ヒップホップのライブに行くとたまにDJのアピールタイムが用意されていて、MCに「○○のテクを見てくれ!」というようなことを言われるのだけど、それを面白いと思えたことはあまりなかった。音楽というより曲芸に見えていたからだ。「押せば音が出るものを操っているのだから、人の手で弾いたり叩いたりするものより簡単」という印象を持っていたからもあるだろう。しかし、それは間違いだったことがDOMMUNE配信のless than TV特集でのロベルト吉野を見てわかった。 1時間弱のDJ。たぶん最初はless then TVゆかりのアーティストの曲を流してつないでいたのだと思う。原曲のメロディーが把握できる前半は「なるほど」と思いながらのんびり見ていたのだけど、途中からガンガンスクラッチやジャグリングが入り始め、曲の輪郭がどんどん姿を消していって、音のひとつひとつが厚みのあるノイズ音のようになってくる。その音をさらに擦って叩いて止めて……。レコードから流れる音を一度自分のものにして、再度落とし込んでいく。 DJの手によって引きちぎられた音が与える印象は、まるでノイズミュージックやフリージャズのようだ。というか、音の原型が見えない箇所だけ取り出して聞かせたら、ノイズミュージックだと思う人多いんじゃないか。それなのに、トータルでは聴いていてワクワクするような一つの音のうねりになっている。画面に映るレコードを操る演者の手はものすごいハイスピードで、もはや情報に目がついていかない。 そっか、バトルDJってこういうことやってるのか。これはすごい、すごいな! だって、使ってるレコードに刻まれた音は1枚1枚違うのに、それをつないでひとつの流れにしながら、自分の手で音を作り変えて新しい音楽を作ってるってことだよね? どういう頭の構造をしているとそんなことができるんだ。
「この先の答えは彼方向こう そうだろ相棒」というCRIME6の声をスクラッチするロベルト吉野のDJ。サ上とロ吉の入りは基本これなので、もはや見慣れているはずなのに、その前の演者3人がプレーンに入場してきた反動もあって、なんだかすごくかっこよく見えてしまった。いや、もともとかっこいいんだけど、あの入りが緊張感と高揚感を演出していることを今更ながらに確認。ロベルト吉野のDJルーティンからのPRINCE OF YOKOHAMAからのぶっかます、よっしゃっしゃす〆、サ上とロ吉。コール曲と知名度の高い曲のおいしいところだけをどんどんつないで客を引っ張るタイトな構成。「練習はちゃんとやる」とサイプレス上野はよく言うけれど、たしかにこのスピード感はお互いが体で覚えこまないと出来ない。