「FURUSATO2009」についても少し説明が必要だろう。

水族館劇場は巨大なセットを設置した野外劇を上演している劇団で、今回も寿町に小さな駅くらいの大きさの、朽ちた城のような巨大な劇場を建てていた。

寿町は東京の山谷、大阪のあいりん地区に並ぶ寄席場の1つで、大量の簡易宿泊所ではかつての港湾労働者や日雇い労働者が生活している。

「FURUSATO2009」は、「サウダーヂ」制作中の空族が、甲府周辺の町を取材した映像を編集したドキュメンタリーだ。そこには「サウダーヂ」同様、衰退する地方都市の一面が記録されている。

行き場のない、かつての労働者達の生活する町に建てられた、人口の廃墟の中で観る、閉塞感漂う町の映像。

これを「よいロケーション」と言っていいのか、どうか。

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開始時間は19時。会場を探すのに手間取ったこともあり、上映はもう残りの20分くらいの時間に到着した。

中に入ると、投げ銭制なこともあってか、けっこうな人数、日頃から寿町で生活しているであろう人が座っていた。社会派サブカルが観に来ることしかイメージしていなかったので、自分の見識の狭さにちょっと恥ずかしくなる。

地方都市の貧しさや立場の弱い人間の行き場のなさが続く映像を、まさに追いやられた人々が観ている。こんな寂しい映像より、スカッとする劇映画の方を観たいんじゃないだろうか。いや、そういう忖度はよけいなお世話か。

上映後のトークでは、サウダーヂの脚本を担当した相澤虎之助に、主催の桃山邑が話を聞く。

相澤は寿町でカンパのために毎年開催されているフリーコンサートに何度か来ていたという。自身も地方出身者であり、河原者という言葉を思い出させるような風袋の桃山は空族に共感するところがあったらしく、細かな質問を投げかけ、時に自身も饒舌に語っていた。

印象的だったのは、桃山の「栃木の農家がふるさとだったけれど、田舎には帰れなくなってしまった」という話。「帰れない」にはさまざまな要素が含まれるのだろうけれど、ふるさとがかつて歌われたような「帰る場所」でなくなってしまった話は、社会が喪失したさまざまなものを連想させる。

「フランスの戦後復興を担ったのは移民。しかし、彼らは郊外という檻の中に閉じ込められて、出世もできず、ジハードに向かってしまう。みなさん建築労働を一生懸命やってきたのに、ケガしても国家は助けてくれない。ぼくも最終的にケガしたら終わり。そういう人たちのコミュニティというか、溜まり場がバラバラにされている」というインテリゲンチャ桃山に、「甲府もそういうおっちゃんが溜まるところがほんとになくなっちゃって、酒呑んで遊べる場所がない」と素朴な言葉で答える相澤。

「空族の作品は世の中のどうしようもないものにきちっとカメラを向ける。でも、重くなりすぎない。観ててちょっと救われる」という桃山に、「けなしあったりしつつ、ちゃんとコミュニケーションを取る時間が大切なんじゃないか」と相澤が答えると、おそらく町の住民であろう、ボロボロのハンカチをリボンのように結んだ壮年の女性が「えっ?じゃあ、どうして、昨日の映画は殺しちゃうじゃないですか」と叫んだ。

前日に上映されていた「サウダーヂ」では、地元に住むラッパーがブラジル移民を刺し殺してしまう場面があるのだ。

相澤は「本当はお互いがわかり合うのが大切だと思っているけど、映画としてそういうところも描いている」と答え、桃山は「まあ、現実はそうなんですよね。そういうところをちゃんと描ける集団だと思った」と言葉を続けた。

女性は納得した風ではなかったけれど、その後何事もなくトークは進み、最後に相澤の友人だという山梨の弾き語りのシンガーが3曲ほど、これまた寂しい日常を描いた歌を歌ってくれ、イベントは終了した。

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なんだか妙な無力感を抱えてしまい、まるで1980年代のような寿町の街並みを観ながら家路についた。

追記:FURUSATO2009にも田我流が登場する。最初のカットでは、かなりの時間後ろ姿しか映らないのだけど、頭の形で田我流とわかるのと、相澤さんがこの日、彼のことを「若い子」と呼んでたのが少しおかしかった。たぶん、相澤さんは田我流が「若い子」だった頃から知っているんだろうな。

桃山さんが借景として寿町を使っているのではなく、ある種の共感を持ってこの場所に劇場を作っていることがわかったのもよかった。

 

www.kuzoku.com

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yokohama-sozokaiwai.jp

校庭カメラギャルpataco&pataco卒業ライブ「GAL HANDS UP」@中目黒solfa

「どうしよう?泣けないんだよねー」と校庭カメラギャル(ウテギャ)のpataco&patacoは、自身の卒業ライブで繰り返し言った。上京して3年、校庭カメラガール(コウテカ)のぱたこあんどぱたことして活動して6ヶ月、校庭カメラギャルとして活動して1年5ヶ月。8月13日のライブは、その3年の集大成だった。

 パタコは校庭カメラガール(コウテカ)だった頃の自分を「コウテカのバックダンサー」と自虐的に語っていた。たしかに、コウテカだった頃のパタコ、そして相方のラミタタラッタは担当バースも少なく、はっきり言って影が薄かった。

 彼女たち2人が唐突にコウテカから分離して、ウテギャして活動することになるとアナウンスされた時は、正直運営の気まぐれに振り回されて2人とも辞めてしまうんじゃないかと心配になった。そして、ウテギャの活動開始から数ヶ月間、2人には3曲の持ち歌で15分のライブをこなすような日々が待っていた。ちなみにスタート時はビアファローを含めた3人組だったが、彼女が辞めてしまってその後はずっと2人組として活動している。

 この「ド地下で延々3曲」の時期の現場に私は行っていないのだけど、時折フォロワーのツイートに表示されるセトリを見て、こりゃしんどいなと思っていたことをよく覚えている。しかも、全然かわいくない歌なのに。

 しかし、2016年末のEP発売の案内を前にして少しずつ曲が増えていき、やっと1時間のライブをこなせる量の楽曲が揃う。EP発売記念の12月12日の新宿ロフトではライブで感情を爆発させる。

スマイル・アゲイン

スマイル・アゲイン

 

 

アルバムが発売され、ワンマンが終わる頃には、うまく自分を出せないちょっとぼんやりとした女の子2人はオンリーワンのラップクルーになっていた。

 しかし、パタコは母親の待つ岩手の実家に戻るため、東京を離れることになる。

東京に来てからもう何年が経った?
私が今やってることは間違ってるの?

-その程度

 会場は中目黒solfa。これまで何度もtapestok records主催イベントに使われた場所だ。開演から40分以上前に到着すると、まだ人が集まりきっておらず、百合や蘭があしらわれた豪華なフラワースタンドや、かつて生誕イベントに使われたタペストリーが会場に飾られていた。

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 小さな会場奥の使われていないバーカンが荷物置き場になっていて、イスに座れるようになっていた。開演までの様子をイスの上で眺めていると、プロデューサーのJasさんがテキーラを振る舞う。「もーすぐはじめまーす。今日はパーティーなので、盛りあがってくださ~い!」というJasさん。

 フロアがいっぱいになり、暗転・ミラーボールがついて2人が入場してくる。いっぱいのフロアを見ての感想か「やばくない?これ」とキャーキャー言う。

 自己紹介ソング的なボビーとシャンパンから、全然分かってないくせに分かってるぶってるおじさんウザい (re:gal)、ゴー!ギャル ~ほんとうのギャルを求めて~、ギャルバーガーと、盛り上がりやすい曲からスタート。「私じゃ無理だとかよく言ってたっけ 私を全部使い切ってから言えよ!」というゴー!ギャルの叫びから、間奏での「オーイェー!」。オタクも後を追って「オーイェー!」を連呼する。パタコの声がとにかく明るい。

 その後のチルチルイキルが終わってMC。

 いきなり「え、しゃべることなくない?」というあっけらかんとした言葉。タラちゃんが「パタちゃんTwitter消しちゃうので、みんな写真とか保存して!」というと、「みんなしゅきしゅきとかリプ送ってきてうるさいからさっさと消そうと思って」とニコニコしながら返す。

 ああ、そっか。パタコってこういうあっさりした子だったなあ。以前、ライブの後呑みで「ウテギャにガチ恋が増えない」とオタク同士で話していたけど、そりゃ増えないだろう。2人とも媚び方を知らないし、興味もない。でも、その嘘のなさがいい。

 第三段階はじめるよ-からストレイトギャルストーリー。ストレイトギャルストーリーは青春映画の挿入歌のようなさわやかな曲だ。

タラちゃんが「今まで悪口とかばっかりだったから、普通の曲がうれしかったよね!」と話す。

 そこからギャルトマホーク、ウインターギャル、ギャルドリームと暗めなトラックが続く。ギャルドリームの力強い「あのときのWOMBとは全然違う 私の声で声あげるオーディエンス」を受け止めるように声をあげ、その後の2人のシリアスなバースはしっかり聴き入るフロアの様子も美しい。
 このあたりから、定番曲をフロアが賢明に盛り上げるというより、二人の声に導かれるように盛りあがる流れに切り替わり、アクトにオタクが呑まれる場面も出てきた。

 そして、二人のための最後の曲。GAL HANDS UP。

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 多くの人にとって、ライブでは初めて聴く曲のはずなのに、すっと自然に聴き入る流れになっていた。メロウになりきらないトラックと暗くなりきらないリリック。

 そして、その程度、ゴー!ギャル、うざおじ、その程度と再びアゲ曲の続く流れ。なぜかゴー!ギャルの間奏でガチ恋口上を入れるパタコに笑ったり、「ラミタタラッタとパタコアンドパタコ 今はこの2人だ 輝いてやるぜ 戦って勝つぜ」でお互いの顔を見合わせる2人にグッときたりした。

 この日、Jasさんは何度もパタコのバースで音を抜いていた。それはライブ感の演出だけでなく、最後の別れのために彼女の声をはっきり聴かせるための配慮のようで、何となく愛情を感じる場面でもあった。

 そして、アゲ曲の間のMCで唐突に発表された「物販終わったらライブもう一回やる」という話。ちょっと首をかしげるが、以前校庭カメラガールツヴァイの解散ワンマンで、特典会が終らずに、後日わざわざ箱を借りて場を設けることになった失敗を踏まえていたのだろうか……。

 小さい箱でのライブとはいえ、最後と言うこともあって物販列もそこそこ長い。ライブをやる時間があるのか心配になったものの、とりあえず物販に並んでチェキを撮る。チェキでも、2人とも最後という感傷より「やったる!」という気合いを感じさせた。

 物販も落ち着いてきて、フロアに再び人が集まる。先ほどはずっと後方から見ていたけれど、最後は直前まで話していたヒとミさんと一緒にフロアで待機。すると、Jasさんが「今日の予約特典、まだ取りに来てない方は取ってってくださ~い」と案内が。出て来たのは2回目のふるまいテキーラ! そして、なぜか流れるHave a Nice Day!のLOVE SUPREME。ライブ前から高まるパーティー感にアガるフロア。

 かつてのコウテカのワンマンとはまた違ったどこか行き当たりばったりな明るさに、ウテギャらしさを感じる。というより、これがウテギャらしさだったのかと気づく。

 2人が入ってきて、パタコが「今日は卒業ライブに来てくれてありがとうございます! やっぱり泣ける気がしないな~~。たのしいな~~」という。MCでは、上京した頃に給料未払いの職場を皆でボイコットするところから始まり、流されるままにアイドルになったという昔話。そして、ウテギャを選んで続けてきた話。

「きっかけさえあればすごい変われるなって。こんなうちについて来てくれてありがと~~」というパタコの言葉を聞いて、「パタちゃんより先にうちが泣くよ~~」というタラちゃん。「あ、でも泣けないんだよねー? どうしよう?」という引き続きのひょうひょうとしたパタコの言葉から、GAL HANDS UP、ボビーとシャンパン。一度断ち切られた熱が上がり直すのに時間はかからなかった。

 そして、みんないい人だって言ってるけど実際はあいつサイコパスだしヤバいから、その程度。

 ギャルウォッシュ、うざおじと続いて、最後の曲ゴー!ギャル。沸き立つフロア。そして、もう一度ゴーギャルのサビが流れる。間奏でフロアにモッシュピットが出来たので、ウォールオブデスになるかと思いきやなぜかお互いが肩に手を乗せて電車ごっこになってたのに笑ってしまった。

 これで最後という言葉を聞いて、パタコTOのみちいぬさんが叫ぶ。「ぼくは3年間パタコを応援してきました!今日で最後だけど、みんなもっとパタコの声聴きたいですよね!」から会場中に響くパタココール!

 みちいぬさんはほぼすべてのイベントに参加し、動画を撮影してアップし続けていた人だ。濃い追いかけ方をしているのに、押しつけがましいところのない不思議な人で、この日の彼のコールも力強いけれど湿っぽいところはなく、それは何となくパタコの持つ雰囲気とも通じるものがあった。

 パタコとみちいぬさんはアイドルとオタクだけど、そこに存在したのは一種の友情と言っていい何かだったと思う。

 そして再びゴーギャル!からのその程度!

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 タラちゃんが「パタちゃんが3年間やってきてよかったと思えるような環境を作ってくれて、みんなありがとうございました~~」と叫ぶ。ラップの時の違ってふわふわした口調のタラちゃん。心細いだろうに、真摯で嘘のない声。

 「それでもそれでも光が見えるからやってきたんだ!いえーいー!」

 ルサンチマンの強いリリックのその程度を明るく堂々と歌い上げて、最後には「皆さんのこと大好きで~す! 日常は続くので生きましょう!」と言いながら去って行った。

 たぶん、成果だけを取り上げればパタコもその前々日に引退したれめるちゃんも「勝てないまま表舞台から去った」と言える。でも、感傷的な言葉ではあるけど、2人とも勝ち負けでは計れないものをちゃんとつかんで、新しい日常へ帰っていった。その力強さを、費やした時間を誰が笑えるというのか。

 岩手から出てきた自信なさげな女の子が最後はライブでばっちりかまして、軽口を叩きながら去っていく。

 かっこよくて、唯一無二だったよ。というか、唯一無二になったね。パタコアンドパタコ。そして、これからもよろしくお願いします。ラミタタラッタ。

 お疲れ様です。Jasさん。

 

 

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8月18日

犬が亡くなりました。

めちゃくちゃ悲しいです。

人と違って大きな儀式があるわけじゃなく、明日からほぼいつもの日常で、きっといつも通り楽しいことや悲しいことがあるのかと思いますが、そこに犬がいないのがつらい。

長生きしてほしかったです。

病気に気づかなくてごめんね。

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春ねむり「アトム・ハート・マザー」インストアイベント@タワーレコード横浜ビブレ店 7月15日

後藤まりことの共作シングルリリース発表が7月14日、RO JACKで優勝し、ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017の優勝を勝ち取ったのが7月18日。

ツイッターにも書いたけれど、本当に「本物であることを証明するスピードが速すぎる」。

どんどん遠くに行ってその表現を多くの人に届けてほしいし、たぶん彼女を見ている人は皆そう思っているのじゃないだろうか。

アトム・ハート・マザーのリリイベは前述の二つの発表の間、7月15日に開催。

会場は彼女の地元、タワーレコード横浜ビブレ店。

少し遅れて到着すると、紺のワンピースに三つ編み、足元はスニーカーというシンプルな服装の春ねむりが力強く歌っていた。彼女を見るのは3回目だけど、過去2回と違ってかなり演者に近い位置で観ていたせいか、これまで以上にパワフルに感じた。

横浜は彼女の地元ということで、ワンマンや対バンとはまた違った気合が入っていたのもあるのかもしれない。MCでも「磯子に住んでいて、中学高校は横浜駅からバス乗って行ってた。私を形成するすべてのものがこの土地にあるので、返していけたらと思う」と話していた。

「たしかなものなんて何もないかもしれない。

でも、私は今そこにある世界をたしかに愛したいと思います!」

自身の内面を吐き出すように歌う演者は珍しくないのだけど、彼女がほかの演者と少し違うのは圧倒的に開かれているところだろう。聴きに来た人間を受け止めるという意思を感じる。目線もお客の一人一人を観ている印象があって、ライブにはいつも音源と全く違う強靭さがある。最後の「ロックンロールは死なない」でフロアに降りてきてハイタッチ。今まで以上に「私とみんなの歌」になっている感じがとてもよかった。

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ちなみに後藤まりことのコラボは「完成された箱庭のような作品」とのことで、アルバムには入れないそう。3曲入りで歌詞の共作もありということで、まさに合作というべき内容になるようだ。後藤まりこBELLRING少女ハートに作った「チャッピー」。ゆるめるモ!に作った「idアイドル」。どちらもグループの中で5本の指に入るくらい好きな曲だったので、今回のプロデュースも楽しみ。


春ねむり「いのちになって」(Official Music Video)


春ねむり ゆめをみている(RO JACK for ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017 入賞選考 ライブ映像)

はろー@にゅーわーるど / とりこぼされた街から愛をこめて

はろー@にゅーわーるど / とりこぼされた街から愛をこめて

 
アトム・ハート・マザー

アトム・ハート・マザー

 
さよなら、ユースフォビア

さよなら、ユースフォビア

 

 

「スナックのんのん最終回」のんのんれめるO'CHAWANZ卒業イベントからMC松島Presents 「おとなの時間」を回しました

「スナックのんのん最終回」〜さいごだよ!わんわん大集合〜 8月10日

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2人組アイドルラップユニットO'CHAWANZの、のんのんれめるちゃんの卒業イベント「スナックのんのん最終回」。開場は19時だったけれど、私は20時頃に到着。

「体調を崩し、学業との両立が難しくなった」というちょっと切ない理由で決まった卒業。ふたりが校庭カメラガールに所属していた頃はそれなりに顔を出していたけど、O'CHAWANZになってからは二回目だ。

会場の阿佐ヶ谷ロフトAに着くと、オタクのほかに小柄でかわいらしい、手入れされた可愛さの女の子たちが何人も。最初はれめるちゃんの学校での友人かと思ったけれど、後ほど対バンなどで出会ったアイドル仲間と判明。たしかに、あれはプロの可愛さだった。容姿だけなら可愛い子、きれいな子はたくさんいるけれど、おおぜいの人の目を意識してる人はトータルでの存在感がちがう。

阿佐ヶ谷ロフトAは日頃はトークイベントなどに使われる箱で、ステージ正面のフロアにも机とイスがまんべんなく置かれているのだけど、この日は直前にスイカ割りをやっていたらしく正面フロアは床の柄が見える状態になっていて、集まったオタクが雑談していた。

知人にあいさつしたり、ドリンクを受け取ったりしているうちにライブが始まり、れめるちゃんがシフォン素材のふわふわのワンピースで登場。縷縷夢兎のでんぱ組.inc衣装を思い出させる、今時っぽい衣装。ミックスの入れやすいアイドルっぽいピコピコした曲で、「こりゃ、どっかのカバーだな」と思ったら、わーすたの「いぬねこ」という曲だったらしい。

2曲目からしゅがーしゅららちゃんが入ってO'CHAWANZの持ち歌へ。ららちゃんもボレロがかわいいシフォン素材の衣装で、校庭カメラガール(コウテカ)での長女感とも、O'CHAWANZでのお嬢様感ともちょっと違った雰囲気。

O'CHAWANZになってからは一度しか現場に足を運んでいなかったので、あまり現場の空気に明るくないこともあり、後方でステージとフロアを見守る。持ち歌が日常生活のちょっとした愚痴を明るく歌いあげたり、自分の街への愛情を歌う曲なので、ステージもフロアもカラッと明るく盛りあがる。

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いつのまにかコウテカのリーダーだった、もるももるちゃんや校庭カメラギャルのラミタタラッタちゃんも来ていて、グループや運営は変わっても続く縁にちょっとうれしくなる。

持ち歌が少ないので5曲で終了。アンコールからは赤いチェックのワンピースに着替えたれめるちゃんが楽譜台を抱えて登場。ちょっと緊張した面持ちでYUKIのハローグッバイを歌い上げた。

そこから、ららちゃんが加わってのMC。アイドルになる前の何者でもない自分と、なってからの自分の話。校庭カメラガールツヴァイから、O'CHAWANZになった時の話。そして、やめることを決めてからの、ららちゃんへの感謝の言葉。

「ふたりでファミレスで泣いたよね~~」と言い交わす姿に、お互いの信頼関係を見て柔らかい気持ちになる。 

そんなMC明けの曲は校庭カメラガールの名曲「Unchanging end Roll」。

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懐かしいイントロにフロアがわーっと盛りあがる。この曲はコウテカでは数少ない決まったフリのある曲で、サビの部分のピースを作って手を右に左に動かす動作にノスタルジーを感じてしまった。

れめるちゃんから、「この曲が最初に落ちサビをもらった思い出の曲。『あさはかな希望を未来へ』が言えなくて、プロデューサーのJasさんに言われて公園でそのバースだけを2時間以上練習した」という話が。おお……。やっぱりコウテカ厳しかったんだな。

「どうしても歌いたくて、Jasさんに連絡したらいいよって言われたから歌いました!」

合間に抽選会を挟んでから、「今日はみんなに楽しんでもらいたくていっぱいいろいろ考えたんだけど、あれもこれも失敗しちゃって……。最後までポンコツでした」という正直な吐露から、最後はイントロのピアノが印象的なオツカレサマで〆。

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自身で手作りした衣装に会場装飾、店内BGM。彼女なりのもてなしの努力も進行の緩さで何となくしまらない感じで終わっていたけど、それを見守るアイドル仲間やオタクの表情も含めて、飾らないれめるちゃんの人柄が伝わる内容だった。

しかし、雑談しながら特典会の様子を眺めているうちにチェキ券を買いそびれて、最後の挨拶に行けず……。無慈悲! 仕方なしにフロアの扉を開けると、バーカンでなんだか可愛い女の子が手を振っている。「無銭で手を振ってくれるようなアイドルいたかな?」と思ったら24時からのイベント「おとなの時間」に「もつ酢飯」として登壇するワッショイサンバちゃんとムノウちゃんだった。

ふたりがチェキを撮るO'CHAWANZを「可愛い、可愛い」と言っていたのを見て、うれしいようなむずかゆいような不思議な気分になる。

次のイベントの開始まで阿佐ヶ谷ロフトの入り口で雑談。猫まみれ太郎&MCランプのユニット「おっぱいズ」のCDがセルラ伊藤さんのお友達に手渡される様子を見守ったり、当日の送り出しのためにいろいろ準備していたれめるTOのじむじむくんと、何となくの今後の話をしたりした。じむじむくん、お疲れ様でした。応援している人の花道の手助けが出来る人はかっこいいよ!

「おとなの時間」の開場時間が近づき、客がロフトの階段に並ぶ。すっとJasさんが階段をあがって行くのを見た。フロアでは見かけなかったけれど、来ていたんだ。そのすぐ後にららちゃんとれめるちゃんが荷物を抱えて出てきたので、「お疲れ様」を伝えると、れめるちゃんが「またね!」と答えた。彼女は「引退」という表現を使っていたから、おそらくステージで会うことはないのだろうけど、「またね!」。

オツカレサマ

オツカレサマ

 

 

MC松島Presents 「おとなの時間」8月11日

 

中に入るとMC松島さんがスクリーンに向かって文字を打ち込んでいる。どうやら何かリリックを書いているようだ。

リリックの内容はたわいもないもので、何について歌っていたかもよく覚えていない。しかし、手際よく韻が踏まれていき、松島さんがスタッフと話し、PCをいじっているうちに、いつの間にか1曲入りのCD-Rが1枚できあがっていた。

それをその場で売り出す松島さん。何名かが挙手する。「1000円で買う」という人が大半の中、「1万円!」と言い出すアイドルネッサンスTシャツの人がいたが、良心的に「税込1000円でじゃんけん」させる松島さん。結局MC松島ファンの青年が勝ち取っていった。

 

この日は「MC松島酒おごり券」システムが導入されていて、「物販を買うと必ずMC松島のおごりによってドリンクチケットが提供される」ことになっていた。その場の偉い人が酒をおごるってヒップホップっぽいな。

30分でラッパーになるコーナーが終わり、大喜利の時間へ。イベンターとしても優秀で、かつて主催イベントにトウキョウトガリネズミクルーを呼んだラッパーのTUMAくんが司会を担当。

お題は
晋平太の10枚目のアルバムのタイトルは?
毎日パンチラインで使われなかったパンチライン
お題で韻を踏んでください。
など、ラップに関係のあることから、「何の関係もない写真や画像で一言」などいろいろ。

個人的に印象に残ったのはムノウちゃんの「プロポーズされたらゼクシィで韻を踏む」の「プロポーズされたらゼクシィ ふと我に返ると別に…」。

そして、大喜利では外しまくり、バツゲームで激辛チュリソーを食べることになるも、リアクションも地味なため、自ら「これでもウケを狙えないボクっていう……」という自虐を炸裂させるAmaterasくん。「最後に笑ってください」というAmaterasくんを「かわいいAmaterasに拍手~~!」とさばくTUMAくんにちょっとほのぼの。

お次はMC正社員×MC松島の対談。

個人的には松島さんの「いつかMCバトルはテレビでやると思ってたから、テレビに出た時に強いスタイルを考えていた(しかしなかなかテレビに呼ばれない)」「全部作り話のMCバトル番組をやりたい」という話が印象的。

正社員さんの「俺に媚びをうったからといってテレビには出られないから!」という主張が生々しかった。

お次はMC松島対ラッパー30名による「30人組手」。「みんな立って前に来てください」という呼びかけに答えて集まるお客さんたち。「すごいね。こんなに素直に言うこと聞くお客さんいないよ」という松島さんに、「今のMCバトルのお客さんは聞くんですよ」という正社員さんの答えがなんだか頭に残った。

最初はわりとバトル慣れしていないMC松島ファンが中心で、ベタなdisをスカされて終わりというパターンが続いたけれど、途中から松島さんに疲れが見え始めてきて、SAMさんなどうまいラッパーに負かされる場面も出てきた。こりゃ大変だなと思っていたら、いつの間にか寝落ちており、目が覚めたらBATTLE手裏剣&SAM×MC松島&MC正社員のバトルが終わりを迎えていた……。ステージの上にはなぜか10人くらいのラッパーが登壇して4人のバトルを見守っていて、いったい何があったのか。

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ぼんやりしながらいったん人のはけたステージを眺めていると、DJで「あめとかんむり」のi knowがかかって目が覚める。「あめとかんむり」は、直前のイベントの主役・のんのんれめるちゃんが所属していたtapestok recordsによるプロジェクトだ。ハウスミュージックにラップを乗せた、夜の静けさによくあうけだるさの曲を作っている。

歌い手は元校庭カメラガールのリーダー、つまり元アイドルラッパーのもるももる。

O'CHAWANZイベント直後に、クラブミュージック好きのドルオタのAさんが話していた「アイドルラップがアイドルラップのまま、ヒップホップに新しい風を吹かすのが見たかった」という話に首肯していたので、はっとする。

アイドルという形式では遠くに届かなかったtapestok recordsの音楽が、少しだけれどラップの現場に流れ込むことが出来たような気がして、本当にささやかな事なのだけど、うれしかった。

Aさんとは「ヒップホップにおける性差別について」も話していたので、それがゲイ・ディスコを由来とするハウスに乗るラップだったことも。

Jasさん、ハウス好きのAさん。「あめとかんむり」流れてましたよ。


i know / あめとかんむり

 

lie night

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  • あめとかんむり
  • エレクトロニック
  • ¥250
i know

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  • あめとかんむり
  • ハウス
  • ¥250
summer time

summer time

  • あめとかんむり
  • エレクトロニック
  • ¥250

さて、お次はもつ酢飯と田島ハルコさんのトーク

サンバちゃんの昔の彼氏のコスプレプレイの話からPV撮影の裏話まで。

田島ハルコさんの「『But、無理 is よくない』のリリックはサンバちゃんの方が根底に闇を抱えてる感じがある。ムノウちゃんのパートでちょっと気が軽くなる。そのバランスが重要」という話に、ムノウちゃんが「実は私の方がちゃらんぽらんなんですよね、ハハ」と答えていたのが何だかよかった。

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ライブのセットリストは

もつ酢飯のテーマ
新曲 服屋WARS(表記不明)
But、無理isよくない

服屋WARSはブラック・リフレクションに引き続き服選びのしょっぱい思い出ソング。聴き比べると、言葉のはめ方がうまくなってるなと思う。そして、もつ酢飯のテーマはいつ聴いてもいい曲!

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お次は田島ハルコさんのライブ。

1曲目はとまどい気味だったように思えたけど、2曲目からスイッチが入ったように自分の世界を作っていく姿がさすがだった。ラッパーではないけど、歌唱法はラップを取り入れていて、トラックはキュートなのに、歌詞は屈託にあふれている。ちょっとたまや小劇場演劇を思わせる部分もあり。声の表情の作り方が演劇的だからそう思ったのかもしれない。

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変なダンスを泣きながら

変なダンスを泣きながら

  • 田島ハルコ
  • エレクトロニック
  • ¥150

このあたりから記憶が途切れ途切れなのだが、マジシャンの格好したMC松島が「ライミングマジシャン」のPV撮影のために客に協力を求める姿と、Amaterasくんが「君の名は」を「あんな映画はクソです」と言ったのは覚えている。Amateras×MC松島の映画「カーズ」話は面白そうだったのに、すっかり寝落ちていてその後のAmaterasくんのライブも見逃してしまったのが残念。

最後はサンバちゃんの一本締めで場を締めて撤収したような記憶がうっすらある。カクニケンスケくんにあいさつし、松島さんに感謝を伝えて外に出る。松島さんは最初から最後まで「MC松島」で、ゆるいイベントなのに、そのゆるさを味だと納得させる。登壇者にもフロアにも無理をさせない優しい内輪だ。疲れていてまわりの人とあまり話せなかったのだけがもったいなかった。

外に出ると青年たちが、阿佐ヶ谷の商店街で早朝のサイファーに興じていた。

 

360 Kick Flip

360 Kick Flip