ホンのつまみぐい

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ハッピーでもバッドでもない、不思議な夢の終わり/喫茶へそまがり閉店

生まれては消える地方都市の“カルチャースポット”。横浜駅15分の立地に存在した喫茶へそまがりも、先日消えた地方都市の一部だった。

喫茶へそまがりは、2013年に一軒家(借家)を改造して作られたマンガ喫茶店としてオープンした。古い家屋の引き戸の入り口を開けると、右手には物々交換の棚があったり、左手には場所貸しで古本販売の棚があったりする店だった。

靴を脱いで中にあがると壁1面にマンガが飾られていて、手にとって読めるようになっていたり、2階には麻雀卓やファミコンがあって、見ず知らずの人同士が対戦したり。みんなが順番にマンガを描いていくノートがあったりと、文化部の部室と小学生の頃の友達の家が合体したような空間だった。

店主のTさんはヴィレッジヴァンガードで10年働いていて、自分のおすすめのマンガをヴィレヴァンっぽいPOPで紹介したりもしていた。トイレに行くと宮沢りえサンタフェ漫☆画太郎のマンガが置いてあり、そこにもあの黄色いポップっぽいものが飾られていた。

イベントもいろいろやっていて、DJイベントからライブ、映画の上映会、お茶の出し方教室、フリーマーケット、日本酒持ち込み会まで、本人主催のみならず、客が持ち込むありとあらゆるイベントを実行していた。結局1度だけだったけれど、近所のお母さん方が育児しながらくつろげる日を作っていたりもした。そういえば、私もなぜか「BiS階段のライブDVD上映会」とおすすめの絵本紹介イベントをやったのだった。ちなみに人はほとんど集まらなかったが。

Tさんが日本酒好きなので毎度5種類以上の日本酒が用意されていたり、コーヒー豆がやたらいいやつだったり、けっこう凝ったカレーが出たりという、食に関する細かいこだわりも見せていた。こういう店の凝った食い物はたいがい塩気が足りなかったり、“エコ”によりかかった甘えがあったりするのだけど、ちゃんとおいしかったのが商売人としてのセンスを感じた。

そして、ここが最も肝心だと思うのだが、こうした趣味性の高い喫茶店というのはたいがいどこか薄汚れた感じがするものだけど、この店はごちゃごちゃしながらもそれなりの法則性をもって管理されている、清潔な雰囲気があった。

開店当初は「みんなが遊びに来れるような」という表現に基づいた文化交流スポットとして成立していて、音楽好きの高校生の自分語りを聞いたり、原発作業員の青年の話を聞いたり、バイの男の子の「ウイスキーの飲み過ぎか何かで、5階から落ちたけど死ななかった」話を聞いたりした。

「人間って机の足にひっかけたヒモでも首くくって死ねるじゃないですか。でも、死ぬ気が無いと5階から落ちても死なないんですね」

いや、運がよかっただけだよ!

しかし、そのうちにマンガの数がごそっと減り、2階の部屋がゲストハウスとして貸し出されるようになり、だんだんとイベントもやらなくなり……。最後の方はTさんと歳の近い30~40代がメイン客層になっていって、常連同士がそこにいる人となんとなく酒を呑んで雑談をしながら帰るという場所になっていた。

慣れた人しか集まらなくなったせいか、Tさんの話もずいぶん遠慮のない内容になっていって、「この人は本当にろくでなしだな」と思う機会も増えた。でも、そういう身も蓋も無さのある人じゃないと、こんなに色んな人が集まる場所は運営できないよな。

そして、やっと閉店。だいたいお店がなくなるのは「売上」「家主も含めた人間関係」「老朽化」「健康問題」「跡継ぎ不足」なのだが、ここの場合はTさんのやりたいことがなくなったという方が正解という気がする。あれこれやってみて、そこそこ成功したり失敗したりして、「うーん、これ、ずっと続けるタイプじゃないな、俺」と思ったみたいな。

Tさんはもともと2年くらい前から「お店をやめて高知で別のことをしたい」とかいう話をしていたので、閉店にまったく意外性はなかった。しかし、「新しいことを始めるためにやめる」というより、「もうやりたいことがないからやめる」というのは、すがすがしいような、未来のないような、だらしなさと潔さが混じり合った判定のしにくいエンドだ。ハッピーでもバッドでもない。

閉店前に、いくつかライブがあった。私の訪れた5月3日は「もう飲食を用意することはない」という案内がなされ、持ち込み可のライブ料金のみ2,000円。演者はにたないけん、沢田ナオヤ、三輪二郎。到着すると、部屋一面に敷かれた座布団に座った8人くらいの客の前で、にたないけんが演奏をしていた。ふと後方壁面を見ると高めのイスが置かれており、手に酒を持った男性がそのうちのひとつの席を譲ってくれた。

店内の大量のマンガやCD、コーヒーを出すための棚はすっかり引き払われていて、ヴィレヴァン的なサブカル濃度がすっかり抜かれたその場所は、公民館の一室のようになっていた。

にたないけんのライブはハスキーな声と、手になじんだギターの音が気持ちいい。時折ハーモニカの音を挟みながら、目をつぶりつつの演奏は華美じゃないのに退屈しない感じ。

ライブが終わって呼び込まれた次の演者沢田ナオヤは、先ほどイスを譲ってくれた男性で、酔っ払い特有のハイテンションで「いや、酒入っちゃったし、ちゃんと演奏出来るかな」と言って「金払ってんだからやれ!」と突っ込まれていた。

ライブはちゃんとしていて、時折感情を叩き付けるように激しく鳴るギターが面白かった。

最後は三輪二郎

落ち着いたトーンの弾き語りで、たわいもない日々の感情を歌うフォークソングというのはこれまでの2人と変わらないのに、なんとなく聴いているうちにもこちらの気持ちがぐっとつかまれる瞬間が都度都度あるのがさすがだった。ああ、アイドルとかヒップホップとか情念が強かったり、情報量が多かったりする音楽ばかりを聴いていると、こういうの染みるな。

MCの三輪さんの「試聴室もなくなっちゃうし……」という話に「でも、あっちはまた始めるから」と答えるTさん。

最後は3人で弾き語りセッション。「誰が一番へそまがりかあ~~」みたいなことを歌いながら終了。お別れ会なのにむしろ同窓会で集まった人たちの二次会みたいなのんびりした空気だった。

Tさんに「生存確認できるようにしてくださいよ」と最後に一言。Tさんは体を動かすバイトを始めてからだいぶ経っていて、えらくシュッとして健康的になっていた。「今のバイト楽しい」と言っていたが、かっぷくの良さが削がれたら顔もずいぶん年相応になったようで、それがちょっと寂しくもあった。

そういや、私はこの店の最初の客だったんだ。今となっては、だいぶ昔のことだ。

 


川本真琴 with ゴロニャンず/プールサイド物語

※在りし日の店が記録されたMV。

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