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ホンのつまみぐい

いろんなもののファンをやっている人が、日々のよしなしごとを綴っています。

大学生ラップ選手権9月19日@渋谷R-lounge、そして戦う女性ラッパーの更新される今

音楽

f:id:hontuma4262:20161016124802j:image 「そろそろMCバトル飽きたなあ。見た目と生まれとスキルの話ばっかりだし」と思っていた頃に女子ラップ練習会に参加して、バトルの難しさと面白さを実感したのが8月27日の話。

 それから約1か月後の大学生ラップ選手権本選に、練習会で知り合った無能さんとワッショイサンバさんを応援しに出かけた。

 無能さんは当日予選。サンバさんは予選からの推薦枠。ぬるい雨の降る中、渋谷のRラウンジへ。会場に着いたのは15時ごろだったろうか。暗いクラブの中はタバコのにおいがきつくて、ワンフロア350人キャパという会場には、まだ40人くらいの人入り。

 壁際に設置された椅子にサンバさんと無能さんが座っていて、こちらに気づいて声をかけてくれた。饒舌なサンバさんと緊張が顔に出ている無能さん。会場内は当日予選エントリー参加の大学生ばかりで、緊張と高揚のためか何となく独特のふわふわした空気が漂っていた。

 試合は観客もまばらな中、サクサクと進んでいく。まだマイクを持った経験もないのであろう子も多くて、自分が話すので精一杯なんて場面がしばしば。でも、その今にもコケそうなラップの様子がかえって面白かった。

 「今まで四畳半でこそこそやってたけど、今日は思いっきりラップできるぜ」とか、大学生らしく校歌のサンプリングとか、E=MC2を入れ込むライムとか。イスに座りながら、勝敗に手をあげるでもなく試合を見ていると無能さんの出番が来た。当日予選に参加した女性MCはこの日ひとり。しかし、相手がいない。「もう15分くらいしたら遅刻中の知人が来るけれど、彼と戦うか、それとも不戦勝で2回戦に行くか」という提案。

 無能さん、不戦勝を選んでまずは1回戦突破。

 対戦が進むにつれ、こちらもマイクを握るMCたちの個性をなんとなく覚えていく。ちょっと詩的な言い回しが多い子もいれば、嚙みつくようなラップが妙に引っかかる子も、平易な言葉遣いだけれどアンサーが丁寧な子もいる。見ているうちに不思議と「また見たいから勝ってほしい」という気持ちが育ってくる。なるほど、推しのバトラーができるというのはこういう感覚なのか。

 そして訪れた無能さんの相手はclockくん。マッチョさで押さない対話型タイプで、ちょっとSTERUSSのCRIME6に似ている。

 じゃんけんで勝って無能さん後攻。小柄でおとなしそうな見た目の無能さんに対し、どんなもんだと査定するような会場の空気。まずは「不戦勝なんてダサい」といった趣旨で軽く挑発するclockくん。

 「シードを選んだのは勝ちに来たからだ」という反論から、「お前の時計を止めに来た!」というパンチラインでその空気をブチ壊した無能さん。それまで明らかにカチカチだったのに、いきなり火の玉が爆発したような強烈なエネルギーで喰ってかかるその姿に会場全体がどよめく。明らかにひるんだclockくん。

 そして、これまで「見守っている」という感覚だった自分の感情もガッとあがるのがわかった。やったれ!MC無能!!

 JOJOのTシャツを着て登場した彼女から出てくる言葉はマンガから引いてきたものが多く、でもその「自分の中に普段からある言葉」を全力で出し切る姿が痛快。

 そして、1試合目は勝敗決まらず延長へ! 力量差の大きかった当日予選では最初の延長だったと思う。

 2試合目はさすがに集中力が途切れてしまったのか、相手の言葉選びに負けていた印象でcolckくん勝利。しかし、本来なら試合終了のclockくんの最後のターンについつい食らいついてしまう姿もパワフルだった。

 ステージから降りてきた彼女に対し、「めちゃくちゃいい試合だったよ!」と声をかけるサンバさんと私。そして、対戦相手のclockくん。なんだか青春ドラマの一幕のようだった。彼はその後延長を繰り替えしながらも勝ち上がり、本選で1勝する。中に「MC無能のほうが手強かったぜ」というラインがあって、それが無能さんが試合で勝ち取ったものを表していた。

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mentuyutkg.hatenablog.com

 ※本人の書いたブログも必読もの

 さて、お次はワッショイサンバさん。面白Tシャツをあれこれ集めている彼女。この日はテカテカのファラオの写真が全面に印刷されたTシャツで参戦。

 相手はニコニコ動画での「歌ってみた」でも有名なぎぎぎのでにろうくん。小柄メガネという見た目のオタクっぽさがそのままキャラクターになっている。

 実は試合前、サンバさんの声掛けで、でにろうくん、無能さんら3人でサイファーをしていたそうで、今思い返すと様子見を必要としない試合だったのかもしれない。

 サンバさんは名前のインパクトとその堂々とした態度ですでに現場で有名人になっていて、ステージに立った瞬間に歓声が上がった。それをプロレスラーのようにいなす姿もコケティッシュ

 そんなふたりの試合は、早い段階ででにろうくんが「おっぱい揉みたい」という下ネタをつっこむ。そこに「じゃあ、揉めよ。ホラ」と胸を突き出しながら身もふたもない態度で応戦するサンバさん。「おおっ」と思ったところで「いや、ぼくはそんなことする度胸なかった」というような返しをするでにろうくん。凡庸な下ネタで切り込んだかと思わせて、自分のキャラを立てる。狙ったのかな。試合はでにろうくんの勝ち。

 試合後にふたりが「楽しくやれたね」と声をかけあっていて、プレイヤー同士の友情を目の当たりにしてちょっとうらやましくなった。

 本選が進むにつれ試合の水準もどんどんあがっていく。予選の間は一方が崩れて圧勝という場面も多かったけれど、本選は延長に次ぐ延長という場面が増えた。

 ただ、一方でその分だけ「ラッパーらしいふるまい」に長けた子が増えてきて、ちょっぴり飽きも感じてくる。「整ったアイドルってつまらない」と言い出す心理と近いものがあるかもしれない。予選のほうが手札が少ないせいか、それぞれの生々しい個性が感じられたような気がする。私がギャング&ヤンキー的なラップにあまり興味がないので、好き好きの問題もあるのだろうけど。

 ちなみに決勝はT-tongue vs 悪影。優勝者はT-tongue。

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 さて、このイベントのもうひとつの見せ場だったライブで印象的だったことを書いておきたい。それは渋谷サイファー、MC☆ニガリ a.k.a 赤い稲妻 、CHICO CARLITOという豪華メンツの並ぶ中で、もっとも会場を温めていたのが主催者のひとりであるMAKI DA SHITだったということだ。

 気負いのないリリックと大柄な身体でゆっくりと会場をあおっていくスタイルに、たくさんの人が気軽に乗っかっていく。イベント主催者としての責任感もあったのだろう。この日一番自然と楽しんでいる人が多かったライブだったと思う。

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 その様子はこの日の演者の多くが「自分語りソング」を持ち込んでいたのとも対照的だった。自分語りソングとは「周りはやめちゃったけど俺は続けてるぜ」「ヒップホップと出会って俺はこう変わったぜ」という自分史を語る内容の歌。ヒップホップはそもそもそういう特性の文化だし、演者にとって熱がこめやすいのはわかるけれど、少なくともエンターテイメントではない。

 それがわりとわかりやすく出ていたのが渋谷サイファーとして登場したACEと掌幻のライブで、ある種のヒップホップ的かっこよさに寄り添ったそれぞれの自分語りソングでの客側の平熱ぶりに比べると、ふたりでやっていた今の状況を茶化す曲のほうがよほど会場を楽しませていたと思う。

 ただ、「ラップを始めたきっかけはRさんだけど、続ける理由はKZさん」といわれたことを、自分から主張してくるKZ from 梅田サイファーの自分語りはなぜか強度があって、引き付けられた。

 場に対する熱意や責任感が、知名度や力量を凌駕することが当たり前にあるということでもあるのだろう。

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 そして、このイベントを見た側としてこの話を書いておかなくてはいけないだろう。この日の試合のいくつかはツイッターで拡散され、その内容が話題になった。

 具体的にはりぼんさんと悪影くんの試合。

悪影「いつの時代も男は入れる側、女は受け入れる側」
りぼん「女は妊娠して子供産むから偉いんだ。男は出すだけだろ」

 そして、見た目のdisりあいになってしまって最後りぼんさんの「お前乳首の色きれいかもしれん。けど、うちは乳首の形めっちゃきれいやから」で終わった黄萌さんとりぼんさんの試合。

(これのどこが差別的なわからない人のために一応言うと、人間の価値は「子供を産むか産まないか」で決まるわけじゃないという話ね)

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 この件に関してはMC側からも客側からもいろいろな意見が出ていたけど、MCバトルが即興で罵り合うことで成立するものである以上、こうしたある種の差別的言動を取り除くことは出来ないだろう。特に、初めて出会うMC同士であれば見た目のことくらいしかつっこむところはないのだ。

 ただ、見ている側がそれを受け入れる必要はないし、その場でブーイングする選択肢も当然ある。それが難しいのであれば、帰宅してから問題提起をするのでもかまわないと思う。

 ツイッターで見かけた中で結構「ヒップホップはそういうものだからそんなこと言うやつが野暮」という意見があったけど、「自分が自分であることを誇る」とか「持たざる者が勝ちあがる」とかこれ見よがしに言ってる文化なのに、ありきたりな偏見を肯定したら自己矛盾じゃないか?

 般若に「韓国人との雑種」なんて言ったらダサいって思うでしょ? それと同じように「女は受け入れる側、男は入れる側」もダサい。

 一方で、「人間のクズでも参加できる」タイプの文化だからこそ、力があるし人を引き付けるのだろうから、その判断が特定の人々を締め出す結果になってほしくないとも思うのだけど。アップデートは必要だけど、排除は不要だ。

 もうひとつ感じたのがやはり女性のMCはまだまだシーンの中でなめられているのだなということだ。男性同士でバトルして、「お前のチンコのほうが長いかもしれないが俺のほうが太い」なんてラインを出したら失笑されるだろう。でも、女性の場合はまだ「女の子がちょっと過激なことを言っている」程度でウケてしまう。

 でにろうくんやサンバさんが下ネタを笑いに転嫁出来ていたことを考えると、やっぱり黄萌vsりぼんはダサい試合で、それに観客が湧いてしまうところも含めて、まだまだ期待値が低いのだろう。ただ、この辺りはプレイヤーが増えて女性側の戦い方も多様化していくことでしか解消されないのかもしれない。また、話の流れでりぼんさんを悪く言いすぎてしまったけれど、あくまで試合の上での話で彼女の人間性を否定しているわけではないのでご容赦を。

 改めて、フリースタイルダンジョンにおけるコンプラは番組を受け入れるためのうまいクッションになっている。「これは言っちゃいけないことと認識されている」と思わせることで、結果的に差別のにおいを薄めているのだろう。

 ……さて、前日にここまで書いて面白い話が飛び込んできた。

 罵倒×戦極サイファー予選@渋谷FAMILYでの無能さんの活躍だ。

 現場にいなかったので、ツイッターの実況をそのままひかせてもらうが、男性ラッパーからふっかけられる下ネタに対し、無能さんのアンサー。

また性的な話
ちんこはいらねえ
マイク一本で男根の代わり
親から受け継いだ反骨の魂

 いや、これ満点でしょ!

 現場のプレイヤーには更新することであらゆることを過去にする力がある。観客側は、更新されていく瞬間にきっちり手を挙げていくことで、支持を表明する必要があるだろう。